スペ「すぺしゃるうぃーく、さんさいです」   作:にゃるまる

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第9話

 

《――です。それでは次のニュースです。数日前に発生した台風の影響でアメリカ国内の天候は大荒れ状態となっております。これにより多くのレースやイベントが中止となっており、期待していた市民からは不満の声が出ており―――》

 

テレビから聴こえるニュースに耳を傾けながら、タマモクロスは手際よく準備を進めていた。

部屋の中心に置かれているのは熱々に温められた鉄板。その周囲には小麦粉を中心に海鮮類や肉類、野菜や麺が用意されており、部屋の隅にあるコンセント付近にはこの日の為に食堂から借りてきた複数の炊飯器が出来立てのご飯を次々と生み出している。どれもこれも全て大量に用意されており、恐らくこの光景を知らない人が見れば今から数十人単位でのパーティーが行われるのではないかと思うだろうが……そうではない。

 

「……足りるやろか?」

 

目の前にそびえる大量の食材。

どう見ても多すぎるそれを前にタマモクロスはそう呟く。

この量を前にしてその言葉は可笑しいだろうと聞いた人は思うだろうが、それは《彼女達》を知らないから言えるのだ。

もうすぐこの部屋に訪れる面々。その中に居る2人の存在、それがタマモクロスを不安にさせていた。

もう少し足しておいた方がええかもしれないと思ったが、時すでに遅し。

 

「たーまー!!」

「タマ来たぞ」

 

部屋の入り口を勢い良く開けて入ってきた2人とその後ろに続く面々を見て、タマモクロスは静かに覚悟を決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

事の発端はスーパークリークからの相談だった。

あのレースから二日が経った頃、昼食を食べていたタマモクロスに相談があるとスーパークリークが切り出してきたのだ。彼女から相談とは珍しいと思いつつ、友人としてなんでも応えてやろと話を聞いたのだが、その相談内容と言うのがスペシャルウィークの事だった。

 

スーパークリーク曰く、どうもこの二日の間スペシャルウィークがあまり食事を摂らないらしい。

《あの》スペシャルウィークが、だ。

最初は偶々食欲が湧かなかったからと判断してきたが、それが二日も続くと流石に可笑しいと考えた保護者ズ(スパグラ)は本人に問い詰めてみる事にしたのだが、その際の返答と言うのが……

 

《…たまとやくそくしてるから…》

 

「……あー…」

 

それを聞いた瞬間、しまったと表情を歪める。

約束、それがレースの時にしたお好み焼きを食べさせてあげると言う物だと即座に理解したからだ。

恐らくスペシャルウィークはその約束を律義に覚えており、何時でもお好み焼きを食べれる様にと意図的に少食にしてお腹を空かせているのだ。タマモクロスとの約束を守る為に。

 

タマモクロスとて約束を忘れていたわけではないし、それを違えるつもりも一切なかった。

だが彼女は近日開催されるレースに出走予定で練習も仕上げの時期に入ってしまっている。

なので必然的にそちらに時間が取られてしまい、今日もその影響で遅めの昼食になってしまっている程だ。

それ故にどうしても約束を守る時間を作る事が出来ず、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

このレースが終わったら約束を果たそう、そう決めていたのだが……

 

「…それはあかんなぁ」

 

意図的な食事の我慢、それは決して良い結果をもたらさない。

現に練習(という名前の遊びの時間)でもどうも彼女は元気がないらしく、練習の最中でも小さくお腹を鳴らしては恥ずかしさのあまりに泣き出しそうになる始末との事。

 

それを聴いたタマモクロスは考える。

練習は仕上げの時期とは言え、無理をすれば多少の時間は作れる。

しかし無理をすれば必然的に身体に負担が掛かるのは避けられない。

この程度の負担ならば何ともないとは思うが、自分の勝手で予定にはない負担をしてしまう…それはレースに向けてスケジュールを作ってくれたトレーナーの意思を…2人で一緒に頂点を目指すと誓った彼の想いを無下にしてしまう事だ。彼が一生懸命タマモクロスの為に色々としてくれている事を知っている。

だからこそその想いを裏切りたくは無かった。

どうしたもんか…そう悩んでいると――

 

 

「悩む必要はないわよ!!タマ!!」

「ッ!!?その声は…トレーナー!?」

 

 

食堂の扉を勢い良く開け放ち、中に入ってきたのは綺麗に化粧をした1人の男性。

程よく鍛えられた筋肉が身に纏う女物の衣服の上からでもハッキリと確認できる彼は堂々とした足取りで2人が座っていた席の隣に優雅に腰掛ける。

その動きに無駄は無く、まるで貴族の令嬢の様なしとやかな動きに2人は思わずくぎ付けになってしまう程だ。

 

「話はすべて聞かせてもらったわタマ!!悩む必要なんてないわよ!!貴女は貴女がやりたい事をなさい!!その為ならアタシも全力で協力させてもらうわ!!」

「け、けど…」

「けどもくそもオカマもないわ!!良いタマ…確かにアタシは貴女に頂点を取って貰いたいわ。その為ならアタシは全てを投げ出して応援する覚悟だってある。なんなら残された○○○だって切り落とす覚悟もあるわ…けどねタマ、私が貴女になってほしい頂点は孤独な王様じゃないの。多くの人に支えられて、多くの人に愛されて、そして多くの人を笑顔にする。そんな頂点になってほしいのよ!!だからタマ…貴女は貴女が思うままにやりなさい。大丈夫、貴女は優しい子だもの。貴女の思うがままにやった先にアタシが成ってほしいと願っている頂点の姿があるって信じてるから♡」

「と、トレーナー……分かったで!!トレーナーの想いしっかりと受け取った!!トレーナーの目指すてっぺん!!一緒に取りに行こうで!!」

「そう…そうよタマ!!貴女に悩んでいる姿は似合わないわ!!貴女は貴女が思う通りに進みなさい!!その為の努力ならアタシは一切惜しまないわ!!」

「トレーナーぁぁぁぁぁ!!!!」

「タマぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

涙を流しながら熱い抱擁を交わす2人を見たスーパークリークは共感する様に涙を流し、その姿を偶然目撃していたエルコンドルパサーは思った。

 

私は何を見せられているのデスか、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで無事タマモクロスの多少の無理と彼女のトレーナーによる時間調節の結果、無事に開催される事になったお好み焼きパーティー。

参加するのは主賓のスペシャルウィークを始めスピカの面々、保護者ズ、そしてスペシャルウィークと仲の良いウマ娘達も参加する事になり、中々の大所帯での開催となった。

これは急がんといけんなとトレーナーに協力してもらって食材を準備している時に――《それ》は届いた。

 

《オグリキャップ参加》の知らせが。

 

あかん。そう思ったタマモクロスは持ち前の脚ですぐさま食堂へと駆け込み食料を大量に分けて貰った。

それでも不安だと近隣の開いていた店へと駆け込み、これまた大量に購入。

結果的に寮の部屋では入りきれない程となった食料をスピカに頼み込んで部室を使わせてもらい、其処に運び込んで準備を進めていき、そして今―――

 

「おいしー!!」

「そんなに急いで食べなくても大丈夫ですよスぺちゃん。ほらお口にたくさん付けて…拭いてあげますからお口を此方に――」

「はーいスぺちゃん!お口を綺麗にしましょうねー!ほらお姉さんの方を向いてね~」

「……クリーク先輩?今日のスぺちゃん当番は私の筈ですが?」

「あら~?そうだったかしら~?」

「ええそうですよ~ふふふ」

「あらあら~ふふふ」

 

「…なあスカーレット!席替わってくれよ!隣怖ぇんだけど!!」

「……………(無言のまま目を逸らす)」

「なあ!おい!無視すんなよスカーレット!!」

「……悪いわねウオッカ、貴女の犠牲は忘れないわ」

「何勝手に犠牲にしようとしてんだよ!!」

 

「はぁ…もう少し静かに食べられないのです――!?辛ッ!!なんですのこのお好み焼き!?ものすごく辛いですわよ!!?」

「――へへへ(手にタバスコ)」

「ッ!!ゴールドシップ!!貴女なにをしたのか白状なさい!!」

「おいおいマックイーン、証拠もなく人を疑うのは流石にどうかとおもう――」

「あい!(タバスコ奪取)」

「ちょまッ!?」

「――ありがとうスペシャルウィーク。そう…(証拠ゲット)それで?今さっき何を言おうとしてましたの?ゴールドシップ?」

「あ…あはは………悪い!!アタシ急用が「ニガサナイデスワ」ちょ!?は、離し――ぁ、アアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」

 

「…美味しい(20枚目)」

 

大鷺の面々を前にしながらタマモクロスは乾いた笑みを浮かべる。

大量に用意しておいた食料、それも残すは後僅かとなっていた。

やはり食べるのはスペシャルウィークとオグリキャップの2人で、特にスペシャルウィークはこのパーティーを待ちに待ち望んでいたせいもあってかかなり食べている。オグリキャップも食べ進んでいるが、総計すればスペシャルウィークの方が食べている程だ。

やはり足りなかったかもしれへん、そう思うと自然と乾いた笑みが出てくるが、不思議と悪い気持ちにはならなかった。

 

「どう?楽しんでるかしらタマ?」

 

そう思っていると部室の外で材料を刻んでいてくれていたトレーナー(ハート形エプロン装備)が中に入ってきてそう問いかけて来る。

 

「当然や。すまんなトレーナーにも働かせてもうて」

「良いのよ♡トレーナーが担当ウマ娘の為に頑張るのは当然の事じゃないの♡」

 

そっかと2人で向き合うと静かに笑いあう。

目の前で広がる楽し気な光景を前に、静かに笑いそして理解する。

 

「…ウチな、まだトレーナーの言う理想のてっぺんってもんが完璧には理解しきれてへんねん。けど…この光景見とるとな、なんとなーくやけど分かった気がするんや。嗚呼これがトレーナーの求めるもんなんかなぁーって」

「……ええそうよ。確かに貴女の実力なら頂点を取るだけなら簡単…とまではいかなくても難しくはないわ。厳しい練習、そして多くのレースで勝ち続けて名を馳せる。それを繰り返せば貴女はまず間違いなく頂点を取れるわ。まずは日本の頂点を、そして次は世界の頂点を貴女は取れる。それはアタシが保障するわ。けどそれだけじゃダメなの。孤高の王に訪れる結末なんてどれも悲惨な物ばかり。きっとその結末は貴女を不幸にしてしまうわ。だからこそ…アタシは貴方に愛される王になってほしいの。自分を愛するだけじゃない、他の人にも愛を向けられるそんな王様(頂点)に……」

 

「…なあトレーナー」

「なにかしら?」

「…ウチ、なれるかな?そんな王様(てっぺん)に」

「なれるわ。アタシが保障してあげる。なんならアタシの○○○を捧げても良いわよ」

「アハハ…それはいらへんわ…」

「あらそう?」

 

 

「トレーナー」

「ん?」

「なるで絶対に。2人で」

「…ええ。それでこそアタシのウマ娘よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パーティーは数時間に渡って続いた。

食材はタマモクロスが危惧していた通り足りなくなり、スピカのトレーナーとタマモクロスのトレーナー、そしてスーパークリークのトレーナーが近所の店へ出向いて追加の食材を買い足していき、なんとか無事に全員の腹を満たす事に成功した。

 

「「「「ごちそうさまでした」」」」

「おそまつさん!たのしんでもろうて良かったわ!」

「ええ、本当に楽しんでもらえて良かったわ♡これからもウチのタマとよろしくしてあげてねん♡」

「誰がウチのタマやねん!!」

「あらいやん」

 

見事なノリツッコミを決める2人にみんなが笑う中、不意にスペシャルウィークが近くに居たトウカイテイオーの裾を引っ張る。

どうしたのだろうか?と声を掛けてみると、どうもトイレらしい。

グラスワンダーとスーパークリークは片づけを手伝っているので此方に来れないから言い出せなかったのだと気付いたトウカイテイオーは仕方ないなぁと手を握ってあげながら一度部室を後にしてトイレへと案内する。1人で出来るかな?と不安に思ったがそれは杞憂でスペシャルウィークはササっとトイレへと駆け込んでいった。

 

「流石に心配し過ぎたかなぁ」

 

そう呟きながらトイレから出てくるのを待とうとしたが、ふと自分も尿意を感じた。

どうせだししておこう、と自身も中へと入り便座に腰を下ろす――と同時に隣の扉が開き、中からスペシャルウィークが出て行ったのが分かった。

 

「――ッ!?スぺちゃん!!?」

 

しまった、そう思って名を呼んでみるが時すでに遅く、外へと出て行ったスペシャルウィークがそのまま何処かへと去って行く足音が聞こえた。

マズイと急いで外へと飛び出してみたが、その姿は――何処にもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ふぅ」

 

随分と予定していた時間よりも遅くなってしまったとサイレンススズカは思った。

アメリカ国内で発生した台風の影響により中止となったレース。

当初は延期だったのだが、台風に備えての対策中に施設面での不具合が発見され、天候が回復次第修復となってしまったので中止となったのだ。

それを含めてそこそこの長期間で予定が無くなってしまったスズカはいつも通りに鍛錬に勤しもうかと考えたが、どうせ長期間の休みならば一度帰国するのも悪くないと考え、こうして帰ってきたのだ。

当然連絡しようと思ったが、その時少しだけ悪戯心が芽生えて――

 

「…驚くかなスぺちゃん」

 

――誰にも知らせずに帰って思いっきり驚かしてみよう、と考えたのだ。

しかし天候状態の問題で帰国が少し遅れてしまい、そして久しぶりの日本で僅かに戸惑ってしまったと言うのもあってか、予定していた時間よりは帰るのが遅くなってしまった。

けれど、と前を見上げればそこには懐かしいトレセン学園が見える。

あそこにスぺちゃんや皆が居る、そう思うとウキウキと気持ちが高まり、疲れを感じていた足も軽くなる。

 

「~~♪」

 

鼻歌交じりに上機嫌となったスズカはその脚で学園内へと足を進める。

この時間ならまだ部室に居る筈だと向かおうとして――

 

「―――あ」

 

――その姿を見つけた。

スズカにとって親友であり、ライバルでもあるウマ娘を。

彼女の存在があったからこそアメリカでの生活も頑張る事が出来たと思える愛しい友人の姿を。

 

その友人の下へと向かいながら思う。

まず何を話そうかと。きっとビックリするだろうからその反応をからかうのも良いかもしれないと。アメリカで出会ったたくさんのウマ娘の事や、向こうでのレースの事を話そうと。その後に日本での事をいっぱい話してもらおうと。そう思いながら――

 

「スぺちゃん!!」

 

その名を呼ぶ。

愛しい親友の名を、競い合うライバルの名を、絶対に忘れる事のない名前を。

その名前を呼んだ相手が振り返る。別れた時と何も変わらないままの笑みを浮かべながら――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んぅ?……だーれー?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「スぺちゃんー!スぺちゃんー!!もう何処に……って…あれ?あれれれ?え…嘘!?もしかして…やっぱりスズカ!?スズカだぁぁ!!え!?ちょ!?ええ!!?い、いつ帰ってきてたのさ!?ボク全く聞いてないんだけど!!?うわぁうわぁうわぁ!!ほんっとうに久しぶりだねスズカ!!!!元気だった!?無理してない!?アメリカでの生活どうなの!?てかいつ帰ってきてたのさ!!あー!!もしかしてドッキリにしようとしてたなぁー!スズカもおちゃめな所あるじゃん!!このこのぉ!!…あ!!そうだった!!あのねスズカ、実は大事な話が……って、どうしたのさスズカ?さっきからずっと静かだけど…?……?おーいスズカ?スーズーカー?ねえどうした―――――――――し、死んでる!?」




王大人「死亡確認!」
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