元アクア団員のお菓子屋さん   作:ロートシルト男爵

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カイナでカラクリ大王が語っていた「手足の短い少年」はポケスペ第6章のエメラルドの事です。


第八話 幻肢痛

 

 

 

 

 

 

「いやぁ〜〜シラーズくん、ようこそキンセツへ。遠いところからよくおいでなすって……ささ、なす漬けでも食うかい?なんちゃってワッハッハッハ‼︎」

 

 

 

 

キンセツジム最奥部。

 

 

 

 

 

恰幅のいい笑い上戸の老人——ジムリーダーのテッセンは挑戦者達をジムトレーナー達に任せきりのまま、ジム内にゴザを敷いて熱い茶と茶請けの漬物を出してきた。

 

 

 

 

 

「……頂いておこう。それにしても、貴方がまさかカラクリ大王の知り合いとは知らなかったよ……」

 

 

 

 

俺は出された茶請けをぼりぼりと食いながら答えた。

 

 

 

 

「テッちゃんとワガハイはかれこれウン十年来の付き合いゾナ。このジムのギミックも、ひとえにワガハイのセンスあってこその産物ゾナよ」

 

 

あたりを見回してみると、入り口から来る挑戦者達を阻むようにジム中に電気柵が張り巡らされていた。

 

 

 

「やはりいつ見ても『テッ』ちゃんのジムは良い『セン』ス!略して『テッセン‼』︎なんちゃってワッハッハッハッハ‼︎」

 

 

 

 

これ見よがしに扇子をばさりと広げて一人笑うテッセン。

 

 

 

 

ダイゴから話には聞いていたが……端的に言ってこの絡みづらさは大王以上だ…。

 

 

 

 

俺は茶をズズと飲み干すと、ジムトレーナー達の電気技で完膚なきまでに叩きのめされる挑戦者を横目にテッセンの方に向き直る。

 

 

 

「……宴もたけなわだがジムリーダー、そろそろ本題に入ってくれると助かる…」

 

 

 

 

「なに、お前さんの言いたい事は言わんでも分かるよ。アクア団(例の軍団)の件じゃろう」

 

 

 

「ああ…」

 

 

 

 

テッセンは笑い上戸のくだけた表情を真顔に固めると、昔話をするかのように天を仰いだ。

 

 

 

 

「そうじゃな……あれはカイナ洋上……すてられぶねでの事じゃった。ワシは他のジムリーダーと共に、アクア団が復活させた超古代ポケモン——カイオーガの撃破に尽力しておったが、恥ずかしい事に駆けつけたアクア団の幹部に邪魔され、ワシは海へ投げ込まれてしもうた……」

 

 

 

 

「その幹部の名は……覚えているか?」

 

 

 

 

 

「ああ、確かシズクとかいう奴で、ワシは奴のヌケニンに背中から………いかんいかん、思い出すだけでも寒気がするわい」

 

 

 

 

「シズク……奴の使いそうな手口だ。して、奴は今どこに……?」

 

 

 

 

「う〜む。そうじゃな。急な来客もあることだし、丁度ジムトレーナー達も全員倒された頃じゃ。今から来る子供達をジムトレーナーとして片付けてくれるなら教えてやろう」

 

 

 

 

ふとジム内を見渡すと、リーダーへと続く道を阻んでいたジムトレーナー達はいつの間にか全員倒され後はテッセンだけ——という状態だった。

 

 

 

 

「ちっ…交換条件か。だが、俺の手持ちはキルリアとヒンバス。でんきポケモンは一匹もいないぞ?」

 

 

 

 

「まぁ案ずるな。ほれ。これならキルリアも覚えられるじゃろ?」

 

 

 

テッセンは懐からわざマシンのディスクを1枚俺に渡して来た。

 

 

「でんきタイプの最強技、『10まんボルト』じゃ。これを使って挑戦者達から賞金を『10万』くらい『ぼる』といいじゃろう。なんちゃってワッハッハッハッハ‼︎」

 

 

 

 

さらりと酷い事を言いながらジム奥の休憩室に消えていくテッセンを横目に、俺はボールから出したキルリアにわざマシンをかざした。

 

 

 

 

 

 

* * * * * * *

 

 

 

 

 

「ご来場、ありがとうございました〜。またの挑戦をお待ちしております〜」

 

 

 

 

「ちぇっ、またテッセンさんに挑む前に負けちゃったよ」

 

 

 

「なんか今日のジムトレーナー異様に強くなかった?」

 

 

 

「そうそう、折角オニドリルにまで進化させたってのにあの10まんボルト使うキルリアにボロ負けだよ……あんなトレーナー、あのジムに居たかなぁ…」

 

 

 

「まぁ毎度のことながらダイナモバッジ、貰えたからいいけどね〜」

 

 

 

 

 

夕暮れのキンセツジム。

 

 

 

 

 

俺は挑戦者の子供達を一通り見送ると、商売向けの作り笑いを崩していつもの仏頂面になり、「ふぅ…」とため息をついた。

 

 

 

 

どうやらこのジムの方針では、リーダーのテッセンが子供好きということもありバッジに関しては参加賞のように配っていくのが慣例らしい。

 

 

 

 

勿論、ダイナモバッジ1個ではポケモンリーグ出場は出来ず、後から他のジムで泣きを見るのはバッジを受け取った子供達本人な訳だが……。

 

 

 

 

俺は兎に角「相手をなるたけ怖がらせない戦い方で勝つ」という中々慣れない役回りを演じたことでどっと出た疲れを癒すべく、煙草をいつもの手法で着火して一服キメた。

 

 

 

 

「いやぁ見事な戦いぶりじゃった。流石は元アクア団幹部。ワシが今まで見たどのトレーナーよりも強い」

 

 

 

 

旧友(カラクリ大王)との世間話にようやくキリがついたのか、テッセンがジムの出入り口から現れ俺に声をかけてきた。

 

 

 

「あんまり甘く見るなよ爺さん。過去にあんたをやったシズクなんかよりも単純な力比べでは俺の方が上の上。つまりはアンタだって倒そうと思えば何回だって倒せる計算だ。違うか?」

 

 

 

「ありゃりゃこりゃ一本とられたわい。ハッハッハ‼︎……でもまぁ折角こちらの要望も聞いてくれた訳だし、そろそろ話さねばならんな。君のかつての同僚について」

 

 

「教えてくれるのか…?奴は何処に…?」

 

 

 

「先日カナズミシティのツツジちゃんから連絡があっての……市内に水道局員を装った怪しい一団が出るというウワサが出回ってるらしいんじゃ。勿論この件に関してはデボン本社のダイゴくんにも連絡済みだから、近況報告も含めて一度カナズミに顔を出してみるのも良いんじゃないかとは思う。『カナズミには連絡済み』なんちゃってワッハッハッハッハ‼︎」

 

 

「なるほど……貴重な情報ありがとうテッセンさんよ。カラクリ大王もじゃあな」

 

 

「気をつけて行ってくるゾナよ。ここからカナズミシティまではシダケ経由でカナシダトンネルを通れば早い。最近開通したようだからスムーズに通過できるゾナ」

 

 

テッセンとカラクリ大王は手を振り、夕焼けをバックにキンセツを発つ俺とラティアスを見送った。

 

 

目指すはカナズミシティ。俺はまず経由地のシダケタウンに向かうべく、117番道路を西へと歩き始めた。

 

 

 

 

* * * * * *

 

 

 

 

「なぁラティアス。もうじき日も暮れるけど、今から出発して大丈夫なのか?カナズミへは君の『そらをとぶ』で行った方が……」

 

 

 

日暮れの117番道路。

 

 

 

 

俺ははラティアスの隣を歩きながら不安げにそう呟いた。

 

 

 

 

(まぁ見ててよ。ほら)

 

 

 

 

ラティアスは街路に聳え立つ木々を指差す。

 

 

 

 

そこでは茜色から藍色に変わってゆく夕空をバックに、無数のバルビートとイルミーゼが求愛のダンスを踊り、幻想的な光景を見せていた。

 

 

 

「……きれいだ………」

 

 

 

 

(でしょ?人もポケモンも自然の一部。無理にそのバランスを崩そうとすれば必ず苦しむ者が出てしまう………)

 

 

 

「ラティアス………」

 

 

 

「さっきのテッセンのように子供にもポケモンにも優しい人だっているというのに……考えてみれば俺は一部の人間を憎むあまり……この人とポケモンが織りなす美しい世界を含めた全てを海へ———畜生っ‼︎」

 

 

 

 

団を抜けて以来、俺はかつて憎み文字通り暴力で『転覆』させようとしたこの世界本来の『美しさ』や『尊さ』とのギャップに苦しみつつあった。

 

 

 

 

灰色の色眼鏡を取り払って眺めた世界は、俺の目にはちと眩し過ぎたのだ……。

 

 

 

 

 

(………アクア団へ入った事……未だに引きずっているのね…)

 

 

 

 

「………ああ。俺はもし君に出会えなければ俺は今頃取り返しのつかな———っ⁉︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふと脚を襲う灼けるような激痛———痛むのは喪った筈の爪先。

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は服が汚れるのも構わず地面に臥し、義足を抱えてのたうち回った。

 

 

 

 

 

 

 

「ぐあぁぁぁぁっ⁉︎痛ッ……痛ぇ………」

 

 

 

 

 

 

 

 

やっとの思いで目を見開くと、先程の幽玄な光景は微塵もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

赤く染まった津波に押し流される家々。

 

 

 

 

漂う人やポケモンの水死体。

 

 

 

 

今まで見ていた117番道路は、水害に巻き込まれた地獄と化していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゆ……許せカイオーガ………俺たちはそんなつもりじゃ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(シラーズ‼︎どうしたの⁉︎脚がまだ痛むの⁉︎)

 

 

 

 

 

 

 

「ラティアス……生存者達をシダケの病院へ連れて行け………このままじゃみんな津波に呑まれちまう………」

 

 

 

 

 

(………何を言ってるの⁉︎シラーズ‼津波なんて何処にも———)

 

 

 

 

ラティアスは脂汗を流しながら星空を仰ぎ、痛みと幻覚で譫言を発する俺をなんとか本来の姿で背中に乗せると離陸し、シダケタウンの夜景に向けて飛び立った。

 

 

 

 

 

水害地獄と化したホウエンと美しい本来のホウエン……。

 

 

 

 

 

瞬く度に姿を変える2つの同じ世界。

 

 

 

 

 

 

眼前に突如現れたショッキングな光景と『存在しない筈の両脚の痛み』に脳の処理能力が追いつかなくなり、俺はゆっくりと意識を喪った。

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