千雨infinity(改稿版)   作:雑草弁士

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Episode:20『修学旅行、閉幕』

 事件が終息した翌日の午前中、ようやくの事で体調が回復した千雨は、宿であるホテル嵐山の中を歩き回っていた。ちなみにネギ以下、関西呪術協会へ赴いた面々だが、まだ帰って来ていない。だが急遽救援に向かった真名、古、そして楓の3名以外は、関西呪術協会の呪術師による式神が身代わりとしてやって来ているので、心配は無いはずだ。

 

 そのはずだったのだが。

 

「……見なかった事にしよう」

 

 千雨は朝食や夕食などに使われるホールが妙に騒がしいので、怪訝に思ってそこに入りかけたのだが。そこの()()を目の当たりにして、すかさず180度回頭。急ぎ離脱する。

 

 そこでは先生部屋に行っているはずのネギ以外の身代わり式神である、明日菜、木乃香、刹那、のどか、夕映らの偽者が、ストリップショーまがいの事を行っていたのだ。まあ、こうなった事には理由はあるのだが。

 

 ネギたちの偽者は、関西呪術協会本山の呪術師たちが飛ばした式神である。しかしその術者たちは、当然ながらフェイトの手によって石化させられてしまっていた。つまり身代わりの偽者たちは、スタンドアローン状態で動いているのだ。

 

 そしてスタンドアローンの式神は、よほど丁寧に創られていない限りは、非常におバカさんなのである。その結果がコレであった。

 

 千雨はとりあえず携帯電話を取り出すと、楓に電話を掛ける。ちなみに番号は、先日教えてもらった。コール音が殆どしないうちに、楓が電話に出る。

 

『長谷川殿! 無事でござったか!?』

 

「おうっ!? あ、ああいや。なんか助けに行ったのに、返って心配かけちまって悪い」

 

『それは気にせんでくだされ。いや、『8マン・ネオ』殿は無事な様な事を言っていたでござるが……。やはり不安は不安でござったな』

 

「いや、そんならもっと早く電話してりゃ良かったな」

 

 ちなみに千雨は、もはや楓との会話で自分の正体を隠す様な言い方はしていない。それに気づいた彼女は、人目がある場所では注意しないとな、と自戒する。

 

「それでなんだが……。ネギ先生たちの身代わりに、関西呪術協会の人が式神飛ばしてくれた様なんだが……。えらい事になってるんだ。暴走して、ストリップショーやってる」

 

『ナント!? それはまずいでござるな……。今、帰還してきた腕利き術者たちが、のどか殿たちの石化解呪をやってるでござるから、それが終わり次第急ぎ帰るでござるよ』

 

「ああ、急いでくれ。待ってるぜ」

 

 ちなみにネギ型の式神もまた、何やら阿呆を先生部屋に振りまいているのだが、魔法先生である瀬流彦先生の尽力でどうにかなっている。千雨は知る由も無いが。まあ、そのおかげで新田先生などが見回りに来ていないので、ストリップショーもどきがバレていないのだが。

 

 そして千雨は、携帯電話を懐に仕舞うと、深々と溜息を吐いた。

 

 

 

 なんとか昼頃にネギたちが帰って来たのを確認、楓とそこはかとなくサムズアップを交わしたり、何故かエヴァンジェリンと茶々丸が中途合流してきたのに内心驚いたり、朝倉が班別の集合写真を撮ったりと、修学旅行四日目は騒がしかったが何事も無く終わる。まあ、『敵』の一味は壊滅し、基本的にそちら方面の心配はいらないのだが。

 

 そして千雨は、班部屋の窓際に座り、外を見ながら光一と体内無線で通話していた。内容は、当然の事ながら『(インフィニティ)』システムについてである。

 

『長谷川……。今言った通り、『(インフィニティ)』は不安定かつ危険なシステムだ。それどころか、未だ未解明な部分も多い。

 ……これは俺がかつて、先代の『8マン』……東八郎さんから、言われた言葉だ。『君は世界を破壊できる力を得た……。それは世界を救う責任を負ったという事だ……。その力、乗りこなせ……。そして私が今いる場所を目指すのだ……』と、ね』

 

『……世界を破壊できる力。世界を救う責任……』

 

『俺は、君に同じ言葉を語らねばならない。勝手にその身体(ボディ)を与えて置いて、ひどい話だと思う。だが……』

 

『光一さん』

 

 千雨は光一の言葉を遮った。そして彼女は言う。

 

『前にも言いましたけど、『口に出して約束しておけば、少しでも自分の気持ちに足しになるかも知れません』から、言っておきますね。この力、乗りこなしてみせます。約束しますよ。

 それに……』

 

『うん……』

 

『それにわたしは、『一人じゃない』……。そうでしょう?』

 

『!』

 

 千雨の言葉に、一瞬の驚きと、そして喜びの感情が伝わって来る。

 

『……ああ。ああ、そうだ! 君も俺も、『一人じゃない』んだ。東さんが俺に託した言葉だ。『忘れるな……。君は一人じゃない……』と』

 

『はい……。忘れません』

 

 光一の語る、初代『8マン』の言葉は、重厚さに溢れていた。初代『8マン』……東八郎は、本当に尊敬できる人だったのだろう、と千雨は思う。

 

 しばし沈黙が続いた。だが光一の声が、その沈黙を破る。

 

『長谷川。もう1つ、『(インフィニティ)』システムの事なんだが……。ああ、いや。俺や君の身体(ボディ)に組み込まれている2基じゃない。もう1基の、そしておそらく、と言うかそうであって欲しいんだが、この世界にあるかも知れない最後の『(インフィニティ)』の事だ』

 

『あと1基……ですか?』

 

『この世界にあるかどうか、本当のところはわからないんだけどね。俺がこの世界に来たときの話は、前にしたよね。『敵組織(ジェネシス)』との最終決戦において、俺、リープ、ダイは暴走する超エネルギーシステムをどうにか停めようと、それに身を投じたって。

 その結果、俺たちと、巻き込まれた未使用マシナリーであった『16th』が、この世界に放り込まれたわけなんだが……』

 

『超エネルギーシステム……。それが……』

 

 光一が、無線の向こうで頷く気配がした。

 

『ああ、最後の『(インフィニティ)』だ。基本、『(インフィニティ)』システムはマシナリーに搭載されて、それに宿った人の意志で制御される。今思うに、それはあまりに危険な『(インフィニティ)』を、人の意識で抑え込もうとしたのではないか、と俺は推測してるんだけどね。

 だけどその『(インフィニティ)』は、マシナリーに組み込まれていなかった。人の意識が介在しなければ、発動させるのすらも困難なはずなんだが、逆に発動してしまったらそれは制御するどころか、単純に抑え込む事すらも難しい』

 

『そんなヤバい物が、この世界に?』

 

『俺、リープ、ダイ、そして君の身体(ボディ)になっている『16th』がこの世界に来ている以上は、その可能性は高い。少なくとも、俺とリープ、ダイの見解は一致してるよ』

 

 千雨は息を飲む。

 

『もしそれが発見されたら、誰かの手に渡らないうちに始末してしまいたい。いや、破壊できる物かどうかすら分からないんだが……。破壊出来ない場合でも、誰かの手に入らない様に厳重な監視下に置いておきたいんだ』

 

『そうですね。それが良いと思いますよ。わかりました。お手伝いさせてください』

 

『済まない……。今の所、まったく見つかってないから、もしかしたらこの世界には来てない可能性もあるけれどね』

 

『だと良いんですけどね』

 

 その後、千雨と光一は2~3の雑談をした後、通信を閉じた。千雨は大きく溜息を吐く。自分の身体(ボディ)の中にある、暴走しかねない危険なエネルギーシステム『(インフィニティ)』。しかもそれ以外にも、マシナリーの身体(ボディ)に組み込まれていない『(ナマ)』の状態の『(インフィニティ)』が存在する可能性。

 

 正直、いっぱいいっぱいだ。だが、やらねばならない。事は、やれるかどうか、ではない。やるかやらないか、なのだ。千雨はボヤく。

 

「以前だったら、賭ける物は自分一人だったんだがなあ……」

 

 今は、そうでは無い。今の千雨は、『一人じゃない』のだ。世界が滅びてしまえば、彼女がその存在に気付けた大事な物……大事な『友』も、愛する者たちも皆、吹き飛んでしまう。

 

「なんとしても……。負けられねえ……。まずは、自分の『(インフィニティ)』システムから、かあ……」

 

 千雨は気合いを入れ直す。窓越しに空を見上げると、夕暮れに星が輝き始めていた。

 

 

 

 翌日の朝早く、修学旅行生一同は京都駅にやって来ていた。引率の源しずな先生が、これからの予定を語る。

 

「ハーイ、皆さん。この後、私達は午前中のうちに麻帆良学園に到着。その後は学園駅にて解散、各自帰宅となりまーす。皆さーん、修学旅行楽しかったですかー♪」

 

「「「「「「はーーーい♪」」」」」」

 

「「「「「「いえーーーい!」」」」」」

 

 いつもながら、この(3-A)連中は能天気だ。千雨はちょっと頭痛がする。だがしかし、その度合いは以前ほどでは無い。随分寛容になったもんだ、と彼女は自分の心の動きを振り返りつつ、思う。

 

 まあ、この連中との付き合い方も、追々にゆっくり学んで行くべきだろう。今までの様に、あっさり諦めるのでは無く。まあだからと言って、自分を捨てるほどに流される気も無いが。ふと、他の連中と一緒になって騒いでいる楓が目に入る。

 

(……ああ言うのも、1つのやり方なんだろな)

 

 ここの所の付き合いで、楓は決して『いわゆるおバカ』では無い事に、千雨は気付いている。まあ、ノリで流されやすい面はあるし、清水寺では舞台から飛び降りかけたが。しかし確たる自身は持ち合わせているし、友誼(ゆうぎ)(あつ)いのだ。

 

 ああやって、周囲と共にバカをやるのも、1つのやり方なのであろう。自分では上手くできる気はしないが。

 

(いや、最初から諦めるのもな。しかしやはり抵抗感が。どうしたもんか。それにあそこまではっちゃけるのも、何か違う気がする)

 

 個々人のキャラ付けと言う物もあるし。とりあえず、無理はしない事にした千雨だった。

 

 

 

 新幹線の車中で、千雨は車窓から外を眺めていた。周囲では3-Aの生徒たちが騒ぎ疲れたのか、すっかり眠りに落ちている。瀬流彦先生、しずな先生、新田先生が其々(それぞれ)に毛布をかけて回っていた。

 

「む? 長谷川は眠っておらんのか」

 

「いえ、神経が高ぶってしまったみたいで。疲れてはいるんですけれど。新田先生、ご苦労さまです」

 

「うむ。疲れているなら、眠らんでも目を閉じていなさい。毛布を掛けてやるから」

 

「ありがとうございます」

 

 千雨は言われた通り、目を閉じてシートを少々倒す。新田先生が、毛布を掛けてくれたので、彼女は再度頭を小さく下げた。新田先生が頷きを返して来た様子が、センサーに感じられる。

 

 そして何時しか、彼女は眠りに落ちていた。波乱に満ちた修学旅行は、これにて幕を閉じたのである。




一難去ってまた一難。なんとか事件は収拾できたのですが、しかしまだ心配の種は尽きません。今の所発見されてはいないのですが、マシナリーの制御下に無い剥き出しの『(インフィニティ)』システムが、この世界に存在する可能性が明らかになりました。千雨はそれに加えて、自分の『(インフィニティ)』システムをも飼いならさねばなりません。

そして作者であるわたしも、ここまで広げた大風呂敷をちゃんと畳めるのか。いえ、頑張りますけど。
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