ピピピ!ピピピ!ピピピ!ピ────
「う~ん……もう、うるさいなぁ……」
僕は布団から顔を出して携帯電話のタイマーを切る。現在の時刻は9時半。……何で僕、休みなのにこの時間にタイマーをセットしたんだろう?
「……ふふっ」
ホーム画面を開き、少し前から付き合い始めた彼女との写真が現れると顔がにやけてしまう。彼女は中学の頃から僕の事が好きだったみたいだが、僕が彼女への恋心を自覚したのは同じ大学に入った時。そしてすぐに告白して恋人になったというわけだ。
彼女曰く、『碇君から告白して貰いたかった』との事だったが、もしも僕がしないままだったらどうしたんだろうか?……いや、そんな事は考えるべきじゃない。
「……あっ」
画面をスライドして今日の予定を確認しようとカレンダーをタップして気付いた。何故この時間にタイマーをセットしたのか。それは今日のスケジュールに書かれた文章で思い出した。
○月△日
初デート!!
11時に宇部新川駅前に待ち合わせ
「そうだ、今日は……」
彼女との────初デートの日だ。
「……兄さん。どう?」
「うん、似合ってるんじゃないかな。可愛いよ」
「そう。ありがとう」
自分でも鏡で確認し、兄さんにも確認してもらい、私は1時間にも及ぶ今日の服装選びをようやく終えた。昨日の夜にも選んではいたのだがなかなか決まらず、結果デート当日の朝に決める事になってしまったのだ。
「それじゃあ、僕は先に出掛けるよ。今日はトウジ君と遊びに出掛ける予定だからね」
「分かったわ。いってらっしゃい」
「ああ。君も、初デートなんだから頑張りなよ?それじゃシンジ君によろしく伝えておいてくれ」
そう言って家を出ていく兄さん。それぞれが高校進学時に別々の道へと進み、遠い場所にいながらも友達との時間を何よりも大切にしている。私も、みんなとの絆を大切にしたいと思っている。
「……あとは」
私も出掛けようとして、最後に口紅を薄く塗る。下の妹が抜擢された、ある化粧品会社のCMで紹介された口紅である。
全ての準備を終え、鞄を持った私は待ち合わせ場所である駅前に向かう事にした。
「マリさん!僕、出掛けますからね!昼ご飯は冷蔵庫に昨日のカレーが入ってますから、それを食べといて下さい!」
「ほぁ~い」
このアパートの同居人の部屋の前に立ち、そう伝えると中からは寝惚けたような声が返ってくる。母さんの後輩であり、仕事場所が近いという理由で同居している訳だが……家にいる間はほとんど部屋に籠りっぱなしである。しかし一度動き出すと「面白そうだから」という理由で興味あること好きなことして、家の中をしっちゃめっちゃかにする事もたまにある。
それでも僕が同居を許しているのは、僕が昔彼女に助けられたからだ。いや……かもしれない、だ。よく覚えてないし、本人や母さんも覚えがないと言うし。
「あっ、もうこんな時間……それじゃ行ってきますね!」
「おぉ~。頑張ってこいよ、ワンコ君~」
彼女から呼ばれるあだ名にはもう慣れた。今はドイツに留学している幼馴染みも「姫」と呼ばれて満更でもないし。まぁ、流石に人前で呼ばれるのは恥ずかしいけど……。
「はい!頑張ってきます!」
人混みの中を僕は走る。休日という事で出歩く人が多く、たまにぶつかる事もあり、一言謝ってからまた走り出す。
今にして思えば……僕と彼女の中学時代の出会いは不思議なものだった。お互いに面識もなく、名前を教えたわけでもない。でもお互いに気付けば相手の名前を間違う事なく口にしていたのだ。……おかげでミサト先生やトウジ達にからかわれ、アスカには関係を追求される羽目になったけど。
高校進学時はみんなバラバラになったけど、唯一僕と彼女は一緒の高校だった。当時、彼女の兄であるカヲル君に「君を追い掛けてるんだよ」と言われた時は意味が分からなかったけど、今ならその意味が分かる。
彼女はあまり喋らない上に、感情をどう表現したらいいのか分からなかった。その上、中学時代の友達は僕だけ。必然的に彼女と関わるのは専ら僕だけだった。
中学時代よりも彼女と多く過ごして色んな事を知った。兄の他に妹がいること、肉が嫌いなこと、料理をした事がないことなど色々と……。
そして大学生になった時、僕はようやく気付いた。僕は彼女が好きなんだって。いつからだったのかは正直分からない。もしかしたら初めて出会った時からかもしれない。
僕が好きだという事に気付いて彼女に告白する事に時間はそんなにかからなかった。フラれるかもしれないと思った。でも僕はとにかくこの気持ちを彼女に伝えたかった。
そして──────彼女は嬉しさのあまり涙を流し、僕からの告白を了承という形で受け取ったのである。
「あっ」
いた。人混みの奥の待ち合わせ場所に、彼女の姿は既にあった。初デートだからだろうか、遠目からだが彼女が着ている服は僕が今まで見た事のない服だった。
「綾波!」
僕が名前を呼ぶと、彼女────綾波レイは声に気付いたようでこちらを振り向き、顔を傾け笑みを向けてくれた。
可愛い、と思った。デートの日が決まってから何だか恥ずかしくてなかなか顔を合わせられなかったという事もあるが、それ抜きでも可愛い。欲を言えば、僕以外にはその笑顔を誰にも見せないでほしい。
「ごめん、お待たせっ……!」
「ううん、大丈夫。私も今来た所だから」
「そうなんだ、よかった」
綾波の前に立ち、今度は近くから彼女の姿を見る。……うん、やっぱり可愛い。しかも薄く口紅も塗ってるらしい。綾波の事は前から可愛いと思っていたが、恋人になってからはより一層可愛く見えるようになったみたいだ。
「な……なに?」
「あ、ごめん。綾波が可愛くて」
「……バカ」
顔を赤くして伏せてしまう綾波。髪が邪魔をして表情を伺う事は出来ないが、こんな綾波を見れるのも恋人である僕だけの特権と考えるとなかなかに嬉しいものである。
「碇君も、かっこいいわ」
「あ……う、うん。ありがとう」
頬から若干赤みが消えた綾波が僕にそう告げると、顔が一気に赤くなった。さっきの僕もこんな事を言ったのだからこれでおあいこだろう。
「それじゃ、行こうか」
「ええ。今日は期待してるわ」
「うん、任せてよ」
そう言って、どちらからともなく手を握る。そうして僕達の初デートは始まったのだ。
カヲル君、登場!
“その後“IF人物設定
・シンジ→大学生。レイの彼氏。新世界前の記憶はたまに夢に見る程度。アパート暮らし。
・レイ→大学生。シンジの彼女。カヲルの双子の妹。下に妹がいる。新世界前の記憶は失っているが、唯一シンジの事は覚えていた(どこまでかは不明)。
・アスカ→シンジの幼馴染み。現在はドイツに留学中。
・マリ→ユイの後輩。シンジの部屋に同居中。
・カヲル→シンジの中学時代からの友達。レイの双子の兄。
・トウジ→シンジの中学時代から(略。医大生。ヒカリの彼氏。
・ケンスケ→シンジの中学(略。戦場カメラマン。
・ヒカリ→トウジの彼女。調理系の専門学校に通う。
・レイ妹→黒波。最近、化粧品のCMに抜擢された。
・サクラ→兄・トウジと同じ医大生希望。
・ゲンドウ→出張が多いが、家族を大事にするパパ。
・ユイ→出張の多いゲンドウを理解しつつも家族の時間が欲しいママ。
・コウゾウ→ゲンドウとユイ、マリ(飛び級)が通っていた大学の教授。定年退職して隠居中。
・ミサト→シンジ達の中学時代の担任。一児の母。
・リョウジ→ミサトの夫。一児の父。
・リツコ→シンジ達の中学時代の先生。養護教諭。
・マヤ→シンジ達の中学時代(略。国語教師。
・マコト→シンジ達の(略。3年クラス担任。
・シゲル→シン(略。1年クラス担任。
・コウジ→市民A
・スミレ→市民B
・ヒデキ→市民C
・ミドリ→市民D