今日こそ何もない一日を望んでる……と思いたい。
正直な所、僕こと森近霖之助に平凡な日常など皆無である。
主に毎日のように現れる略奪者の仕業なんだが。
まぁ長い生のほとんどは長い暇潰し。
今日もその暇潰しを満喫させてもらうとするか。
「香霖! 今日も来てやったぜっ!」
「……毎日来てるね。 暇なのかい魔理沙?」
一番の略奪者である魔理沙は、ほぼ毎日ここ香霖堂に現れる。
でも同時に僕は魔理沙の持ってる品をほぼ騙し取っているから何も言えないのだが。
「何言ってるんだ。 私が来ないと香霖にいつの間にかキノコが生えるじゃないか」
そう言って魔理沙は許可もしていないのに勝手に上がって行く。
いつものことだから今頃何も言わないが、僕はそんなキノコが生えるような生活をしてるかい?
「はぁ……いい加減ツケを返して欲しいんだけどね」
「だからこうやって夕飯を作りに来てやってるだろ?」
「きみも「お邪魔するわよ」……今名前を出そうとした霊夢も夕飯をたかりに来ただけにしか思えないんだが?」
次に現れた霊夢。
ツケを払わない第二号で略奪者の一人。
まぁ基本はお茶とかだから被害自体はそんなに大きなものではないのだけど。
「魔理沙も来てたの? じゃあ私も食べてくわ」
「……何がじゃあ、なのか良く分からないんだが?」
勿論霊夢は僕の言葉なんて気にせず魔理沙の方に行ってしまう。
いつもそうなんだが、ここが僕の店であることが分かってるんだろうか?
「香霖~? 塩はどこにいったんだ?」
「塩は奥の棚だよ。 この前取られたからね。 移動させたんだ」
ってしまった。
霊夢に取られないために移動させたのに意味がないじゃないか。
はぁ……これでまた僕の家から塩が消えていくか。
「先に言っておくけど、今日は少し商談があるから、あんまりうるさくしないでくれよ?」
「「商談?」」
珍しい言葉を聞いたとばかりに魔理沙と霊夢が同時に声を揃えて疑問そうな声を上げる。
「あぁ。 正直この商談が上手くいかないとしばらくかなり苦しいんだ」
「霖乃助さんもそんな生活苦しいの……?」
そんな同志を見るような目で僕を見ないでくれ、霊夢。
きみも苦しいのは分かっているが、同志みたいに見られると何か辛い。
「香霖に商談をするなんてどうかしてるぜ」
「魔理沙……何度も言ってるけどここは店なんだからな?」
「分かってるぜ?」
満面の笑みを浮かべながら魔理沙は相当失礼なことを言い、台所に戻っていく。
多分もう興味を失ったんだろう。
「それで商談の相手って誰なの?」
どうやら霊夢はまだ興味があるみたいだな。
でもいい加減売り物のツボに座るのは止めてくれないか?
「あぁ多分そろそろ……」
とそんなことを言った途端ノックが来たな。
ここにノックをする人なんて本当に少ないからすぐに分かる。
「入ってくれて構わないよ」
そして扉が開き、そこには……。
「森近さん、遅くなりましてすみません」
「いや問題ないよ。 いらっしゃい」
今日の商談相手は始めての相手である紅鷹だ。
どうやら外の世界の人間らしいけど、この妙に似合ってる執事服を見てると、馴染んでいる。
「えっと……紅鷹だっけ? レミリアの執事の」
「はい。 霊夢……うん。 敬意を払う必要はないって言われてますから、呼び捨てで良いですよね?」
どうやら霊夢は紅鷹と初対面に近いみたいだ。
まぁそう言う僕も、この前始めて紅鷹がここを訪れたのが始めて会った時だが。
「敬意を払う必要ないって……レミリアが言ったの?」
「いえレミリア様は何も。 言ったのは咲夜さんです」
「咲夜の奴……まぁ良いけどね呼び捨てで」
「ご理解頂けて嬉しいですよ」
霊夢と話す紅鷹の物腰は柔らかだがどこか人間味が薄い。
いつもこうなのかはわからないが、変わった人間であることには変わらないな。
「それでだ紅鷹。 今日の商談だが、見ての通り霊夢と魔理沙が来ていてね。 二人がいてダメなら後日になるが……」
「あぁいえ構いませんよ。 霊夢や魔理沙がいても僕にとって問題は特にありませんから」
僕の配慮に紅鷹は薄っすらと笑って返してきた。
まぁ紅鷹が良いのなら僕は別に構わないのだが。
「紅鷹、あなたレミリアの執事なのにお金あるの?」
「……霊夢。 レミリア様はご自分の部下に何も与えないような貧困な心の持ち主ではありませんよ?」
霊夢の言葉に少し呆れたような表情の紅鷹には先ほどより遥かに人間味がある。
どうやらレミリア関係になると感情が出てくるらしいね。
だがそれよりもだ。
「霊夢、商談をするから少し下がっててくれないか? 紅鷹との雑談になってしまう」
「あらそう。 じゃ勝手に上がってお茶を飲んでるわ」
僕の言い分に珍しく簡単に乗ってくれ、霊夢は魔理沙のいる方に戻っていった。
これでやっと商談が出来る。
「とりあえず用意した椅子がある。 お茶を持ってくるから座ってくれ」
「はい。 失礼します」
僕が一旦お茶を持って戻ってくると、紅鷹は座った体勢のまま動くことなく待っていた。
完璧なる従者を徹底してるってことか。
いや実は執事になるために生まれてきたのか!?
……まぁ冗談は置いておくとして、少し徹底しているのは気になるな。
「さて商談に入ろうか。 確か外から取れた貴金属……主に宝石に当たるものが欲しいんだったね?」
「はい。 在庫の方はどうなってますか?」
「案外多く手に入れることが出来てね。 値は少し貼るが、それなりの量があるよ」
そう言いながら僕の出した袋をじっと見ている紅鷹。
実際の年齢は良く知らないが、こう言った所を見るとまだまだ子供のような好奇心があるな。
そういう意味ではレミリアと良くお似合いなのか?
「えっと……宝石が出来るだけ欲しいんです。 あんまり僕はお金を持ってない方ですけど……ってどうかしましたか?」
「い、いやなんでもないんだ……」
略奪者しかいないこの店に客が。
お金をきちんと払おうとするお客がいるよ。
おっと感動のあまり泣きそうになった。
「おーい香霖? 商談まだ……って紅鷹?」
「魔理沙、まだ商談は終わってないよ」
「香霖……? 森近さんそれって……」
「あぁ僕のことだよ」
「へぇ……」
何故か紅鷹は口の中で小さく何か呟いている。
何か……まさか何か良からぬことを考えているんじゃ?
……まぁ魔理沙じゃあるまいし、そんなことあるわけないか。
「なんだ商談の相手は紅鷹だったのか。 香霖に商談をするなんて時間の無駄だぜ?」
「……ちょっと待ってくれ魔理沙。 時間の無駄とはどういう意味だい?」
「そのまんまの意味だぜ」
「……仲が宜しいんですね」
いつものように魔理沙と話していると、紅鷹が子供のような笑顔を見せて笑っていた。
僕が何かそんな面白いことをしただろうか。
「へ〜紅鷹の笑う顔って、始めて見たかもしれないぜ」
「そうですか? 僕はそれなりに笑ってるつもりですが……」
「そいつそんなに笑わないの?」
魔理沙の話に紅鷹も乗ってしまったか。
霊夢も乱入してきたし、これはしばらく商談はお流れかな……まぁ良いさ。
紅鷹が随分と子供な顔をしてるからね。
「すみません。 商談を忘れて話し込んでるなんて……」
「良いんだよ。 物を買おうという意思すらない、誰かさん達と比べればね」
僕の皮肉交じりの言葉にも魔理沙はどこ吹く風だし、霊夢はお茶をのんびりと飲んでる。
きみ達のことなんだけどね。
「いえでも宝石は買っていかないと……これで買えるだけの宝石をくれませんか?」
そう言って出した袋を僕は受け取っ……重!?
「こ、これはどれくらい……うわ!」
思わず僕は叫んでしまった。
物凄い量のお金がそこには入っていたのだ。
これだけあれば僕が出した宝石を全部買ってもお釣りが来るぞ!?
「一体どこでこんなに……」
「レミリア様からは一応お給料を貰ってますから……今までもらった全額ですけど?」
「全額!? それじゃ生活はどうするんだい?」
「食事は館で出ますし。 別に欲しいものとかないんですよ僕」
はっきりと言い切った。
これは実はアレか?
僕の店で買い物をしたことを口止めするための口止め料……って紅鷹がそんなことする意味ないじゃないか。
「じゃ、じゃあその宝石は……」
「魔法の練習に使う分と、あとは砕いて錬金してお嬢様にプレゼントしようかと」
「……正直脱帽だよ紅鷹。 きみは完璧なまでに執事なんだね」
呆れる、というかもう関心するしかなかった。
どうやら意思がないと言う心配も杞憂だったみたいだ。
「ではこれで。 今日はありがとうございました。香霖さん」
「え……」
僕がまともな反応を返す前に紅鷹は扉から急いで去っていってしまった。
今確かに香霖さんと呼んだような気がするけど。
「香霖~終わったなら飯食おうぜ~」
「……あぁ今そっちに行こう」
まぁ、良いだろう。
今度紅鷹が来た時にでも確認すれば良いさ。
そうして珍妙な客による多額の商談は終わった。
結果は珍しく僕の黒字で終わるのだった。
珍しくは余計さ。