「貴方、自分に能力があるの理解してる?」
「え……?」
それはいつものように神社の宴会にレミリア様の付き添いで来ていた時だった。
前に元の世界に帰る話をした、えっと……たしか八雲紫さんが、不意にそんなことを言ってきた。
えっと能力ってあれだろうか?
あのレミリア様で言う、運命を操る程度の能力とか言う奴。
「僕に能力なんてありませんよ。 普通の人間ですし」
僕の言葉に紫さんは微笑を返してきた。
「貴方は理解していないだけ。 前の事件だって貴方は能力を生かして、生き残ったの」
「僕が能力を生かして、生き残った?」
事件とは僕と、レミリア様の距離が縮まったあの時のことだろう。
あの時は妖怪達の攻撃を必死に避けてたけど。
「貴方の能力は全てに順応する程度の力って言えばいいかしらね。 直接的ではないにせよ強力な能力よ」
「全てに順応する程度の能力……」
紫さんの言葉自体に僕は、物凄く思い当たる節があった。
僕こと紅鷹は、自慢ではないが、物凄い物事の覚えが良い。
例えばの話、というか実話なのだけど。
僕が紅茶を始めて淹れた時、その出来は酷かった。
だけど、次に淹れた時は、まぁ飲めるレベルの紅茶が淹れられるようになっていた。
そして三度目。
その時には僕は味に厳しい人でない限り、何の問題もない紅茶を淹れられるようになっているのだ。
流石にそれ以上は無理だけど、それが順応する程度の能力だとしたら納得出来る……かもしれない。
「でも僕に能力なんてあるわけが……」
「ふ~ん……ならなんで元の世界に帰りたいことをすぐに言わなかったのかしら?」
「それは……」
その紫さんの言葉に僕は返す言葉がなかった。
確かにレミリア様のこともある。
だがそれ以上に僕は帰りたくない理由があったのだ。
僕は、その順応してしまうことを心底嫌がっていたのだから。
外の世界。
つまらない世界。
「紅鷹!」
「え、あ! レ、レミリア様……」
僕は完全にぼんやりしていたようで、レミリア様に呼び掛けられて気付いた。
従者としては完全な失態だ。
後で咲夜さんに怒られるだろうなぁ。
「紅鷹、何をボーとしてるの? 私が少し目を離してる間に何か……」
「いえ何もありませんよレミリア様。 心配かけてしまい、すみません」
「し、心配なんてしてない! た、ただ主として従者のことを……」
ふふ、顔を赤くして必死に言い訳をしようとするレミリア様は相変わらず可愛らしい。
まぁそんなことを言ったら怒られるから言えないけど。
「……では、僕のことを考えて頂いてありがとうございます」
「……紅鷹。 お前わかってて言ってるだろう?」
口調を変えながらそう言って、レミリア様はそっぽを向いてしまう。
正直たまにこうやってレミリア様はからかいたくなる。
だってからかうと物凄く可愛いのだ。
咲夜さんが見てない所でしか出来ないが、実は僕の楽しみの一つだったりする。
まぁでもレミリア様がお優しいから、許して貰える楽しみなんだけど。
「僕はレミリア様に大切に思われて、幸せですよ」
「紅鷹、もう良いからそろそろ帰るわよ。 少し疲れたわ」
「はい。 了解しましたレミリア様」
ほら、すぐにこっちを向いてくれる。
実は、僕はもう空くらいなら飛べる。
レミリア様にずっと付き添うモノとして空くらいは飛べないと不便と言うことで、なんとか飛べるようになったのだ。
次は弾幕、その後はスペルカードと順々に覚えていく予定だ。
「咲夜も帰るわよ」
「はい、お嬢様」
僕に続いて咲夜さんもレミリア様の背後に続いた。
というか普通僕の方が立場が下だから一番後ろのはずじゃ。
「あの……」
「あなたを後ろにしたら、誰もあなたを見張れないでしょ?」
僕の質問の意図がわかっているらしく、用件を言う前に咲夜さんが答えてくれた。
どうやらまだ僕は、レミリア様を心配させちゃってるみたいだな。
早く強くなってレミリア様に心配をかけないようにしないと。
そのためにはパチュリー様に授業を増やして貰って。
「紅鷹?」
それに美鈴さんにも、体自体を鍛えるの手伝ってもらおうかな。
自分のやり方ばっかりじゃ偏っちゃうから、拳法の修行を取り入れて……。
「紅鷹!」
「え、あ、はいレミリア様?」
「さっきから呼んでるのに、答えないとは良い度胸してるじゃない?」
僕はどうやら前を飛んでいた、レミリア様を怒らせてしまったようだ。
割と本気な怒気が目の前に、かなり本気な殺気を背後から感じる。
「すみませんレミリア様。 レミリア様のことを考えていたらぼんやりしていたようで」
「え!?」
途端顔を真っ赤にさせるレミリア様。
怒気は一気にしぼんでいき、代わりに赤みだけが残る。
可愛い。
「自分でも注意はしているのですが、どうもレミリア様のことを考えると集中してしまって」
「え……あう……」
「従者としてこれではダメですね……以後気をつけるようにします」
「わ、分かれば良いのよ……分かれば」
そう言うのがやっとと言う感じで、レミリア様は、そのまま先に紅魔館の方へと加速していってしまった。
不意に背後からため息が聞こえる。
「貴方、わざとやってるでしょ?」
「何がですか?」
「……本人に自覚がないのか、それとも狙ってるのかわからないって始末が悪いわよね」
咲夜さんはそう言うと付いて来いとばかりに僕の手を取って加速し出した。
咲夜さんが言わんとしてることは何となく分かる。
でも仕方ないじゃないですか。
あぁ言う時のレミリア様は凄く可愛いんですから。