ほぼ自己満足な短編集ですが、それでも読んでいただけたらと思います。
(雨、降ってきたなぁ)
帰りのHRが終わり、帰宅の準備をしながら教室の窓の外を見つめる
夕方、雨が降る事を天気予報で知っていたシンジは傘をちゃんと持ってきている。もちろん洗濯物もベランダには出さずに室内干しだ。
「ほんじゃなーっ、シンジ!」
「気をつけて帰れよー」
「うん、また来週」
今日の日直当番である友達の
(あれ……綾波?)
昇降口の屋根下にショートカットの水色の髪とアルビノの様な色白な肌が目立つ少女が立っていた。
──────
自分の父であり、NERV最高司令官である碇ゲンドウと笑って話していたり、第6の使徒を撃破した後、嬉しいという気持ちを抱き自分に笑顔を見せてくれた事を。
「綾波、どうしたの?」
「……碇君」
シンジに名前を呼ばれ、振り向いたレイの手に鞄しか握られてない事を見て彼は察する。どうして彼女がこの場から動かなかったのかを。
「もしかして傘、持ってないの?」
「ええ」
雨は先程よりも強くなってきている。仮に強さが変わらなくても学校からレイが住むアパートまで傘なしのまま向かえば、ずぶ濡れになる事は間違いないとシンジは考えた。雨が強くなった現状では尚更である。
「その、家まで送っていこうか?」
「……いい。濡れても、平気だから」
レイがそう言い、雨の中に一歩を踏み出そうとした瞬間にシンジは咄嗟に彼女の頭の上に傘を差した。足を止めて真上に広がる黒い傘を見つめ、その持ち主であるシンジに視線を移すレイ。
「…………」
「ぬ、濡れて風邪でも引いたらみんな心配するからさ」
「……碇君も?」
「うん」
それからレイが少しの間を空けてから小さく頷いたのを見て、シンジはレイと一緒の傘に入って学校を出た。
(じ、自分から誘ってなんだけど……これって相合傘ってやつだよな……)
一本の傘に二人で入り、シンジが車道側に立って歩道を歩いていく。雨は強さこそ変わらないが弱まる気配もなく、アパートまでずっこのままなのかな、と顔を固くして緊張するシンジ。その隣でレイは無表情のまま、シンジに顔を向ける。その視線に気付いたシンジは何故かじっと見られてる事に恥ずかしくなり、理由を尋ねる事に決めた。
「な、何かな……?」
「碇君、肩が濡れてるわ」
「えっ?……あ、本当だ」
レイに指摘され、彼女がいる側とは反対の肩を見ると確かにシンジの肩が少し濡れていた。緊張のし過ぎなどで気付かなかったシンジにレイは教えようとしていたのである。
「…………」
「あ、綾波!?」
突然シンジに近付き、僅かに開いていた距離を埋めるレイ。その行動にシンジが驚いているのとは逆に、レイは無表情のままシンジと密着しながら歩いていく。
「あ、あの、綾波……?」
「……?なに?」
「く、くっつきすぎじゃないかな……?」
「……これなら碇君が濡れずに済むから」
「えっ?……あっ」
(そっか、だから綾波は僕に……)
実際、レイがシンジとの距離を詰めた事で傘がシンジ側に少し移動する形になり、肩が濡れる事はなくなったのである。説明不足ではあったものの、レイなりに自分の事を考えての行動だったと知り、その気持ちをシンジは嬉しく思っていた。
ただ、しかし。
(は、恥ずかしいっ……!)
レイと密着しているシンジは彼女の女性特有の体の柔らかさを服越しとはいえ感じる事となり、赤面していた。
雨のせいで人通りが少ないとはいえ、この状況を見た通行人がどう思うのか、二人の関係をどう解釈するのかと考え出すと、シンジはまともにレイと会話する事が出来なかった。
「あっ……雨、止んだね……」
レイのアパートに着く前に雨は弱まり、そしてしばらくしてから雲の間から太陽が顔を出してきた。今いる場所はシンジが住むマンションから近く、それを知るレイは傘を閉じるシンジに声を掛けた。
「碇君……ここまででいい」
「えっ?」
「雨、止んだから……それにここは碇君の家の近く……」
「そ……そうだよね。これ以上、僕が一緒に帰る必要、ないもんね……」
「……?」
(なに、この気持ち……?)
出来ればレイの家まで一緒に帰りたかったと思っていたシンジは、レイから別れを告げられた事で落ち込んでしまっていた。レイ自身もこれ以上自分に付き合わせるのは悪いと思っての発言だったのだが、自分で言ったにも関わらず後悔しているような気持ちを抱いていた。しかしこの気持ちに名前を付ける事も出来ず、ましてや言葉にしてシンジに伝える事もレイには出来なかった。
「碇く──────」
ザッパーン!!
「うわっ!?」
「っ……!」
大型トラックが道路脇にあった大きな水溜まりを跳ね、その水がシンジ達に降り注いだ。道路側にいたシンジは頭から靴までびっしょりと、レイもシンジの背後にいたとはいえこちらも無事とは言えない程には濡れてしまっていた。
「あ、綾波、大丈夫!?た、確か鞄に……ほ、ほら、タオル使って!」
「私は大丈夫……碇君の方が濡れてるわ……」
「ぼ、僕だって大丈夫だよ!それにほら、タオルはもう一枚あるから!」
「そう……ありがとう」
シンジが鞄から出したタオルを受け取り、顔を拭くレイ。同じく顔や髪を拭くシンジを見ながら、彼が強がっているのはレイでもすぐに分かった。顔の他に制服が透ける程度には濡れてしまった自身と違い、シンジは上から下までずぶ濡れなのである。おそらく下着も濡れてしまっているだろう。にも関わらず、真っ先にレイの事を心配したのだ。
(碇君、優しい……嬉しい……ポカポカする……)
「綾波、とりあえずウチに来なよ。そのまま家に帰ったら本当に風邪引いちゃ────っ!?」
「碇君……どうしたの?」
「ご、ごご、ごめん綾波!!」
「……?どうして謝るの?」
(な、何でってそりゃ……!)
「せ、制服が透けて……そ、その……し、した、ぎ、が……」
「……?」
最後は声が小さくなった赤面のシンジに指摘され、レイは顔を下に向けて制服を見る。先程の水しぶきで制服が透け、その下に着ている飾り気のない下着が見えてしまっているのだ。だがレイはそれが何故シンジが自分から顔を背ける事に繋がるのかが分からない。
(あの時と、似てる……)
少し前にシンジがNERVの新しいIDカードを渡す為に初めてレイの部屋を訪れた時も、お風呂上がりで裸だった自分を見てシンジが慌てていた事をレイはふと思い出した。
(……何故?裸を見ただけなのに。今も下着が透けて見えてるだけなのに)
「は、早く行こう綾波!」
雨が上がって出てくる人も増えてくるとなれば、レイの今の状態を見られるのは非常にまずい。レイにその危機感がなくともシンジにはしっかりとあった。
傘を持つ手とは逆の手でレイの手を握り、走り出すシンジ。一瞬転びそうになるも体勢を立て直したレイはシンジに何かを言うわけでもなく、自身と繋がっている手を見つめていた。
(碇君の手、冷たい……だけどポカポカする……)
突然シンジが走り出した意味をレイは理解できていないが、意図せず彼と手が繋がった事に頬を僅かに赤く染めていた。
「はっくしゅんっ!」
「碇君……大丈夫?」
「う、うん……大丈夫だよ、綾波」
シンジの第3新東京での居候先であるミサトの家に上がり、すぐお風呂のボイラーを入れる。本当はお風呂を沸かしたい所だが、この際シャワーを浴びた方が早く温まれるとシンジは考える。
「綾波、先に……」
「……だめ。碇君が先に浴びて」
「ほ、ほら。僕は男だからそう簡単に風邪なんて引かないよ」
「…………」
(うっ……こんな綾波、初めて見たな……)
レイの特徴である赤い双眼がシンジをジッと見つめる。それはレイの確固たる強い意思のように思えた。これは多分、何を言ってもだめだな、と。
「……わ、分かったよ。それじゃ先に僕が浴びてくるから……なるべく早く出てくるようにするよ。綾波は椅子に座って待ってて」
「ええ。いってらっしゃい」
「綾波、お待たせ」
シャワーを浴びて部屋着に着替え、リビングに戻ってきたシンジはレイに声を掛ける。そのレイはシンジに言われた通り、椅子に座って待っていた。
「シャワー浴びても大丈夫だよ」
「……うん」
返事をしたレイが立ち上がった所で、シンジはある重要な事を思い出した。
「あっ!?そうだ、綾波の着替えがないじゃないか……!」
ミサトさんの服は……と考えたシンジだが、勝手に部屋の中に入るのも、無断で服を貸すのもまずいと思い、断念する。そもそもレイとミサトでは服の大きさが違う。特に上が。更に言えば下着も。
「ど、どうしようか……?」
(綾波が風呂場にいる間に家に着替えを取りに行く?いや、そんな長い時間綾波を風呂場にいさせるのも悪いし、それか僕が代わりの服を買いに……む、無理無理無理!)
女性服や下着を買うなど店員や他のお客に怪しまれるか、最悪警察に不審者として通報されるのがオチである。シンジがあれもだめだ、これもためだと唸っているとレイがスッと手を上げた。
「碇君……私、着替えなくても……平気、だから……」
「っ……だ、だめだよ!また濡れた制服を着るなんて……綾波、僕の服でも大丈夫、かな……?」
「……碇君の?」
「う、うん」
考えの末に出したのは自分の服をレイに貸すというもの。下着は当然ないが、自身と身長がそんなに変わらず、細身なレイなら服だけは着れると思ったのだ。
「そ、その……肌の上から直に着る事になっちゃうけど……」
「……大丈夫。濡れてるのは、制服だけだから……」
「あ……そ、そうなの……?」
何だ、と思い拍子抜けするシンジ。下着を着せずにそのまま自分の服を着させる事に躊躇いがあったものの、レイからの返答でひとまず安心する。
「じゃ、じゃあ僕は服を持っていくから。綾波は先に入っててよ」
「分かったわ……」
自分の部屋にレイが着る服を探しに行こうとするシンジ。だが後ろで『パチンッ』という何かを外す音、そして床に『パサッ』と布切れのような物が落ちた音を耳にして立ち止まる。
嫌な予感がする。しかし何が起こったのか確認しようと、それを建前にしつつシンジは己の本能に従いながら後ろを恐る恐る振り返った。
「……なに?」
シンジの目の前ではレイが白いブラウスのボタンを外している途中だった。真下にはつい先程の音の原因と思われる青いスカートが落ちており、そこから視線を上げれば上の下着と同じく飾り気のないパン──────
「あ、ああ、綾波ぃ!?なっ、何してるんだよ!?」
「……?シャワー、浴びるから……」
「そうじゃなくてっ!何でここで脱いでるんだよ!?」
慌てながらまた後ろを振り返り、レイに背中を向けながら問い掛けるシンジ。その問いにレイはすぐには答えず、少しの間を置いてから一つの答えを口にした。
「碇君になら……見られても、平気……だから」
「────!?」
その答えにシンジは今まで以上に顔を真っ赤にさせ、レイをリビングに一人残して自分の部屋へと駆け出していった。
「えっ……泊まり、ですか?」
『そうなのよぉ~。ちょっち面倒な仕事が残っててね。リツコも帰してくれそうにないしぃ……』
『ミサト、喋ってる暇があるならそこの書類、こっちに回してちょうだい』
『あーもうっ、分かってるわよ!てなわけでシンちゃん、悪いんだけど戸締まりよろしくね。明日の昼までには帰るから!』
そう言って切られるミサトとの電話。ミサトさんも大変なんだなぁ、と思いつつシンジは窓の外を見る。どうやらまた雨が降ってきたらしく、ベランダの水溜まりにいくつもの波紋が生まれては消えていっている。
『……今夜は大雨の予想となるでしょう。家の戸締まりをしっかりし、なるべく外には出ないよう気をつけ……』
(どうしよう……こんな雨の中、綾波を帰すのは……でももう暗くなっちゃうし、ミサトさんは今日帰ってこないし……)
「……出たわ」
この状況でレイをどうしようと考えていると、その彼女が風呂場に繋がるドアから出てくる。シンジに用意してもらった服を着ている彼女だが、予想よりも少し大きかったらしい。袖口が指の付け根まであったり、胸元が僅かに見えかかってしまっている。
その姿にドキリとしたシンジだったが、一旦気持ちを落ち着かせて先程の電話の内容を伝えた。
「葛城一佐が帰ってこない?」
「うん、今日は本部に泊まるみたいなんだ」
「そう…………雨、また降ってきたのね」
「えっ?あ、ああ。今さっき降り始めたんだ」
段々と勢いを強めていく雨。レイは窓に近付き、空を見上げた。おそらくは夜中まで止む事はないと思える程に空は黒く濁っている。
「……碇君。私────」
「あ、あのさ。綾波」
掛けられる言葉を予想し、それが口に出される前にシンジも声を掛けてそれを遮った。レイはそれの続きを口にはせず、シンジの次の言葉を待つ。
「雨、凄いし……ミサトさんが帰ってこないから車で送る事も出来ないし……もう暗くなっちゃうし。その、綾波が良ければなんだけど……明日は学校休みだし、さ……」
「…………」
「と……泊まっていかない……?」
緊張気味なシンジの言葉にレイの赤い目がほんの僅か見開く。それはよく見ていなければ分からない些細な変化だが、レイにとってはそれが驚きの表情だった。シンジはその変化を見逃さず、ゴクリと唾を飲み込んだ。
「な、何言ってるんだろ僕……ご、ごめん綾波!その、雨が酷くなる前に家まで僕が送っていくから」
(と、泊まっていかないって……いくらなんでもそれはないだろ僕!綾波だって女の子なんだ。ミサトさんがいるならともかく、僕と二人きりなんて嫌に決まってるじゃないか……)
「……碇君が」
レイから視線をそらし、自分の言葉に負い目を感じているシンジだったが声が掛けられ、彼女の方に視線を戻した。
そしてシンジが目にしたものは。
「碇君が嫌じゃなければ……いい……」
頬をほんの少し赤く染め上げ、シンジから視線をそらしつつ恥じらいながらも承諾の言葉を口にするレイの姿であった──────
ちなみに次の日の朝、予定よりも早く帰宅したミサトにレイが一泊した事を知られ、一日中それをネタにからかわれたのは言うまでもない。
序の後日談にしてはシンジくんとレイの距離が近いと思いますが、破でのお弁当のシーンなどを既にやったていという事でお願いします。タオル渡した時に自然とありがとうって言ってますし……。