スペ「すぺしゃるうぃーく、さんさいです」   作:にゃるまる

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病院勤務は過酷なのだぁー!!
遅くなってすみませんでした……!!


第29話

 

「ウェェ!!?そ、それでその話受けちゃったのカイチョー!!?」

 

テイオーの叫び声が木霊したのは、パーティ会場の一室。

主に倉庫として使われているこの部屋に、急遽スピカの面々はパーティーの最中だと言うのに呼び出されたのだ。

何事かと集まった面々に対し、シンボリルドルフは全てを語った。

帯広トレセン学園側と交わした話の全てを、そして明日行われる勝負の勝敗でスペシャルウィークの今後が決まる事も、全て説明した。

 

そんな話を聞かされて驚くなと言う方が無理な話だ。

トウカイテイオーの言葉を皮切りに、それぞれが感情のままに言葉を紡ごうとする。

テイオー同様に困惑した言葉を紡ぐ者。

そんな話に賛同出来ないと否定しようとする者。

それぞれが抱いた感情を言葉に変えて、紡ごうとする。

しかしそんな面々の言葉が口から出るより先に―――

 

「でしたらその勝負。私に参加させてください」

 

一歩前へと踏み出したグラスワンダーが力強く、そう言い放った。

 

「…グラスワンダー」

「シンボリルドルフ会長。私はまだ未熟な身ではありますが、それでも中央のウマ娘としての成果と実力を有していると思っています。中央のウマ娘として必ず明日の勝負に勝利をもたらして見せます。ですので、どうか私を――」

「そ、それでしたら、私も参加させてください!スぺちゃんの為になるなら私も…!!」

 

グラスワンダーの言葉に乗っかかる様に、サイレンススズカもまたそう言い放つ。

2人の参加発言に、シンボリルドルフはやはりこうなるかと予想通りの光景に気付かれない様に小さくため息をつく。

スピカの面々に話をしておく、そう決めた時にはこうなると安易に予測出来ていた。

以前より親しい関係にあるこの2人ならば、と。

 

実際、彼女達の実力は強者の多い中央トレセン学園においても、間違いなく上位に当たるそれを有しているだろう。

サイレンススズカは、今や世界が認める実力あるウマ娘の1人であり、グラスワンダーも今はまだ日本国内での知名度しかないが、本人さえその気持ちがあれば世界でも十分通用するだろう実力を有している。

いずれ――それこそ数年後には世界中に彼女達の名前が知れ渡るだろうと言う確信さえ抱いている程だ。

そんな彼女達の参加希望は素直にありがたいと感じてはいる。

だが、しかし―――

 

「ありがとう2人とも。その気持ちは嬉しいが――それを認めるわけにはいかない」

 

そんな2人に、シンボリルドルフは拒否の意思を示した。

 

「ど、どうしてですか?確かにまだ未熟な身ではありますが…!!」

 

「グラスワンダー。明日の勝負は中央と帯広、それぞれの学園が文字通り全てを出し切って挑む場となる。そんな場に《中央トレセン学園》と言う名の重さを背負って挑むには、君はまだ早い。君の実力が劣っていると言うわけではない。君の実力は私も重々承知だ。だが、中央と言う重さを背負うには、まだ君は若すぎる。それ故に参加を認めるわけにはいかない」

 

口調こそ優しいものだが、言葉に秘められた絶対の意思。

拒否を許さない強い意思を全身で感じさせられる。

そんな意思を前に、グラスワンダーは苦虫を嚙み潰したよう顔を歪める。

 

「そしてサイレンススズカ。確かに君の実力は優秀だ。それこそ日本中が、そして世界さえもが君の実力を知っている程に。そんな君であれば中央と言う重さを背負って挑むのも良いのかもしれない。だけど、今の君はあくまで帰省中の単なる客人でしかない事を忘れていないか?冷たい言い方をするようだが、今の君は中央に属しているわけではない赤の他人だ。そんな君に中央を代表させるなんて、出来るわけがないだろう?それに、今の君の舞台は中央じゃない。世界だ。スペシャルウィークの事が不安な気持ちも分かるが、君は君の舞台での事を考えて療養してほしい」

 

それは!と何かを言い返そうとするが、それが言葉になって出てはこなかった。

シンボリルドルフの言う通り、今のスズカはあくまで療養目的で帰省しているだけの赤の他人だ。

そんな彼女に中央の代表として走らせるなんて、色々と問題とタネとなる未来しか見えないだろう。

それを理解したからこそ、スズカは何も言い返せずに、沈黙するしかなかった。

 

沈黙した2人を前に、少し言い過ぎたかもと僅かに反省する。

これが単なる他校交流を目的としたレースならば此処まで彼女達の参加を否定などしたりしなかった。

むしろこの経験は今後の彼女達の糧になると進んで参加させただろう。

 

だが、《今回》は違うのだ。

これはもはや単なる他校交流会ではない。

《帯広》と《中央》、この2つが文字通りの全てを出し切って競い合う場へと変化してしまったのだ。

 

彼女達は本気で、中央に勝つつもりで挑んでくる。

それが並大抵の話ではないと理解しながらも、挑んでくる。

全てを賭して、挑んでくるのだ。

 

ならばその挑戦に私も応えなければならない。

《中央》と言う存在の全てを出し切り、この戦いに臨まなければならない。

その場に、彼女達はまだ若く、未熟なのだ。

それ故にシンボリルドルフは彼女達の参加を拒否した。

まだ早いと、まだ先だと、そう否定して。

 

それ故にシンボリルドルフは強く答えなければならない。

そんな2人の想いを断ったからこそ、堂々と、そして絶対の意思で答えなければならない。

 

「2人の気持ちは素直に嬉しい限りだ。だからこそ、明日はどうか私達に任せてもらえないだろうか?」

 

私達。それが誰を意味しているのかを聴こうとするより先に、部屋の入口が開く。

 

「会長。説得終わりました」

「…フン。面白そうな話じゃないか」

「いやいや!本当に面白そうじゃない!!地方VS中央って熱くなるでしょ!?」

「本当ね~あたしも久しぶりに燃えてきちゃったわ!!」

 

開いた扉から姿を現したウマ娘達を、スピカの面々は――いや、この学園の生徒は全員知っているだろう。

 

中央トレセン学園生徒会副会長《エアグルーヴ》

同学園生徒会副会長《ナリタブライアン》

同学園所属《ミスターシービー》

同学園所属《マルゼンスキー》

そして――

 

 

 

 

「――もう一度言おう。明日は私達に任せてほしい。安心してくれ。明日の勝負―――私達は絶対に勝利を手にしよう」

 

 

 

 

中央トレセン学園が誇る生きた伝説《シンボリルドルフ》がそう、宣言した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで?明日はどーするの?」

 

握る皿に大量の食事を乗せたコスモバルクの質問を前にモーリスは静かに思考する。

 

《中央》

地方のウマ娘達が憧れ、求める至高の舞台。

その舞台に上がれるのは強者のみで、弱者は己の力不足を思い知らされて走る事を辞めてしまう、なんて話は毎年良く聞くお話だ。

 

そんな舞台に――私達は宣戦布告を果たした。

憧れるしかなかった地方の1学校が喧嘩を売ってみせた。

そう実感すると、不意に腕に軽い震えが起きる。

 

「―――はは」

 

今更になって感じる事態の重さ。

明日のレース、それは中央と帯広の全面戦争だと言っても過言ではない。

恐らく出てくる面々も、幾度も見た事のある強者ばかりだろう。

そして、きっと――いや、絶対にその中にあの人は出てくる。

生きた伝説が、誰もが憧れ、焦がれた皇帝が――《シンボリルドルフ》が出てくる。

 

その事実を理解させられて、今更になって震えが出てくる。

今からでも辞めるべきではないか?そんな怯えに近い感情が沸々と湧き上がる。

謝って終わらせるべきだと、心のどこかでそんな言葉が聴こえてくる。

 

怯え、恐怖、後悔。

そんな感情が次々と出てくる。

心の弱い部分が幾度も明日のレースを中止に出来る算段を生み出し、それを眼前に見せ付けて来る。

取れよと、逃げろよ、とそんな風な幻聴さえもが何度も何度も聴こえてくる。

思わず、その声に従ってしまいそうな弱い自分が居るのも、感じ取れてしまった。

 

「……弱いですね、私」

「…んにゃ。強いよモーリスは」

 

モーリスの口から出た言葉。

その言葉に秘められた弱音に、コスモバルクは静かに頭を撫でながらそう答えてから――

 

「――やっぱ、辞めちゃう?明日のレース?」

 

――そう、優しく言った。

その言葉の意味は、コスモバルクの夢の否定。

《中央に負けない地方を作る》、数多くのウマ娘に語り、その夢の実現の為に走り続けた彼女の夢。

その夢の敗北を、コスモバルクは躊躇する事なく提案した。

 

「――!?会長それは!?」

「私は別に良いよー。今回逃げたってそれで終わりじゃない。人生…いや、ウマ娘生?まあ、どっちでもいいか。とにかく時間はまだまだあるんだからさ~、今回位逃げちゃっても良いんだよ~」

 

幻聴が、強くなったのが分かった。

そうしろと、憧れの会長に従えと、逃げるべきだと。

その幻聴が、何度も何度も心に刺激を与えて来る。

その魅力的な甘さを前に、屈しようとしている自分が居るのを、否定できなかった。

 

――だけど。

そう、だけれども――

 

「――いいえ。逃げません」

 

――逃げると言う選択肢を選ぶわけにはいかなった。

憧れるコスモバルクの夢の実現の為にも、己が抱く感情の為にも、逃げるわけにはいかなかった。

 

「――いいの?」

「はい」

 

即答する。

先程までの弱い自分が消えたわけではない。

むしろ己の決定に意見する様に何度も何度も幻聴を聞かせて来る。

 

けれど、そんな幻聴にモーリスはもはや耳を傾けない。

もはや賽は投げられたのだ。

今更逃げるなどと言う弱い選択は、許されない。

帯人の為にも、大好きな仲間達の為にも、そして――スペシャルウィークの為にも。

 

「会長」

 

そんなモーリスの前に姿を見せるのは、2人のウマ娘達。

 

「あの人から連絡が入りました。明日のレースまでには到着できると」

「けど会長良くあの人に参加させる事が出来ましたね?あの人結構自由人なのに…」

 

帯広トレセン学園生徒会副会長《エスポワールシチー》

同学園所属《オースミキャンデイ》

 

「アッハッハッハ!それも全ては私のおかげさー!!跪け―崇めろー!!」

 

同学園所属元生徒会長現生徒会役員《コスモバルク》

そして―――

 

 

 

「――皆さん。明日は絶対に我らの勝利を――中央に敗北の味を思い知らせてあげましょう」

 

 

 

帯広トレセンが生んだ若きエースである《モーリス》がそう宣言した。

 

 

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