世間は緊急事態みたいですし暫く療養したいですね
シダケタウン ポケモンコンテスト ノーマルランク会場
「あっ、いたいた。ルビーくん!」
きのみブレンダーが何基か置かれた会場のロビー。
その一角で一人、神妙な面持ちで機械に向かう10代の少年——ルビーに向けてミツルは手を振った。
「………」
「ルビーくん‼︎ねぇルビーくんってば‼︎」
ルビーはブレンドに無我夢中といった感じで、愛想なく友人の挨拶を無視すると、最後の仕上げとばかりにブレンダーの中のポロックを練り上げていた。
「
ルビーは出来上がった『青のポロック』を天井の蛍光灯に翳すと、その出来栄えを自画自賛した。
「………良い線は行ってるが……完璧とは言えないな…」
「な、なんですかあなたは⁉︎」
「怪しい者じゃない。俺は………そうだな…通りすがりの料理人さ」
「……そうは見えないけどね……それより、僕のポロックのどこがいけないって言うんですか?」
「いや、別に悪いとは言ってない。ただ『原料』の『カゴの実』に関してはこっちの……もっと渋皮の厚い実を使った方がもっと良い…青いポロックが出来ると判断したまで———ってうわぁっ⁉︎何だ⁉︎」
俺がアオギリの観賞用水ポケモンを育てていた際に得た知識を少し語ってやると、それまでムッとしていたルビーはいきなり俺の両手を握り、目をキラキラ輝かせた。
「………
「…………なぁ、ミツルくん…この人はいつもこんな調子なのか?」
「えぇ……まぁ僕は慣れてますけど…」
俺がやや面食らいながらミツルに問いかけると、ルビーはようやく旧友の来訪を察したようで、親しげにミツルに声をかけた。
「やぁ、ミツルくんじゃないか‼︎もうっ。人が悪いなぁ。居るなら初めから言ってくれれば良いじゃない」
「………さっきから声はかけてたんだけどね…」
「ところでこの料理人さんは、ミツルくんの知り合いかい?」
「ううん。さっき病院で会ったんだ。さぁ、改めて紹介するよ。この人はルビーくん。ポケモンコンテストマスターランク覇者にて、僕の恩人なんだ。ちなみに彼の父さんはトウカシティのジムリーダー、センリさんなんだよ‼︎」
(こらこらミツルくん‼︎最後のは伏せといてくれよ‼︎)
(えー、でも真実じゃないですか)
「……あぁ。よく知ってる」
「えっ⁉︎僕たち以前何処かで会いましたっけ⁉︎」
「………いや、冗談だ。俺はシラーズ・ヴィティス。カイナシティ出身のさすらいの料理人だ。今は療養でシダケに来ている。よろしくな」
「ええ。よろしくどうぞ。シラーズさん。ところで……」
「ん?何だね?」
「もし良ければ、僕とポロック作りしませんか?ほら、材料はここに沢山用意しましたから‼︎」
ルビーは金属製のバットにクラボ、カゴ、ラム、マトマにノメルとあらゆる味のきのみを載せ、俺に見せてきた。
「………このオレンはダメだな。採ってから時間が経ち過ぎて、酸味も甘味もスカスカだ。あと、こっちのモモンも除外してくれ。
「ハイ‼︎師匠‼︎」
「………いつから弟子に…?」
「ホラホラ何をしてるんだいミツルくん、君も参加するんだよ?」
「ええっ⁉︎僕もですか?」
「勿論‼︎ポロックは大勢で作った方が断然滑らかになるからね。という訳で———」
「
* * * * * *
きのみブレンダーを囲んではや数時間。
俺は出来上がったポロックのうち、納得のいく出来栄えの物を2、3個かいつまむと、ルビーのポロックケースに入れた。
「良いんですか?」
「あぁ。元は君のきのみだからな。俺の分のポロックはもう出来上がったし、これは少々お裾分けしておこう」
「
「……あ、あぁ。さて、俺は残り物をコイツに……っと」
俺はボールからヒンバスを出し、抱き抱えるとその不細工な唇に青いポロックを近づけた。
「どうだ?美味いだろう」
(コクコク)
「おお‼︎ヒンバスだ‼︎
ルビーは自分のボールを懐から出すと、ミロカロスを繰り出し、頭を撫で始めた。
「随分懐いてるんだな」
「えぇ。MIMIはヒンバス時代から大事に育てて、共にコンテストで優勝したんです。去年のホウエン危機の時は僕がひどい事を言ってしまって一度は僕の手を離れてしまったけど……今はこうして互いに信頼関係を築きましたから」
えっへん!と胸を張りながら語るルビーの横で、俺はポロックを食べ終え随分と艶のよくなったヒンバスの背鰭を撫でた。
「ヒンバス…こう見えて意外と尽くしてくれるポケモンだ。俺も過去に命を救われた事がある。あれは確か………いや、何でもない。忘れてくれたまえ」
自分の血濡られた過去について口を滑らせそうになり、俺は慌ててお茶を濁す。
イカンイカン。
この少年達———ルビーとミツル達の周りも他のホウエン人同様、
あまり長居をすればボロが出るというものだ。
「さてルビーくん。俺はミツルくんとそろそろ失礼するよ」
「えっ?もう行っちゃうんですか?」
「あぁ、あんまり長居しても悪いからな。美味いポロックが欲しくなったらこの番号に連絡をおくれ」
「ええ、必ず連絡します。シラーズさんお元気で。ミツルくんもね」
「うん。久々にルビーくんの顔が見れて嬉しかったよ。ほらRURU。ルビーくんのところに帰ろうね」
「きるるー♪」
俺は自分のポケナビ番号を書いた紙をルビーに手渡し、身支度を整え始めた。
ふとロビーの空気が冷たく感じる。
所謂『第六感』というやつか……。
キルリアを助けた時も感じたが、脳をやられてから不思議とこういう勘がよく冴えるようになった気がせんでもない。
上手く言葉では言い表せないが、『おぞましい悪意を持った方々の来訪』を己の勘が告げていた。
「———みんな席を離れるな‼︎様子がおかしい」
「な、なんですか⁉︎いきなり‼︎」
「静かに‼︎あいつら……ひょっとして俺を追って…」
俺はなるべく目を合わせないようにミツルとルビーに合図しながら、改めてゆっくりと背後を振り返る。
総員5名。
ロビーの入り口には2人。出入り口を封鎖するように仁王立ちしている男女が1組。
リーダー格の男2人は受付嬢に詰め寄り、時折がなり立てながら脅し文句を口にしている。
彼等の服装はツノ付きのフードが特徴的な赤装束。
胸元には山を象った『M』の徽章。
そう……あいつらは『マグマ団』
かつて『大地を拡げ、人類の発展を促す』事を目指して俺達アクア団と熾烈な抗争を行った集団の生き残りだ。
「ですからお客様、当会場に『ツナミ様』というお名前の方の出場は———」
『だから何度も言わせんなって‼︎見たって奴がいたからワザワザ来たんだよ‼︎匿ってんなら容赦しねえぞ⁉︎』
「ひ、ひぃっ⁉︎」
「バン!」とリーダー格の男が受付のテーブルを叩くと受付嬢はすっかり怯え、手渡された写真を取り落とした。
風に乗ってヒラヒラと飛んできた一枚の写真は、俺達の席まで流れてくる。
そこには青バンダナに縞シャツを着込んだ、アクア団時代の俺の姿が写っていた。
「シラーズさん。こ、これは一体………」
「あなた……まさか⁉︎」
ルビーとミツルは、写真に映った俺の顔と、目の前の俺の顔を見比べ愕然とする。
「フッ……『悪事千里を走る』か…。やっぱり隠し通すのは無理だったみたいだな。ようアホ共‼︎いい加減見苦しい事はよせ。俺が『ツナミ』……アクア団の『ツナミ』だが、何か用か?」
受付嬢、ロビーで休む観客達が一斉にこちらを振り返る。
肝心の赤装束——先程まで受付嬢を脅していたリーダー格の男2人は『やれやれ手間が省けたぜ』とでも言いたげな表情で、指をボキボキと鳴らしながら迫ってきた。