千雨infinity(改稿版)   作:雑草弁士

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Episode:10『探し人、見つからず』

 その日ネギは元気はつらつと言った風情で、学校に現れた。何か腰が引けていた先週末とは大違いである。

 

「おはようございますっ! エヴァンジェリンさんいますかっ!?」

 

「あー、ネギ君おはよー」

 

「お、おはよーございますー」

 

「エヴァンジェリンさんなら、まだ来てないですが」

 

 早乙女ハルナ、宮崎のどか、綾瀬夕映の図書館探検部3人組から、朝の挨拶がてらエヴァンジェリンの不在を告げられたネギは、何やら拍子抜けした様子だ。

 

「へ……。あ……。そうですか……」

 

「何やカゼでお休みするて連絡が……」

 

 和泉亜子から渡された、エヴァンジェリン及び茶々丸の欠席届を見つつ、ネギは何やら考え込む。と、彼は徐に歩き出した。

 

「うーん……。よーし!」

 

「あっ、ネギ!どこ行くのよ」

 

 遅刻寸前で教室に滑り込んで来た明日菜がネギを呼ぶが、彼の足は止まらない。だがその襟首を後ろから引っ掴み、止めた者がいた。千雨である。

 

「ネギ先生、何処へ行くんですか」

 

「あ、ちょ、一寸エヴァンジェリンさんの所まで家庭訪問に……」

 

「その前に朝のSHR(ショートホームルーム)でしょう」

 

「あ! そ、そうでした!」

 

 千雨は米神を揉む。どうやら精神的な頭痛を覚えたらしい。彼女はネギに向かい、言った。

 

「元気が出たのはいいんですが、先生……。もう少し周りを見る余裕を持ってください」

 

「す、すいません」

 

「それと先生が担当している授業、ウチのクラスは午後までありませんけど、他のクラスは大丈夫ですか?それ放り出して行ったりしたら、まずいなんてもんじゃ無いですよ」

 

「そ、それは大丈夫……なハズです」

 

「ならいいんですが。……あー、まずは朝のSHR(ショートホームルーム)です」

 

「はい!」

 

 千雨は自席に戻ろうとする。その途中、楓がいたので軽く手を上げて挨拶した。楓も手を上げて答礼する。ふと千雨は、楓の視線がネギに向いており、その視線が何と言うか慈しむ様な色を湛えている事に気付く。千雨は楓に歩み寄った。

 

「……ネギ先生、何かあったのか?」

 

「先の土日に、山中で拙者が修行してると、そこへネギ坊主が来たでござるよ。何事か悩んでいる様子であったので、一寸ばかり一緒に修行したんでござる」

 

「そうか……。納得行った」

 

 千雨はその場を離れ、自席に戻った。彼女は思う。おそらくは楓は、千雨の時と同様、ネギに対し何かしらの一寸した――当人にとってはとても大きな――助力をしたのだろう。先週までのネギは、頑張ってはいても何処か無理をしている風情があった。今の彼にはそれが無いか、少なくとも以前よりずっと小さくなっている。

 

(……ま、元気なのはいいんだが。あとは変な風に暴走しなけりゃいいんだがな)

 

 やがてSHR(ショートホームルーム)が終わると、ネギは早速エヴァンジェリン宅へすっ飛んで行く。そして彼は、彼が担当する授業開始ぎりぎりまで戻って来なかった。

 

 ちなみに帰って来た時ネギは、何やら微妙な表情をしていた。それを見た千雨は、また多少不安になったらしい。

 

 

 

 次の日ネギは、非常に浮かれていた。エヴァンジェリンが彼の担当する英語の授業に出席していたのである。彼女曰く、『昨日世話になったから授業ぐらいには出てやろうと思った』だそうである。それでネギは、エヴァンジェリンが考え直して改心してくれた物と思い込んだのだ。

 

 その様子を見て、千雨は眉根を寄せる。彼女にはネギの内心を知る術は無いが、それでも大体の所を(おもんぱか)る事ぐらいはできた。

 

(……すっかり油断してやがんな。けどマクダウェルの奴は、たぶん諦めたわけじゃねーぞ?15年もこの土地に縛り付けられるって事がどう言う事か、私にだって分かるたあ言えねえ。だが、ちょっとばかり親切にされたからって、諦められる事じゃあ無ぇ事ぐらいは分からあな。

 まあ、次の満月まではまだ間があるからな。それまでは心配しねぇでも良いか?)

 

 千雨にはマシナリーとしての超人的な能力がある。だがさすがに予知能力までは持っていない。エヴァンジェリンが本日この夜に、最終作戦を決行しようと考えているとは、彼女は知る由も無かったのだ。

 

 

 

 この日の夜8時、麻帆良学園都市全体は、年2回行われる一斉メンテナンスにより、深夜12時までの間、停電となる。エレベータも停止し、街灯も消え、生徒達は外出禁止となるのだ。

 

 千雨は寮の自室で、停電に備えてPCの電源を落としていた。ちなみに寮で同室のザジ・レイニーデイは外部団体である曲芸手品部の部室などに泊まり込んでおり、ほとんど自室には帰って来ない。そのためこの部屋は、ほぼ彼女が独り占めしている様な物だった。

 

「……と。これで全部電源は落としたな。冷蔵庫も4時間程度なら問題になる食材は無いし。……いつもの訓練のために出かけようにも、一応外出禁止だしな。見つからないとは思うが、万一見つかったらごちゃごちゃうるさいし。

 ……やる事ぁ無いから、寝るか。こんな早くから寝るのは、久しぶりだな」

 

 8時寸前に、千雨は電気を消してベッドに潜り込んだ。だが彼女はすぐに飛び起きる事になる。それは麻帆良学園都市全域に張られている学園結界を管理している部署からの、学園長への緊急連絡を傍受したためであった。

 

 最近千雨は基本的に、携帯電話の通話は傍受しない様に心がけている。ただし学園長である近右衛門が持つ、『裏向きの仕事用』の携帯電話だけは別だ。彼女はその携帯電話への着信や、その携帯電話からの発信は、意図的に選択して傍受する事にしていた。

 

 理由は彼女に言わせれば、万一自分の事が知られたりした場合の予防的措置、と言う事らしい。

 

『学園長! 学園結界に電力を供給している予備システムが停止しました! 原因は不明ですが、おそらく外部からのハッキングによる物と思われます!』

 

『む……。それは一大事じゃの。万一に備え、至急学園各所に封印されておる妖物の監視に、人を向かわせる。それと学園都市外縁部の警備陣にも注意を促す。学園都市全体のメンテナンス作業も、急がせるわい。正システムが復旧すれば、学園結界も復旧するでの。

 そちらは予備システムの復旧に全力を上げておくれ』

 

『はっ!』

 

 千雨は飛び起きると共に、苦々しく思う。

 

(学園結界が落ちた!? まず間違い無ぇ、マクダウェルの仕業だ! いや、絡繰かも知れんが、マクダウェルの意志が介在してる事ぁ確かだろう。麻帆良のデータバンクから盗って来た情報では、学園結界がマクダウェルの力を抑制してるって事だったからな。これで奴ぁ、本来の吸血鬼としての力を発揮できるってワケだ……。

 ……どうするんだ、私? あのガキを護るのか? あのガキを護って、全力全開の齢600歳の吸血鬼と事を構えるのか? マクダウェルにだって、同情すべき点は多々あったろうが?)

 

 

 千雨は一瞬躊躇する。だがすぐに彼女は自室の窓を全開にすると、戦闘形態に変わり、そこから飛び出した。

 

(……考えるのは後だ! このまま何も手出しせずに放って置いたら、たぶん後から後悔する! そいつは御免だっつーんだ!)

 

 そして千雨は高速転移して加速すると、夜の闇の中へ駆け出して行った。

 

 

 

 高音・D・グッドマンは、自らの影を身に纏い、その拳を無数にいる骸骨の妖怪の1体に叩きつけた。この骸骨の妖怪達は、特級の霊地である麻帆良の霊力に惹かれて集まって来た物だ。

 

 高音に殴られた骸骨は、粉微塵に砕け散るが、敵はその1体だけではない。わらわらと寄って来る骸骨の集団を、高音は多数召喚した影の使い魔をもって防ぐ。

 

「くっ……。数が多すぎますっ……」

 

 唇を噛みつつ、高音は吐き捨てる様に言う。その台詞には、動く骸骨と言う不気味な妖怪に対する嫌悪感、そして隠しきれない恐怖感が見て取れた。しかし誇り高い彼女は、それを噛み殺しつつ必死に戦う。

 

 と、その時呪文詠唱の声が響いた。

 

「メイプル・ネイプル・アラモード!! ものみな(オムネ)焼き尽くす(フランマンス)浄化の炎(フランマ・プルガートゥス)破壊の主に(ドミネー・エクスティンク)して(ティオーニス)再生の(エト・シグヌム)徴よ(レゲネラティオーニス)我が手に宿りて(イン・メアー・マヌー・エンス)敵を喰らえ(イニミークム・エダット)紅き焔(フラグランティア・ルビカンス)!!」

 

 高音の『魔法使いの従者』たる佐倉愛衣の左手から、強力な爆炎が発生し、複数の骸骨を焼き尽くす。愛衣は叫んだ。

 

「お姉さま!囲まれます、下がってください!

 ……メイプル・ネイプル・アラモード!! 火の精霊(セプテンデキム・スピリトゥス)17柱(イグニス)集い来たりて(コエウンテース)敵を撃て(サギテント・イニミクム)!! 魔法の射手(サギタ・マギカ)連弾(セリエス)火の17矢(イグニス)!!」

 

 愛衣が放った炎の魔法の矢は、その1本1本がそれぞれ別の骸骨妖怪を貫き、燃え上がらせる。素晴らしい魔法の制御力であった。ただしその術者当人である愛衣は、一寸腰が引けている。更に言えば、声も若干震えが隠せていない。

 

 やはり骸骨と言う物は、人間の恐怖感に訴える物があるのだ。それから考えれば、中学2年生である彼女には、流石に厳しい物があるのだろう。

 

 その時である。骸骨の妖怪たちは突然2人の魔法生徒への攻撃を中断した。高音と愛衣は怪訝に思ったが、チャンスとばかりに攻撃しようとした。だが次の瞬間、彼女等は大いに驚く。

 

「えっ!?」

 

「そ、そんな……!?」

 

 無数の骸骨の妖怪達が、1体に合体し始めたのである。

 

 この骸骨の妖怪は本来、1体1体はたいした敵では無い。脅威なのはその数だけであったのだ。……つい先程までは。だが今やその無数の骸骨の妖怪は、1体の巨大な骸骨へと合体していた。その身長たるや、7~8mはあるだろう。巨大骸骨……これぞ彼の有名な、がしゃどくろであった。

 

 本来これほどに強力な妖怪は、学園結界に影響されてその力を封じられるはずである。学園結界は、それが強い妖であるほど、強力にその力を発揮するのだ。がしゃどくろは本来、ぎりぎりではあるがその『強い妖』の範疇に入っていたはずなのだ。学園結界が普段通りの力を発揮していれば、骸骨妖怪どもは合体する事など、有り得なかっただろう。

 

「くっ! 愛衣、下がって支援に集中なさい! 黒衣の夜想曲!!」

 

「お、お姉さまーーー!?」

 

 高音は操影術の近接戦闘最強奥義を展開する。彼女の身体に一際大きな影の使い魔が纏われ、その身を護った。これで普通の打撃は、彼女には一切効果が無いはずである。あらゆる打撃は、彼女が身に纏った影の使い魔が自動的に防御し、その衝撃を吸収してしまうのだ。

 

 だがしかし、がしゃどくろに真正面から立ち向かうのは無謀だった。がしゃどくろはその巨大な腕を無造作に奮う。その攻撃は高音に直撃した。

 

「きゃ……!」

 

 高音は見事に吹き飛ばされた。いかに身に纏った影の使い魔が衝撃を吸収するとは言え、がしゃどくろの一撃はその影の使い魔ごと彼女を吹き飛ばしてしまったのである。殴られた衝撃自体は吸収されたために、高音のダメージはさほどでは無い。だが吹き飛ばされた時彼女にかかった重圧()は凄まじく、意識が飛びかける。

 

 そこへ愛衣の援護の魔法が叩きつけられる。だが先程までの骸骨妖怪には非常に効果的であった炎の魔法だが、合体したがしゃどくろには表面を少し焦がす程度のダメージしか無い。がしゃどくろは愛衣の攻撃にはかまわず、高音にその巨大な脚で蹴りを入れようとした。

 

「お姉さまーーー!!」

 

 高音は目を瞑り、歯を食いしばる。打撃によるダメージは考えなくとも良い。だが吹き飛ばされた時の重圧()で気を失ったりしてしまっては、操影術は解除されてしまい、無防備になってしまうのだ。

 

 だが何時まで経っても、がしゃどくろの蹴りは襲って来ない。高音は目を開けた。すると彼女の目の前に、1.5mはあろうかと言う巨大な頭蓋骨が転がっている。がしゃどくろの頭だった。良く見れば、がしゃどくろの身体はばらばらに分解している。

 

 キーーーン、と言う金属音にも似た、あるいはジェットエンジンの音にも似通った音が、周囲に響き渡っていた。

 

「こ、これは……」

 

「お姉さま!大丈夫ですか!?」

 

「愛衣、何があったの!?」

 

「わ、わかりません。突然この音がしたかと思ったら、あの巨大な骸骨の首が落ちて、五体がばらばらになったんです」

 

 そして突然、金属音に似た音は消えた。それと同時に、1人の人影がその場に姿を現す。黒を基調として、赤いラインが走る身体に、若い女性……少女に見えるボディライン、そして随所に見られるメカニックな意匠。誰あろう、それは千雨のマシナリーとしての戦闘形態だった。

 

 千雨は(わめ)く。

 

「だーーーっ!! またハズレかっ!! いったいあのガキゃ、何処にいやがるんだっ!!」

 

 千雨は、麻帆良学園の敷地を縦横に高速転移して全力で疾走しつつ、何かしら騒ぎが起こっている場所を回り、ネギ達を探していたのだ。だが彼女が見つけた騒ぎは、いずれもネギやエヴァンジェリンとは関係の無い騒ぎばかりであった。

 

 高音は半ば呆然としつつ、千雨に問いかける。

 

「あの……貴女はいったい?」

 

「……下がってろ、そこにいると電撃の余波を受けかね無ぇぞ」

 

 千雨は高音の問いには答えず、その両拳から強烈な……最大10万kwにも達する電撃を放射する。その電撃はばらばらになったがしゃどくろに襲いかかり、その残骸を焼き尽くした。

 

 やれやれと言う風情で、千雨は肩を落とす。そして彼女は再度高速転移して加速すると、瞬時に姿を消した。マシナリーの高速転移に付随する、金属音に似た音の残響が、あっと言う間に遠ざかって行く。

 

 高音はぽつりと呟いた。

 

「なんだったんですか、今のは……」

 

「あ、私噂で聞いた事あります。最近麻帆良で……いえ、麻帆良だけじゃないですけど、噂になってる、黒いメカニックな超人の事。たしか『8マン・ネオ』とか言ったはず……。

 あれ? でも今の人は女の子でしたね? 胸に『8』のマークもありませんでしたし。あれ? じゃあ違う人なんでしょうか?」

 

 愛衣は一生懸命考えるが、答えの出ようはずも無い。ただ確かなのは、この夜彼女達が千雨……『ディー・エイト』に救われたと言う事だった。ちなみにこの夜、麻帆良のあちこちで似た様な事が起きていたと言う。




ネギ君、原作本編とさほど変わりはありません。まあ、少しは精神的に改善されたと言っても、劇的に変わるわけじゃないですものね。

そして千雨さん。頑張ってます。ちょっと空回りしてますが、頑張ってます。何かできる能力(ちから)があるのに、何もしないでいられるかと言うと、逆の意味で難しいですよね。
まあ、たまには『手出ししちゃいけない』とか『何もしない方が良い』場合もあるんでしょうけれど。だけど『手が届く』のに、『手を伸ばさない』のは、やはり相当な覚悟とか必要だと思うんですよねー。心も痛いでしょうし。



あと、呪文詠唱のルビ振るの、大変でした(笑)。
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