通称『レインボーダイヤモンド』
発見された当初は5.5カラットという大きさを除けば、何の変哲もないダイヤモンドだった。
すぐに判明したことだったのだが、このダイヤモンドの真価は光に当てられた時に現れた。
光を浴びたT途端に七色に光り輝くのだった。それは通常の輝きとは明らかに違っていた。
その怪しく艶やかな光はみる者を虜にしていった。この光の原因は未だに解明されていなかった。
そんな魅惑のダイヤモンドをオークションで三十億円もの金額で落札したのが、
とある日本企業の社長であった。
「あらー。素敵じゃないの。三十億のダイヤを奪うなんて。」
白雪は満面の笑みを浮かべながらワイングラスを傾けていた。いつの間にかに、でびるの宴に
加わっており三人はボトルを一本開けていた。
「確か...あのダイヤを落札したのはCD社の社長でしたっけ? 」
ルイスは空になったボトルを戌亥に手渡して、追加の一本を注文した。
「そうですよ。ルイスさん。日本のレジャー産業を代表する大企業の『CHASE DREAM社』。
略してCD社と言われてますね。主な事業はリゾートホテル経営でしたが、近年解禁された
カジノ産業にいち早く参入して大当たり。今や日本を代表する企業になってます。」
叶はスマホやメモを見るわけでもなく、スラスラと企業情報を述べていた。
「その通り。そのダイヤモンドが、今回新たに完成したカジノが併設された三十五階建てホテルの
完成お披露目会に併せて特別展示されることになってるの。」
皆の顔を見回しながら説明していたフレンは緑仙と叶が座っていたテーブル席の中で緑仙の
隣に腰かけていた。
これから具体的な話が始まろうとしていた時だった。
「俺はやらないよ。」
それだけ言うと、勘定をカウンターに残して店を出て行ってしまった。
「ちょっと! まだ途中。」
「フレンさん!」
イブラヒムを止めようと立ち上がったフレンを制止したのは叶だった。
「無理ですよ。あんな状態で参加されても僕たちが迷惑です。」
「迷惑...ですって? 」
フレンがテーブルの下に隠していた右手の拳を強く握りしめていた。
掌に爪が食い込み、今にも血が滲み出るのではないかと思うほどだった。
その手を振り上げる寸前で止めたのは隣に座っていた緑仙だった。
緑仙は左手でフレンの震える右手を素早く包み込んだ。
フレンの右手を優しく包み込んだまま、フレンの目を見つめ首を横へ振った。
フレンは自分の右手から力が抜けていくのが分かった。緊張から解放された右手を
緑仙はすぐに握ってくれた。その手は何時もより温かかった気がした。
「僕たちは遊びでやってるんじゃないんです。仕事でやってるんです。
僕たちは命を預ける相手を決めようとしてるんですからね。」
叶の言い分は最もだった。もし、自分たちが叶の立場でも同じように言ったであろう。
でも、それでは意味がないのだった。
今回、これだけのメンバーを集め、これだけの大物を狙う理由は金でもなければ
名誉でも挑戦でもなかった。
「なるほど...ね。」
白雪は誰にも聞こえないような声で呟くと、カウンター席から手を握り合う二人を肴に
残っていたワインを飲み干した。
「と・り・あ・え・ず、簡単に言うと僕の調べたところにようと、二週間後にその特別展示会が
開催される予定なんだよね。その前日か前々日ぐらいにはホテルにダイヤモンドが
運ばれてくる予定らしいんだ。詳しい図面とかは、まだ調べてないんだいけど、
展示までホテル内のご自慢の巨大金庫で保管されるらしくて、そこから盗み出そうってことね。
売却ルートは確保済み。報酬は三十億割る仲間十名で一人三億ってことだけど、どうする? 」
緑仙がフレンに変わって立ち上がり大まかな説明を終わらせた。フレンにやらせていたら、
また爆発してしまいそうだと判断したのだ。
「ん? ちょっとみどりー。今十人っていったか? 」
顔を真っ赤にしたでびるが、首を傾げながら手を挙げた。ろくに会話もしていないのに
『みどり』呼びなのが気にはなったのだが、酔っ払いに何を言っても仕方ないと
割り切りながら、緑仙が手をでびるの方へと向けた。
「はい。でびるさん。どうぞ。」
「今ここに居るのがママを抜いて僕、怪盗、おっぱい、新米にみどりと隣の怖い女の六人だろ。
出て行ったあいつを入れても七人だぞ。あと三人は? 」
でびるが言ったことはフレンと緑仙以外は全く同じことを思ったに違いなかった。
ただ、全員が今はそれよりも自分が何て呼ばれていたのかが気になって仕方なかった。
「怖い女...って私!? いや。怖くないよ。超優しいよ! 」
「猿も木から落ちる...嘘が下手な詐欺師...。」
戌亥はカウンターに頬杖をついて成り行きを見守っていたのだが思わず声を出てしまった。
「フレンが怖いかは置いといて、もう三人は
確定だと思うけど、紹介は本人たちが来てからのお楽しみってことで。」
ぶつぶつと隣で文句を言いフレンを座らせると緑仙が持ち前の笑顔と落ち着いた声で
場を鎮めたのだった。