スペ「すぺしゃるうぃーく、さんさいです」   作:にゃるまる

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第30話

「ほっほっほ!」

 

まだ人の姿が少ない早朝の河原。

ハルウララは近く行われるレースへと向けて1人早朝ランニングへと勤しんでいた。

 

「ふっふっ……う~ん…」

 

彼女が目標として掲げている《有馬記念》

ダートの短距離が得意なウララにとって、芝の長距離レースとなる有馬記念は完全にお門違いだ。

まともに走る事さえ難しいと言うのに、出走するウマ娘達はどれもこれもが強敵ばかり。

最下位にさえならなければ文句なし、と言うのが周りからの冷たい評価だった。

 

それでも彼女は有馬記念を目標として選んだ。

他の誰でもない、己の意思でそれを選び、そしてその決定を彼女のトレーナーも受け入れた。

二人で有馬記念を目指そうと。

 

そして今回出走するのは有馬記念を想定した芝の長距離レース。

初の芝、それも長距離での参加となり、ハルウララはそれに備えて毎日練習を積み重ねていた。

同室のキングヘイローや多くの友人達もそれに全面的に協力してくれており、トレーナーも彼女の為にと様々な練習方法等を用意してくれていた。

けれど、そんな数多くの協力を受けてもハルウララはまだだと感じていた。

きっとこのままだとまだ足りない、と。

 

それ故にハルウララはこっそりと1人早朝ランニングを始めていた。

なるべく芝の環境に近いようにと雑草が多く生えている河原を選び、そこを有馬記念の距離で想定して走った。

けれど、だ。

 

「やっぱりだめだ~…」

 

思い描く理想通りの走りが出来ない事にため息が零れる。

此処最近ハルウララはスタミナ練習を中心的に行い、長距離に備えての体力作りをしている。

それ故に長距離を走る事だけならばまだ何とか出来ていたが、問題はやはり芝だ。

ハルウララの得意とするダートとはあまりにも異なる世界。

その違いがあまりにも大きすぎて、それがハルウララの想像通りの走りを邪魔していた。

 

河原に倒れる様に寝転ぶウララ。

どうしたら皆の様に走れるのだろうか、とう~と唸りながら悩むウララであったが―――

 

「やあ。おはよう」

「ふえ?」

 

そんなウララの傍にいつの間にか1人のウマ娘が居た。

中央の学園では見た事が無い子であったが、不思議とウララはそのウマ娘に見覚えがあった。

何処か、と言われたら分からないけれど、それでも不思議と既知感を感じさせるそのウマ娘を前に、ウララは呆然としてしまうが、そんなウララの反応に思うところがあったのだろう。

 

「ああ、急に声を掛けてすまないね。君の走りを見ていたらつい声を掛けたくなっちゃってね。迷惑だったかな?」

 

あはは、と笑いながら申し訳なさそうに頬を掻く彼女に,ウララは慌てて起き上がり、勢いよく首を横に振った。

 

「ううん!!ぜんっぜんそんなことないよ!!あ、わたしハルウララ!!ねえねえ貴女はなんてお名前なの!?」

「名前?あ~…名前、ねえ」

 

ウララの率直な質問に対し、彼女は少し考えこむ様に視線を逸らした。

何かを小声で紡ぎながら悩む彼女に対し、ウララがもしや聞いてはいけなかった事なのかな?と声を出そうとしたが、それより先に彼女の視線は再度ウララを見つめると――

 

 

「――マツ。私の名前はマツだ」

 

 

そう、名乗った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう!ウララさんったら!!」

 

キングヘイローがハルウララが部屋に居なくなった事に気付いたのはつい数分前の事。

予定もなく、いつもより長めの眠りについていたキングが目を覚ますと、部屋の中にはウララの姿はなく、彼女の机の上に《ちょっとでてきます!!》と元気よく書かれた書置きが残されていた。

まさか、と思ったキングが早朝ランニングをしていた子に聴いてみると、河原で1人練習をしていたウララの目撃情報を得た事で、ウララが1人でこっそりと早朝ランニングをしている事が判明した。

 

此処最近の練習で上手く芝の長距離が走れておらず、それで少し焦っている事もキングは理解していた。

だからと言って1人でこっそりと練習をしようとするなんて……

 

「怪我とかしてないと良いけれど…」

 

そう心配しながら見えてきたのはハルウララが目撃された河原。

此処の何処かに、とその姿を探そうとして―――

 

「うっららー!!」

 

聴こえてきた声に、はぁと安堵半分呆れ半分と言ったため息を漏らす。

声を聴く限り心配していた事にはなってない様だと安心して、その声が聴こえた方へと足を進めていくと、次第にその姿が見えてくる。

 

「ウララーーー」

 

その姿に声を掛けようとして、気付く――いや、気付かされる。

 

「――――うそ」

 

――走れている。

芝を想定しているであろう雑草がひしめく河原を一切の躊躇も遠慮もなく、まるで普段ダートで見せる走りの様に、彼女らしい走りが今目の前で繰り広げられている。

それでいて長距離レースを想定しているであろうスタミナ温存も、周囲に対する注意も、そして最後で見せる残されたスタミナを全て出し切るラストスパートも、全て完璧に仕上がっている。

 

「はぁはぁ…ど、どう!?出来た!?」

「うん。改善出来てたよ。良かったよウララ。後はそうだね…有馬を目標とするなら、此処と此処を要注意として、後はもう少しフォームを変えてみても良いかもしれないね」

 

あまりの光景に呆然としているキングヘイローだったが、ふとハルウララの傍に誰かが居る事に気付く。

 

「あの人……ん?ん!?んんん!!?」

 

誰だろうと視線を向けたキングヘイローは思わず唸った。

それもその筈だ。そのウマ娘についてキングヘイローは知っているからだ。

いや、キングヘイローだけではない。恐らくこの学園に通うウマ娘の大半はその顔を知っているだろう。

何せ彼女は―――

 

「おっと、どうやらお友達が来たみたいだね。それじゃあ私はそろそろお暇するよ。ウララ、君の有馬記念を楽しみにしてるからね」

「うん!!私絶対に一着取って見せるからね!!また会おうねマツさん!!!!」

 

キングヘイローの存在に気付いたのだろう。

ハルウララにそう言って別れを告げた彼女は、ウララに手を振りながら呆然とするキングヘイローの隣を通り過ぎようとして―――

 

「この出会いは内緒にしておいてくれよ。キングヘイローくん」

 

囁く様にそう言い残すと、彼女は何処かへと去ってしまった。

 

「あれ?キングちゃん!?どーしたの?ぼーとしちゃって?」

「……う、ウララさん?あの御方は…?」

「あのおかた?あ!マツさんの事!?マツさんはね~!凄いんだよ!!芝での走り方とかコツとか色々教えてくれて!!その通りに走ったらすごく気持ちよく走れたんだよ~!!それでねそれでね!!」

 

マツさんと名乗ったウマ娘について興奮しながら語るウララであったが、キングはただ呆然と彼女が去っていた方角を見詰める事しか出来なかった。

なにせ彼女は―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピロピロと音楽が鳴る。

それが最近買ってもらった携帯の物だと分かると彼女はそれを取り出し、慣れない手つきで操作する。

 

《やあおはよう!まだホテルについてないから電話したけれど、今どこにいるの?》

「おはようコスモバルク。なに、ちょっと久しぶりの中央を楽しんでいただけさ。その途中で才能ある若い子とも出会えたよ。やはり中央は面白いね」

《え~?その言い方だと帯広は面白くないみたいに聴こえるよ~》

「ああ、そう聴こえたなら謝るよ。すまないね」

《別に気にしてないよ~けど、良くその子にバレなかったね?中央からすれば貴女の存在は知れ渡ってると思ってたけど?》

「なに、私が成した事なんて所詮は昔の話だ。今の若い子が知らなくても仕方ないよ」

《その言い方だとめっちゃおばあちゃんみたいに聞こえるよ~、まあそろそろホテルにおいでよ》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《ねえ、《シンザン》》

「ふ、了解したよコスモバルク」

 

 

 

 

 

 

 

 

そのウマ娘を知らない者はいない。

かつてシンボリルドルフが名を挙げる以前に、中央において最強の名を独占していたそのウマ娘を。

《シンザン》の名を知らない者は、誰もいない。

 

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