千雨infinity(改稿版)   作:雑草弁士

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Episode:19『infinity×2』

 刹那は羽ばたく。夜空を斬り裂いて飛翔し、一気に『リョウメンスクナノカミ』頭部で捕らわれの、木乃香のところまでたどり着く。そしてパニックになっている千草を蹴り飛ばし、木乃香を奪取、救出した。

 

 そして刹那は呪文を唱え、木乃香の額に貼り付けられた呪符を解呪して剥がす。木乃香はゆっくりと眼を開いた。

 

「あ、せ、せっちゃん……」

 

「お嬢様! いま少しのご辛抱です! 今、皆のところへ……」

 

「せっちゃん……。えへへ、やっぱり……。助けに来て、くれたんやなあ……」

 

「え……」

 

 木乃香は笑って言う。

 

「綺麗な……。翼やなあ……」

 

「お嬢様……」

 

 刹那は一瞬、何時までもこうして飛んでいたい気持ちになる。だが視界の端に、巨大な光球とそれに飲まれて喰われつつある『リョウメンスクナノカミ』が映ると、自分を取り戻した。彼女はゆっくりと、湖岸の人々が集まっているところへ向かい、飛んだ。

 

 

 

 ちなみに蹴り落とされた千草は、なんとか光球の範囲外へ落ちて命拾いした模様である。

 

 

 

 湖岸には、光一、リープ、ダイら『8マン・ネオ』の関係者の他、明日菜、龍宮真名、古菲たち鬼と戦っていた者ら、楓と夕映に小太郎など他所で戦っていた敵味方、そして肝心のネギとあの白髪の少年魔術師が居た。そこへ木乃香を横抱きにした、刹那が降りて来る。

 

 真名がボヤく様に言う。

 

「やれやれ、普通ならオマエのその翼を見て驚かなきゃならんのだろうが……。あの光球のインパクトがでかくて、それどころじゃ無いな」

 

「そこな『ディー・エイト』殿に似た雰囲気の御仁。あれはいったい……」

 

「あれは『ディー・エイト』だ」

 

 楓の疑問に、光一は答える。楓の表情が、普段からすると信じられない程に強張った。光一は続ける。

 

「俺は死にかけた『ディー・エイト』に、あの特別な身体(ボディ)を与えて生き返らせた。それ以外に、方法が無かったから……。その事は後悔していない……。

 だが……」

 

「だが?」

 

「あのシステムが、あの悪夢のシステムが、あの身体(ボディ)に組み込まれていただなんて。それを知らずに、彼女にあの身体(ボディ)を与えてしまった事は……」

 

「そのシステムとは、何だい?」

 

 白髪の少年が問う。光一は、少々躊躇(ちゅうちょ)したが、しばしして答える。

 

「……『(インフィニティ)』システム。無限大とは言い過ぎかもしれないが、そのエネルギー量はおそらく最大に発揮されれば、世界を破壊し尽くすだけの物はあるだろう。その強大なエネルギーの発生と制御のシステムが『(インフィニティ)』システムだ。

 だがそれは、生半可な事で制御(コントロール)できる物じゃない事は、見ての通りだ。あれですら、水道のバルブが緩んで1滴が漏れた程度のパワーでしか無い。俺は彼女に、とんでもない重荷を背負わせてしまった……」

 

「た、助けなく、ちゃ……」

 

ゴトッ……。

 

 今の一言だけですら、必死で言ったのだろうネギが、しかし大地に倒れ伏す。慌てて明日菜がそれを助け起こした。

 

「ネギっ!!」

 

「あかん! どないしたんやネギっ!」

 

「で、『ディー・エイト』さんは……。今まで……。僕を、僕らを、何度も何度も助けて、くれ、ました……。今、『ディー・エイト』さん……が、ピンチなんで……」

 

「……まずいね。ネギ君の魔法に対する抵抗力が高すぎる。中途半端な石化により、体機能が機能不全を……。簡単に言えば、心臓まで石になったら、そこで脳に血流が行かなくなって死んでしまう。普通なら、一瞬で石化するから、石化解除まで保つんだが」

 

「「「「「「ええっ!?」」」」」」

 

 白髪の少年の言葉に、一同は慌てる。そしてネギと、湖上の光球との間を視線がいったり来たりした。どちらも急がねばならない。しかし、どちらも解決手段がわからないのだ。

 

 だが、白髪の少年が何やらモゴモゴと口の中で呪文を唱える。

 

「…………」

 

「え、あ。あ、あれっ!?」

 

 魔力の奔流が白髪の少年から迸る。そしてネギの石化が解除された。ネギは驚く。

 

「な、なんで君が僕を!?」

 

「簡単な事だよ。僕はある使命の元に働いている。千草さんに協力したのも、その一環だ。けれど、その使命において可能な限り、出来得るならば絶対に、死人を出さずに使命を全うしろとも命令を受けていてね。

 僕は使命を成し遂げるためならば、手段を選ぶつもりは無い。けれどその過程で死人を出したり、関係ない所で悪業に手を染めるつもりは毛頭無いんだ。増してや『リョウメンスクナノカミ』があのざまでは、今回の作戦は失敗だ。これ以上、悪事を働く意味も無い」

 

「……何故、それを教えるんだい?」

 

 ネギの問いに、白髪の少年は肩を竦める。

 

「最後には勝てなかったとは言っても、何度も僕の予想を覆してくれたネギ君への敬意さ。ただの子供だと見くびっていた事は、改めてお詫びしよう」

 

「……改めて、僕はネギ・スプリングフィールド。君は?」

 

「……フェイト・アーウェルンクスと名乗っている」

 

 そしてネギはフェイトに問う。

 

「フェイト。君にはあの現象をなんとか収めて、『ディー・エイト』さんを救出する方法はあるのかい?」

 

「「「「「「!?」」」」」」

 

「無いね。だけど、その技術も、知識も、持っているのは彼等だけだろう」

 

「「「「「「!!」」」」」」

 

 一同は、敵であるフェイトに助けを求める姿勢を見せたネギの台詞に驚くが、素直に答えたフェイトにも驚く。フェイトの視線は、光一たち3体のマシナリーに向けられていた。

 

 そして光一は頷いて湖に向けて歩き出す。彼の行く手では、ますます光度を増した光球に、『リョウメンスクナノカミ』が飲まれて消滅するところだった。楓が光一に問いを投げかける。

 

「貴殿! ご尊名をお伺いしても!?」

 

「……俺は『8マン・ネオ』、『8マン』の系譜に連なる者にして、彼の志を継ぐ者だ」

 

「!! 『8マン・ネオ』殿! は、いや『ディー・エイト』殿を助けてくだされ! 彼女は拙者の『友』でござれば! 本当であらば、自ら助けに飛び込みたいでござるよ。けれど……」

 

 光一はちょっと振り向くと、楓の言葉に笑みを浮かべながら言った。

 

「それは残念ながら、自殺行為だ。だから、同じく『(インフィニティ)』システムを持っていて、なんとかできる俺が行って来るさ。君は『ディー・エイト』が帰って来たら、変わらずに『友達』でいてやってくれ。

 彼女には、1つでも多くの『(きずな)』が必要だ。いろんな意味でね。さて……」

 

 その言葉と共に、光一の……『8マン・ネオ』の姿が変わる。まるで炎が人型を取ったかの様なその姿は、恐ろしくも美しかった。光一が、自分の『(インフィニティ)』システムを発動させたのである。

 

 そしてその輝く人型は、水上を疾駆(かけ)て輝く光球の中心へと飛び込んで行ったのだ。

 

 

 

 光一は、自らの身体(ボディ)を物質でもエネルギーでも無い、その中間の不安定な状態に置いていた。この状態であるからこそ、『8マン・ネオ(こういち)』は凄まじいエネルギーが渦巻く、『ディー・エイト(ちさめ)』が発生させた光球の中で存在を続けていられるのだ。

 

 そして光球の中心で、彼はすっかり石化も解けて仰臥している『ディー・エイト』……千雨の姿を見つける。だが千雨は、ぴくりとも動かない。良く見ると、その身体は『8マン・ネオ(こういち)』同様に、光り輝いて若干輪郭がぼやけていた。

 

 光一は千雨の傍らに(ひざまず)くと、その顔を覗き込む様にした。そして光一の額から、通信用レーザーが発射される。それは千雨の額に照射された。光一は千雨の精神にダイブしたのである。

 

 

 

 そこは暗い闇の中だった。とても肌寒い場所だ。その真ん中に、ぽつんと少女が座っていた。

 

「長谷川……」

 

 その少女は千雨であった。膝を抱えて、しくしくと泣いている。そして彼女の身体には、幾重にも有刺鉄線(イバラせん)が巻き付けられて動きを封じている。

 

「これは……。長谷川のトラウマか。無論、死にかけた恐怖も混じってはいるんだろうけれど、それだけじゃない……。周囲の無理解と、それに対する諦め。代償行為による自己肯定。けれど本人も、それが代償行為だと理解してしまう聡明さを持ったのが不幸。そしてそれが更なる諦めを呼んで……。

 それを『(インフィニティ)』が引っ(つか)んで、無理矢理に具象化した……のか」

 

 光一は、手を伸ばして有刺鉄線(イバラせん)に触れる。有刺鉄線(イバラせん)のトゲが、彼の手を刺して激痛が走った。だが光一は怯む事無く、有刺鉄線(イバラせん)を引き千切る。

 

「長谷川! 聞こえるか長谷川!」

 

「うえぇぇ……ん。ひくっ……。えええぇぇぇん……」

 

「長谷川っ!!」

 

 泣いていた千雨が、しゃくり上げながら顔をわずかに上げる。その視線が、光一を捉えた。

 

「長谷川、迎えに来たよ。さあ、ここから出よう」

 

「だ、め……なんです。痛くて、トゲが……。動け、ない……」

 

「その有刺鉄線(イバラせん)は、長谷川が自分で創り出した物だ。長谷川がその気になれば、自分で消す事ができる」

 

 だが、有刺鉄線(イバラせん)は消えない。光一は言い募った。

 

「一瞬だけでいい。勇気を出して……! 俺だけじゃない、君を『外』で待ってる者がいる! リープ、ダイだってそうだ。ネギ少年も君を助けたいって! それに長瀬楓さんも、自分じゃ物理的に無理だから、俺に頼んで来た! 君を助けてくれって!」

 

「長瀬……?」

 

「そうだ! 皆、君を待ってる! 思い出せ! 『君は一人じゃない』んだ!!」

 

「……!!」

 

 そして有刺鉄線(イバラ線)が千切れ飛ぶ。千雨の身体にも、多数の傷は出来た。だがそれでも、ほんの一瞬の間だけであっても、勇気が諦念と精神外傷(トラウマ)を僅かに乗り越えたのだ。

 

 

 

 そして、周辺(あたり)は光で満ちた。

 

 

 

 湖上の光球から、爆発的に光の柱が立ち昇る。それを息を飲んで見つめていた一同だったが、次の瞬間光球が消滅したのを見て、安堵の溜息を洩らした。そして湖の水面を疾走(はし)り、『8マン・ネオ(こういち)』が戻って来る。

 

 水は流体であり、加速状態の超高速からすればコンクリート級の硬さとして扱えるため、彼からすれば水の上を疾走(はし)る事は造作も無い。その両腕には、『ディー・エイト(ちさめ)』が横抱き(おひめさまだっこ)にされていた。

 

 リープとダイが走り寄る。そして楓が駆けた。

 

「彼女は無事でござるか!?」

 

「ああ、大丈夫。まだちょっと身体が麻痺してるけど、意識もあるよ」

 

「よかった……。本当に、よかったでござるよ……」

 

 光一の言葉に安堵した楓は、ふるふると震える手を伸ばして来る千雨に、その手を握りしめる事で応えた。

 

 ここでフェイトが口を開く。

 

「さて、空気読めてない様で悪いけれど。僕は行くよ。今回の計画失敗を、報告しないといけないからね。もしかしたら、二度と会わないかも知れないけれど……。と言うか、会えば戦いになりかねないから、会えない事を祈ってるよ」

 

「このまま捕まってくれてもいいんだけど?」

 

「そうもいかないよ、ネギ君。僕らには、僕らの正義がある。十二億の人々を救わなければならない。そのために、また幾つもの悪を犯さなければならないとしてもね。

 それじゃ……」

 

 

 

バシャッ!

 

 

 

 フェイトの姿は一瞬で、水に化けて消えた。

 

幻像(イリュージョン)……。小太郎君は、どうするの?」

 

「俺は楓姉ちゃんに負けたからな。素直に捕まるとするわ。かー、貧乏くじ引いたわ。牢屋でも、日曜朝のライダーは観せてもらえるやろか?」

 

「「「「「「いや、無理じゃね?」」」」」」

 

「そやろなあ……」

 

 そして千雨を抱えた光一、リープ、ダイが言葉を発する。

 

「さて、俺たちも今日の所は去るとしようか」

 

「皆さん、お疲れ様でした」

 

「ナントカナッテ、本当ニ良カッタノラ」

 

 刹那と木乃香、明日菜が頭を下げる。

 

「お陰様で、本当に助かりました!」

 

「ほんとやえ。なんてお礼言うてええか……」

 

「ほんと、今回は助かりました! って言うか、前の吸血鬼騒ぎのときのお礼も満足にしてないのに……」

 

 真名と古が口を開く。

 

「やれやれ。結局わたしの働き分はどれくらいに見積もればいいのかな。刹那に請求する額はどれだけにすればいいやら」

 

「うーん。今回の件で、ワタシも修行不足を実感したアル。あの巨大怪獣や、あの光球に立ち向かうにはどれだけ鍛えれば良いアルかね?」

 

「「「「「「いや無理だろ」」」」」」

 

 全員のツッコミが入る。そしてツッコミを入れた1人、夕映が言った。

 

「しかし頭がパンクしそうなのです。魔法とかあまりにファンタジックで、ちょっと浮かれていたのですが……。いきなりソレを超越する超科学の現象……」

 

「済まないけど、この件に関しては出来る限り口にチャックしてくれると嬉しいかな。それと……。

 魔法がファンタジーだなんて、思わない方がいいよ。魔法は俺たちが知る限り、極めて現実的な、『暴力』の道具だ。そうじゃなければ、最低位の基本魔法に『魔法の射手(サギタ・マギカ)』なんて『攻撃魔法(ころしのどうぐ)』があるはずが無い」

 

「「……!!」」

 

 夕映とネギが凍り付く。特にネギの動揺は大きい。今の今まで彼は、『魔法』が当たり前に存在する世界の住人であり、光一が語った様な事は思っても見なかったのだ。何の覚悟も無しに、極めて『普通』に、魔法を学び、身に着けて、そして何の気もなしにその『力』を……『暴力』を振るっていたのだ。

 

 子供たちの様子に、ちょっと申し訳なく思いながらそれでもその反応に満足し、光一は踵を返す。

 

「さて、俺たちも行くよ。それじゃ、また会う日まで」

 

「では皆さん」

 

「サヨナラ、ナノラ」

 

 瞬時に光一、リープ、ダイは高速転移して姿を消した。無論、光一の腕に抱かれたままの千雨も同様である。残された少年少女たちは、各々の思いを胸に、一様に溜息を吐いた。

 

 

 

 ちなみに数分後、ネギの影を(ゲート)にして、救援に来たエヴァンジェリンと茶々丸が出現したりする。来る前に、全てが終わったと知ると、エヴァンジェリンは荒れに荒れたそうだ。




なんとかかんとか、『(インフィニティ)』暴走は収める事ができました。楓さん、目立ってます。ボッチ気味な千雨の、大事な友人枠。上手く良い立ち位置を占めましたね。

フェイト、何とはなしに友好的な雰囲気で去ります。この事が後々にバタフライ効果を起こすか?

割を食ったエヴァンジェリン。クロスオーバー物とかだと、活躍場面を奪われる事が多いですよねー。特に『リョウメンスクナノカミ』戦で。
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