「レミィは喜んでたみたいね」
「はい。 パチュリー様が協力してくれたこその結果です」
「……別に私は少し教えてあげただけよ」
相変わらず人にお礼を言うことを止めない紅鷹。
もう、私がお礼を言われるのが苦手なのわかっててやるんだから。
紅魔館の執事であり、レミィの半恋人みたいな紅鷹は、この悪魔の館に相応しく案外性格が悪い。
人を恥ずかしがらせたりするのがこのうえなく好きなのだ。
自覚はないかもしれないけど。
「僕は感謝してますよ」
「っ……はぁ」
だからその笑顔とお礼は反則なのよ。
レミィの恋人なら……変に意識させないで欲しい。
「そうそう実はですね……」
思い返して見れば紅鷹は良く図書館に来る。
本人曰く、本が好きならしいが、人当たり自体は悪くないせいか、私とも良く会話する。
紅鷹はうるさくないし、私も案外楽しんでる。
だから良いと言えば良いのだけど。
「あ、そろそろ美鈴さんとの約束がありますので……失礼します」
「そう。 じゃあ、またね」
「はい。 またよろしくお願いしますね、パチュリー様」
最近、こうやって紅鷹が立ち去ると、少しモヤッとした気分になる。
なんでだかは良くわからないけど……これは一体……。
今日はお嬢様の執事をやってる、紅鷹さんとの約束がある日です。
実戦形式の特訓と、咲夜さんから頼まれたことを手伝って欲しいとのことだ。
「美鈴さん。お待ちしましたか? お忙しい中すみません」
「いえ~大丈夫ですよ。 紅鷹さんこそ、仕事の合間に良く時間が取れましたね」
「僕の仕事は咲夜さんに比べれば、簡単で楽ですから」
本人は謙遜してるけど紅鷹さんの仕事はそんなに楽じゃない。
咲夜さんの補佐で、レミリア様のお世話に、妖精メイド隊の指揮もやってるのだ。
そんなに楽な仕事のはずがない。
でも本当に紅鷹さんは逞しくなりました。
ただの普通の人間がお嬢様の執事になると聞いて咲夜さんとかは猛反対だったんですけどね~。
それが今や、咲夜さんの補佐をやってるんですから凄いものです。
「それではお願いして良いですか?」
「はい。 実戦形式の弾幕勝負ですね?」
「はい。 お願いします」
ただの人間である紅鷹さんと私の勝負。
始めはこのことを知らないお嬢様以外、咲夜さんやメイド隊のみんなは反対してましたけど。
今じゃこれですからね。
「っ!」
私の踏み込みを上手く受け流して私の背後に回る紅鷹さん。
私の教えた拳法。
毎日の積み重ねでしっかり自分のものしてくるんですから油断なりません。
「はっ!」
ですが紅鷹さんは人間である以上、パワーがない。
つまり非力。
そりゃ人間にしてはありますけど、私に勝つためには……パチュリー様から学んだ魔法を使うしかない。
でもこの距離では普通使わないんですけど、普通が通じないんですよねぇ紅鷹さん。
「氷符【氷帝の息吹】!」
「なっ!? スペルカード!?」
紅鷹さん、いつの間にスペルカードを!?
まさかパチュリー様との修行がそこまでいってたなんて……。
でもまだこの氷の散弾にはスキマがある!
「はぁぁぁぁっっ!」
「ぐっ!」
私が多少の被弾も気にせずに特攻すると、流石に紅鷹さんは防ぐことが出来ずに、私の拳をその身に受けた。
……あ、しまった!
夢中になって手加減を……。
「だ、大丈夫ですか紅鷹さん!? すみません、思わず手加減を忘れて……」
「……いえ大丈夫ですよ美鈴さん。 そんな軟な鍛え方はしてないつもりですから」
心配する私を不安にさせないためか、紅鷹さんは少しだけ苦しそうにしながらも笑っていました。
咄嗟に教えていた気でガードしたってことですか……?
「それに美鈴さんに教えてもらったお蔭でこうやって大丈夫なんです。 あのくらいなら全く謝る必要ありませんよ」
「そ、そうですか……」
ちょっと気恥ずかしさを感じて私は恐縮してしまいました。
私が手加減できなかったのを攻められる所で、感謝されるとくすぐったいですよ。
「大丈夫ですか紅鷹様~」
「あぁ問題ないですよ」
周りで固唾を呑んで見守っていたメイド隊が一斉に紅鷹さんに群がる。
お嬢様の命令でメイド隊の指揮を任せられてから、紅鷹さんはメイド隊に人気があるんですよね~。
「今日は美鈴さんの門も警備の援護をするよう頼まれていますし。 こんなことで倒れてはられませんから」
「え、咲夜さんの頼みってそれなんですか?」
「はい。 最近パチュリー様の被害がまずくて……結構深刻らしいです。 警備強化ですよ」
へ~……ってそれって私より紅鷹さんの方が信用されてるってことですよね……いや良いですけど。
でもまぁ確かに信用しますよねぇ。
紅鷹さんなら、私だって信用してますし。
あの努力と人の良さ、実力もありますし。
門番でしかない私ですけど、恋愛するなら紅鷹さんみたいな人が……。
「あ、でも一応手当て受けてきます。 仕事に支障を出すわけにはいきませんから」
でも私が恋愛ですか……無理ですよねぇやっぱり。
そもそも紅鷹さんはお嬢様の恋人ですし。
……ってあれ?
紅鷹さんはどこに?
「……はぁ」
あれから何度となく出るため息。
ため息の原因はわかってるんだけど……やっぱり紅鷹よね。
この前褒められてからどうも……その……なんか恥ずかしいのよ。
調子が狂っちゃって。
顔もなんか合わせ辛いし、今日は門番の仕事なんかやらせちゃって。
あぁ困った……。
「そもそも紅鷹があんなこと言うから……」
「僕がどうかしましたか?」
「きゃっ! こここ紅鷹!? いいいいつからそこに!?」
私としたことが紅鷹がいたことに気付かなかったなんて……。
あ……う……顔が物凄く熱い。
また不意打ちでやられた。
「今来た所です。 少し美鈴さんとの手合いで怪我をしたので」
「そ、そう……それじゃ門番の警備きちんとするように」
私はそれ以上、紅鷹の顔を見ていられなくて足早にそこを去ろうとした。
だけど紅鷹は……本当に非道だ。
「はい。 咲夜さんもお仕事頑張ってください」
紅鷹に笑顔でそう言われ、またも私は時を止めて逃げてしまった。
「ご苦労。 今日も問題なく過ごせたみたいね」
「いえいえ。 僕はまだまだですよ」
今日もいつも通り僕は夜になって起きてきたレミリア様と一緒に居た。
咲夜さんは居たり、居なかったりしてるが、今日はレミリア様の命令でいないみたいだ。
一日が終わった時のレミリア様の珍しい労いの言葉。
この言葉が僕に頑張る気力をくれていることをみんな知らない。
「日に日に逞しくなってるみたいね。 パチェから色々聞いてるわ」
「パチュリー様には色々やってもらってますから」
僕がそう答えると、何故かレミリア様は少しだけ不機嫌そうな顔をした。
何か僕が変なことを言っただろうか。
「……紅鷹。 紅鷹は私が好きと言ったな? それは間違いないか」
「間違いありません。 僕はレミリア様を愛しております」
即答するとレミリア様は少しだけ頬を赤く染めた。
そんな顔も可愛いなぁ……。
「そ、それなら良い……今日はもう遅い。 寝なさい」
「はい。 ではまた明日お会いしましょう、レミリア様」
レミリア様に許可を貰った僕は、そのまま部屋に帰って睡眠に入った。
この時の質問の意味に全く気付くことが出来ないまま。