元アクア団員のお菓子屋さん   作:ロートシルト男爵

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第七話 旅立ち

 

 

 

 

 

 

110番道路での諍いから数日後……。

 

 

 

 

 

 

俺は病室にて、カイナの市場で買い込んだ新たな衣装に袖を通していた。

 

 

 

 

 

下半身は道具が出し入れしやすいように且つ義足が見えないように都市迷彩柄のカーゴパンツ。

 

腰回りにはボールホルダーとナイフシースを備えたナイロンベルト。

 

 

足元は義足の例の機能を活かせるよう踵部分をくり抜いたデボン社製の特注ランニングブーツ。

 

 

上半身にはダボっとした黒のタンクトップを着込み、頭にはズボンと同柄の鍔付作業帽。

 

 

 

 

 

 

幾分か暴力的なファッションセンスではあるが、これからアクア団の残党狩りに向かうには十分な装いだ。

 

 

 

 

 

 

コンコンッ

 

 

 

 

 

ふと病室のドアがノックされ、俺は振り返る。

 

 

 

 

 

 

 

「ラティアスか。入っていいぞ」

 

 

 

 

 

 

 

(あら?シラーズ、その格好……とうとう旅立つのね……)

 

 

 

 

 

 

 

「ああ。病院代はツワブキのボンボンが出してくれるとはいえ、いつまでもここで燻ってる訳にはいかないからな。俺の手もキルリアの傷も無事治ったということで、改めて今日旅立とうと思う」

 

 

 

 

 

 

 

(もう出発?私、まだ院長先生や他の看護師さん達への挨拶が……)

 

 

 

 

 

 

 

「そんな事言ったって君は話せないだろう?大丈夫だ。ダイゴの口利きもあるし、俺から代わりに挨拶しとくよ。今日はカイナ市場で必要物資の買い込みだけして出発だ。君は先に現地に行っててくれ」

 

 

 

 

 

 

 

(分かったわ。現地で待ってる)

 

 

 

 

 

 

 

久々の買い物ということで、ラティアスは嬉しそうな面持ちで病室を抜け出し、病院の廊下を駆け抜けていった。

 

 

 

 

 

 

「さて……退院前の一仕事だ。キルリア、いるな?」

 

 

 

 

 

 

俺の呼び声に反応して、キルリアがベッド脇からひょっこりと姿を現した。

 

 

 

 

 

「庭に行って『おにび』でコイツを燃やしてきてくれ。火が消えたのを確認できたら、病院正門で落ち合おう」

 

 

 

 

 

(……こくり)

 

 

 

 

 

俺は、アクア団時代に身につけていた制服——紋章入りのバンダナと縞シャツ、膝下から先のないズボンの入った一抱えの段ボールを手渡した。

 

 

 

 

 

 

(……これでいい。俺はもう『アクア団幹部のツナミ』じゃない。シラーズ・ヴィティス。イッシュ生まれホウエン育ちの、ただの一般人だ)

 

 

 

 

 

 

 

窓の向こうの中庭でキルリアが起こした焚き火をバックに、儀式的にではあるが過去を焼き払った俺は静かに病室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

* * * * * *

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あいよ兄ちゃん、まいどあり」

 

 

 

 

 

「こちらこそ。釣りはとっておいてくれ」

 

 

 

 

「いいの?悪いねぇ」

 

 

 

 

カイナ市場。朝5時から日用品やら何やらの屋台が犇き活気あふれるこの場では、とにかく何もかもが安い。

 

 

特にまとめ買いが必要な物品に関しては量次第で値切りも出来るので、全国一律価格のフレンドリィショップで買い物をするより経済的だ。

 

 

「ええと、『かいふくのくすり』に『ピーピーマックス』『ゴールドスプレー』を1ダースと『モンスターボール』が3ダース……必要な物は大抵揃ったな……」

 

 

 

時刻は12時を回っており、そろそろ何か食いたい気分だ。

 

 

 

 

(お待たせ〜。シラーズ。ごめんね、遅くなっちゃって)

 

 

 

 

露天商から品物を受け取った俺は、ラティアスのテレパシーを感じ取り振り返る。

 

 

 

 

彼女はいつものナース服ではなく、街歩き用の白のミニスカートにグリーンの折襟シャツ、白のベレー帽を身につけていた。

 

 

 

 

「ああ、待ってないよ。ちょうど必要な買い物は終わった所だ」

 

 

 

 

俺は特価で買ったキャンプ用の分厚いキャンバス製バックパックをラティアスに見せた。

 

 

 

 

 

(へぇ……ここがカイナ市場なのね……どこもすごい活気ね)

 

 

 

 

 

正直なところ、彼女をここに連れてくるのは初めてだ。

 

 

 

 

 

なにしろ、ずっと昏睡状態だった俺につきっきりだった訳だから、こうして街を見る余裕などなかったのだろう。

 

 

 

 

「今まで連れてこられなくて申し訳ない。お詫びに何か奢るよ」

 

 

 

 

(えっ?いいの?ありがとう。じゃあ私、あれが食べたいな。君を浜辺まで送り届けて以来、美味しそうな香りがしてずっと気になってたの)

 

 

 

 

 

ラティアスが指差した店はカイナ市場の露店ではなく、さらにその向こうの『海の家』だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

* * * * * * *

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい。焼きそば二人前にサイコソーダ2本お待ちどおさん」

 

 

船乗り風の店員によって運ばれて来たアツアツの焼きそばとキンキンに冷えたサイコソーダにラティアスは目を輝かせた。

 

 

 

 

「……割と庶民的な所もあるんだな」

 

 

 

 

(私、兄さん(ラティオス)と一緒に島にいた頃はきのみしか食べてなかったから………それにしても、人間って美味しい物を作れるのね)

 

 

 

 

「まぁな。『料理』もまた、自然と人間の共生の一つのあり方なのかもしれないな……」

 

 

 

 

(ところで、このサイコソーダはどうやって飲むの?見たところ、『おいしいみず』みたいにフタを捻って開けるタイプじゃないみたいだけど…)

 

 

 

「ああ、これはこうするんだ」

 

 

 

 

俺は割り箸でズルズルッと目の前の焼き蕎麦の残りをかき込むと、手元のサイコソーダのビー玉をポンっと音を立てて押し込み、シュワっと泡立った中の液体を塩辛くなった口内に流し込んだ。

 

 

 

(へぇ、すごい。人間ってやっぱりすごい技術を持ってるのね)

 

 

 

「ああ。こうして栓をしておけば、きのみジュースだって水だって腐らせずに持ち運べる…………願わくば、こうした人間の叡智が、悪用されない事を祈っているのだが……」

 

 

 

 

空瓶に残ったビー玉——陽光を反射してキラキラと煌めくガラス玉からかつて目にした秘宝——『こころのしずく』を連想し、俺は神妙な面持ちでテーブルに肘をついた。

 

 

 

 

 

「よぉ兄ちゃん姉ちゃん、ウチ自慢のサイコソーダはご満足頂けたかい?」

 

 

 

 

 

船乗り風の店員が太い腕で食器の乗った盆を抱えて俺たちのテーブルにやってきた。

 

 

 

 

「ああ。とても美味かった」

 

 

 

 

「そりゃよかった。もしよければ、ウチでやってるバトルトーナメントに参加してくれたらこのサイコソーダ、お持ち帰り用に6本、無料(ダダ)でプレゼント出来るけど興味はないかい?」

 

 

 

「バトル」という言葉に俺はあの日の密猟者との諍いを連想し、少し悩んだ後

 

 

 

「いや、金は払う。手持ちの分も合わせて半ダースだけ頂いてくよ」

 

 

 

 

とだけ言って会計を済ませに行った。

 

 

 

 

 

 

* * * * * *

 

 

 

 

 

 

 

「さて……腹ごしらえも終わった事だし、そろそろ出発するか」

 

 

 

 

(ええ。シラーズ。まずはどこへ行きましょうか?)

 

 

 

 

「そうだな……まずはキンセツシティだ。ダイゴが話を通してあるはずだから、あそこのジムリーダーならアクア団残党について何か情報を持ってるかもしれない」

 

 

 

 

(分かったわ。キンセツなら私の『そらをとぶ』で一っ飛びだわ)

 

 

 

「……ありがとうな。そういえば君に抱かれる事は数あれど、君の背中に乗るのはこれが初めてかもしれないな」

 

 

 

 

(んもぅっ‼︎あんまりイヤらしい表現しないで頂戴っ‼︎怒るわよ?)

 

 

 

ラティアスはやや顔を赤くして膨れるが、すぐ人間の姿から本来の姿に変え、俺を背中に乗せた。

 

 

 

 

 

「準備万端」

 

 

 

と俺がラティアスの羽毛に包まれた首筋を叩いて合図すると、彼女はふわりと空を舞い上がった。

 

 

 

 

 

 

 

* * * * * *

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キンセツシティ大通り。

 

 

 

近年人口が増え続けている再開発都市なだけあって、やはり活気に溢れている。

 

 

 

 

最近は『ニューキンセツ』なる地下興行施設が発見されたということで、『子供達の遊び場がない』といった問題も無事解消されつつあるようだ。

 

 

 

 

 

「やぁシラーズくんにラティアスくん。お久しぶりゾナ」

 

 

 

 

 

聞き覚えのある声を背後からかけられ、俺は振り向く。

 

 

 

「カラクリ大王!また会ったな。わざわざキンセツまで何の用だ?」

 

 

 

 

大王はおそらくお手製の二足歩行器を操作しながらこちらへ近寄ってくる。

 

 

 

 

「何の用だとはご挨拶ゾナ………今日は旧友のテッちゃんに会いにはるばる屋敷から出向いただけゾナ」

 

 

「テッちゃん?ジムリーダー、テッセンの事か?」

 

 

「そうゾナ……シラーズくんもテッちゃんに用が?」

 

 

 

 

「あぁ、例の残党狩りについて情報を仕入れたい。案内してくれ」

 

 

 

 

「相変わらず勝手ゾナね……まぁいい、ワガハイもテッちゃんに用があった手前、案内するからついてくるゾナ」

 

 

 

 

「恩に着る……」

 

 

 

 

 

俺はカラクリ大王の操る歩行器の後をつけて、キンセツジムへと足を進めた。

 

 

 

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