「紅鷹の様子がおかしい」
「はぁ……」
ここ数日で、何度目かわからないお嬢様の発言。
これまたいつも通り、お嬢様の従者、紅鷹のことだった。
どうやら相当悩んでるらしく、先ほどから紅茶に一口しか口をつけてない。
「私に隠れて何かやっているように見える」
「……そうでしょうか?」
あのお嬢様に絶対的な忠誠を誓ってる、紅鷹がお嬢様に隠し事?
そんなの有り得るのかしら。
「怪しいのはパチェ……何かパチェとやっているみたいなのよね……う~ん」
唸りながら考えるお嬢様。
その様子を見てると、もうパチュリー様には聞いてみたみたいね。
多分上手くはぐらかされたんだろうけど。
「咲夜。 貴女も紅鷹が何をやっているか探ってみて」
「……直接聞けばよろしいのでは?」
「それじゃあ命令になるからやりたくない」
確かに。
お嬢様が真剣に聞けば紅鷹は隠さない。
それは命令であるから。
命令なら、絶対に紅鷹は従う。
それは私にも分かる。
でも、それがお嬢様の求めるやり方じゃないのなら仕方ないわね。
「ではどことなく探ってみます」
「えぇ……期待してるわ」
最後に小さくため息をつくお嬢様。
正直な所を言えば、お嬢様にこうやって心配をかける紅鷹を許してはおけない。
でも、紅鷹を殺すことも傷つけることも出来ない。
それはお嬢様の望むことではないから。
私も、命令でない限りはやりたくはない。
「とは言っても困ったわね」
お嬢様にはああ言ったが、紅鷹に私が直接聞くわけにはいかないのよね。
私だって、紅鷹の上司に当たる役職。
上下関係を大事にする紅鷹なら命令として受け取って、答えてしまうかもしれないし。
パチュリー様が、素直に答えてくれる筈ないわよね。
他に知ってそうな人はいないかしら。
「あ、小悪魔」
そっか。
パチュリー様が知ってるなら小悪魔も知ってるかもしれない。
それに小悪魔ならもしかして軽く教えてくれるかも。
「ねぇ小悪魔?」
「咲夜さん? なんでしょうか」
私があんまり小悪魔に話しかけたことないから少し戸惑ってるみたいね。
というかちょっと震えてる?
そんなに私、怖そうかしら。
「紅鷹のことについて何か知らない?」
「え!? 紅鷹さんのことですか……」
今あからさまにまずいっ!って顔したわね。
「わ、私は何も知りません~パチュリー様に聞いてください!!」
「あ」
これ以上追求する前に逃げちゃった……。
これ、もしかして怖がられてるの?
地味に傷つくのだけど。
「……? 咲夜さん?」
僕が図書館に向かう途中の廊下。
そこには咲夜さんが呆然と廊下に立ち尽くしていた。
どうしたんだろ。
何か落ち込んでるようにも見えるけど。
「あの……咲夜さん?」
「……紅鷹。 私って怖い?」
「え? いえ別に怖くないですけど」
咲夜さんは後ろから見た時よりも落ち込んだ顔をしていた。
それにしても不思議な質問だな?
咲夜さんが怖いはずないのに。
「どうかしたんですか?」
「……少しね。 それよりも貴方に少し聞きたいことがあるんだけど?」
吹っ切れたように普段の表情に戻った咲夜さんは改めて僕の方に向き直った。
でもあからさまに後に引いてるように見えますよ?
「貴方、お嬢様に何か隠し事をしてるわね?」
「……はい」
咲夜さんの質問の内容に僕は、はいと答えるしかない。
だって咲夜さんに嘘をつくことは出来ない。
それが僕自身には困ることでも、聞かれた以上、答えなきゃならないんだ。
「素直に答えたわね。 じゃあそれはお嬢様に知られると困ること?」
「……はい。 今は、まだ」
そう答えた僕の顔は少し苦笑いでもしてたかもしれない。
だって咲夜さんは、メイド長。
使用人が主人に隠し事をしてるなんて、許してくれるはずはない。
レミリア様に報告もきっとするだろう。
「……それはお嬢様にとって良いこと?」
「それは……わかりません。 僕の自己満足で終わるかもしれませんし、そうならないかもしれません」
僕の曖昧な答えに咲夜さんはあからまさにわかるくらい大きくため息をついた。
「……お嬢様が心配してるの。 早くお嬢様を安心させてあげて」
「え……? 咲夜さん報告するんじゃ……」
僕の質問に咲夜さんは少し子供染みた、それでいて少女のような笑みを浮かべて笑った。
こんな顔始めて見たかもしれない。
いつもクールなメイド長ってイメージしかないから。
「数日だけ待ってあげる。 その代わり必ずお嬢様を喜ばしてあげて」
それだけ言うと咲夜さんは僕の横を通り過ぎて去っていこうとしてしまう。
でも、これだけは言いたい。
「ありがとうございます咲夜さん!! それと! 僕は咲夜さんのこと怖いんじゃなくて可愛いと思いますよ!」
ってあれ?
僕が叫んだ瞬間咲夜さんの姿が消えた。
時間を止めてさっさと行っちゃったのかな?
さっきの聞こえてると良いけど。
「え、え、えぇ!? い、今紅鷹が、私を可愛いって……~~~~~」
「出来た……うん。 これならきっと……」
仕事の合間を見て図書館でパチュリー様の修行を受けながら完成させてきた、コレ。
コレがあれば、きっとレミリア様も喜んでくれる。
「……良くもまぁ……これだけのを作ったわね。 あなた。人間にしておくには、惜しいんじゃない?」
「そんな……コレ一つ作るのにこんなに苦労しましたから」
パチュリー様の褒め言葉がなんだかくすぐったい。
あんまりこのお方は人を褒めないからなぁ。
「ありがとうございます、パチュリー様。 パチュリー様のお蔭で……」
「……私にお礼は良いから。 レミィに早く持っていてあげなさい。 小悪魔、包装を」
「はい~」
ふふ、僕にお礼を言われてパチュリー様少しだけ赤くなってますね。
相変わらずこのお方はお礼を言われることに慣れてないんですから。
「それじゃあ行ってきます」
「報告、待ってるわ」
「頑張ってくださ~い」
パチュリー様と小悪魔さんに見送られ、図書館を後にする僕。
向かうはレミリア様の所。
これを早く渡さなきゃ……。
「や、やっと来たのね紅鷹。 お嬢様が中でご立腹よ」
お嬢様の部屋の前では咲夜さんが少しだけ顔を赤くして待っていた。
って、あれ?
なんで咲夜さん、顔が赤いんだろ?
風邪かな。
「あの……どうかしたんですか?」
「い、良いから紅鷹は部屋に行きなさい!」
無理矢理押し切る感じで咲夜さんに部屋に押し込まれてしまった。
どうしたんだろ?
まぁそれよりも今はレミリア様……うわ!?
「……何しに来た」
似合わない威圧口調まで使われて。
物凄い不機嫌なようですね、レミリア様。
でも、そのお顔はお似合いになりませんよ?
「すみません。 無礼を覚悟で失礼します」
「えっ? ちょ紅鷹!?」
一気に歩み寄った僕に、レミリア様は焦ったように一歩下がる。
そうそう威圧口調より、そっちの方が可愛らしいですよ。
「これをお受け取りください。僕の……傑作です」
手を取りレミリア様の小さい手に箱を置く。
どうやらレミリア様は唖然として何も言えないようだ。
「お開け頂けると、光栄です」
「…………」
レミリア様は無言で箱を開けていく。
あの中に入ってるアレ。
喜んで頂ければ良いけど。
「これは……」
紅鷹に強引に渡された箱に入っていたのは、私でも見たことがない紅い、とてもとても綺麗な宝石だった。
私が見る方向を変えるたびに赤い色が少しづつ変わる不思議な石。
とても綺麗な魔法の石。
「レミリア様にお世話になってから、何もお礼をしていなかったので」
そう言って紅鷹は優しく笑った。
その笑顔は、さっきまであった不安や苛々を全部消してくれた。
「本当はアクセサリーに加工しようと思ったんですが、時間とか足りなくて」
心の奥から何か暖かいものが込み上げてくるようだった。
この私が、人間からのプレゼントで感動してると言うの?
バカらしいって言い切れれば……良かったんだけどね。
「……このために最近?」
「はい。 沢山の宝石を魔法で加工して一つにするためにパチュリー様に教えてもらいながら少しづつ……」
「……そう」
もう怒る気なんか完全に無くしてた。
……お節介な執事め。
こんな嬉しいこと……簡単にするんじゃない……。
私は嬉しいことを意識すると急に恥ずかしくなり、何も言えなくなってしまった。
紅鷹が嬉しそうに笑ってる所を見ると、私の顔は真っ赤なのだろう。
でも何か心地よい、そんな気分だった。