仕事が忙しくてもう気が狂う。
2週間くらい休みをくれや
「フフッ…久しぶりだねぇ……ルビー。それに『ツナミ』」
温かな陽光をバックに現れたマグマ団の女性———カガリは妖艶な笑みをフードの下で浮かべながらそう言った。
「カガリさん⁉︎そんな……もう団は抜けた筈じゃ———」
「ああ、確かに抜けたさ。今はあんたと同じようにコンテストの道に進んでる。けどね……」
カガリは現在進行形で俺たちのミロカロスに捕らえられた下っ端団員達を一瞥してから口を開いた。
「どうにも…先の騒動で割りを食った連中の後釜争いに収まりがつかないものでさ…。見ていられなくなってた所、そこのツナミ———あたしらのかつての仇敵に白羽の矢が立ってね。いっそけしかけて、こいつらに思い止まらせてやろうと思ったわけよ」
「それは分かりますけど……何もコンテスト会場でやる事はないじゃないですか‼︎忘れたんですか?あの時僕に力を貸してくれたのを‼︎」
ホウエン危機の際、カガリはルビーにグラードンとカイオーガを操る『
「フフッ……それはね。あんたが『無血』でこの事態を収めてくれると信じてたからさ」
「……そりゃ、大事なお客さん達の前で大立ち回りはできないですけど…」
「それにそこの男———ツナミに関してもだが…………あたし自身は何かされたって恨みはないんだけどね。例の騒動が収束してからというもの……部下共も
「……結局こいつらも俺と同じだな……どいつもこいつも、皆リーダーを喪った後の『幻肢痛』に苦しんでたという訳か……」
「『幻肢痛』か……いい響きだねぇ……。私もかつて所属してた組織が酷いことになってると聞いて流石に負い目を感じてこうしてノコノコ現れた訳だが、これでもう心配すべき事はなさそうだ。安心したよルビー、それにツナミ。あんたらに託した甲斐があった」
そう言い切ると、カガリは無力化された下っ端達に対し、鋭い口調で話しかけた。
「ほらアンタ達‼︎これで分かったろ⁉︎あんたらが『カガリ』の名を襲おうなんて100年早い‼︎負けを認めるなら今のうちだよ‼︎ほら‼︎」
「「は、はいぃっ‼︎」」
俺とルビーが合図すると同時にミロカロスの拘束が緩み、縛り上げられていた下っ端達は一目散に逃げ出した。
「フッ………意外と優しい所もあるんだねぇ……噂とは大違いで拍子抜けしたよ」
「………今の俺は堅気で、あいつらともお前とも既に『利害関係外』だ………命を奪う勢いで俺に挑む相手がいるとすれば、それはむしろアクア団の中にいる。そこに倒れてる2人も口程にもない連中だったが命までは奪っていない。とっとと連れ帰るんだな」
俺がそう言うと、カガリは2体のキュウコンをボールから繰り出し、無力化された2人の団員を背に乗せるよう命じた。
「……さて。悪いね。邪魔しちゃって。ルビー。
「……カ…カガリさん⁉︎もう行っちゃうんですか⁉︎」
「ああ。目的は果たしたからね。次はコンテストの土俵で、あんたと正面からやり合えるのを楽しみにしているよ。じゃあ」
カガリは負傷した2人の下っ端と、それを背負うキュウコンを引き連れてコンテスト会場の出口へと去っていった。
* * * * * *
シダケタウン サナトリウム
「ほら、いいよ〜MIMI。もっとこう流し目で。シラーズさんのミロカロスもほら、もっと表情に気品をさぁ‼︎」
「………」
マグマ団との騒動後、シダケの療養所の病室にて俺は両脚の稼働部にグリスを差しながら、目の前で自分のヒンバス——もといミロカロスと自分のMIMIのツーショットを目を輝かせながら撮影する少年、ルビーをなんとも言えない表情で眺めていた。
「ほらほらキルリア‼︎RURUと一緒にお辞儀のポーズを……う〜ん
「……ルビーくんよ。先程も聞いたが…君はいつもこうなのかい?」
「勿論‼︎愛するポケモンの成長はちゃんと写真に収めなきゃ。ほら、ちゃんとアルバムに残してるんですよ!えーっとこっちがジョウト時代のRURUでぇ〜こっちが進化したてのMIMIで……」
「まぁ……お前のポケモンが美しいのは分かるが…」
「本当ですか‼︎いやぁやはりあなたはお目が高い‼そんな優れたセンスをお持ちの貴方には、是非とも来月ミナモで開催予定のマスターランク︎に———」
「だがなぁ…あんまりここで騒ぐと……」
目を輝かせながら俺の横たわるベッドに身を乗り出してお手製のアルバムを見せるルビーの背後に、いつか見たナース姿のラティアスの影が現れたのを確認すると、俺はがっくりと項垂れた。
(うるさいっ‼︎病院では静かにしてよねっ‼︎)
甘美な少女の声色で奏でられた怒号が、俺とルビー両名の脳に直接響いた。
* * * * * *
プルルルルル
ふとポケナビに着信が入っているのに気付き、俺は耳に当てる。
「やぁシラーズくん。ダイゴだよ」
「……なんだお前か…」
「何だとはつれないなぁ……最近シダケで倒れて病院に担ぎ込まれたって聞いたからご様子伺いの電話だったんだけどね」
「……ああ、それは心配いらない。今しがたリハビリがてら運動してきた所だ」
『マグマ団の残党とやり合った』という話題は経緯を説明するのも面倒なので敢えてお茶を濁す。
「そうか!それは良かった‼︎知ってるかもしれないけど君の身体…それに頭もまだ完全に治った訳じゃない。くれぐれも無理はしないでおくれよ」
「………要件はそれだけか?ならそろそろ切るが…」
「いや失礼。実は例の軍団について新たな情報が入った。君のよく知る男だ。『アクア団幹部のシズク』……と言えばわかるかな?」
「何?本当か⁉︎奴は今何処に⁉︎」
シズク———かつて
奴が生きているとしたら、ウシオやイズミをやる前に、両脚の件も含め礼をしに行かねばなるまい……。
「丁度カナズミで水道局員に偽装していたところ
「やれやれ……こっちの事情はお構いなしか……」
「ご足労をかけさせて悪いね。ただ、彼からは君自身の今後に関わる話も聞けそうなんだ。療養中の所悪いが、協力してくれると助かる」
「分かった。すぐ向かうからお前は親父さんと社長室で紅茶でも飲みながら待っているといい」
「……ありがとう。カナズミについたらまた連絡してくれると助かる」
ポケナビを切り、ズボンのカーゴポケットに収める。
ふと振り返ると、先程まで騒いでいたルビーと、いつの間にか現れたミツルが俺を怪訝な目で見つめていた。
「…なんだ?俺の顔の前に飛行機でも飛んでるような顔をして」
「今の電話……ひょっとしてダイゴさんですか?」
「ああ、そういえば君達はあの騒動を奴と止めたんだったな。どうにも俺はアイツの高等遊民ぶった飄々とした立ち振る舞いが気に食わないんだが……どう思う?」
「いえ、そんな事じゃなくて‼」
「ん?」
ダイゴに負け劣らず飄々とした表情を滅多に崩さなかったルビーの顔と口調が急に険しくなり、俺は目を丸くする。
「元アクア団のあなたがダイゴさんに呼ばれて何をするか分からないですけど………これだけは聞いておきます」
「……何だ?聞いてみろ」
「また……焼かれるんですか…?
「………」
「答えて下さいよシラーズさん‼︎僕たちは命がけで
「…言うなら?」
「シラーズさん。僕はあなたを倒します」
「ル、ルビーくん‼︎ダメだよ!」
「ミツルくんは下がって、そのまま病室を出るんだ。いいね?」
「ルビーくん‼︎」
ルビーは病床で不敵な笑みを浮かべる俺に明らかな敵意を向けると、先程まで俺のミロカロスとキルリアに戯れていたRURUとMIMIに命じて戦闘態勢を取らせた。
「なるほど…あくまでやる気か。だがいいのか?俺の名はツナミ——『呑み込む者』だ。先程の
俺は病床に寄り添うミロカロスの頭を撫でつつ、サイドテーブルに置いたダイバーナイフの刀身をべろりと舐めた。
「…………くっ‼︎」
「フフフ……怖かろう。同じポケモンを使ってバトルした所で、俺が狙うのは『ポケモン』ではなく『君自身』なのだからな……まぁいい。ムカつく同期の息の根を止めに行くまでの駄賃だ。退く気がないならこちらから行かせてもらうぞ。
俺はそう言い放つと、目の前に立ちはだかるルビーに向けてミロカロスに『はかいこうせん』の発射を命じた。