スペ「すぺしゃるうぃーく、さんさいです」   作:にゃるまる

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第31話

 

「――ふぅ」

 

生徒達が朝の準備を始める頃。

シンボリルドルフは1人、グラウンドで汗を流していた。

 

「(タイムは…悪くない。ただ最後の直線での走りをもう少し…)」

 

今日行われる帯広トレセン学園との交流レース。

名目こそ交流だが、その実態はスペシャルウィークを求めての全面戦争だ。

負ければスペシャルウィークを取られるだけに留まらず、中央が地方に負けたと言う敗北の歴史を残してしまう絶対に負けられない勝負。

シンボリルドルフはそれに備えて1人練習に励んでいた。

 

「(交流レースは一対一のそれぞれ希望する距離と適性で行われる。そして恐らく私の相手となるのは――)」

 

――モーリス。

現帯広トレセン学園生徒会長であると同時に、数々のレースで好成績を残し、中央からのスカウトを受ける程の実力バ。

きっと彼女が私の相手として名乗り出て来るだろう。

それ故に彼女の最近のデータを見直し、考えうる限りの対抗手段も用意した。

後はそれを実戦にて生かすのみ、そう思いながらルドルフはもう一度と走り出す。

第1コーナー、第2コーナー、第3コーナーと順調に走り、そして第4を過ぎると同時に訪れた直線。

 

「(此処だ!此処で全てを出し切る!!ッ)」

 

頭の中で描く架空のモーリス。

彼女が直線で見せる走りを前に、シンボリルドルフもまた吸った息を全て吐き出して直線に全力を出そうとして――

 

「失礼」

 

その真横を誰かが駆けて行った。

 

「なッ!?」

 

誰だ!?と戸惑うシンボリルドルフだったが、すぐに戸惑いを消して駆けて行った人物を追いかける。

突然の乱入者に対しても即座に落ち着きを取り戻せたのは流石はシンボリルドルフだろう。

一瞬驚かされこそすれど、すぐに直線に備えていた全てを解き放ち、少し前を駆ける彼女へと追いつこうとする。

だが、しかし――

 

「(おい…つけないッ!?)」

 

シンボリルドルフと彼女の間にある距離がどうしても埋められない。

練習だから手加減している、なんてつもりはない。

文字通り全てを出しての全力だと言うのに、それでもなお前を走る《彼女》に追い付けない。

 

「――――♪」

 

そんなシンボリルドルフに対し、《彼女》は静かに笑みを浮かべる。

最初はあくまで様子見をするだけのつもりだった。

今の中央最強を誇る彼女の走りを、その実力を少しだけ見て終わるつもりだった。

けれども、その走りを、皇帝と称される彼女の走りを見せられて我慢なんて―――到底無理な話だ。

 

だからこそ彼女は挑んだ。

シンボリルドルフがスタートしてから数秒遅れのスタートで気付かれない様にし、そして最後の直線において自らの存在感を気付かせる、先輩からのちょっとした悪戯心を込めた独特な走りを選んで挑んだ。

 

実際、シンボリルドルフは《皇帝》と呼ぶに相応しい圧倒的な強者の走りを見せた。

スピード、スタミナ、適切な体力管理に今もなお自身に追い付こうと必死の度胸。

素晴らしい、そう勝算するに相応しいだろう。

 

――だが、だ。

 

「――まだ《私》には届かない、ね」

 

先輩として教えてあげよう。

どれだけ強くあろうとも、

どれだけの勝利を重ねても、

どれだけの実力を手にしようとも、

それでもなお、世の中には上が居ると言う事を――

 

「――フンッ!!」

 

シンボリルドルフの前で彼女は更に速度を増していく。

馬鹿な!?それが自身との距離を突き放していく彼女に向けた感想だった。

まだ速くなるのかと、まだ上げられるのかと、まだ離されるのかと。

 

「(そんな…!?)」

 

段々と離されていく自身に焦る気持ちを感じながらも、シンボリルドルフは駆けた。

追い付こうと、その背を抜かして見せようと、駆けた。

必死に、全力で追い付こうとした。

 

「クッ!!アァァァァァ!!!!!」

 

雄叫びを挙げながら、湧き出る汗を吹き飛ばしながら、駆けた。

必死に、ただ必死に……

けれど――――

 

「――ゴール」

 

先にゴールを果たしたのは、前を駆けていた彼女の方だった。

 

「ッ!?ハァハァハァッ!!!!!」

 

遅れて倒れ込む様にゴールを果たすシンボリルドルフ。

息を切れ切れ、汗も滝の様に流れる中で彼女は必死に彼女に視線を向けようとする。

けれど、彼女の姿は倒れ込むシンボリルドルフの周りにはなかった。

 

「なッ!?」

 

幻?否、そんなわけがない。

慌てて周囲を見渡すシンボリルドルフは、ゴールの先にあった入場口に視線が止まり、其処に彼女を見つけた。

ゴールしたままの脚であそこまで駆けて行ったのだろう。

彼女は此方に視線を向ける事なく、いつの間にか取り出したタオルで頭を覆いながら外へと向かおうとしている。

 

「――ッ!待ってくれ!!君は…君は誰なんだ!!」

 

そんな後ろ姿にシンボリルドルフは叫んでいた。

自身を負かした相手が誰なのかを知りたいと、叫んだ。

 

その叫びに、彼女は足を止める。

必死な声に、その想いに応える様に。

けれど彼女は此方に顔を向けない。

まるで正体を隠す様に覆ったタオルで背を向けながら――

 

「――君の走り、凄かったよ。次はレースで走ろうね」

 

ただそう褒める様に言い残すと、今度は止まる事なく出口から姿を消していった。

後に残されたのは敗北したシンボリルドルフと、そんな彼女の瞳に宿った次こそは負けないと言う熱い覚悟だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、居た!居たよお姉ちゃん!!」

「え!?本当!?流石ね!!」

 

出口から外へと出ると見慣れたウマ娘2人を見つける。

 

「やあ2人とも。どうしたんだいこんな所で?」

 

「どうしたんだいって…コスモバルク先輩に探しに行ってきてくれって頼まれたんですよ!!先輩電話も繋がらなくなったからって!!」

 

言われて、あ―そう言えばとレースの邪魔になってはいけないと荷物と共に置きっぱにしていた携帯を取り出す。

画面に表示された無数の不在着信とメールの数々をみてアハハ、と小さく笑う。

 

「ごめんね。ちょっと熱が入っちゃってね」

 

「いや私達は良いんですけど…とりあえずそろそろホテル行きましょう!!」

「ほら先輩!!荷物持ちますので行きましょう!!」

 

相も変わらず元気な姉妹だねー、と感心しながら《彼女》こと《シンザン》は2人の後ろをついていく。

 

「分かったよ。《タイトルホルダー》《メロディーレーン》」

 

可愛い後輩2人に先導されながら歩き始めるシンザンはふと、一度だけ脚を止めて振り返る。

 

「シンボリルドルフ…か」

 

思い出すは先程のレース。

最後の直線勝負、あそこでシンザンは圧倒的差を開いて勝利するつもりだった。

力量の差を、世界の広さを教えてあげようとした。

 

だが実際は想定していた差の半分も行っていない。

圧倒的差での勝利、それをシンボリルドルフの実力は許してくれなかったのだ。

 

「…ふふ」

 

あの子はまだ伸びるだろう。

この敗北さえも糧にして、きっと大きく伸びていくだろう。

それ故に―――

 

「……次が楽しみだね」

 

もう一度競い合う時に、どれだけ成長して見せるか。

それが楽しみだとシンザンは小さく笑った。

 

 

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