笑うトランプ   作:夏野 雪

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◇13

 イブラヒムはテーブルに集まるギャラリーの中にいた夢追を見つけた。

夢追は真剣な顔でジッと二人のいるテーブルを見つめていた。

「緑仙。防犯カメラの映像はどうなってる? 」

『ん? 慌てちゃってどうしたの? カメラは...二人のテーブルに近いやつは

相変わらず叶をチェックしていて、後は特に変わった様子はないかな? 』

緑仙の報告を聞く限りでは、こちらの狙いにはまだ気付かれていないようだが、

イブラヒムは妙な胸騒ぎを感じていた。

だが、不測の事態が起こっているわけではない。余計な心配をして下手に

動く方が愚策というもの。ギャンブルも同じだ。焦ってはいけない。

大事なのは冷静に状況を把握すること。

そんな事を考えていると、夢追は傍に立っていた赤髪の女性と何かを話した後、

バックヤードへと二人で向かって行った。

 

 

 金を運んでいた二人は指紋認証と暗証番号入力を終えると、地下専用エレベーターに

向かっていった。バックヤードの出入り口を入って、まっすぐ十四、五メートルぐらい進むと

そこには地下専用のエレベーターがあった。

「さっきの女。良かったな。」

「ああ。良い脚だよなー。細すぎず太すぎず。」

二人はエレベーターに向かっている間に、赤いドレスを着たフレンの姿を思い出していた。

「胸もあって、あのボディライン。一人みたいだったけど、男いるのかな? 」

下らない会話をしながらエレベーター前に着くと、エレベーターの乗場ボタンを押した。

「怪我が心配とか言って、連絡先聞いとけば良かったなー。」

直ぐに目の前の扉が開いて、エレベーターの到着を告げた。二人はふしだらな妄想を

抱きながら籠の中に入っていった。二人が乗り込んで扉が閉まったもののエレベーターは

動く気配がなかった。

「...ああ。そうだ。これ面倒臭いよな。」

妄想から連れ戻された男は気だるそうに内部につけられたコンパネの上に指を乗せた。

指紋認証が認証されると二つある内の『B1』のボタンだけが光った。

「まぁ。こんだけの金が集まるんだから仕方ないだろ。」

ボタンを押すとエレベーターは静かに動き始めた。と思ったその時だった。

小さな地震のような衝撃が二人を襲った直後に籠の中の照明が消え、辺りは真っ暗になった。

「な、何事だ? 」

不安な気持ちを紛らわそうと男が、何の反応も示さないボタンをむやみやたらに連打していた。

「停電か何かでしょ。」

もう一人の男は比較的冷静な様子だった。

「残念でしたー...。」

『あっ?』

暗闇の中で二人はお互いの顔を見合っていた。今の声は?

先程まで下世話な会話をしていた聞き覚えのある声ではなかった。どこから?

これが所謂、心霊現象なのか?

二人の背筋に冷たいものが走った。二人は恐怖で体の動きが固まってしまい眼だけを

ギョロギョロと動かしながら、必死に暗闇の中に居る何かを探そうとしていた。

「本当...哀れだねぇー。」

二人の男が最後に聞いたのは憎たらしくも可愛らしい声だった。

そのまま二人は不自由な揺れない籠の中で眠りについた。

 

 

 二人の男をスタンガンで気絶させた二人はインカムをセットした。

「みどりー。動かしてー。」

でびるの言葉と共にエレベーター内に光が戻って来た。

「みどりさん凄いんですねー! 」

笑いながらルイスは狭いバッグの中で固まった体を解すようにストレッチをしていた。

『お二人もバッグの中で大変だったでしょう。これから動かしますからね。

地下一階に着いたら男子更衣室にある例のパイプスペースに向かってねー』

緑仙の言葉から間もなくしてエレベーターが地下一階への到着を告げた。

「お。いらっしゃい。」

「待ってたでー。」

地下一階で二人を待ち構えていたのはチャイカと椎名だった。

「ふむ。ご苦労。あとは任せたぞ。」

「はいよ。でびる君も気を付けてな。」

チャイカと椎名はでびるたちと入れ替わるようにエレベーターへと乗り込んだ。

「ここまで来ればこっちのもんよ! 」

でびるは満面の笑みを浮かべて、二人を見送った。

扉が閉まる瞬間にチャイカが何かを言った気がしたが、二人にはそれが聞き取れなかった。

二人は特に気にすることも無く、目的の部屋に向かって走り出した。

 

エレベーター内に倒れていた二人の衣服を奪ったチャイカたちは地下二階へと到達していた。

指紋認証は白雪が手に入れてきた社長秘書の物を使ったのだ。

地下二階に着くと、現金を運んでいた男二人を廊下へ放り出した。

チャイカたちはエレベーターに残ると、再び地下一階へとエレベーターを動かした。

地下二階には基本的には人が誰もおらず、幾多の防犯カメラが設置されているのみだった。

逆に人を置かないことで、人が居るだけで異常となる空間にしていたのだ。

しかし、今は防犯カメラの映像を緑仙が細工をして、セキュリティルームでモニタリング

されている地下二階とエレベーター内の映像はライブ映像ではなく録画映像なのだった。

チャイカたちの役目は事務所まで現金を運ぶことだ。

運ばれた金は売上金計算のため、一度地下一階の事務所へと運ばれることになっていた。

このまま現金が事務所に届かなければ怪しまれてしまうのだ。

「じゃ。行こか...リーダー。」

「うむ。気を引き締めて行けよ。まぁ。しっかりと金が運ばれれば、怪しまれることも

少ないと思うがな。それよりもだ。」

エレベーターが地下一階へと到達した。

「『リーダーと呼ぶな。』やろ? そんなことより、さっきルイスたちになんて言ってたん? 」

してやったりとニヤニヤと笑みを浮かべる椎名とは対照的に、チャイカは少し不機嫌そうに眉間に

皴を寄せていた。

「分かっているなら呼ぶんじゃないよ! ん? さっきのか? 」

男たちが着ていた制服を身に纏った二人は現金が入ったカートと共に地下一階へと降り立った。

()()()()()()()()()()。って言ってやったんだ。俺は優しいからな...。」

 

 

 地下一階にある事務所に夢追とアンジュは戻ってきていた。

夢追は先に連絡を入れてある物を用意させていた。それは従業員名簿だった。

「社長。『ショー』というのはどういう意味なのでしょう? 」

夢追は忙しそうに名簿の中から何かを探しているようだった。

アンジュの言葉に返事をすることなく、一心不乱にページを捲っていた。

目的の物を見つけたようで、その手がピタリと止まった。

「『夜見れな』...入社日は...やっぱりか。」

「社長? 」

夢追の探し物が何か気になったアンジュは後ろから名簿を覗き込んでみた。

そのページには見覚えのある証明写真が貼られていた。そう。先ほどまで目の前にいた人物だ。

それは名勝負を繰り広げていたピンクと黒の髪の女性ディーラーだった。

「社長。まさか『ショー』って...。」

「そう言うことだ。恐らく二人は共犯(ぐる)だ。さっきのゲームを見ていて感じたんだよ。

二人には確かに勝負の熱量があった。けど、それ以上に別のあることが上を行っていた。」

「あること...ですか? 」

夢追は近くのマイクを使い指示を出していた。このマイクはスタッフのインカムへと

繋がっていた。

指示の内容は直ちに夜見を交代させて、事務所まで連れて来るようにというものだった。

「よろしく...。それで何だったかな。そうだ。勝負の熱量より人目を集めたい。魅了したい。って

いう意思がはっきりと見えたんだよ。二人は勝ち負けでヒットとステイを判断していなかった。

どうすれば盛り上がるかで勝負をしていた。しかも、皆がチップの山とプレイヤーに

注視していたが、それをコントロールしていたのはディーラーの方だ。方法までは

見えなかったが、カードをある程度コントロールしないと、あれだけの演出はできない。」

夢追が熱弁を奮っていると、事務所に集金された現金が運ばれてきた。

扉の傍では集金の二人が事務所スタッフへと現金を受け渡していた。

アンジュに説明しながら、その様子を視界の片隅で見ていた夢追の脳裏に新たな疑問が

浮かび上がってきた。

『あんな凸凹コンビの集金人が居ただろうか? 』

その思考と連動していたかのように夢追のスマホが鳴り始めた。

どうやらショートメールのようだ。番号は知らない番号からだった。

しかし、相手の番号なんて夢追にとってどうでも良かった。をの理由は送られてきた

メッセージ内容にあった。

『貴方のダイヤモンドが狙われています。金庫室とホテル近くにある「マントゥールマンション」

というウィークリーマンションの203号室を調べてみなさい。』

 

 

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