ルビサファは現役世代だったので当時の記憶を頼りにって感じの作風です。
ホウエン地方 131番水道 アクア団アジト
擦り減ったゴム底の
眼下には巨大なプール——いや、正確には
波間から時折浮かぶサメハダーの背鰭やらキバニアの魚影が「仮にここに落ちた場合まず助からない」事を本能に伝えている。
背後を振り返ればシズク、ウシオ、イズミ——かつての俺の上司——
「さて、ツナミさん。何故貴方が我々を裏切るのか……その理由についてはとうとう最期の最期まで一切口を割ってくれませんでしたね」
「………」
3幹部の一人——イズミは足元でドス黒い歯茎を剥き出しにして唸るグラエナを宥めつつ、その豊かな赤い髪をかき分けつつそう言った。
「飢餓状態にし、額に水を垂らし続け、何日も眠らせて貰えない水牢に押し込み、殴る蹴るといった直接的な暴力を振るう……ありとあらゆる手を講じても決して手の内を明かさない忍耐力……
痩せた三白眼の坊主の男——三幹部のシズクは憐れむような目で俺を見ながら、幹部にのみ着用を許された青ジャケットの胸を掌で軽く叩いた。
「まぁまぁ皆さん。これ以上の詮索はよしとしましょうよ。さてツナミさん。貴方ご自身がかつて裏切り者にそうしてきた通り、今後のご自分がどうなるかはもうお分かりですね…?」
筋骨隆々の裸体にライフジャケットの様な分厚いベストを羽織った男性——アクア団幹部の3人目 ウシオはそう言いながらじりじりと彼我の距離を詰める。
向こうはグラエナが6匹。
一方こちらは入団以来貸与されていたモンスターボールをベルトごと没収されている状況——いわば丸腰だ。
「………分かってるさ。環境テロ屋共め。俺もかつてはここから、
思い出したくもない記憶。
初めて人を殺した時……「考え直してくれ」と泣き喚く部下をこの処刑台に追い詰めて突き落とした時…俺の両手は震えていた。
この水槽の下には強化ガラスの壁を挟んで
獰猛な水ポケモンに全身を食い荒らされ、断末魔の悲鳴を上げながら、水面を自らの鮮血で赤く染め上げてゆく裏切り者の姿を目にして初めて俺は「一人の人間の人生を終わらせてしまった」と気づいた。
「
世の中には「処刑人」と呼ばれる職業もあるようだが、天井から縄で首を括られた死刑囚の足場をボタン一つで消し去る彼らの心中も、恐らく近いものだったろう。
その罪悪感を塗り潰す材料が「
そして今度はひょんなことから俺が「刑を執行される側」になったという訳だ。
どちらも、普通の人生を送っていればそうそうできる体験ではない。
ポケモントレーナーとなりジムに挑む者、コンテストに挑む者、あるいはなんらかの会社組織に所属し経済活動に勤しむ者。
この世界で10歳を迎えた子供には皆一様に、己の能力に合わせて無限の可能性が約束されているといっていい。
そして俺は、
しかし、もし時間が戻せるなら他の道も歩んでみたかった。
もし、もう一度人生がやり直せるのなら…。
「……さてツナミさん。死に急ぐ準備は出来ましたか…?もし最期に言い残した事があれば今のうちに聞いておきますが……」
「……頭領に伝えとけ。お前らはきっと……自分達の行いの結果に後悔するぞ…と」
「フフッ…そうですか……では」
胸板を襲う衝撃。返る天地。死への
俺は重力に身を任せながら、波打つ紺碧の天へ召されていった。