元アクア団員のお菓子屋さん   作:ロートシルト男爵

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アルトマーレの音楽(劇場版ラティアスとラティオスのテーマ)大好きなんですよね(昔あれを弾いてたアコーディオニストのお弟子さんに音楽の手ほどきを受けた事がある分思い出深い)


第四話 蘇生

 

 

 

アクア団脱走事件から数カ月後……。

 

 

 

 

 

 

 

一年にも三年にも感じる程に長い昏睡状態を経て、俺はようやく現世へと意識を取り戻した。

 

 

 

 

 

 

 

「先生!先生!あのアクア団の男——いや、患者さんが目を覚ましましたよ‼︎」

 

 

 

 

「何?それは本当か⁉︎てっきり脳死(植物人間)かと思っていたが……こんなこともあり得るのか……ともかく君はツワブキ社長ほか彼に会いたがってる面子に連絡してくれ!あの子には私から直接伝える!」

 

 

 

 

見知らぬ天井……。辺りが騒がしいが、どうやらここはどこかの病院らしい。

 

 

 

 

俺は数年ともとれる程長らく閉ざし続けた瞼を開くと、過剰な程に眩しい蛍光灯の灯りに目を慣れさせながら辺りを見回した。

 

 

 

 

周りはカーテンで仕切られており、ベッドの傍のサイドテーブルには俺の身につけていた衣類——肩口を地に染めた縞シャツにバンダナ、膝から下を乱雑に引きちぎられたズボンが並べられている。

 

 

 

 

ふと自分の姿を見る。

 

 

 

 

(……やはりか…諦めていたとはいえ、流石にこうして現実を突きつけられるとショックはでかいな…)

 

 

 

目を覚ました俺はいつものアクア団制服の代わりにミントグリーンの患者衣に身を包んでいた。

 

 

 

 

「あの海でサメハダーに喰われたのは夢だったのではないか…?」と淡い期待を込めて足先に手をやってみたが、やはり膝から下はなく、不自然な形で再生した皮膚があの時負った傷の断面図をかろうじて覆っているだけの状態で、俺はがっくりと項垂れた。

 

 

 

 

「………流石にショックは大きかったみたいだね。ツナミ……いや、シラーズくん」

 

 

 

 

ふと傍から声をかけられ、俺は動かぬ身体で飛びのきつつも振り返る。

 

 

 

 

「お前は……ツワブキムクゲの倅………⁉︎」

 

 

 

 

「やだなぁ、ちゃんと名前で呼んでくれよ。僕はツワブキダイゴ。一年前君の部隊が襲ったデボンコーポレーション社長——ツワブキムクゲの息子だ……」

 

 

 

 

デボンコーポレーション——カナズミシティに本拠地を構える大手企業の一つ。

 

 

 

 

 

扱う品は日用品や通信機器等の工業製品が中心——その中で極秘裏に開発されていた新型潜水艦「かいえん1号」のパーツを巡って俺達アクア団は彼等と一悶着起こした事もある。

 

 

 

 

かつて総帥は伝説のポケモン——超古代ポケモン、カイオーガの復活という名目で俺の上司であるSSSを使い、デボンの社長——今俺を見下ろしているツワブキダイゴの親父を手にかけたらしい。

 

 

 

 

俺は当時別任務に当たっていたが、同期のシズクは当時の功績を称えられ晴れて幹部へと昇進したという後ろ暗い経緯もある。

 

 

 

 

「……何の用だ…金持ちのボンボンが」

 

 

 

 

 

「……なっ⁉︎」

 

 

 

 

 

「……見舞いのつもりなら気の利いた態度は取れないから帰るといい。ゆすりのつもりなら……本来それは俺の得意分野だったが……生憎差し出せる物などそのズタボロの制服以外無いからな……どっちにしろ諦めて帰るがいいさ」

 

 

 

 

「君は……あくまで現役(アクア団)の頃から態度を変えないつもりか?」

 

 

 

 

「……俺が憎けりゃ殴ればいい。俺の上司がお前さんのお父上にしたのと同じようにな。さぁ、俺は無抵抗だぜ?どうする?」

 

 

 

 

「くっ…」

 

 

 

 

 

しまった……つい軽口が過ぎてしまった。

 

 

 

 

アクア団では規律が全て。

 

 

 

 

階級が上の物には絶対服従が鉄則な分上官達とのコミュニケーションに関しては随分気を遣ってきたつもりだが、利害関係のない相手には「実力では上」という驕りも相まって、つい皮肉るような接し方をしてしまう。

 

 

 

 

「まぁまぁシラーズくん、そんなにムキにならんでも良いゾナ!」

 

 

 

 

俺が吐いた暴言に顔をしかめるダイゴの陰から、独特のイントネーションと共に見知らぬ背の低い初老の男が現れた。

 

 

 

 

 

歯車を象った縁の瓶底眼鏡をかけ、ドジョウ髭を生やした怪しい出立ちのジジイだ。

 

 

 

 

「……ところでダイゴさんよぉ…その妙ちくりんは何者だ?」

 

 

 

 

俺がダイゴと目を合わせながら指差してそう言うと、妙ちくりんは怒髪天を指すといった感じで怒り始めた。

 

 

 

 

「き…きさまホウエンに住みながらワガハイを知らんとは……それでよくアクア団の幹部が務まるゾナな!」

 

 

 

 

「だから誰なのかって聞いてんだ——」

 

 

 

 

寝過ぎで頭が痛んでるところに大声を出され、俺もついカッとなって怒鳴りかけたがダイゴは俺の言葉を静し、コホン。と咳払いをした。

 

 

 

 

「彼は人呼んで『カラクリ大王』。自称『ホウエン一の天才発明家』で、彼が建てた『カラクリ屋敷』はこのカイナ近辺でも有名なアスレチックとして地元のトレーナー達に人気が高いようだ」

 

 

 

「『自称』が余計ゾナ‼︎全く最近の若いもんは年長者に対する礼儀を知らんゾナ……」

 

 

 

 

「んでダイゴさんよ、お前さんがその『天才発明家』を連れてきたのは何故だ?まさか『お手製のカラクリ人形劇をここで披露しよう』ってならよそでやってくれると助かるが……」

 

 

 

 

「いちいちカンに触る物言いがむかつくゾナな……まぁいい、本題に入るゾナよ。今日わざわざカイナまで出向いたのは、これを渡す為ゾナ‼︎」

 

 

 

 

カラクリ大王は脇に抱えた靴箱3つ分程の段ボール箱を俺の枕元に置くと、封を切って中身を見せた。

 

 

 

 

「これは……義足?」

 

 

 

 

箱の中身は金属製の人工義肢(バイオニック・レッグ)だった。

 

 

 

色合いが無機質な鋼色なのを除けば、寸法は失う前の俺の脚とほぼ同じ。

 

 

 

手に取って眺めてみると、足の裏——土踏まずから踵にかけて穴があったり、折り畳み式のレバーのようなものが格納されているのが怪しい。

 

 

 

「見ての通りただの義足じゃないゾナ!」

 

 

 

 

「具体的にどう違うんだ?」

 

 

 

 

「………コリンクやピカチュウ、エレブーといったでんきタイプのポケモンの体内には小さな発電器官が存在するのを知っとるゾナな?」

 

 

 

「ああ」

 

 

 

 

「彼らは自身の発する生体電気を用いてコミュニケーションを取り、時として外敵から身を守るという……これはその応用で、我々人間が脳から神経に向けて発する微弱な電気信号をキャッチすることで、99.9%生身と同じ動きができる魔法の義足ゾナ‼︎」

 

 

 

 

 

「まさかそんなものが実用化されていたとは……」

 

 

 

 

「……実はまだ実用化はされておらんゾナ……元々そこのイケメンの父上——ツワブキ社長の次期商品リストにあったものを、ワガハイの科学力で試作したのが始まりゾナ」

 

 

 

 

 

「『皆さんの生活の為に何でも作ってます』か……確かにこれがあれば、事故や病気で脚を失った人々の生活は格段に良くなるだろうな……」

 

 

 

 

 

「元々彼は少し前に先天性の病気で生まれつき手足の短い子供向けの義肢を作った経験があったからね。それで今回君を『一般モニター』とした上で構想段階だったこの義足の試作を依頼したという訳なんだ」

 

 

 

 

 

「なるほど……腐っても大企業の社長の倅ということで、ボンボンといってもバトル狂いのただのバカボンという訳じゃないようだな。若くしてその商魂の逞しさには恐れ入る……」

 

 

 

 

 

「……勿論君はモニターだからこの義足は差し上げるけど、もう少しその言葉遣いだけ気にかけてくれると嬉しいかな……」

 

 

 

 

 

「……善処する。ちなみにさっきから気になっていたが……この義足なんかおかしな部品が所々付いているようだが何か意味があるのか?」

 

 

 

 

 

「よくぞ気付いたゾナ‼︎これは……こうするゾナ‼︎」

 

 

 

 

 

カラクリ大王が義足の脹脛部分から突起(レバー)を起こし、素早くそれを膝方向へ引いてからスイッチを押すと、先程見かけた踵部分の空洞から突如火の手が上がった。

 

 

 

 

 

「うわぁっ⁉︎」

 

 

 

 

 

「何だ何だ⁉︎」

 

 

 

突然上がった火の手に俺もダイゴも、周りで寝ていた患者達も驚きの声を上げる。

 

 

 

 

「ご覧の通り火炎放射器としても使えるゾナ。使うときはあらかじめナパームや車用のガソリンを脹脛部分のタンクに詰めて、こうして折り畳み式のレバーで空気(エアー)装填(コッキング)してから火種となるスパークを起こし、後は相手に向けて放つだけゾナ。さしずめ炎タイプポケモンの定番技『かえんほうしゃ』の再現と言っても差し支えないゾナね」

 

 

 

 

 

「ちなみに装填する液体が水なら『ハイドロポンプ』、着火用のスパークを最大出力で起こせば『10万ボルト』が使える。つまりは『みず、でんき、ほのお』技が両足から放てるという寸法ゾナ」

 

 

 

 

 

「………確かに魅力的ではあるが…」

 

 

 

 

「何ゾナ?くさタイプの技が足りないとかゾナ?生憎ソーラービームはパネルを搭載するスペースが……」

 

 

 

 

「そうじゃない‼︎大王、お前さんの実力は良くわかった。だが、こんな物騒な物搭載した義足を俺に履かせて何をさせるつもりだ?」

 

 

 

 

「そ……それは…」

 

 

 

 

カラクリ大王が口籠っていると、ダイゴが割って入り重い口を開いた。

 

 

 

 

「端的に言えば『君にもう一度戦って欲しい』ということだ。シラーズ君」

 

 

 

 

「誰と?何のために?」

 

 

 

 

「勿論アクア団と、このホウエンの為にさ」

 

 

 

 

「……暫く寝過ぎて時間も経っていたからな……もしよければ俺が(あそこ)を抜けた後何が起こったかから話してくれると助かる」

 

 

 

 

 

ダイゴによると、どうやら俺が抜けた後のアクア団は無事超古代ポケモン——カイオーガの復活に成功。

 

 

 

 

当初総帥が掲げた「海を増やしポケモンが人間の共存できる世界を増やす」という目的を達しかけた。

 

 

 

 

しかし対立組織マグマ団も同時期、超古代ポケモン——グラードンを復活させ、ホウエンは日照りと豪雨の巻き起こる地獄と化したらしい。

 

 

 

 

幸い事態は勇気あるポケモントレーナー——ルビーとサファイアやジムリーダー諸氏、四天王まで呼び出して無事終息したようだ。

 

 

 

 

 

アクア団、マグマ団両軍団は其々のリーダー——アオギリとマツブサを失い離散したかに思えたが、前者に関しては未だ幹部達が健在で、『海を増やす』という目的を別の手段にて叶えようとしているらしい。

 

 

 

 

 

そしてその鍵を握るのが『アクア団3幹部——通称SSS(スリーエス)の4人目——「ツナミ」の存在のようで、時のホウエン理事は目の前のダイゴを通して「アクア団残党の壊滅」を依頼したようだ。

 

 

 

 

 

 

「『こころのしずく』……『ラティアスとラティオス』……あの団に居て、なおかつあの案件について一任されていた君になら、この単語に聞き覚えはあるだろう?」

 

 

 

 

 

 

「……ああ…はっきりと覚えている」

 

 

 

 

ジョウト地方のさらに南——海の向こうにあるとされる港湾都市——アルトマーレでは古えの時代、幻のポケモン——ラティアスとラティオスが『こころのしずく』なる秘宝の力を用いて水を操り、悪しき物達を駆逐したという伝説が残されている。

 

 

 

 

 

総帥アオギリはその伝説を聞きつけ、もし仮に『カイオーガの復活による海の支配』に失敗した際のサブプランとして、このホウエンのどこか——南の孤島にあるというその『こころのしずく』の入手を俺に命じたことがある。

 

 

 

 

 

『ウシオ』『イズミ』『シズク』に続く三幹部の陰に隠れたもう一つの幹部枠『ツナミ』もその計画遂行の為に用意されていたといっていい。

 

 

 

 

尤も……その計画こそ、俺が団を抜けるきっかけとなった訳だが……。

 

 

 

「………さて、シラーズ君。ここまで話させておいて、まさか断るとは思っていないけどね、気が変わらないうちにもう一人だけ君に紹介したいお客さんがいるんだ。さぁ、入っておいで」

 

 

 

 

ダイゴはおもむろにカーテンの向こうへと声をかけ、何者かに入室を促す。

 

 

 

 

 

 

(お久しぶり。シラーズ。私の事……もう忘れちゃったかしら?)

 

 

 

 

「君は……確かあの時助けてくれた——」

 

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