「ぐらちゃ~♪」
「は~い♪ぐらちゃですよ~♪」
元の鞘に収まる、とはこの事だろう。
仲直りの日から数日。彼女達は以前同様…いや、むしろ以前よりも仲良くなったと言えるだろう。
食堂で朝からイチャコラする2人にそれを見ていた全員が乾いた笑みを浮かべる。
「ははは…なんか、凄いね…」
そんな2人を呆れながら見ていたトウカイテイオーは疲れ果てたと机に突っ伏していた。
あの日、お巡りさんとの間で繰り広げた逮捕レースによって散々シンボリルドルフに説教を受けたスピカの面々は、罰として反省文を課せられたのだが、その中でも計画を立案した彼女は主犯格として他の面々よりも多めに反省文を書く様に指示されてしまい、それをやっとの想いで終えたのだ。
そんな疲れ果てたテイオーの前に2人から漂う甘い雰囲気である。
もう、胃もたれしそうだよぉ…と思わず嘆いてしまう。
《次のニュースです。ファインモーション王女が担当トレーナーとのご婚約を発表されました。アイルランド政府はこの発表に対し正式な会見を以て知らせると伝えており、既にアイルランド国内は祝福ムードに包まれているとの事です。なおご結婚される担当トレーナーからは《え?結婚?何のはなし?え?いや本当に知らないんだけど…え?ドッキリ?》と曖昧なコメントを繰り返しており、その後にトレーナーを連れて行った関係者からは当人は会見の場にてその想いの全てを打ち明けるとの意思を示していると発表されました。》
「ふ~ん、結婚かぁ」
食堂のテレビから聴こえたニュースにテイオーがポツリと呟く。
結婚。いずれはボクもと思うけれど、その時の相手はどんな人だろうなぁとなんとなく考える。
疲れた頭でぽやぽやと理想の恋人を思い描こうとして――
《ふふ、テイオー♪》
――ウエディングドレス姿のマックイーンが浮かんだ。
「んなッ!?ななな!!」
なんでそこでマックイーンなのッ!?
い、いやいやいやいや!!違うって!!それは違うって!!
「ま、マックイーンは親友であって、それでライバルで…決してそんな事を――」
「そんな事を…どうされましたの?」
「うにゃぁぁぁ!!?ま、ま、マックイーン!!?ドウシテココニイルノサ!!!!」
「…?どうしてと言われましても、私も朝食を食べにとしか……それより、どうかしましたのテイオー?そんなに顔を真っ赤にして…風邪ですか?」
心配そうにしてくるマックイーンの手が伸びてくる。
優しく伸ばした手が徐々にボクの額に触れようとしてきて、あ、ああああ!!!!
「モウワケワカンナイヨー!!!!」
「あ!て、テイオー!?…行ってしまいましたわ。どうしたのでしょう?」
走り去って消えたテイオーに首を傾げるマックイーンであったが、きっと疲れているのでしょうと深く考えずに朝食を食べに向かい、その一部始終を見ていた一部のウマ娘達は何故か微笑ましい表情を浮かべるのであった。
「結婚…」
そしてそんな一部始終に目を向ける事なく、テイオーと同じく結婚と言う言葉に思考するウマ娘が此処に1人。
その名はサイレンススズカ。ばぶみ地獄から帰還を果たし、あのレースをテレビで見たスペシャルウィークの親友だ。
あのレースで感じた可能性、スペシャルウィークの記憶を取り戻せるであろう可能性を見つけた1人でもある。
そんな彼女は今すぐにでもその可能性を確かめたかったのだが、それをするには今はまだ時期尚早と様子見に徹していた。
そんな彼女が結婚と言う言葉で思い出したのはあの夢での事。
グラスワンダーとスペシャルウィークが結ばれたあの夢だ。
最初は悪い夢程度でしか考えていなかったが…
「ぐらちゃ~♪あ~ん♪」
「あらあらスぺちゃんったら♪あー…ん。うん美味しいですよ♪」
あれを見せられたら、嫌でも現実味を帯びてしまう物だろう。
「(スぺちゃん…)」
大事な者は失ってから気付くとは本当だと思う。
何時も隣にいてくれた彼女を、いつも私を見てくれていた彼女を、いつも支えてくれた彼女を、
失ってからどれだけサイレンススズカにとって大きな存在だったのかを知らしめる。
彼女に向ける感情が《恋》なのかはスズカにはまだ分からない。
けれども、取り戻したいとは思っている。
例えどんな障害があろうとも、彼女を取り戻したい、と強く願っている。
だから今は、とスズカは堪える。
彼女が考えている可能性。それが現実味を帯びるまでは待とう。
けれど、とスズカは言葉なく視線をグラスワンダーへと向けながら誓う。
その日が来れば、スぺちゃんの隣は私が奪い取る、と。
「――ふふ♪」
そんな視線に気付いていないのか、はたまた気付いてそうしているのか。
グラスワンダーはただ静かに笑みを浮かべるだけだった。
「ふ~良い汗かいたっちゃ!」
北海道の自然豊かな光景を前にそのウマ娘は流した汗をタオルで拭い、気持ち良さげにそう声を出す。
学園へと向かう時間を考えればそろそろ準備をしないといけないと分かってはいるが、目の前に見える故郷の景色が彼女の眼を捕えて離さない。
都会では嗅げない自然の香り、それをめいいっぱい深呼吸をしようとして――
「おーい!あんたに電話だよ~!」
それを妨げる様に聴こえた知らせに若干不服感を感じながらも、は~いと答えて寮の中へと戻っていく。
古ぼけた木造りの寮の一階に置かれた電話。今どき珍しい黒電話を握っていた友人に感謝しながら、それを受け取り耳に当てる。
「はいもしもし?」
《お、やっと出たかドラ娘》
「おーお母ちゃん!いきなりどうしたっちゃ?」
《ん~?可愛いドラ娘を心配してわざわざ電話しただけよ?》
「あはは!ありがとお母ちゃん!そんで?本当の用事は?」
《…バレた?》
「バレるっちゃ。何年あの子と一緒にお母ちゃんの子供やってるっておもっちょるんよ。それで何を頼みたいの?」
彼女の言葉に諦めがついたのだろう。
電話先のお母ちゃんと呼ばれた女性は彼女に向けて《お願い》を口にして、それを聴いた彼女は笑顔で――
「良いよー」
――あっさりと引き受けた。
《…本当に良いの?》
「まあ、トレーナーさんと相談してからになるとは思うけど、多分OKだろうから問題なしなし」
それに、と彼女は笑みを浮かべながら懐から一枚の写真を取り出す。
以前に取った家族での写真。其処に映る自分とお母ちゃん、そして―――
「私も久しぶりに、可愛い妹に会いたいから」
――笑みを浮かべるスペシャルウィークの姿が、其処に映っていた。
次回、また出てきますオリジナルウマ娘(史実あり)