千雨infinity(改稿版)   作:雑草弁士

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Episode:22『会談の申し込み』

 この日、千雨と光一、それにダイはネットを介して麻帆良学園女子中等部の管理システムに侵入(ダイブ)していた。具体的には、中等部でもごく一部、ごく重要な場所だけに試験的に導入されている監視カメラで映像を盗み見て、卓上の電話機をこっそりスピーカーモードで起動して音を拾っていたのだ。なおリープは、ネットへのダイブが得意ではないため、今日は来ていない。

 

 ちなみに女子中等部の何処(どこ)を盗み見ていたのかと言うと、何故か女子中等部校舎内に存在している学園長室である。もしかしたら学園長である近右衛門は、孫娘である木乃香が女子中等部に在籍しているから、ここに学園長室を置いたのだろうか。そうしたら、木乃香が進学したら、まほ高にでも学園長室を移すのであろうか。

 

 それはともかく、千雨と光一はこっそり学園長室の様子を窺っていた。学園長室に来ているネギの声が聞こえる。

 

『学園長先生、電話でもお話しした通り、フェイトから手紙が来ました』

 

『むむむ。手紙には何とあったのかね?』

 

『いえ、まだ読んではいませんから。けれど、封筒の上に但し書きみたいなのが書いてありまして。僕がこれを学園長先生に見せるのは想定済みだから、気にせずに見せて良いそうです』

 

 映像の中のネギは、懐から封書を取り出した。千雨は訝しむ。

 

「フェイトって、この間の修学旅行でちょっかいかけて来た、あの白髪頭ですよね」

 

「ああ。いったい何を言って来たのか……」

 

 光一も、首を傾げる。一方で映像のネギは、封書を開くとメッセージカードを取り出した。そのメッセージカードは、魔法仕掛けであるらしく、その上にある再生ボタンを押すと幻術で小さなフェイトの姿が映し出される。幻のフェイトは、口を開いた。

 

『やあネギ君。おそらくは近衛学園長も見ているんだろうね? このメッセージはまず第一に、ネギ君に謝罪するために送らせてもらったよ。

 先日に、麻帆良学園に調査のため……。麻帆良学園に僕らの主である、『造物主(ライフメーカー)』が封じられている事の確認のため、僕が送り込んだ悪魔のヘルマン伯爵なんだけど』

 

『『!?』』

 

『彼には、ネギ君には迷惑かけない様にって言っておいたんだけどね。ネギ君には既に僕らの組織が、散々迷惑をかけてるから。いくら魔法世界(ムンドゥス・マギクス)12億人を救う計画のためだとは言えど、さ。

 だけどヘルマン卿、結局はネギ君のお仲間とか攫って、君にちょっかいをかけたみたいで。もっと(しっか)り、完全に命令と言う形でネギ君へのちょっかいを禁じておくべきだった。申し訳ない。謝罪するよ』

 

 光一は呟く様に言う。

 

「ヘルマン卿の事件、って言うのはアレかな? 麻帆良学園本校女子中等部の生徒が2名ばかり攫われて、ネギ少年がそれを追って、最終的には近衛学園長が出張(でば)って事を収めたって事件……。麻帆良学園内の事件記録では、それしかネギ少年が関わった事件は無いからね」

 

「あー、その時はわたし、学園長先生の裏仕事用の携帯電話は傍受してたんですがね。ネギ先生から学園長先生への連絡は表の仕事用、しかも学園長室の卓上電話機に行きましたからね。気付くの遅れたんですよ」

 

 千雨もまた、当時の記憶を思い返す。彼女が事態を知り、攫われた刹那と木乃香を救い出すために現場に向かおうとした時には、もう既に自体は終息していたのである。

 

 幻のフェイトは、話を続ける。

 

『さて、ネギ君。もう1つの用事に入ろうか。『敵同士』である僕らだが、僕らと君らが何故戦っているのか……。その事について、はっきりさせておきたい。色々話せない事もあるけれど……。話せる事は、全部君に教えてしまおうかと思う』

 

『『!!』』

 

『ちょっと一時停止して、メモの準備をしてくれ。このメッセージは最後まで再生したら、自己消去する様に術式を組んでいるからね。これから言う場所と日時で、君と会見したい。こちらは僕1人で行くよ。そちらは何人連れて来てもかまわない。まあ、万一の場合でも、僕は逃げ切るぐらいはできるつもりだからね。

 じゃあ、一時停止をお願いするよ』

 

 ネギは慌ててメッセージカードの画像を一時停止させる。近右衛門が卓上のメモ帳とペンをネギに渡す。そして彼らはメッセージの再生を再開し、フェイトの語る場所と日時をメモした。メッセージカードは、再生が終わると同時に炎に包まれて消滅する。

 

 千雨と光一、ダイはしっかりとその場所と日時を記憶する。

 

「チャント記録ハ取ッタノラ」

 

「そうか。さて、結構長い間ダイブしてたからな。機械的な監視は誤魔化せても、その機械をチェックしてる人間の目は危険だ。気付かれる前に、そろそろおさらばしないと」

 

「ですね、光一さん。じゃ、離脱しましょう」

 

 千雨たちは、一気にネット上の空間を離脱して各自の身体(ボディ)に戻る。千雨は寮の自室のPC(パソコン)前、光一とダイは自分のマンションの同じくPC(パソコン)前である。

 

 千雨は首筋からLANケーブルを抜く。と、体内無線で光一たちの声が響いた。

 

『お疲れ、長谷川』

 

『長谷川さん、今光一とダイから話を聞きました。フェイトが何やら企んでいる模様ですね』

 

『悪意ガ有ルカドウカハ、ワカラナイ。ダケド注意ガ必要ナノラ』

 

 千雨は頷いて言う。と言うか、体内無線で話しているのに頷くと、見た目はちょっと怪しい人だ。寮の同室のザジが、外部団体の曲芸奇術部のテントに宿泊している事に、彼女は感謝すべきかも知れない。

 

『そうだな、ダイ。光一さん、どうしましょうか。ネギ先生たちがフェイトに会いに行くなら、こっそり付いて行きますか?』

 

『難しいところだな。だが……。行った方が良いのかも知れない。だけどとりあえずは、もうすぐ麻帆良学園は学園祭だろう? フェイトもそれを考慮したのか、日時は学園祭終了後しばらくしてからだった。

 この件はもう少し、考えてから結論を出そう。ネギ少年や近衛学園長の結論も、まだ出てないみたいだし』

 

『わかりました』

 

 果たしてフェイトの狙いは、何処(いずこ)にあるのか。千雨はそれを考えながら、いつの間にか自分から巻き込まれに行っている事に気付くと苦笑を漏らしたのである。

 

 

 

 突然小太郎がやって来た。小太郎と言うのは、修学旅行の際に天ヶ崎千草の配下としてネギたちに攻撃を仕掛けて来た、あの犬上小太郎の事である。彼は単に千草に使われていただけの立場であった事、そして捕まってからは真摯に反省の様子を見せていた事から、西の長である近衛詠春が特に許可した事もあり、赦されて釈放されたのだ。

 

 そして釈放された小太郎は、近衛詠春や近衛近右衛門の許可を取って、麻帆良学園本校小等部へと転校する。その目的は、ネギたちと近場で競い、鍛え合いたいと言う物であった。裏表のないその願い故にこそ、詠春や近右衛門の許可が得られたのであるが。

 

 ことに近右衛門は、自身が魔法を教導しているネギに、同年代の友人が居ない事を危惧していた。それが幾分解決できそうだと言う事で、近右衛門は諸手を挙げてそれに賛成した模様だった。

 

「と言うわけで、小太郎が東にやって来た模様でござるよ」

 

「なるほど。わたしも裏の手段(ネットにダイブ)で情報は()ったけど、そっちの手段だと通り一遍の情報しか手に入らねえからな」

 

「まあ、小太郎の件は裏は無い様でござるな。あやつ自身、裏表の無い性格でござるし」

 

 千雨は今、楓と語り合いながら登校していた。その視線は、仮装をして登校している大学部の面々に向けられている。

 

「毎年の事ながら、すげえよなあ……」

 

「そうでござるな。拙者も、初めて麻帆良に来て、初めて学園祭を見たときは、何事かと思ったでござれば」

 

「これでまだ、準備期間中なんだからな」

 

 仮装の中には、怪獣や恐竜、(サムライ)やロボット等々、様々な姿が見受けられる。楓は、忍者の仮装を見て苦笑していたりした。

 

「中々の出来でござれど、やはり今一つでござるなあ」

 

「いや、本職があまり突っ込むなよ」

 

「でござるな、にんにん」

 

「あ。失敗したな。早起きして超一味の屋台で飯食うんだった」

 

 千雨が言った『超一味の屋台』とは、彼女らのクラスメートである超鈴音らがやっている、点心の店『超包子』の店舗の事である。普段『超包子』は、肉まんを始めとする点心の移動販売だけなのだが、学園祭準備期間中に限っては、路面電車を改造した屋台を出して大っぴらに商売をしているのだ。

 

 ちなみに激旨である。

 

「うっかりしてたでござるな。夕食は電車屋台でいただくでござるよ」

 

「そうすっか。あ、やべ。急ごう楓」

 

「おおっと、今日はHR(ホームルーム)でクラスの出し物について相談するんでござったな」

 

 そして千雨と楓は、女子中等部校舎へと急いだ。

 

 

 

 そして今、千雨は頭を抱えていた。いや、学園祭で3-Aが出し物として、メイドカフェをやる事になったのは理解する。だがミニスカの巫女服、ミニスカのシスター服、スクール水着、ミニスカの猫耳付きナース服、幼稚園の制服でのボッタクリ接待は、絶対に何か違う。

 

 練習台にされて、数万円を毟られているネギに、ちょっと憐憫の情が湧く。ちなみに楓は、スーツのインナー姿にジレと呼ばれるベストを着こんだバーテンダー姿で、ひたすらにカクテルを振る練習をしている。流石に巻き込まれるのは避けたか……と思う千雨であった。

 

「あー、おまえら。その辺にしとかないとマズいぞ。隣のクラスは次、新田先生の国語だし、HR(ホームルーム)の時間終わるし」

 

「えっ……」

 

「きゃー!? 急いで撤収、撤収ーーー!!」

 

「だから騒ぐと新田先生来るぞ」

 

 後ほど時間を見て、こいつらにメイドカフェがいかなる物か、きっちり教え込まないといかんな、と千雨は思う。あと、ネギに金を返しておく様に、しっかりと言い含めないといけないだろう。いくらなんでも、無理矢理に練習台にして、何か間違ったボッタクリバーで金を毟るのは、犯罪だ。

 

 と言うか、自分が巻き込まれるのは覚悟の上で、新田先生に引き渡しちまえば良かったかなあ、と千雨は思う。彼女は大きく溜息を吐いた。

 

「やれやれ。楓、お前ちょっと今回のはズルくねえか?」

 

「まあ、そんな気もしたでござるが。と言うか、ああ言った方向に悪ノリが流れるとは思ってもみなかったでござるよ」

 

「ネギ先生が現金毟られるのは、あれはマズいだろ」

 

「わかってるでござる。五月と語らって、こっそり現金は回収したでござれば」

 

 まあ流石に『超包子』の料理長にして、クラスの良心とも言える四葉五月だ。一見馬鹿騒ぎに乗ってるフリで楓と共にカクテルを作っていたが、最後の一線はしっかり守っていた模様。

 

「んなら、良いんだ。いや、あんま良くねえが。なるべく早目に返しに行けよ?」

 

「無論でござるよ」

 

 後は実際に衣装の用意とかしたいいんちょに、色々メイドカフェの資料を揃えて渡しておけばなんとかなるだろう。千雨は自席に戻りつつ、肩を竦めた。

 

 

 

 この時点で千雨の頭にある心配事は、学園祭終了後に待ち構えている、ネギに対するフェイトの会談申し込みであった。だがその前に学園祭で、巨大なトラブルが待ち構えている事を、彼女は勿論光一たちもネギたちも、まったく知り得なかったのである。




フェイトが、何やら企んでいる模様です。ちなみに原作とは打って変わって、ヘルマン伯爵にはネギたちの調査は命じませんでした。このあたり、今までの経緯が異なった事での変動ですね。バタフライ効果と言うには、原因ははっきりしてますが。ネギには、少しはやるじゃないか的に思ってはいますが、直接殴られてないのでそこまで脅威とか敵愾心とか無いので。

だけどヘルマン卿は、ついつい手出ししちゃったので、その件とりあえず謝って、その上で何がしかコナかけようかなと。その程度には評価はしてます。

でもその矢先、学園祭がありますからねー。どうなることやら。

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