千雨infinity(改稿版)   作:雑草弁士

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Episode:13『帰りたい、早く終われ』

 千雨は疾走(はし)っていた。先日会得した超音速ではなしに、亜音速でだ。その姿は、超音速形態や標準の戦闘形態とは異なり、若干ながら重装に感じられ、そして戦闘的に見える。

 

 彼女の頭の中に、光一の声が響く。体内無線による通話だ。

 

『今から目標のデータを送るよ』

 

『わかりました!』

 

『長谷川、『力』に飲まれないで、しっかり制御下に置くんだ。そして、『力』に溺れないでくれ……』

 

『は、はいっ!!』

 

 千雨の肩や背中にある幾つものハッチが展開する。千雨は精神を集中して、狙いを付けた。次の瞬間、千雨の上半身が爆煙に包まれて爆発する。いや、そう見えただけの話だ。展開した各ハッチから、一斉に小型のミサイルが発射されたのだ。その数、36基。

 

 そして千雨は、36基の小型ミサイルを事細かに制御すると共に、両腕を前方に差し伸べる。その肘には、通常形態や超音速形態にも存在する超音波ナイフが突き出しているが、この姿のそれはより一層、大型になっている。

 しかし今回は、それの出番は無い。今回の主役は、その脇から前腕の先に向けて突き出している、やや小さめの角状のパーツだ。

 

 その角状パーツから、強烈な閃光が(ほとばし)った。先のミサイルの着弾と前後して、閃光は崖の法面(のりめん)へと突き立つ。

 

 そしてミサイルと高出力レーザーが叩き込まれた、採算が取れずに廃棄された採石場は、地獄の様な風景になった。

 

 

 

 ダイが猫缶を美味そうにがっつく。リープもウェットタイプのドッグフードを嬉しそうに食べている。そんな中、千雨は光一が差し出したサンドイッチ弁当を受け取りつつも、なかなか口にする事ができないでいた。

 

「……うん。気持ちはわかるよ。あんな破壊力が自身に秘められているって理解してしまったら、悩むとか以前に……」

 

「ええ……。悩みに思うとか以前の話ですね。唖然とか呆然とか、そんな感じです」

 

 光一と千雨は、山奥の廃棄された採石場に、粉々の石片の山とガラス質のクレーターが出来たのを眺めて、溜息を吐いた。だが光一は言う。

 

「これ、まだ取っ掛かりなんだよ。俺と君の身体には、もっと物騒な兵器システムがマトリクスとして刻み込まれている」

 

「いえ、来るときに説明されましたから、頭では理解してます……」

 

「……そうなんだよなあ。俺も仲間たちが居なかったら、乗り越えられたかどうか。そして俺には、変な言い方だけど、その力を振るうべき『敵』が居たからね。

 まあでも、力の使い方を間違えないって言うのは本当に苦労したなあ……。って言うか、使い方を間違えて暴走した事が何回あったかな。無関係の人に力を振るう事こそ無かったけどね」

 

 光一も、サンドイッチを手でつまみつつも、それを口に運ばずに遠い目をしている。そう、千雨たちはこの土曜日、千雨の訓練のためにこんな山奥までやって来たのである。ちなみに何故土曜日かと言うと、日曜日は翌日の月曜日が修学旅行初日であるため、その準備に使わなければならないのだ。

 

 けれども千雨の訓練、ことに兵器関係の訓練はできるだけ急ぐ必要があった。これこそ、うっかり迂闊(うかつ)にその能力を行使したりしたら、本気でえらい事になるのだ。と言うわけで、千雨は比較的使い方が簡単で、すなわちうっかり使ってしまいかねない武器2つを選び、訓練していたのである。

 

「……ペンシルミサイルに、光線銃レーザー。おそろしい威力ですね……」

 

「うん。……俺はこの兵器類を、なるべくなら使わないで欲しいと思う。だけど、使わざるを得ない場合もあるかも知れない。その時は……」

 

 そして光一は、決然と言った。

 

「ためらわないでくれ。君に無理矢理に力を与えた俺が、言って良い台詞じゃないかも知れない。だけど、いざと言う時に『力』を使う覚悟だけは、しておいて欲しい」

 

「……放って置けば、わたしは死ぬところだったんです。って言うか、死んだんですが。仕方なかったんですよ。そんな苦しそうな顔、しないでください」

 

「え? お、俺はそんな顔してたかい?」

 

「していましたよ、光一」

 

「ウン、シテタノラ」

 

 リープとダイにまで言われてしまい、光一は頭を掻いた。そして千雨は口を開く。

 

「本音を言えば、そんな(きび)しい覚悟ができるか怪しいんですがね。でも、了解です。できるなら使わない、けれど必要な時はためらいません。『力』に飲まれない様に、けれど臆しない様に、そして『力』に溺れない様に……。

 こうして口に出して約束しておけば、少しでも自分の気持ちに足しになるかも知れませんからね」

 

「うん、頑張ってくれ。さて、明後日からは長谷川は修学旅行か」

 

「困ったもんです。わたしはハワイに投票したんですが、僅差で京都に決まってしまいました」

 

 凛々しく決意を表明したばかりなのに、いきなりしょんぼりと肩を落とす千雨。まあそれは仕方が無い事だ。修学旅行の行先がハワイではなく京都だったのだし。なお、千雨が京都を避けてハワイに投票したのは、ちょっとばかり深刻な理由がある。実は彼女や光一が、麻帆良のデータバンクから奪って来た情報が、その大元であったのだ。

 

 麻帆良の地に本拠を構えている『魔法使い』連中の組織を、関東魔法協会と言う。これは基本的に、海外から入って来た西洋魔術師たち及び西洋魔術を学んだ者たちの組織である。この組織の事実上の長は、麻帆良学園学園長の近衛近右衛門である。ただし彼の役職は理事であり、理事長では無いが。

 

 一方で、京都の地にも日本古来の呪術を伝えている組織がある。これを関西呪術協会と呼ぶ。関西呪術協会の長は、近衛詠春と言い、彼は近衛近右衛門の娘婿であった。ただし近右衛門の娘であり詠春の妻である女性は、既に亡くなっているが。

 

 この関東魔法協会と関西呪術協会は、昔からあまり仲が良くない。双方のトップに親類関係があるため、当代に於いてはかなり仲は改善されてはいるのだが。しかしそれでも双方の関係は、『比較的ヌルい冷戦』とでもいうレベルであった。

 

 そんなわけで、千雨は京都行きを避けんがためにハワイに投票していたのだった。麻帆良から京都に行ったら、危険が危ない。まあ千雨の投票は、無駄にはなったのだが。千雨はハワイに行きたいのではない。京都に行きたくないのだ。彼女は溜息まじりに、愚痴を吐く。

 

「東に属する麻帆良学園の修学旅行生が、京都へ出向く。これが普通の生徒と、普通の教師だけなら全然問題ないですよ? だけどネギ先生は、一応は関東魔法協会所属の『見習い魔法使い』です。何がしかの問題、起こってくれと言っている様なもんでしょう」

 

「他にも調べてみたら、出席番号9番春日美空君やら、出席番号15番の桜咲刹那君やら、『魔法生徒』の面々が数名居るからなあ。特に桜咲君はヤバいだろう。元々西の一員だったのが、13番近衛木乃香嬢の護衛とは言え、東に鞍替えしたんだ」

 

「桜咲もなあ……。近衛の護衛とは言え、何なんでしょうねアレは。以前から微妙な関係だとは思ってましたが、護衛と知って改めてその行動を考えて見ると、それはそれで『アレで護衛になってるのか』と26時間35分06秒88ほど問い詰めたいですよ」

 

「長いですね」

 

「ト言ウカ、細カイノラ」

 

 リープとダイが、食事を食べ終えてツッコミを入れる。千雨と光一は、自分たちが食事を中断したままである事に気付き、慌ててサンドイッチを急ぎ食べた。

 

「むぐ、さて……。修学旅行だけど、重々注意して行って来てくれな?まあ関西の方の術者たちも、一般の先生生徒たちには手出ししないだろうけれど……。でも、それを期待して無警戒で居るのはそれこそ不用心だ。」

 

「ええ、そのつもりです」

 

「必要なら、何時でも呼んでくれ。本気で走れば新幹線より速いから」

 

「光一、それどころか超音速出せるじゃないですか」

 

「超音速ハ、衝撃波出ルカラ、マズイノラ」

 

 マシナリーアニマルたちのツッコミに苦笑しつつ、光一は考え込む。その様子を見つつ、千雨は改めて今回の訓練について思う。強大な破壊力を持つ兵器としての能力訓練は、狭い日本では色々と難しい、と。

 

 普段拳銃の訓練をあまり行えず、その割にいざ事あらば百発百中を期待される警官たちや、普段あちこちの団体から文句を言われ、演習するのも大変な自A隊員たちに、思わず共感を覚えた千雨である。

 

「他の能力の訓練は、どこか良い場所は無いかな。いや、今日訓練したうちの光線銃レーザーですらも、出力を一定以下に抑えての訓練だったし。もっとパワーを上げる訓練をして、感覚を掴んでおいて欲しいしなあ……」

 

「理論上の最大焦点温度は6,000億度でしたか。宇宙恐竜ゼ○トンには及びませんが、ウルトラ○ンとかの惑星上での光線技より熱いんですね。まあ、そこまで温度上げると、数秒で銃身焼き切れるんでしたか」

 

「そこまで温度上げる必要が出たなら、素直に別の強力な能力使った方がいいよ。だから練習場所考え無いといけないんだが……」

 

 ぽかぽかと日差しが暖かい。正直このまま昼寝でもしてしまいたい気持ちになりつつも、千雨たちは今後どこで訓練したものか悩んだ。

 

 

 

 そして翌々日の月曜日早朝、千雨は大宮駅の新幹線ホームで項垂(うなだ)れていた。

 

(ついに来ちまった。修学旅行……。わたしだけ急病って事で、帰っちゃダメかな……)

 

 いや、帰ったら駄目だろう。それに千雨が居ないところで、彼女が予想した様なトラブルによりクラスメートに何らかの被害が出たら、彼女自身が後悔に(さいな)まれる事になるのは目に見えている。

 

 千雨は小さく溜息を吐いた。本当は盛大に溜息を吐きたいところであったが、目立たないためになんとか我慢する。彼女を含めた麻帆良学園女子中等部3-Aの面々は、班ごとに分かれて新幹線へと乗り込む。

 

(帰りたい、早く終われ、修学旅行……)

 

 千雨の思いを置き去りにして、新幹線は楽し気に騒ぐ女子中学生の群れを乗せ、走り出した。




いや、千雨の立場だったら……。麻帆良と京都の裏を知ってれば、修学旅行の京都行きは可能な限り避けたいですよねー。京都に決まっちゃったら、仮病使っても行きたくないですよねー。
でも、ズル休みしちゃったら自分の知らない所で、クラスメートとかが危険になったりしたら、再起不能なくらい心理的ダメージを受けそうですよね。さすがにソレは嫌すぎるので、鬱々(うつうつ)としながら千雨は修学旅行に出て来ました。

そして千雨と光一の持ってる戦闘能力は、元々『8マン』のマトリクスに入っていた物だけじゃありません。いや、『8マン』のマトリクスに入ってた分だけでもエラく物騒なんですけどね。
とりあえず、今の段階では……。

・加速装置(超音速を含む)
・衝撃波による大気ハンマー(加速装置の応用・超音速)
・8マンナイフ(超音波ナイフ(高周波ブレード))
・10万kwの電撃放射
・ペンシルミサイル
・光線銃レーザー

今登場してるのは、このぐらいでしたかね?
でも、まだ8マンの能力はあるんですよね。ぐぐっちゃうと、何があるのか分かりますけど(笑)。
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