『HELLエスタ』での騒がしい一夜から一週間が経っていた。
イブラヒムはとある病院の廊下を緊張した面持ちで歩いていた。
ある理由から彼がこの病院を訪れるのは今日が初めてのことだった。
すれ違う看護師さんに場所を聞きながら、フレンから教えてもらった病室を目指していた。
『M12号室』
この部屋は特別個室と呼ばれている部屋だった。この病院では一番グレードが高く、
室内はソファやテレビに冷蔵庫や冷暖房が完備されており、
その広い豪華でゆとりある室内にポツリと置かれたベッドの上に一人の人物が
安らかな顔で眠っていた。
眠っているとは言っても、この病室に来てから一度も目を覚ました事はなく、
ずっと眠り続けているのだった。
イブラヒムはベッドの横に用意されていた椅子に腰掛けた。
「久し振りだな...メリー。」
メリッサ・キンレンカ。イブラヒムの仲間の一人だ。
一年前。ホテルの階段から落ちたメリッサはホテル側に監禁され、酷い拷問を受けていた。
その理由は簡単だった。仲間の情報を引き出し、ダイヤモンドを取り返そうとしたのだ。
でも、メリッサが仲間の情報を喋ることは最後までなかった。どんな仕打ちをされようとも。
結果としてメリッサの維持が勝った。自分たちの負けを認めたくないホテル側は最後の悪あがきに
メリッサを意識不明の状態で道端に投げ捨てたのだ。
たまたま近くにいた通行人の通報による病院に運び込まれたメリッサは何とか一命を
取り留めたのだが、それっきり意識は戻らないままなのだった。
「俺さ...ずっと逃げてたんだよ。本当は心配でしょうがなかったのに、
会いに行きたくてしょうがなかったのに...。」
大きな窓からは晴れた日の心地良い日差しが室内に差し込んでいた。
「怖くてさ。情けないよな...。メリー。自分勝手なのは分かってるんだけど、
俺さ...もう一回フレンたちと『仕事』始めようと思ってんだ。新しく叶って奴も俺たちと
一緒のチームでやりたいって言ってくれててさ。」
相変わらず、メリッサは安らかな顔でイブラヒムの話を聞いてくれていた。
「本格的に始める前にメリーに報告しなきゃいけないと思ったし、
それに...謝んなくちゃいけないと思ってさ。本当に...本当にすまなかった。
許して欲しいなんて都合の良いことは言わない。ただ、しょうがねーな。って思ってくれんなら、
また一緒にいてくれねぇかな。今度こそ離さないからさ。この手を...。だから...待ってるからな。
いつまでも...お前が帰ってくるのを。だから、必ず戻ってきてくれ。目を開けてくれ。」
イブラヒムはメリッサの手を握った。あの時、握れなかった手を。
生きている。メリーは生きている。手の温もりがそれを伝えてくれた。
一年前に病院で再会を果たしから流し方を忘れていた涙が自然と溢れ出てきた。
メリッサの手を握ったまま、イブラヒムは涙を流し続けた。
「...恥ずかしいから泣いたことはフレンには内緒にしてくれ。アイツに知られると
面倒くせーからさ。」
メリッサの手をベッドの中に優しく戻すと、イブラヒムは椅子から立ち上がった。
「じゃあな。また来るわ。」
イブラヒムが部屋を出ようとベッドに背を向けた時だった。
「ありがとう。イブくん。」
背中から聞こえてきた声は懐かしい聞き憶えのある声だった。
イブラヒムは急いで振り返った。
そこに居たのは数秒前に見た姿と変わらず安らかな顔で眠るメリッサだった。
気のせいだったのだろうか。自分の願望が招いた幻聴だったのだろうか。
「あれ? 」
イブラヒムはメリッサの表情が先ほどよりも笑っているように見えた。
その時だった。閉じたままのメリッサの目から一筋の涙が流れ落ちた。
以上で『笑うトランプ』完結となります。
最後まで読んで頂きまして、誠にありがとうございました。
にじさんじを題材にした二次創作作品を投稿していましたが、
今までミステリーと短編しか投稿していなかったのですが、
今回は初めてのジャンルを選んでみました。
投稿してから、もう少しこうすれば良かったなど個人的に反省点の
多い作品となってしまいました。
また。今までライバーさんの言動など改変せずにやっていたのですが、
今回は物語の登場人物として少し呼称などを変えた部分があり、
少し不安でもありました。
それでも作品を読んで頂き、にじさんじや原作に興味を持っていただけたなら
嬉しい限りです。
重ね重ねになりますが、最後までお付き合い頂き、本当にありがとうございました。