元アクア団員のお菓子屋さん   作:ロートシルト男爵

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110番道路(カイナ→キンセツ間)のライバルとの戦いはトラウマ…。


そういやポケモン世界では10歳が成人で犯罪犯すと普通に刑法で裁かれるらしいですね。


第六話 VSキバニア

カイナシティ近郊。110番道路。

 

 

 

 

助けを求める声のままに俺は病院を抜け出し、歩き出すうちにいつしかカイナシティを抜け、キンセツシティへと続くサイクリングロードの高架下を彷徨っていた。

 

 

 

 

 

「…?これは……」

 

 

 

 

義足の足裏にネバっとした感覚を感じ俺は足をどけると、草むらの中に何か緑色の四角い物体が複数巻かれているのを感じだ。

 

 

 

 

 

 

「これは……緑のポロック…?」

 

 

 

 

 

一つ手に取ってみる。

 

 

 

 

 

ポロック——『ポケモンコンテスト』に向けて多種多様な木の実作られるこの地方独特のポケモン用菓子だ。

 

 

 

 

冷静な性格には渋い味の青いポロック、勇敢なポケモンには辛い味の赤いポロックと、ポケモンの性格に合ったポロックを食べさせる事で懐き度を上げたり、毛艶のコンディションを上げることができるという。

 

 

 

 

勿論ポケモン毎に大まかな味の嗜好の傾向はあるようで、今落ちている『苦い味』の緑のポロックに関しては概してエスパータイプのポケモンが好むとされる。

 

 

 

 

 

尤も……今拾い上げた物に関しては材料は安価なチーゴの実。ブレンダーでの粉砕が不十分な為かヘタや種の残滓が残った所謂『失敗作』と言っていい……用途があるとすれば『撒き餌』位だろう。

 

 

 

 

 

俺も団員時代アオギリのコレクションだった水ポケモンの世話を任された事もあるため、それなりにはポロック作りに造詣はあるのだ。

 

 

 

 

 

(助けて……‼︎)

 

 

 

 

 

さっきの声だ。

 

 

 

 

病院で聞いた時よりはっきりと聞こえる。

 

 

 

声の主との距離は近い。

 

 

 

俺は草むらをかき分けながら、我を忘れて高架下を駆け抜けた。

 

 

 

「……こ……これは……⁉︎」

 

 

 

テレパシーで俺に助けを求めていた声の主——それは片足をトラバサミに挟まれた1匹のキルリアだった。

 

 

 

 

先程見つけた撒き餌は何者かにより意図的に撒かれていたものだ。

 

 

 

おそらくこのキルリアはその先に待っていた仕掛け罠に嵌って抜け出せず、仕方なくテレパシーで俺に助けを求めたのだろう。

 

 

 

 

「……待ってろ。今助け出してやる……よいしょ‼︎………全く…誰がこんな事を……」

 

 

 

 

ポケモン保護法により、野生ポケモンの捕獲にはモンスターボール又はそれに類する道具を用いる事が義務付けられている。

 

 

 

従って、こうした仕掛け罠を使った捕獲は『密猟』扱いとなり本来なら禁止されている筈なのだが、残念ながら世の中悪い事を考える連中も少なからずいるようだ。

 

 

 

「大丈夫か…?キルリア。いやぁ間に合って良かったよ」

 

 

 

 

(……コクコク)

 

 

 

 

俺は罠から抜け出したキルリアを抱き上げてやると、罠にやられた脚の痛みに耐えながらも頭の赤いツノを光らせながら顔を綻ばせた。

 

 

 

 

「手当をしてやりたいところだが…生憎傷薬が無い。悪いがカイナのポケモンセンターまで辛抱してくれ」

 

 

 

 

(……コクリ)

 

 

 

 

俺は足元に転がったトラバサミを高架下の川に投げ捨てると、キルリアを抱き抱えながら来た道を戻り始めた。

 

 

 

 

「「あ〜っ‼︎そこのお前‼︎ちょっと待て‼そのキルリア一体どうした⁉︎」」

 

 

 

 

ふと背後から大声で呼び止められ、振り返ると柄の悪そうな無頼な若者2人が俺を指差しながらそう問いかけてきた。

 

 

 

 

「どうした?って……さっきの道で仕掛け罠に嵌ってたから助け出した訳だが…」

 

 

 

 

「ハァ…?助け出したァ⁉︎」

 

 

 

 

「あれ仕掛けたのお前らか。仕掛け罠を使った捕獲は犯罪だぞ?知らないのか?」

 

 

 

 

 

「んな事知ったこっちゃねぇ‼︎キルリア狩りは金になんだよ。一部の富裕層(金持ち)連中はこいつらを慰み物にするって事で闇市(ブラックマーケット)で高値で買い付けてくれるんだ。さぁ、そのキルリアをこっちへ渡せ。大人しく渡せば見逃してやる」

 

 

 

 

 

(……キッ…)

 

 

 

 

 

 

2人の密猟者のうち一人が距離を詰めてくると、キルリアは明らかに警戒した面持ちで奴等を睨み付けた。

 

 

 

 

 

キルリア——かんじょうポケモン。

 

 

 

 

 

滅多に人前に姿を現さない希少種なのに加えて頭のツノで人の気持ちをキャッチする為こうした邪な心の持ち主の前には姿を見せないことで知られている。

 

 

 

 

 

俺の手元のキルリアも密猟者達に対して明らかに敵意を剥き出しにしていた。

 

 

 

 

 

「………断る」

 

 

 

 

 

「ハァ?何のつもりだオメェ。まさか正義の味方気取ってんなら痛い目見る前に考え直した方がいいぜ」

 

 

 

 

 

「……正義もクソもあるかチンピラ共が。これは横取りだよ。悔しかったら殺す気で奪い返しに来いよ」

 

 

 

 

 

「……吹くじゃねえかクソボウズ…おい兄ぃ‼︎この野郎カタしちまおうぜ」

 

 

 

 

「上等だぜ弟‼︎出でよキバニア‼︎アイツを咬み殺せ‼︎」

 

 

 

 

密猟者の兄貴分は腰からモンスターボールを取り出してキバニアを、弟分はヘルガーを繰り出してきた。

 

 

 

「「ガアァァァァッ」」

 

 

 

 

向かってくるキバニアとヘルガー。

 

 

 

 

俺はモンスターボールを道路脇の水路に投げ込むとキルリアを脇へと座らせ、迫りくる2匹に丸腰のまま対峙した。

 

 

 

 

 

キバニアは俺の左前腕に、ヘルガーは俺の右の義足に食らいつく。

 

 

 

 

 

「……フッ。そうそう何度も食われてたまるかよ‼︎」

 

 

 

 

俺はまだ噛まれていない左の義足を操作するとスタンガンモードを起動し、右脚に噛み付くヘルガーのどてっ腹に電極を押し当てた。

 

 

 

 

「グアアァァァッ⁉︎」

 

 

 

 

ヘルガーは突然の感電に驚き俺の義足を離して飛び退いた。

 

 

 

 

間髪入れず右脚を持ち上げ、左脚と同じように展開した電極を左手に噛み付くキバニアに押し当てる。

 

 

 

 

 

「ギャァァァァッ⁉︎」

 

 

 

 

 

やはり電極での攻撃は水ポケモンには効果がてきめんなようで、キバニアは耐えられなくなって牙を俺の腕から離し、ピチピチと草むらの上を跳ね回った。

 

 

 

「何⁉︎脚にスタンガンだと⁉︎」

 

 

 

 

「卑怯だぞ!ちゃんとポケモンを出して戦え‼︎」

 

 

 

 

密猟者共は体制を立て直したヘルガーを足元に従え、口々にヤジを飛ばす。

 

 

 

「……おいおい、トレーナーを直接狙った攻撃はルール違反だって知らないのか?まぁ、俺も同じ事をするまでだが…」

 

 

 

 

俺は瀕死状態の足元のキバニアを脇へ蹴飛ばすと、道路脇へと目をやり鋭く叫んだ。

 

 

 

 

「ヒンバス‼︎みずのはどう‼︎」

 

 

 

ザバアァァァァッ‼︎

 

 

 

 

「う、うわぁぁぁっ⁉︎」

 

 

 

 

「な、何だ——⁉︎」

 

 

 

 

突如道路脇の水面から俺が予めボールから出していたヒンバスが飛び出し、真横から水を浴びせる。

 

 

 

 

密猟者共は水圧に押し流されガードレールに激しくその身体をぶつけ、へたり込んだ。

 

 

 

 

手持ちのヘルガーも水タイプの技は効果抜群だったようで、瀕死状態で奴等の足元にへたり込んだ。

 

 

 

 

「くそッ……強え…何なんだよお前はよぉ……」

 

 

 

 

弟分が足元でそうぼやくのを聞いて、俺は返事の代わりに顔面へのローキックを見舞う。

 

 

 

 

ガツンッ‼︎と金属製の義足と人間の頭骨がぶつかる嫌な音が響くのと同時に弟分は悲鳴を上げ、折れた歯を何本か血と一緒に吹き散らかしながら転げ回った。

 

 

 

 

「ぎゃぁぁっ‼︎ま、待っ——」

 

 

 

 

俺はキバニアに噛まれて血の滴る左手で弟分の襟首を掴んで持ち上げ、ガンッ‼︎ガンッ‼︎ガンッ‼︎と右ストレートを計10発程ぶち込んだ後、気を失って血だるまと化したソイツを脇へと投げ捨ててから兄貴分の方へとにじり寄った。

 

 

 

「や……やめて……」

 

 

 

兄貴分は先程の完膚なき暴力に完全に恐れ慄き、後退りした。

 

 

 

そう…これでいい。

 

 

 

尋問の基本はまず相手に話さざるを得ない環境を作る所から始まる。

 

 

 

「……依頼者(クライアント)の名前を吐け。そしたら見逃してやる」

 

 

「依頼人……?そんなのは居ねえ…俺らは金になるからって勝手に——」

 

 

 

 

ガンッ‼︎

 

 

 

 

「ブチ殺すぞクズ肉‼︎」

 

 

 

 

「ひ、ひいぃっ‼︎」

 

 

 

俺が奴のもたれかかっていたガードレールを軽く蹴飛ばして凹ませてやると、密猟者の兄貴分はあっさりとゲロった。

 

 

 

どうやら依頼人はカントーに本部を置くロケット団とかいう反社会集団で、違法に捕獲したポケモンを闇市に流して高値で売り捌いたり、堅気(カタギ)の企業を乗っ取って不良品を売り捌くといった形で利益(シノギ)を得ているらしい。

 

 

支部はジョウトにもあるようで、今回の件に関しては今後のホウエン進出を見越した上で、現地の半グレ(チンピラ)を使った金集めの犯行だったようだ。

 

 

 

 

 

「クソっ……こんな奴が居るから…こんな奴らが居るから俺はアクア団に……」

 

 

 

 

 

俺もかつて目指した『ポケモントレーナー』という職業も現在は需要に対して供給が飽和状態。

 

 

 

ジムリーダーやチャンピオンを目指す何万人の子供達の中で、成功できる者は一握り。

 

 

 

故にこうして仕事にあぶれたトレーナー達によって度々引き起こされる強盗や密売などの反社会的行動が全国で問題となっている。

 

 

 

「………なぁ、もういいだろ……?ソイツ(キルリア)はお前にやるし、俺たちも密猟は懲りた。だから——」

 

 

 

「……るから俺は………」

 

 

「へ?」

 

 

「………お前らみたいなのが居るから俺は……アクア団なんかに入っちまったんじゃねぇか‼︎」

 

 

 

「…お前……もしかして元アクア団……」

 

 

 

「人間が…世界が……もっと『いい人達』ばかりなら俺は……俺はあんな……」

 

 

俺は腰のボールベルトに差した両刃のダイバーナイフを(シース)から抜くと、じりじりと兄貴分ににじり寄った。

 

 

 

 

「……おい……なんだよそれ⁉︎……頼む……命だけは————」

 

 

 

 

 

「くたばれクソ野郎ッ‼︎」

 

 

 

 

 

「ひ、ヒイィィッッ‼︎」

 

 

 

 

 

 

がしっ

 

 

 

 

ふと踏み込んだ足が止まる。

 

 

 

振り返ると、傷ついた身体のキルリアが俺の義足を両腕で抱え、必死に俺を押さえ込んでいた。

 

 

 

「離せ‼︎キルリア‼︎お前、俺が助けなかったら今頃はとんでもない目に遭ってたかもしれないんだぞ‼︎……そ、そうだ!いっその事お前の技であいつらを————」

 

 

 

 

 

…………あれ…?あれはもしや……。

 

 

 

 

 

狂気に憑かれた俺の凶行を必死に思いとどまらせようとするキルリアの方を振り返ると、視界の隅にふと見覚えのあるナース姿の少女の人影が映った。

 

 

 

「……ラティアス………どうしてここに……?

 

 

 

彼女の顔はいつもの柔和なものではなく、俺に対する怒りと憐れみに満ちていた。

 

 

 

「どうしてそんな目で俺を見るんだ……?俺はただ——」

 

 

 

 

パシンッ‼︎

 

 

 

 

ラティアスは返事の代わりに俺の左頬を思い切りはたいた。

 

 

 

 

「………⁉︎」

 

.

 

 

(いい加減にして!シラーズ!あなた、今自分が何をしようとしてたか分かってるの⁉︎)

 

 

 

「そ…それは……」

 

 

 

(約束したわよね。もう人もポケモンも傷つけないって)

 

 

 

 

「………すまん…俺が悪かった。暴力沙汰となるとつい見境が無くなって………」

 

 

 

俺は手元からナイフを取り落とすと、がっくりとうなだれてラティアスに頭を下げた。

 

 

すると、ラティアスは小さな胸で俺を抱きしめ、短く刈り上げた頭を撫でた。

 

 

 

「……な、何を?」

 

 

 

 

(……あなたの身体は元の生活を取り戻しても、心が平安を取り戻すのには時間がかかりそうね……)

 

 

 

「………その通りだな。見苦しい姿を見せて申し訳ない…」

 

 

 

「おいお前……さっきから何を一人でブツブツと………」

 

 

 

ラティアスは俺の心に直接テレパシーをしているため、密猟者には「俺が独り言を言っている」ように聞こえたらしい。

 

 

 

「………どこへでも失せろ。クズ肉。次同じ事してるのを見かけたらただじゃおかねぇ…」

 

 

 

 

「ヒ、ヒイィッ‼︎」

 

 

 

密猟者の兄貴分は、血だらけで昏睡した弟分を担いでそそくさと110番道路を北へ、キンセツシティ方面へと逃げ去っていった。

 

 

 

 

(手……怪我してるわね)

 

 

 

「……大したことはない」

 

 

 

(駄目よ。膿んだりしたら腕まで喪ってしまうわ。それに…そのキルリアも傷ついてるみたいだし、一緒に治療してもらいましょう)

 

 

 

「……ああ、そうしよう。キルリア、一緒に来るか?」

 

 

 

(コクリ)

 

 

 

朝日はすっかり昇り切り、時刻は11時を回ろうとしている。

 

 

春の陽気な日差しの下、俺は2匹のポケモンを引き連れてカイナシティへと続く道を引き返していった。

 

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