短いのでスナック感覚にどうぞ。
僕はあの日、あのお方に出会った。
時に優しく、時に怖い僕の最愛の人。
始めて会った時から僕はあの方に惹かれていた。
向こうでは、なんでも出来てしまった僕。
つまらない世界。
自分だけが違う世界。
でも、あの方は、この世界は違った。
僕を変えたもの、全てに……僕は感謝してます。
「
「はい、メイド長。 じゃなくて……咲夜さん」
僕は今日もまた咲夜さんの手伝いをしていた。
この幻想卿に迷い込んで来て、大体1週間くらい……なのかな?
とりあえず色々あってここ、悪魔の住む屋敷、紅魔館に住み込むようになってからは多分1週間だ。
最初は少し大変だったけど、いつものようにすぐに慣れた。
一通り屋敷のことは覚えたし、もうお茶も満足いくレベルのが淹れられる。
一応従者では合格点を貰えるくらいの実力なんだ。
流石に従者のプロ、咲夜さんには全く勝てないけど。
「今日は他にやることはありますか?」
「……いえ、今はないわね。 でもそろそろお嬢様が起きてくるから、少し休んでて」
「そうですか……では少し失礼します」
咲夜さんとは一応、同僚兼上司の関係。
とは言っても咲夜さんはメイド長で、僕は一介の従者。
本来、物凄い立場の差があるはずなのに、僕は特別扱いを受けている。
それは全て……僕がレミリアお嬢様付きの従者だからなんだよね……。
「紅鷹、今日も外には出ていないわよね?」
「はい。 レミリアお嬢様の言う通り、今日も一歩も出てません」
僕は幻想郷に迷い込んだ時に彷徨っていた森で発見され、ここ紅魔館に連れてきてもらってから、レミリアお嬢様の命令で一度も外に出てない。
レミリアお嬢様の命令なら逆らう理由はない。
一応疑問には思ってるんだけど、従者としては聞けないし。
他にも屋敷が騒がしい時には図書館や、パチュリー様に近づくなとか……良くわからない命令が多い。
だから僕はこの幻想卿の森と、紅魔館しか見たことない。
でもまぁ問題ないかな?
僕はただレミリアお嬢様のお側に居られればそれで……。
「レミリアお嬢様は、お出掛け……少し暇だなぁ……」
実際、レミリアお嬢様がいないと僕の仕事はないに等しい。
基本的な仕事をあんまりやると咲夜さんに怒られるし、図書館には轟音が鳴っていて近づけない日も多い。
だから今日は一日部屋でのんびり……してて良いのかなぁ。
「レミリアお嬢様……」
気付くと呟いてる。
僕の最愛の人の名前。
あの日、幻想卿に迷い込んだ僕を救ってくれたレミリアお嬢様。
始めは確かに食料として確保してたみたいだけど……僕が不意に呟いちゃった、あの言葉から突然変わった。
正直な所、僕がもう少し普通の感性を持っていたら、今ここにはいなかったんだろうな。
でも、僕はレミリアお嬢様との出会いを最高だと思ってる。
いつでも思い出されるあの瞬間。
「人間。 貴方は私に食われるの。 覚悟は良い?」
そう言って、木の幹に体を預けていた僕の前に一人の少女が立った。
紅い少女。
服は白いのに、そんな印象を持ったっけ。
対する僕と言えば、きっと相当間抜けな表情をしていたに違いない。
だって……始めて見たから。
だから思わず声に出てた。
「……可愛い」
はっきり言って紅鷹との出会いは最悪だった。
このレミリア・スカーレットに向かってあいつが放った第一声。
未だに耳に残って離れない。
この私に向かって、ただの人間に過ぎない紅鷹が……あろうことか自分を食おうとしてる私を可愛い!?
正直、怒りを簡単に通り越して呆れがあった。
そして最後に出たのは興味。
私を全く恐れないこの人間。
傍に置いたらどうなるか、興味があった。
だから館に軟禁状態にして咲夜に世話をさせてる。
どうやら紅鷹は私のために働きたいらしく、従者にしてやったら妙に喜んでた。
別に喜ばしたかったわけじゃないけど、まぁ喜んでるならそれで良かった。
でも流石にそろそろ限界か。
パチェや咲夜、小悪魔や美鈴だけに紅鷹の存在は知れている。
隠しているのだから当たり前だ。
そうコは外の人間。
霊夢やあのスキマにバレれば、多分外に帰る話が出る。
もう紅鷹は私の物。
誰にも渡すわけにはいかないのだ。
「収穫はなし……か」
霊夢の所にわざわざ偵察に来てみたが、霊夢は相変わらず。
特にバレてるようでもないし、感づいてる様子もなし。
こういう偵察は咲夜に任せようかと思ってたけど、何故か自分で来ていた。
どうも最近の私は変だ。
紅鷹のことになると、自分で確認しないと安心できない。
しかもこうやって早く帰って、紅鷹の顔を見ないと安心出来ない。
どうしたと言うのだろうか?
この私が……。
だがこの時私は油断していた。
この運命を操る私なら気付くはずだったことを……私は気付いてなかったのだ。
「……困ったなぁ」
僕は心底困ってた。
僕はレミリアお嬢様から館から出ないよう命令を受けている。
でも……あの三人の見慣れない妖精の仕業で僕は今知らない森の中にいた。
紅魔館の廊下を歩いていたはずなのに、いつの間にか外に出ていたのだ。
紅魔館から出たことのない僕は、正直な所外に出てしまえば右も左もわからない。
しかも身体的には、ただの人間である僕が飛べるはずもなく、完全に迷子になっていた。
「レミリアお嬢様に叱られるだろうな……命令も破っちゃったし」
僕は普通の人間だし、夜もだいぶ近づいてきた。
このままじゃ僕は妖怪に食われてしまうだろう。
でも、帰り道はわからない。
仕方なく僕は当ても無く歩くしかなかった。
「紅鷹がいない!?」
「は、はいっ。見ても部屋に姿がなくて……今メイド達に探させています」
帰った私を待っていたのは、咲夜の紅鷹が行方不明の報告だった。
あれだけ従順な紅鷹が逃げ出すとは思えない。
だが実際、紅鷹の姿はない……私の落ち度だ。
「くっ!!」
「お嬢様!? お待ち下さい!」
私は咲夜の静止の声も聞かず再び外に飛び出した。
もう夜になる。
ただの人間である紅鷹は、里の人間でもないため妖怪の餌でしかない。
そんなことはさせない。
紅鷹は私の物だ!
私以外の奴に好き勝手にされてたまるものか!
「はぁ……はぁ……」
迷いに迷った僕は、予想通り妖怪に追われていた。
しかも一匹どころじゃない。
走れば走るほどその数は増えていき、今はもうどんな数になってるか予想もつかない。
でも捕まるわけにはいかない。
命が惜しいんじゃない。
でも僕の命を誰かに渡すわけにはいかないんだ!
「っ!!」
そんな僕に追い討ちをかけるかのように飛んでくる妖怪の弾幕。
だがあんなのはもう慣れた。
体が追いつくかはわからないけど、そんなの当たるはずがない。
「!!」
こんな人間に避けられているのが腹が立つのか、弾幕は更に激しさを増し、僕を打ち倒そうとしてくる。
でも弾幕をいくら厚くしても、パターンは一緒。
だから慣れている僕に当たるはずはなかった。
普通は当たらないはずだったのだ。
「が!? う……」
でも現実は違った。
僕の体の疲労は思ったより激しかったらしく、思ったような動きが出来なかったからだ。
僕は弾幕を数発受け、地面に転がった。
自分の肉が焦げたような匂いがする。
あぁ、レミリアお嬢様から貰った執事服……汚しちゃったな……。
でも、執事服が汚れても逃げるのを止めるわけにはいかない。
僕の命なんか惜しくない。
でも、この命はもはや僕一人の命ではない。
いやもう僕の命じゃないんだ。
僕の命はあの時救って頂いた、最愛の人、レミリアお嬢様の物なんだ!
「う……わぁぁぁぁぁ!!!」
僕は自分を奮い立たせるために叫び、また走り出した。
体なんか、もうとっくに限界を超えてる。
妖怪の放った弾幕によって痛めた足や背中が酷く痛む。
それでも走らなきゃ……僕はレミリアお嬢様の所に帰らなきゃならないんだ……。
「う……うぐぅ……」
何度目か分からない転倒。
妖怪達は狩りを楽しむかのように僕が逃げるのを見ている。
でも好都合だ。
すぐに殺されないなら走れる。
逃げれる。
でももう、僕の手足は言うことを聞いてくれなかった。
足が片方、変な方向に曲がってる。
今かその前に転んだ時にやられたんだろう。もう感覚がなかった。
それに気付いた妖怪達はつまらなそうに僕に近寄ってくる。
あぁ……申し訳ありませんレミリアお嬢様……貴女に頂いたこの命……こんな妖怪達に散らされてしまって……。
「紅鷹!!」
あぁ……レミリアお嬢様のお声だ……。
大丈夫ですよ……そんな泣きそうな声をしなくても。
僕は貴女様の物……どこにも……行ったりは……。
「……え?」
気付いた時には僕は知らない場所にいた。
白いベットに横たわる僕……そうか、ここは僕の世界の病院に似てるんだ。
紅魔館にこんな所あったかな?
「気付いたみたいね」
「貴女は……」
「私は八意永琳。 驚いたわよ。 血相を変えたこの子が、貴方を背負って永遠亭に飛び込んできた時は何かと思ったわ」
「この子……? あ、あれ? レミリア……お嬢様」
近くの椅子に座った不思議な女の人、永琳さんの言葉でベットの重みに気付くと、痛む体を少しだけ起こして見てみた。
そしてそこにはレミリアお嬢様が寝ていた。
服は乱れ、酷く疲れていたように寝ている。
なんでここにお嬢様が。
「そういえば……僕は妖怪に襲われて……まさかレミリアお嬢様が助けて」
「見た所そうね。 大事にされてるみたいで良かったじゃない」
「それは……嬉しいですけど」
永琳さんはからかうような目線で僕を見てくる。
でも、どうやらまたレミリアお嬢様に命を救ってもらったみたいだ。
この……なんとも可愛らしい、僕の最愛の人に。
「ん……紅鷹?」
「あら、起こしちゃったみたいね。私は少し出てるから、ごゆっくり」
「レミリアお嬢様……」
永琳さんは出て行ってしまい、僕はレミリアお嬢様と二人きりで残される。
レミリアお嬢様はまだ起ききってないらしく、まだ目が空ろだ。
「レミリアお嬢様……申し訳ありません。
命令を……破ってしまって」
僕はもう一度名前を呼んで謝る。
だがあまりレミリアお嬢様から反応は返ってこない。
「僕の最愛の方、レミリアお嬢様、僕はどんな罰でも受けましょう……僕は!?」
そこまで言った所で、不意にレミリアお嬢様が僕に抱きついてきた。
僕は何も言えずに固まってしまう。
「……紅鷹……なんで勝手なことした……」
レミリアお嬢様の強がるような、似合わない口調。
吸血鬼としての威厳を保つための口調。
その口調が泣きそうなのを堪えるために使っているのが、僕にはわかってしまった。
「申し訳……ありません」
「許さ……ない。 でも……生きてて良かった」
レミリアお嬢様はそう言うと、体を震わせてそのまま何も言わなくなった。
泣いて……いるのだろう。
レミリアお嬢様は優しい、だから……僕のために泣いてくれているのだ。
そう思うと、僕は自然に言ってしまった。
「大好きです……レミリアお嬢様」
結果だけ言えば僕の無謀なプロポーズは簡単に断られた。
従者の身である僕がレミリア様の夫になるのはダメなのだ。
でも僕は今でもレミリア様の隣にいる。
いやむしろ……あれからと言うもの僕の外出禁止の命は解かれ、逆にレミリア様が外に出る時に必ず付き添うようになっていた。
そして必ず毎日レミリア様はこう言うのだ。
「良い? 必ず私に相応しい男になりなさい。 これが……貴方に与える永遠の命令よ」
はい……レミリアお嬢様。
ちなみに主人公の名前の紅鷹ですが、調べてみたら本当にある名前らしいですね。
箸休めに続きは書くかも。
といっても元々を手直しするだけなので、更に短編になるでしょうが。