スペ「すぺしゃるうぃーく、さんさいです」   作:にゃるまる

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第19話

 

――やあ!トウカイテイオーだよ。

えーと、何を話したら良いのかな…とりあえずボクが今思っている事をそのまま話させてもらうね。

 

グラスワンダーのファン交流会での一件から数日が経ったんだけど、その数日間は大変だったんだよぉ~

スぺちゃんがレースを走った事が大きな問題になったらしくて学園は大騒動!ボク達も記者に追われたり大変だったんだ~

んで難しい事はよく分かんないけど、それをURAの偉い人や学園の人達が必死に色々と対処して、数日経った今はかなり落ち着いたんだ。

スぺちゃんの復活が何時かーって聞きに来る記者はまだたまーにいるけど、それでも学園は落ち着きを取り戻して、多くの生徒達はまたいつもの生活へと戻る事が出来たんだ!

けど、その中にも例外が居ちゃって……実はこの数日の間――

 

「…………」

「…………」

 

――スぺちゃんとグラスワンダーの間の空気が最悪です。

具体的に言えば同じ部室内に居るボクが無意識に1人脳内世界に逃避行する位、最悪です。

何があったのかは教えてくれないけど、2人とも互いに視線を送っては目を逸らし、また見ては逸らしの繰り返しで何かがあったのは確実なんだけど……

あー!!もうボクワケワカンナイヨー!!

 

「失礼しま―――はぁ…お二人は相も変わらずなのですねテイオー」

「マックイーン!良く来てくれたね!!ボクこの空気耐えられない!!」

 

部室に遅れてきたマックイーンの登場に思わず抱き着く。

そんなボクにマックイーンははいはいと答えながらボクを引きはがす。

最近こういう対応に慣れたねマックイーン。ボクはライバルとして誇らしいよ…

 

「それでマックイーン。例の準備は?」

「ふふ、誰に物を言ってますの?当然、バッチリですわ!」

 

2人の間に何か起きた事を察したスピカの皆やクラスメイトの皆もさりげなくだがその事情を知ろうとしたり、仲良くさせようと色々と試みてはみたけど、そのどれも上手く行かず、あまり深入りして更に2人の間の溝が深まったらいけないと今日まで様子見してた。

けど!もう限界!

いつまでもこんな空気を浴びてたらボク達の方がまいっちゃうよ~!!

だからこそ!ボク達は秘策を用意したのだ!!

フッフッフ!今に見てろよ2人とも!!ボク達が2人をまた仲良しにしてあげるからね!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――自らの手を見詰める。

スぺちゃんを叩いてしまった己の手を、何度も見詰める。

 

「―――ッ」

 

あの時。スぺちゃんを叩いてしまったあの時。

私の頭にあったのは、ただ恐怖だった。

もしもと、もしもレースを終えて振り向いた顔が《スぺちゃん》じゃなくて《スペシャルウィーク》だったらと思うと、怖くてたまらなくて、そして気が付いたら――手を振ってしまっていた。

そして自分が犯した愚行を理解した時には、もう遅かった。

 

あれから数日、スぺちゃんは私から距離を取ってしまった。

以前の様に甘えて来る事もなく、同じベットに眠ってくる事さえもなくなった。

そして偶に向けてくる瞳――その奥底に隠しきれない恐れを抱いた瞳を私に向けて来る。

その瞳を見る度に自分が犯した愚行を思い知らされる。

 

何度も思ってしまった。

どうしてあんな事を、と。

どうして私は手を出してしまったのかと、どうしてあんな愚行を犯したのかと。

そう何度も問い掛ける度に、自分の中に眠る悪意に気付いてしまう。

 

失いたくなかったからだと。他の誰も見ないで私だけを見てくれるスぺちゃんを失いたくなかったからだと。

欲に満ちた汚い願望だと自虐する。こんな薄汚い願望が自分の中にあったのだと笑ってしまう程だ。

スぺちゃんの記憶を取り戻したい。それなのに今のスぺちゃんを失いたくない。

言ってる事が真逆過ぎてまた笑ってしまう。

己の薄汚い願望に笑い、そして考える。

 

「(……丁度良いのかも、ね)」

 

スぺちゃんの今後を考えるなら、私は離れた方が良い。

スぺちゃんの事は大好きだし、ずっと傍に居たいと思っている、それは本当だ。

けど、だからこそ距離を取るべきなのだろうと思う。

こんな薄汚い願望を抱いてる私の傍に置いていてはいけない。

それにスぺちゃんの記憶を取り戻す手段も――何となくだけれど分かってしまった。

けど私が傍に居たら、きっとそれをまた邪魔してしまう。

また失いたくないと思ってしまう。

 

だからこれは良い機会なのだと自身に思い知らせる。

失った信頼をそのままに、私は彼女の傍から離れるべきだとそう決心しようとして――

 

「ねえねえグラスワンダー!ちょっと良いかな?」

「ふぇ?あ、はい。どうし―――」

 

背後から掛けられた声に振り返ると其処には満面笑みのトウカイテイオーと――麻袋を手にしているスピカの面々の姿。はい?と状況が理解できないまま呆然とする私に、麻袋がかぶせられた。

 

「―――!!!?」

「よっしゃ!囮役ごくろうテイオー!!よーしおまえら!!皆で地平線の向こうまで配達するぞー!!」

「「「おー!!」」」

 

え?え?と疑問符だらけで困惑するグラスワンダーだが、そんな彼女の事など露知らず、誘拐犯達は麻袋に収められた彼女を以て何処かへと駈け出して行くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっほえっほ!よーし到着だーい!!」

 

麻袋誘拐からどれだけ経過しただろうか。

最初は抱えられて運ばれ、途中は車に乗せられて運ばれ、時間間隔が分からなくなった頃、どうやら目的地に到着したらしい。えっさらほーいと言う謎の掛け声と共に麻袋から解放されたグラスワンダーは突然の明かりに目を瞑るが、自然と光に慣れていくにつれて周りの景色が見え始める。

其処にあったのは―――

 

「……こう、えん?」

 

恐らくは観光地として使われているだろう煌びやかなイルミネーションで彩られた公園が其処にあった。

どうしてこんな所に?そんな疑問を抱き問いただそうと後ろを振り返るが、其処には先程まで居たであろう誘拐犯達ことスピカの面々はおらず、代わりに居たのは――

 

「――ッ!…スぺ、ちゃん……」

 

ただ1人ぽつんと残されたスペシャルウィークの姿。

その表情は俯き、伺う事が出来ないがグラスワンダーは察する。

きっと、恐れているのだと。私を怖がっているからこそ顔を挙げないのだと。

そう、分かっているからこそグラスワンダーはただ黙ってその横を通り過ぎようとする。

もう私と言う存在は彼女にとって警戒すべき相手でしかないのだと、そう自身に思い知らせながら。

けれど――

 

「――?」

 

そんなグラスワンダーの動きが止まる……いや、止まると言う表現は間違いだ。

止められたのだ。スペシャルウィークの真横を通り過ぎようした瞬間、グラスワンダーはその動きを止められる。

小さく彼女の服の裾を掴み、けれど放すつもりはないと言わんばかりに力強く握りしめられて。

 

「……スぺちゃん?」

 

だからこそグラスワンダーは数日ぶりに彼女に向って名を呼んだ。

以前の様に優しく、怖がらせない様に、名を呼び掛ける。

そんな資格はもうないと自覚しながら。

 

「……ん」

 

そんなグラスワンダーにスペシャルウィークは手を差し出す。

握られた拳。それが何の意味を差しているのか理解できないままグラスワンダーも手を差し出すと、拳が開かれて何かがグラスワンダーの手に渡される。

 

「…あ」

 

それはぐしゃぐしゃになった折り紙だ。

恐らくはうさぎだろうか。何度も折り直したであろう痕がたくさん残り、決して綺麗な出来栄えとは言えないそれを手渡して来る。受け取ったグラスワンダーは、戸惑った。どうしてこれを私に?と。

それを問おうとして顔を挙げてから、やっと気付く。

 

彼女の瞳からはもう涙が溢れ出そうになっていて、表情は完全に崩れてしまっている。

泣き出す一歩手前、それを必死に押し留めながら、スペシャルウィークは声を出した。

 

「ひっぐ…ひぐ…ぐらちゃ…やくそ…ひぅ……やくそく…やくそくやぶって…うぐ…ご……こ゛め゛ん゛な゛さ゛い゛!!!!」

 

それが限界だったのだろう。

瞳から大粒の涙を大量に流しながら、グラスワンダーに抱き着き、その胸に埋もれながら泣き続ける。

大声をあげながら、離したくないと抱き着く腕に力を込めながら、ただ泣き続けている。

 

「…………す…ぺ…ちゃん……」

 

――理解した。理解させられた。

きっと彼女は必死に考えたのだ。どうして怒られたのかを。どうして叩かれたのかを。

何が悪かったのかを。何をしてしまったのかを。必死に、必死に考えたのだろう。

そして辿り着いたのはレース前に交わした約束。あれを破ってしまったから怒ったのだと、そう思ったのだろう。

 

だからこそ、今必死に謝っているのだ。

きっと誰かに折り方を必死に教わって、慣れない折り紙を必死に折って、それを渡す時に謝ろうと決意していて、そして今、抱えている感情を爆発させながら、謝っているのだ。

必死に、許してもらおうと。

 

「―――――――ッ」

 

そんな彼女をグラスワンダーは抱き締めた。

貴女は何も悪くないのだと。悪いのは全て私自身なのだと。そう言葉なく伝えるかのように、必死に、そして優しく慰める様に背中をさすって抱き締める。

 

「(そう…全ては私がいけないの)」

 

貴女を独り占めしたいと願ってしまった事、貴女を失いそうになって恐怖を抱いてしまった事。

全て、全て私が悪くて、貴女は何も悪くないのに――そんな彼女を泣かせてしまった自分を嫌悪する。

 

一度は離れるべきだと思ったその温もりを感じながら、グラスワンダーは認める、認めてしまう。

己の中に眠る汚い欲望を。けれどそれが間違いなく自身の本音であると言う事を。

全て受け入れて、そして今度こそはと誓い直す。

もうこの温もりを絶対に手放さないと。もうこの子を絶対に泣かさないと。

そう誓いながら彼女の背中を優しく撫で続けた。

 




おまけ

「ふふ、仲直り出来たみたいだね♪けど良くあんな誰の眼にも付かない誘拐コース見つけたよねマックイーン」
「ふふふ、そこはメジロ家の力をフル活用ですわ!!」
「アタシの麻袋のおかげでもあるんだからな!!」
「…けど私達がこの覆面をまた被る必要ってありました?」
「ま、良いじゃねえか。これでスぺ先輩達がまた仲直りしてくれたんだから、万事解決――」

「あ、ちょっと良いかな君達?ついさっき覆面被ったウマ娘が麻袋に人を入れて誘拐してるって通報があってね。それは君達のこと――あ!逃げたぞ!!追え!!」
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