先に言っておきます…この話でほんっとうに暫く更新止めるかもです…
よゆうがあればちょくちょくとはする…かも?
あと想像以上に嫌われてる理事長の友人さん…いや、嫌われる様に作りましたけどね(白目)
《さあ!今全ての選手がゲートインしました!!グラスワンダーファン交流会イベント最終プログラムである今回のレースは大物揃いで我々にどのような結果になるのか全く分かりません!!》
大物ばかり。確かのその通りだと思う。
《テイエムオペラオー》、《セイウンスカイ》を始めメジロ家令嬢《メジロブライト》。テイエムオペラオーをライバル視する《ナリタトップロード》。唯我独尊《キンイロリョテイ》。若きルーキー《ゴーイングスズカ》。そしてあのシンボリルドルフが一目置いていると言う《ツルマルツヨシ》。
まさに猛者だと評するに値する面々だと思う。
普段であればこれだけの強敵達と競い合える、そう思うだけで胸が高鳴りレースの開始が待ち遠しくなるが……今は違う。
もしも、もしも今願いが一つ叶うとすれば――グラスワンダーは心の底からこう願うだろう。
どうかこのレースが中止になりますように、と。
そう静かに願いながら彼女の視線はゲート入りしたスペシャルウィークへと注がれていた。
「…どうするんだいグラスワンダー?」
レース開始少し前、彼女達は集まっていた。
このレースに参加する面々の中でスペシャルウィークの事情を知るウマ娘達――テイエムオペラオー、セイウンスカイ、グラスワンダー、そしてゴーイングスズカの4名だ。
「す、すみません…そんな事が起きてたなんて…わ、私知らなくて…」
そう謝るゴーイングスズカに対し、3人は慰める様に声を掛けるが当の本人は顔面蒼白のまま硬直してしまっている。
無理もない、ゴーイングスズカがスペシャルウィークの事情を知ったのはつい先程だ。
彼女を連れてきたのを問いただされたゴーイングスズカは自身が知る全てを説明し、その過程でスペシャルウィークの事情を知る事になった彼女は自身が引き起こした失態のせいで大事になってしまったと謝るばかりだ。
そんな彼女にセイウンスカイが優しく声を掛ける。
「仕方がないって~一応今のスぺちゃんの状態はトップシークレットって奴だからね~むしろ知らない方が当然なんだから、深く考えすぎないでね~」
「け、けど!!」
「ゴーイングスズカ。セイウンスカイの言う通りだよ。君が事情を知った上で今回の事態を引き起こしたと言うのなら話は別だけれど、君はそれを知らなかった。だからこれは不幸な事故でしかないんだ。だからあまり自分を責めないでくれ」
テイエムオペラオーの言葉にやっとゴーイングスズカの謝罪の言葉が止まるが、その顔色は相変わらず悪い。普段であればそう言った精神的なサポートを手伝ってあげられるグラスワンダーだが、今の彼女にはその余裕さえなかった。
スペシャルウィークのレース参加は既に決定してしまっている。
理事長がどのような意図で指示を下したかは不明だが、それでも下った判断に逆らう力をこの場に居る全員が持っていない。
出走は絶対に避けられない。けれども―――
「~♪」
あの子が走れるとは到底思えない。
ウマ娘が持つ身体能力から繰り出される速度はかなりの物だ。
もしもその速度のまま駆け、そして転倒などすれば――
「――ッ」
想像したくもない話ではある。だが現に過去に事例のある事だ。
それだけは絶対に避けなければならない。けど参加させないと言う選択肢がない。
だから、せめて――――
「―――スぺちゃん、ちょっと良いですか?」
「んぅ?な~に~?」
グラスワンダーの呼びかけにスペシャルウィークが素直に従って歩み寄ってくる。
近づいてきたスペシャルウィークに対し、グラスワンダーは視線を合わせて優しく、けれど真剣な言葉を以て彼女に伝えた。
「……良い?スぺちゃん。今からね、スぺちゃんは私達とかけっこをするの」
「ん~かけっこ?」
「そう、かけっこ。皆とした事があるよね?今からそれをね、私達とするの」
かけっこと言う言葉が効いたのだろう。
やる~♪と元気よく手を挙げる彼女に続きの言葉が思わず止まってしまう。
けれども言わなければならないと苦虫を嚙み潰した様に表情を一瞬歪めると、言葉をつづけた。
「けどね?スぺちゃんは速いから私達だけはちょっとだけルールを変えさせてもらうの」
「ん~?る~る~?」
「うん。だってスぺちゃん速いから。私達じゃあきっと負けちゃうの。だからね――今から言う言葉をしっかり聞いて、絶対に守ってほしいの」
グラスワンダーがスペシャルウィークに伝えたのは3つだけ。
《スぺちゃんは絶対にゆっくりと走る事》《私達は速く駆けて行ってしまうけど、今回のかけっこは特殊なルールでスぺちゃんがゴールするだけでスぺちゃんの勝利だから絶対に私達に追い付こうとはしない事》《周りの人が何を言っても無視する事》
それがグラスワンダーがスペシャルウィークと交わした三つの約束だ。
「(大丈夫…きっと大丈夫…)」
今のスペシャルウィークにとってグラスワンダーは家族同然の存在だ。
そんな彼女からの言葉に今まで逆らう事なく従ってきたからこそ、きっと今回も約束を守ってくれる筈。
だから大丈夫、そう信じてもう間もなく開け放たれんとしているゲートに意識を集中させる。
早急に終わらせる、そんな覚悟を以て。
だからこそだろう。
グラスワンダーは集中するあまり気付く事が出来なかった。
ゲートに入ってからのスペシャルウィークの様子が可笑しい事に。
そしてその異変に気付いたのは―――
《さあ!今ゲートが開かれましたッ!!!!》
ゲートが開くと同時に駆け出した―――スペシャルウィークの姿を見た瞬間だった。
ゲートに入ったスペシャルウィークは最初は興味津々と言った表情でゲートに触れたり、見たりとしていた。その姿はまさに無邪気な子供のそれだ。
当然グラスワンダーとの約束は覚えていた。
ゆっくりと走る。そのつもりでゲート内で準備をするスペシャルウィークだったが――
「―――?」
不意に《それ》を感じた。
ゲートから見える光景、ゲートを通り抜ける風、踏み締める芝の感触と香り。そして鳴り止まない歓声。それらが身体に《何か》を与えた。
何かは分からない。分からないけど、それは確かに――――
「―――!!」
――彼女に《約束》を破らせる《何か》となった。
《おぉぉっとぉぉ!!スペシャルウィーク完璧なスタートだぁぁ!!!》
「「「「!!!!?」」」」
馬鹿な。それが駆ける彼女を見た4人の脳内に浮かんだ言葉であった。
ゆっくりと駆けるとは何だったのかと言わんばかりの駆け足。その速度は今まさに自分達が出しているそれと大差ない程に速い。
だがそれでいて体の動きにブレがない。その姿はまさに――彼女達の知る《彼女》の走りそれに近いだろう。
「(嘘ッ!?スぺちゃんぜんっぜん走れるじゃん!!?)」
「(それに――速いッ!!)」
「(え!?も、もしかして記憶が戻ったのですか!?)」
三者がそれぞれの考えを抱き、もしやと言う希望を持ちかけるがその後にそれは違うと判断する。3人が偶然見えたスペシャルウィークの表情、それがいつもの彼女だったからだ。走れるのが楽しいのか嬉しいのか、笑顔でニコニコと駆けるその姿は子供のそれだ。
その証拠と言うわけではないが、完璧なスタートダッシュで一時的に先頭に立っていたが後に続くウマ娘達が続々とそれを抜かしていき、第1コーナーを曲がる時点で既に最後尾となっていた。
「―――ッ!!」
そんな彼女を心配に思ったのか、はたまた体力温存の為か。
グラスワンダーもまた最後尾近い後方へとその身を置き、時折心配そうにスペシャルウィークに視線を送っている。
駆け出している今、もはや足を止めるわけにはいかない。
どうして約束を破ったのか、それが気になりはしたが今はどうしようもないとせめて転倒しない事だけを必死に願いながらグラスワンダーは前を見据える。
第2コーナーを抜けての直線。そこでトップを奪い合うのは2人のウマ娘。
「――ッ!!抜かせませんッ!!」
「――邪魔ッ!!」
その名の如く強引な走りを見せるゴーイングスズカとその僅か後ろを追い掛けるナリタトップロードの一騎打ちだ。抜かし抜かされ、切り替わるトップ争い。
しかしトップを狙うのは彼女達だけではない。
後方で控えているテイエムオペラオーとセイウンスカイが時を待つ。
脚を休め、仕掛けるべき時を待っている。
その気配を察したのだろう。グラスワンダーも仕掛けるべきを狙わなければと思うが自身の背後を走る彼女の存在がどうしても不安に思ってしまい、つい振り向いてしまいそうになる。
けれども、とその身の安全を必死に願いながらもグラスワンダーは僅かに前へ出た。
迫るコーナー。あそこで仕掛けようとする。
速くレースを終わらせる、ただそれだけを願って。
そして辿り着いたコーナーでグラスワンダーは溜めに溜めた足を解放しようとして――
《此処でスペシャルウィークが飛び出したぁぁぁぁぁ!!!!!!》
「――――――え」
聴こえた実況にまさかと視線が横を向く。
誰もいなかった其処を、けれども今まさに飛び出していった一人のウマ娘。
自身の親友であり、大事な人であり、守らなければならない存在を。
「――――すぺ、ちゃん?」
――彼女を、スペシャルウィークを見た。
――はしるのはたのしかった。
いきがくるしいのに、からだはとまらなくて。
みんなあしがはやくておいつけなくて、けどそれでもたのしくて。
ぜんしんにあびるかぜがここちよくて、きこえるこえがうれしくて。
けど、おいつけないことだけがいやだった。
だいすきなあのひとに、だいすきなぐらちゃにおいつきたいのに、おいつけない。
それがくやしくて、むかむかして、なんかいやで……
どうしたらおいつけるだろうかとおもった。
どうしたらぐらちゃに、あのひとにおいつけるのかって。
そうおもうと、ちがうとおもった。
こうじゃないって、こんなはしりかたじゃないって。
わたしのはしりは――――――《私の走り》はこうじゃないって、そう気づけたんだ。
《最終コーナー曲がって最後の直線!!此処で各ウマ娘が一斉に勝負に出ましたぁぁ!!テイエムオペラオーとセイウンスカイが出てきますが、その2人を抜かすのはスペシャルウィーク!!!!!我らが日本総大将が前を行くぅぅぅ!!!!》
「うそッ!?」
「はや――ッ!!」
盛り上がる観客。抜かされていくウマ娘。
それらの光景をグラスワンダーはまるで時が遅くなったかのようにゆっくりと見ていた。今まさに自身の前へと駆けて行く彼女が、守らなければと心配していた彼女が駆けて行く。誰よりも早く、誰よりも力強く、誰よりも前へと駆けて行く。
「―――――――――ぁ」
その後ろ姿を見て、嗚呼と本能的に悟った。悟ってしまった。
きっとそうだと。間違いないと理解する。
彼女は今――戻りかけている。
守られていたスペシャルウィークから元の彼女へと戻ろうとしているのだと悟ってしまった。
何故かは分からない。けど間違いないと悟った。
きっと、このまま彼女が優勝すれば――終わる。
今までの時間が、今までの夢が、終わりを迎える
終わってしまう、そう気づいてしまって……
だからこそ――――
「――――――ッ!!あぁぁぁぁぁぁぁッッッッ!!!!!」
――絶対に負けられないと思った。
《おぉぉっとぉぉ!!!ここでグラスワンダーも来ましたぁぁぁ!!!!勝負は一騎打ちだぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!勝利の女神はどちらに微笑むのかぁぁぁ!!!!》
先頭を行くのは2人の猛者。
スペシャルウィークとグラスワンダーが汗も涙も何もかも吹き飛ばすかのように互いに残された全てを出し切る様に駆け抜けていく。
その2人に追い付けるウマ娘は他におらず、勝負は文字通りの一騎打ち。
《勝つのはグラスワンダーか!?スペシャルウィークか!?》
聴こえる実況の声さえも邪魔だとグラスワンダーは思った。
絶対に負けられないレースとなったこの戦い。
負けたくない、負けられない、そう必死に繰り返し思いながら駆ける、駆ける、駆ける。
脚も体も何もかも壊れても構わない。それでも絶対に負けたくないとグラスワンダーは駆け抜ける。
スペシャルウィークの事を気遣う余裕さえもはやない。まるで命を燃やしながら走っている様な感覚さえも感じる程だ。
《スペシャルウィーク!?グラスワンダー!?スペシャルウィーク!?グラスワンダー!?どっちだぁぁぁぁぁ!!!!?》
目の前に見えたゴール。
もはやそれが本当にあるのか幻覚さえなのかも分からずに文字通り全てを出し切って駆け抜けて――ゴールした。
疲れ果てた身体は悲鳴を挙げて座り込もうとするが、それを奥歯を噛み締めて耐えて電光掲示板を、勝負の行く末を確認する。
勝ったのかを、絶対に勝たなくてはいけない勝負に勝てたのかを確認する為に。
そしてその気持ちはグラスワンダーのみならずこの会場に居る全ての人間がそうだ。
誰しもが固唾を飲んで電光掲示板に視線を向ける。勝負の行く末を知りたいと結果を待つ。
時間にして数秒程度だろうか。
沈黙を保っていた電光掲示板に結果が表示される。
全てを出し切ったレース、その勝者は――――
《1着は――1着はグラスワンダーぁぁぁぁ!!!!!イベント主役の意地を守り切りましたぁぁぁぁぁぁ!!!!!》
わああ!!と会場中が記された結果に様々な感情を言葉に変えて騒ぎ始める。
喜び、嫉妬、嗚咽。様々な感情が会場中に響き渡る中で、グラスワンダーの視線は既に電光掲示板から次へと移っていた。
ゴールと同時に座り込んでしまったスペシャルウィークに。
戻りかけてしまった彼女に、視線が向けられる。
どうなったのかと、どうなってしまったのかと、戸惑いと恐怖に揺らぎながら見据えていると、不意に彼女が立ち上がる。
疲れが残っているのだろう。ふらふらとした足取りで彼女は此方に向けて歩いてくると―――
「ぐらちゃぁぁ~♪つかれた~おんぶ~♪」
《いつもの》様に甘えてきた。
いつもの様に、何も変わらない純粋無垢な笑みでグラスワンダーを見上げてくれた。
其処に先程感じた警告はなく、目の前に居るのは自身が守った――守ってしまった《彼女》である事がハッキリと分かってしまった。
「――ッ!!」
そんなスペシャルウィークの手を掴むとグラスワンダーは彼女を連れて選手用通路へと入っていく。無言で、けれども拒否を許さない彼女にスペシャルウィークは戸惑いながら付いていき、そして誰もいない所へと辿り着くと――――
パチンっと、乾いた音を響かせた。
「――――――ふ、ぇ?」
何が起きたのか、スペシャルウィークは一瞬理解する事が出来ず、そしてそれはグラスワンダー自身も同じだった。
スペシャルウィークの頬に残された赤い平手の痕。そしてじんじんと痺れる己の右腕。
今自身が何をしたのかを理解する事が出来ず、何をしたのかと自問しようすると同時にスペシャルウィークの瞳に涙が集まり始める。
其処に居たってやっと自分が彼女に何をしたのかを、理解してしまった。
だからこそグラスワンダーは慌てて彼女に抱き着いた。
「ぁ…う…ひう…ひ…び…びえぇぇぇぇ!!!!!ぐらちゃが叩いたぁぁぁ!!!!」
「ごめん…ごめんなさい…ごめんなさいね」
「やぁぁぁぁぁ!!!いやぁぁぁぁぁ!!!!」
「ごめんね…!ごめんね!!本当にごめんね!!!!」
スペシャルウィークは暴れる。必死に暴れる。
暴走する感情のままに暴れて彼女から逃げ出そうとする。
そんなスペシャルウィークをグラスワンダーは必死に抱き締めて、必死に宥めた。
失いかけた存在をもう離したくないと願いを込める様に、ただ抱き締め続けた。
――こうして、ファン交流会は様々な騒乱の末に終わりを迎えた。
「――――もしかして、これならスぺちゃんの記憶を……」
1人のウマ娘に《可能性》を宿して―――
暫くはリアル優先させていただきますので、更新遅くなるかもです……