コスモバルクの語る夢。
それは中央が全てを優遇される現環境を破壊し、中央と地方の立場を平等にするもの。
その夢を叶える為に地方校の1つでしかなかった帯広トレセン学園を地方校の中でもとびきり有名校へと育て上げ、地方でもこうする事が出来るのだと証明した。
その証明こそが、コスモバルクが己の夢に本気で挑んでいる事の証だろう。
そして、そのコスモバルクは私に手を差し伸ばしている。
私の力が欲しいと、己の夢に手を貸せと差し伸ばしている。
そんな彼女の手を見て私は――――――
「――――アハ♪」
――――笑みが止められずにいた。
「ア、アハハッ!!ねぇコスモバルク!!分かってるその夢の意味をッ!?自分が何言っているのか分かってるのッ!?」
笑う、笑う、笑う。
嗚呼、可笑しい。実に可笑しい。
「それって要はURAに対する宣戦布告だよ!?
様々なウマ娘を見てきた。
純粋な子も、野望に満ちた子も、狂気に満ちた子も、見てきた。
だけど―――
「それを本気でやろうとしてるの!?現社会の完全否定と何ら変わらないそれをッ!?」
――純粋さも、野望も、狂気も全てを持ち合わせた子は初めて見た。
「(嗚呼、楽しい)」
これほどまでに胸を掻き狂わせてくれたのは何時ぶりだろうか。
彼女の語る夢はきっと途方もない壁がいくつも存在するだろう。それはあまりにも強固で頑丈な壁であろう。
その壁をぶち壊すのに彼女は私と言う武器が欲しくて欲しくてたまらずに、今こうして様々な手を打っている。その中に違法な手段が混じっているのも知っていた。世間にしれれば身の崩壊。そうなれば夢なんて叶えられる筈もない。まさに危険な賭け行為であるのに、それでも彼女は私を求めた。
「アハハ♪アハハハハ♪!!!!!」
これほどまでに求められた事があろうか。
幾人のウマ娘達や人に《神》の渾名を付けられ、その走りに希望をみせ、多くの人に《夢》とされた。
いつかあの人みたいに走りたいと夢見るウマ娘に。
いつかあの人みたいなウマ娘を育てたいとトレーナーに。
いつかあの人みたいなウマ娘を支えるヒトになりたいとサポーターに。
誰もが私を《夢》とした。将来はあの人みたいになりたいと言う《夢》にした。
触れてはいけない。汚してはいけない。壊してはいけない。
誰もがそんな心で私と接し、私を求める事を禁忌としていた。
偉大なるこの人を邪魔してはいけないから、と。
けど目の前の子は違う。
私を《夢》で終わらせず、私を――私自身を求めている。
その狂った純粋で野望に満ちた夢に私を熱望してる。
私の言葉を聞いても一切の迷いのない瞳で私を熱く求めている。
嗚呼、嗚呼、だったら、其処まで求めるなら―――
「―――良いよコスモバルク。やろう。その夢を叶えてあげるよ」
――私は喜んでその純粋で野望に満ちた狂気の手を取ろうではないか。
「と、こんな感じで私はコスモバルクの夢を手伝う為に帯広トレセン学園生徒になったんだよ。あ、書類上だと私同姓同名の別人扱いになってるから。其処の所宜しくね《たづなちゃん》」
「……もう何を言って良いのか分からなくなってきたわよ……」
突然のシンザンの再誕。それも帯広トレセン学園生徒としての登場に会場中が混乱とどよめきの大騒ぎの中、シンザンは幾度も自身を拳で襲い掛かってきていたたづなに懇親丁寧に説明していた。
「いやはや。しかしまさかトキノーーおっと、たづなちゃんが走りを止めてサポート系に回っているのは意外だったよ。てっきりまだ走っているか、はたまたトレーナーにでもなって鬼教官呼びされているのかのどちらかと思ってたんだけどね」
「鬼教官って何ですか鬼教官とは!!私がいつそんな呼び名をされる事しましたか!!」
「いやいや。たづなちゃんの以前を知っている身としては必然な結論かなぁっとッ!?右ストレートは止めよう!!会話中のそれは止めよう!!」
時に悲鳴交じりの会話をする二人。
だが、たづなが繰り出した次の言葉が2人の間にあった雰囲気を変える。
「それでさっき言ってたコスモバルクの夢って…本気なの?」
「うん。見事なまでに本気だよ」
コスモバルクの語る夢――それは地方と中央の平等化だ。
中央が独占している特権や優遇を地方も得られる環境を作る、それがコスモバルクの語る夢を分かりやすく纏めたものだが、その内容は文字通り現体制の完全拒否でしかない。
それは文字通り今の現体制を運営管理しているURAに対する宣戦布告でしかないのだ。
「…実際彼女の言う夢は確かに凄いです。しかし現実問題難しい話では――」
「既に地方ウマ娘管理組織の大多数とURA内部にも少数ではあるけど味方がいて、海外ウマ娘組織のいくつかを味方に引き入れる――って聞いたらどう?」
「…マジですか?」
「マジマジ。あの娘本気でやる気だよ。まあ、だからこそ私も協力する気になったんだけどね。あの娘、今は大人しくしてるけど近い内に大きな爆弾爆発させるよ。その時が楽しみだよ」
はぁと思わずたづなはため息を漏らす。
久しぶりに会う親友。その親友の瞳がキラキラと輝いている状態で今の言葉だ。
きっと彼女は本気で何があってもコスモバルクの力になる為に動くだろう。
それを止めるのは、私の言葉では絶対に無理だ。
だからこそ、それについては諦める。だが――――
「それで?貴女が今回のイベントに参加した理由は?」
そう、今この会場に居る全ての人が気になる理由をたづなは問うた。
「《死んでいたとされていたシンザンが実際は生きていた》なんて衝撃ニュースを公開する舞台にしては、ハッキリ言って今回の交流会はお門違いでは?貴女ならもっと大きな――それこそG1に偽名使って参加して実はシンザンでした!みたいな感じが好みだったと思っていましたけど?」
「……んー、正直言うと本当はそっちが良いんだけどね。私だって知らずに挑んでくる娘達がどんな走りを見せてくれるのかが実に楽しみだったんだけど……ま、今回は仕方ないよ」
「……?仕方ない?」
「うん。仕方ない。だって―――」
シンザンは笑う。
たづなが――いや、かつて別の名を使って共に大地を駆けていた頃の懐かしくて、そして良く覚えがあるあの顔で。
「こうしないと注目されないでしょ?中央が所詮は格下だと見下ろしていた地方チーム相手にぼろ負けする光景を世界に見せる為には、ね♡」
愛らしくも憎らしい、あの顔で、笑っていた。