────碇君が好き。
────碇君が大好き。
────碇君の声が聞きたい。
────碇君のお味噌汁が飲みたい。
────碇君と一緒になりたい。
────碇君とポカポカしたい。
────でも、ダメ。
────それはいけないこと。
────碇君をエヴァに乗せなくてもいいようにする。
────その為に私はエヴァに残らなくてはならない。
────だから。
────さようなら、碇君。
「綾波」
────声
「綾波」
────
「綾波」
────私が
「綾波」
────
「綾波」
────
「綾波」
────
「……碇君」
「ごめんなさい」
「私、碇君が」
「エヴァに乗らなくてもいいようにしたかったのに」
「結局私は」
「私自身が」
「碇君をエヴァに乗せてしまった」
「本当に」
「ごめんなさいっ……」
「……綾波」
「ありがとう」
「僕の為に14年間も初号機の中にいてくれたんだよね」
「綾波の気持ちは嬉しいよ」
「でも僕のけじめは、僕がつけないといけないんだ」
「だから」
「僕はエヴァに乗る」
「僕が乗らなきゃいけないんだ」
「……碇君」
「……綾波」
私と碇君はどことも分からない場所で再会した。私は両手に握られているボロボロな人形を見る。その人形には「つばめ」という文字が書かれていた。
「……つばめ」
知っている。けど聞いた事がない名前。なんだか不思議な感覚。
「綾波、君で最後だ」
「私はここでいい」
私はエヴァの中に残る。また碇君をエヴァに乗せなくてもいいように。
「僕も……エヴァに乗らなくてもいい生き方を選ぶよ。もう綾波がエヴァに残らなくても大丈夫なんだよ」
「でも……」
「あとでマリさんが迎えに来てくれるんだ。だから僕もすぐそっちに行くよ」
「……そう。分かったわ」
私も碇君と一緒にいたい。マリという人ではなく、私が碇君を迎えに行きたい。
でも碇君を困らせてはいけない。私の大好きな人だから。
「碇君────さようなら」
「綾波────さようなら」
「さようなら」は、また会う為のおまじない。だから私は、きっとまた碇君と会える。会えると信じている。
「やぁ。おはよう、レイ」
「……おはよう。兄さん」
…………?
兄さん?
誰が?────目の前の人。
誰の?────私の。
なに?────兄。
「……どうしたの?レイ」
「な、何でもない、わ……」
反対から声を掛けられ、振り向くとそこにいたのは身長が少し高い、私と瓜二つな女性。誰?と思うが、その女性が私の姉だという事に気付き、安堵する。
……待って。
……兄?姉?
……私に兄と姉が……いる?
「大丈夫かい、レイ?顔色が優れないけど」
「だい、じょう、ぶ……」
「……お母さん。レイ、体調が悪いみたい」
「あら……今日は二人の入学式なのに……」
私を心配する兄さんの声が聞こえ、お母さんに声を掛ける姉さん。そして私にいるはずがない「お母さん」の声が聞こえた後、私の意識は暗闇へと落ちていった。
私の兄────綾波カヲル。死別したお父さん(旧姓は渚)の連れ子で同い年。私やお母さん、姉さんとは血が繋がっていない。でも私も兄も姉も互いの家族を受け入れ、険悪なムードになった事はない。
私の姉────綾波ルイ。私より4歳上の今年から高校2年生になるこの家の長女。身長の差異を除けば私と姉さんは顔立ちが似ている、と言うよりも瓜二つな為、遠目から見れば間違えられる事もある。両親さえも間違える程なのだから他人では尚更だろう。
私の母────綾波メイ。私と姉さんにとっては実母、兄さんにとっては義母である母さんは私達の実父と離婚した後に再婚し、そしてすぐに交通事故で亡くしてしまった。しかし母さんは自暴自棄にならず、私達3人をここまで育ててくれた。
「…………」
私は自室のベットでこれまでの自分と家族の事を思い出していた。ただの女の子として生まれ、今日から兄さんと一緒に中学1年生になる自分。
しかし、と思う。私はそもそも人間ではなかった。人間を模して作られ、NERVなしでは生きられない作り物の体。エヴァ零号機のパイロットであり、碇君がエヴァに乗らなくてもいいようにして、でも最後は碇君をエヴァに乗せてしまい、碇君とまた会う為のおまじないを言い合って新世界へと私は向かった。
一人の人間である私ㅤㅤㅤㅤ作り物の体を持つ私
ただの女の子の私ㅤㅤㅤㅤエヴァパイロットの私
新世界の私ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ旧世界の私
エヴァの記憶を持つ私ㅤㅤㅤ体と記憶を奪った私
ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ私は、どっちの私?
・名前の由来
綾波ルイ→『らりるれろ』で『れ』の前が『る』だから
・黒波やQ(急)とかを名前に入れようとしたけど無理だった。『ロイ』では変な為、姉になった。
綾波メイ→『らりるれろ』の『れ』の横が『まみむめも』の『め』だから
・赤木リツコが母親でもいいかなと思ったが、分からなくなる為、却下してオリキャラに。見た目はレイの大人バージョン。