【急募】女の子から変化した武器の手入れの方法【戻して】 作:ぴんころ
ミニオンを片手間に薙ぎ倒し黄金の粒子に変えながら、逢夢が思い出しているのは今から少し後に行われるはずだった、もう二度と行われることのない一度目のイャガとの戦いだった。
今やミニオンには意識を向ける価値もない。それがエターナルミニオンであろうと何だろうと、彼にとっては等しく雑兵。
己が永遠神剣の銘を知った彼は未熟なまま、されど出力という一点では他のエターナルを圧倒している。
それこそ、ミニオン程度では何をしようと彼に傷をつけられぬほどに。
永遠神剣の位階差による戦闘能力の違いが、それこそ神剣使いと一般人程に隔絶してしまった光景がここにはあった。
故に、考えるべきは彼を傷つけられるイャガについてだけでいい。
花を手折るように首の骨をねじ切りながら、ミニオンだったマナを吸い尽くす。
それを繰り返し、自らの相棒が保有する量とは比べることすら烏滸がましい程度のマナを吸収していると、彼の視界に目的地である山が鮮明に見えてくる。
「さて、と」
だから、そこで一旦足を止めた。
ここから先に進めば、きっとすぐにバレてしまうだろう。止まる余裕なんて存在しない。
いつものように、これまでとはまるで違う存在感を宿す鞘へと視線を向ける。
「ユーフィー、準備はできてる?」
『はい、もちろんです! おにーさんの方こそ、準備はいいんですか』
「ダメかもしれない」
『ええっ!?』
「いや、ほら。なんかめっちゃ強くなってるけど、どれくらい強くなったのかよくわからないし、わかってるのは今まで以上に動けるってことだけだから。それをぶっつけ本番で試すって考えるとちょっと怖くなってきた」
『もーっ! 大丈夫です。そのためにあたしはきっといるんですから』
「そうかなぁ……いや、そうかも」
彼にできない部分をユーフォリアが動かして戦闘を成り立たせる。それが彼らの基本形。
今までは思うように体がついて来なくてユーフォリアが動かしていたが、今回は思っていた以上に体が動き過ぎてしまうから彼女に任せる。
戦闘能力自体は変わったけれどやることは何も変わっていない。
「うん、それなら気持ちは楽だ。いつも通り、任せてもいいかな」
『はいっ』
その事実に安心しながら、ユーフォリアの強化に伴い向上したマナの知覚能力を行使すれば、今までは捉えることができなかった箇所からイャガの気配を感じ取れる。
少女の肯定に肩の力を抜き、次の瞬間、一気に肉体の強化を全身全霊で掛け直す。
爆発する身体能力。この距離ならば車で、あるいは四位の永遠神剣と契約した神剣使いが一時間もあれば十分到達できる距離。
それを、ただの一歩で詰めにかかる。
地より空に向けて飛ぶ流星となった逢夢の着弾地点は、当然イャガの反応が存在する場所。
ユーフォリアのマナ操作により作った足場で向きに補正をかけて、逐一方向を調整しながら、空間そのものをただの踏み込みで粉砕して突き進む。
それが始まりの合図。
最初の一手は、今のイャガが知ることのできない、一度目の意趣返しのような奇襲による一撃。
超超遠距離からソニックブームを撒き散らしながら砲弾のように迫る逢夢。
エターナルとしても類を見ないマナの爆発により強化を施された身体能力に、イャガが気づいた次の瞬間にはもう瞬きする時間すら残されていなかった。
だから、それは半ば奇跡のような産物であり、同時に彼女にとっては当然のこと。
「くぅ──っ!」
もはや条件反射の域に達した永遠神剣の呼び出し。
差し込まれた短刀『赦し』が彼女を撃滅する一撃を防ぎ、けれど衝撃までは殺せない。
あらゆる苦難を受け入れるイャガだからこそ、一度目は浮かべることのなかった苦悶の顔。
吹き飛ぶ彼女にそれを見た逢夢は追いかけることはせず、開いた距離でイャガに襲撃者としての面を見せる。
「こんばんは、お隣さん。今日はいい夜ですね」
「ええ、こんばんは。まさかあなたからこんなことをしてくるなんて」
突然の襲撃者、それもつい少し前までは彼女の正体に気づいていなかった逢夢がその正体であることに驚いた様子の最後の聖母。
けれど、これも幾年月の経験の賜物か。すぐに驚きは消え、いつも通り聖母の微笑みが表情に浮かぶ。
「確か明日は学園祭と言っていなかったかしら? それなのに夜に出歩くなんて悪い子ね」
「あはは……そっちが動かないでくれるなら俺も夜に出歩く必要なんてないんですけど」
「あら、それ以外にもあると思うわ。私に食べられることを選んでしまえば歩く必要なんてないと思うのは間違いかしら?」
「それは俺が受け入れられることじゃないですね」
お互い、手にした武器へとマナを通し始める。
放たれる圧力は鞘の方が上。短刀は確かに一歩存在感では劣っているが、それは別に世界からしてみれば関係のないこと。
その気配がぶつかる前から空間は悲鳴をあげ、激突した箇所に至ってはもはや
「ああ、そういえば」
口を開いたのはイャガ。
彼女は戦場にありながら、いつもと何も変わらぬ様子で一つ、問いかけを口にした。
「あなたの名前、聞いたことがなかったわね」
「それを言ったら、俺だってあなたの名前を聞いたのは別の人からですよ」
「なら、最後に自己紹介?」
その言葉と同時に、圧力が最大限に高まった。
瞬間、世界に満ちるのは静寂。高まりすぎた力はもはや誰かが感知できる程度の次元にはなく、世界の悲鳴も消し飛んだ。
「永遠神剣第二位、『赦し』の契約者。”最後の聖母”イャガ」
「永遠神剣”鞘”、『調律』の契約者。調律のアム」
その声を邪魔するものは何もない。
名乗りは済んだ。武器も構えた。もう止まる必要は消し飛んだ。
では、いざ殺し合おう。
その決意とともに、逢夢は剣を抜き放つ。
右手に刀、左手に鞘の変則二刀流。
それが、彼の鞘の使い方だった。
エターナルは、その本来の戦闘能力を発揮することは少ない。
様々な要因によってその本気を出すことは許されず、だからこそ制限の中でそれに即した戦い方を身につけている。
そういう意味では、この二人の戦いは異常なほどに本来の戦闘能力に近かった。
「吹っ飛べっ!」
逢夢が初手で解き放ったのはオーラでできた無数の散弾。
その一発にすらマナが欠乏した世界一つを10年は賄える程度のマナが込められていて、撃った本人すらちょっと引いている。
それを前にイャガのとった行動はゆるりと短刀で横に線を滑らせただけ。けれどそれだけで空間は開かれ、繋がれた先は彼女の中に存在する胃界とでも呼ぶべき世界。
殺意にみなぎるマナを平らげ、半ばショートした胃界から伝わる
「あなたがくれたマナの分、しっかりこちらもお返しさせてもらうわ」
彼女の中でスパークする大量のマナを燃料に、生みだした光は過去最多。
一切の逃げ場を奪うように包囲するその赤光に、逢夢がとった行動はその場で刀の切っ先を向ける、たったそれだけ。
それだけの行動で、透き通るような空色の刀身にマナが満ち、周囲を埋め尽くした『痛み』が何もなかったかのように霧散する。
「あら?」
「そんなもの、今の名前を取り戻したユーフィーに効くかっ!」
それを成すに当たって、最も大きな比率を占めているのが、ユーフォリアが永遠神剣としての名を取り戻したということ。
より正確に言うのならば、この世界には名前に関するルールが存在するという事実が、名前を取り戻したという事象と噛み合ったのが理由。
世界の中で生まれた神剣使いには、神々という
世界の外からやってきたエターナルには、
ゆえにこそ、永遠神剣の銘という力ある名前を与えられたことで、それにふさわしい出力を今現在ユーフォリアは発揮することを許されていた。
「どうしてそんなに苦しもうとするの?」
それが、イャガには意味不明だった。
自らに全てを委ねれば、これ以上の苦しみを与えないというのに。
与える痛みは死の瞬間に恐怖を感じさせないため。食らうというのも、それ以上相手が自らの犯す罪に苦しまないようにするため。
だから、自分が与える赦しを拒むというのは、自分から苦しもうとしているようにしか見えない。
「あなたたちの終わりはここにあるんだから。ちゃんと、全ての罪を赦されて行きなさい」
「悪いけど、あんたのいうところの罪はまだまだこれからもある予定なんでね。ここで赦されても意味がない」
赦す存在を拒む『禁句』を口にしながら、迫るマナを消失させて突っ込んでいく。
イャガも神剣魔法が次々と無効化されるのを視認して、一度目と同じように短刀へとマナを収束させる。
それは、ある意味一番の正答。永遠神剣の能力ではなく技量で戦うというのは、ユーフォリアの能力でもどうしようもないもの。
そして、イャガには空間跳躍がある以上、避ける時間を与えてしまう遠距離攻撃というのは逢夢としても好ましくはない。
結局、二人とも肉体にオーラフォトンを這わせながら、永遠神剣という武器を用いた剣術に回帰している。
短刀と空色の刀がぶつかって火花を散らし、一瞬で空色が押し切った。位階差による身体能力の差は、もう覆せないほどに明白。
(ユーフィー、一気に決めにいくよ!)
『はいっ! 任せてください!』
オーラフォトンを光弾の形に練り上げながら、肉体の操作を放棄。
一瞬の脱力を無造作に狙うイャガの一撃は、即座に切り替わったユーフォリアが迎撃する。
そのまま射出された弾丸を、彼女は尋常な手段では躱せない。
空間を開くには短刀を振るう一工程が必ず必要であり、それも空色の刀身と打ち合う今は使用不可。
ならばと空間跳躍は能力を封じるユーフォリアの力が邪魔をする。
ゆえに、ただの神剣使いのように障壁となる魔法陣を展開。
身に纏う聖衣の形に編んだ精霊光が刀傷を軽減。痛みを無視しながら放ったオーラフォトンを逢夢が迎撃している間に距離を取る。
そして、戦場には似つかわしくないほどに、突如として戦闘の雰囲気が聖母から霧散した。
「……一応聞くけど、諦めて出て行ってくれたりするつもりになったんですか?」
「そんな聞き方をするってことは、そう思ってないんじゃないかしら」
そして、当然彼女が去るはずもない。
言葉とともに雰囲気に怪しいものが混じり始める。
「一応と思って用意しておいた切り札が、こんな形で役に立つなんてね」
もしも、これがただのエターナルだったなら、彼らもそれが何かをすぐに気づいたかもしれない。
本能が忌避し、怖気が走り、その力から離れようとする。
けれど現実にはここにいるエターナルは鞘の属性の神剣を持つエターナル。
「……! あんた、それをどこでっ」
「さあ、どこでもいいんじゃないかしら。ここであなたは死ぬのだし。ああ、でも、せっかくだから私が制御したナルの力をちゃんと味わってね」
だから、彼女がナルを使用しても、その事実に気がつくのに一拍遅れることになった。
「破壊と禁理の源よ……全てを犯せ」
そして、その一拍があれば神剣魔法の一つは使用が可能。
これまで燃料としていたマナと相克する力を凝縮させ、彼女は神剣魔法の起爆剤と変える。
発動する魔法の威力は同じであれど、内包する脅威度は比べ物にならない。
「そして、原初に!」
世界一つをまるごと『焦土』へと書き換えてしまうような一撃が、ナル存在となったイャガより放たれた。