スペ「すぺしゃるうぃーく、さんさいです」   作:にゃるまる

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久しぶりに更新しました!!
リアル忙しいです!!


第32話

 

交流会2日目。

その日、中央トレセン学園のグラウンドは異様な緊張感に包まれていた。

 

「ねえねえ。やっぱりあの話って本当なの?」

「ぽいよ。だって会長から直々に話もあったし…けどまさか本当に…」

 

帯広、そして中央。

2つの学園の生徒達の間に突如流れたとある《噂》。

その内容は《帯広トレセン学園生徒会が、中央に喧嘩を挑んだ》と言うものだ。

 

最初それを聴いた両学園の生徒は信じなかった。

《ありえない》《モーリス生徒会長がそんな事をするとは思えない》《あのシンボリルドルフに喧嘩を挑むなんて想像できない》等々と言った反応であったが、次の日の翌朝――つまりは今朝になって帯広トレセン学園側ではモーリスが、中央トレセン学園側ではシンボリルドルフが生徒達に大々的に伝えたのだ。

 

《本日の交流会にて、帯広トレセン学園と中央トレセン学園の生徒会を始めとした面々による特別レースを行う》と。

 

その話は即座に話を聞いていなかった生徒達にも広がった。

特別レースと言う名目ではあるが、それが地方VS中央を意味する事は誰の眼にも明らかであり、そして両校とも参加者が指折りの実力バばかりである事がこれが単なる交流を目的としたレースではないのではないか?と言う憶測を呼び起こし、先に流れた噂の信憑性を大いに高めたのだ。

 

その結果交流練習の時間となったにも関わらず、多くの生徒達は練習に集中する事が出来ずに、いまだ姿を見せていない参加者達の登場を今か今かと待ち続ける状態に陥ってしまっていた。

 

「…こりゃあ練習どころじゃねえな」

 

その現状を前に、スピカのトレーナーは思わずそう愚痴ってしまう。

何処のチームも練習どころじゃないと言う雰囲気が目に見えて分かる。

姿を現さない両学園の生徒会メンバー達、その登場をずっと心待ちにしているのだろう。その視線はグラウンドに繋がる入口へと向けられたままで誰も練習に対して集中できていない。

これだと練習をしましょう、と言う提案さえできないな…と頭を掻きながらトレーナーはため息をついた。

 

「けどまさか大々的に公表するとはなぁ」

 

そんなトレーナーを横目にスピカ所属の《ウオッカ》がそう呟き、それに続く様にスピカの面々が言葉を紡ぐ。

 

「《交流を目的とした生徒会メンバーと代表メンバーによる特別レース》でしょ?確かに公表しておけばレースの開催は難しくないわよ。けどこれって…」

「…スぺの事に関してはなーんも話してねぇよな」

 

ゴルシの言葉に全員が黙ってしまう。

そう、今回両校の生徒会長の口から語られたのは、あくまで特別レースを開催を知らせる内容のみ。

其処にスぺの今後が関わる大きな勝負が存在している事は一切説明されていないのだ。

 

「…まあ、何となくわかるけどな」

 

恐らく、スぺに関しての説明を行わなかったのは2つの理由からだろう。

1つはURAに対しての備えって所だろう。この勝負にスぺの今後が関わっていると知られれば、妨害――はないにしろ、何かしらの手を打ってくる可能性が大きくある。だからこそ敢えてそれを知らせずに、《このレースがあくまでイベントの一環である》と言う事を生徒達に知らせて強調する事でURAの介入を防ぐ事が狙いだろう。

 

そしてもう1つは――シンプルに今回関わる全てのウマ娘と両学園の為だ。

スぺ――スペシャルウィークが日本中が認める名バなのは間違いない。

その知名度は止まる事を知らず、ブロワイエに勝利してからは海外人気も高まっている。

そんなウマ娘を事情があるとは言え、中央と帯広が謀略、知略を巡らせて奪い合いをしました、なんて事実が知られればそれこそ両校の名誉も何もかもがズタズタになるし、関わった生徒達も巻き沿いは必須だろう。

 

だからこそ敢えてスぺの話は表に出さず、結果だけを反映する様にしたのだろう。

中央が勝てばあくまで交流会イベントでしたと締め括る結果を。帯広が勝てば《偶々》交換学生にスぺが選ばれたと言う結果を反映させるだけ。こうする事で参加する生徒と両校の名誉を守れるって事だろう。

 

しかし今回のイベント…

スぺの今後が関わる以上、俺も真剣に色々と考えてみたが―――

 

「ねぇねぇトレーナー。トレーナーから見て今回の勝負ってどう思う?」

「んぁ?どうって…どっちが勝つかって意味か?」

 

まるで俺が考えている事を予知したかのように聴いてきたテイオー。

その質問に対し、昨夜見直した資料と情報を纏めて考えていた結果を俺は口にする。

 

「…まあ、中央の勝ちが7割って所かな」

 

今回のレース、中央トレセン学園側からは《シンボリルドルフ》《エアグルーヴ》《ナリタブライアン》《ミスターシービー》《マルゼンスキー》と言った中央を代表すると言っても過言ではない面々が参加する。

その実力を知らない者は、恐らくこの学園には誰1人もいないだろう。

対する帯広側は参加者の発表はまだだが、《モーリス》《コスモバルク》《エスポワールシチー》辺りは確定で出てくるだろうと踏んでいる。

 

「(モーリス、エスポワールシチーは確かにかなりの実力バだ。それこそ中央の面々相手にも後れを取らないだろう。だが…)」

 

《コスモバルク》に関しては正直な話、微妙だと考えている。

確かにコスモバルクもかなりの実力バであるのは間違いないが、それはあくまで《地方》と言う枠組みの中での考えだ。《中央》と言う舞台においての彼女の実力は正直厳しいのでは?と言う見方があるし、今回参加する中央側との実力差を考えると、彼女は危険視する程ではないと捉えてしまうのがトレーナーが感じた素直な感想である。

 

「(後の2人が誰かにもよるが…帯広側の勝率はかなり低いだろうな)」

 

実際、そう考えているのは彼だけではない。

中央に属する多くのトレーナー達が彼と同じ考えを抱いている。

あのシンボリルドルフを始めとするチームに勝てる筈がない、と。

だからこそ多くのトレーナー達は今回のレースを楽観視していた。

負ける筈がないと、中央が勝つのだと、そう考えていた。

 

――最低でも、あの時までは――

 

「あッ!見て見て!!」

「あ?どうしたテイオー…ってあれは…」

 

興奮するテイオーが指さす先。

其処にいたのはグラウンドに姿を見せたシンボリルドルフを始めとした中央側の参加チームの面々であり、そしてその面々を見た多くの生徒達は思わずざわついてしまう。

 

何故なら、グラウンドに姿を現した彼女達は全員――《勝負服》であったからだ。

 

「ね、ねえあれって…」

「イベントだからって…凄いねぇ」

 

本来ならばG1クラスのレースでなければ袖を通す事がない勝負服。

それを身に纏い姿を現した彼女達に、多くの生徒達はそれだけ今回の交流会に力を入れてくれているのだと感動しているが、真実を知る者達からすればその勝負服の本当の意思が伝わってくる。

《中央に敗北はない》と言う意思を地方に知らしめる為に着てきたのだと。

 

それに対して――

 

「あ!見てモーリス会長だよ!!」

 

まるでその登場に合わせるかのように帯広トレセン学園側の生徒が姿を現す。

グラウンドに姿を見せた彼女は、まるでそうである事が当然のように《勝負服》を身に纏っている。

青と白を中心としたどことなくグラスワンダーの勝負服に似ている様なデザインのそれを身に纏い、姿を現したモーリス。その後ろに続く様に姿を見せるエスポワールシチー、コスモバルクもまた勝負服に身を包んでいる。

 

「モーリス会長も勝負服!?」

「うわぁ!会長の勝負服久しぶりに見たかも!!」

「見て見て!シチー副会長にコスモバルク前会長までも勝負服だよ!?」

「すご…それだけこの交流会の成功に力を注いでくれてるって意味よね!?だったら応援しなきゃ!会長―!!みなさーん!!頑張ってくださーい!!」

 

勝負服を身に纏い姿を見せたモーリス達に対して、全力での声援を浴びせる帯広生徒達。

それを笑顔で手を振って答えながら歩く3人の後ろで――

 

「――――わーお。私見事に空気だね」

 

――ひっそりと目立たない様に後に続くのは、オースミキャンデイ。

まだ一度もG1クラスを走った事がない彼女ではあるが、いずれ絶対に走るから!!走らせるからな!!と散々トレーナーに言われ続け、その過程で作る事になった勝負服を身に纏ってその姿を見せる。

 

「(そもそもなぜにわたしを選ぶんですかね!?他にも優秀な子がいるだろうに何故に私!?)」

 

思い出すのは昨夜の参加者発表の時。

モーリス、エスポワールシチー、コスモバルクと納得するしかない面々が出てくる中で――

 

《そして、オースミキャンデイさん。貴女にもお力をお借りしたいのです》

《――――はい?》

 

――まさかの御指名ときたもんだ。

 

「(ヤバババ!!緊張感半端ない!?てか私お門違い感凄くない!?嫌だー!!逃げたーい!!)」

 

まさか自身がこのレースに参加するなんて欠片も思っていなかったオースミキャンデイは緊張感に震えながらも、前を歩く会長に続いていく。

 

「――あれは確か、オースミキャンデイくん、だったか?」

「はい。スペシャルウィークの姉の…」

 

ほう、とシンボリルドルフは驚いたと表情を変える。

帯広側の参加者に関しては、当日に知らせると言う連絡を受けていたシンボリルドルフは参加するであろうウマ娘の情報をリストアップし、候補化していた。

その中でオースミキャンデイは選ばれておらず、他のウマ娘が出てくるであろうと予想していた彼女からすれば予想外だと驚く半面、確か彼女は…と少し考える。

 

「(以前参加したレースを最後にレースの参加を辞退し続けている、と聞いていたのだが…)」

 

その成績も確か7勝2敗と優秀な記録ではあるが、これと言って華々しいと言う程でもない。

正直な話をさせてもらうとすれば、彼女以上の成績を収めているウマ娘は帯広に他にも多く居る。

その中で彼女を選んできた目的が―――

 

「…いや。今はおいておこう」

 

今、大事なのは誰を選んできたか、ではない。

誰を選ぼうが、誰が前に出てこようが、それは関係ない。

私達に必要なのはただ1つ。ただ1つの答えのみ。

 

「――勝つ」

 

中央を代表する者として。

この身に掛かった大きな期待に応える者として。

この背に向けられる願いに応える者として。

 

「必ず勝つぞ。皆」

「はい。勝ちましょう会長」

「――ふん」

「ハハ。良いねー久しぶりに楽しそう!」

「よーし!お姉さんもがんばっちゃうぞー!!」

 

シンボリルドルフの声に応える仲間達。

その声に背中を押される様にして、前へと歩み、彼女の前に立つ。

帯広トレセン学園生徒会長にして、今回の敵でもあるウマ娘モーリスの前に、立つ。

 

「おはようございますシンボリルドルフ会長。本日はお日柄良く良いイベント日和ですね」

「ああモーリス。確かに良い天気だ――まさに勝負日和だろう」

 

互いに浮かべるは笑み。

清く清々しい笑み。されどその瞳に宿すは互いに敵意。

もしも此処が中世の戦場であれば、隙を見せた瞬間に武器を取り出しそうな程に2人の間に漂う緊張感。

その緊張感に対し、その場に集まった者達は様々な反応を見せる。

笑う者、呆れる者、恐怖する者、力む者、まさに多種多様な反応である。

高まる緊張感、それは次第に会場に居る他のウマ娘達やトレーナー達さえをも巻き込みそうに膨れ上がろうとして―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やあやあ。ごめんね遅れちゃったよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カツン、と。

不思議とその音はグラウンド中に居た全ての者達に聴こえた。

何故かはわからないが、それでも何故かその音は聞こえ、そして全ての者達の視線を奪い取った。

 

「いやぁ。何せ《これ》に袖を通すのは久しぶりだからね。準備に手間取っちゃったよ」

 

カツン、と。

その音が響く度に会場中に重い何かが満ちていくのが分かる。

それが何かと敢えて言葉にするならば――《存在感》だろうか。

 

「――――ぅ――そ」

 

《その姿》を見たとあるウマ娘が、手にしていた教科書をポトンと落とす。

落ちた教科書は風に揺らいでパラパラとページをめくっていき、とあるページでその動きを止める。

 

「―――――ま、さか――」

「え?ちょ…いや…けどあれって…!」

「え?え?え、えぇ――!!?」

 

会場中のウマ娘が戸惑い、驚愕し、困惑する中でそのウマ娘は堂々と姿を現し、そしてその登場にニターと笑みを浮かべながらコスモバルクが近寄ると、《その名》を口にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やあおはよう《シンザン》。ナイスタイミング」

「――?おはようコスモバルク。ナイスタイミング…とは?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

風に揺らいだページ。

其処に映し出されているウマ娘《シンザン》と今まさにグラウンドに姿を見せた《シンザン》は――見事なまでに同一人物であった。

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