笑うトランプ   作:夏野 雪

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 『RAINBOW DREAM』のプレオープン初日は何事もなく、大盛況の中で幕を閉じた。

ホテル最上階である三十五階に用意されていたスイートルーム。

その中の一室に泊めっている一人の男がいた。

男はリビングルームにある黒革のソファに座り、ノートパソコンを険しい顔で眺めていた。

静かだった客室内に部屋の呼び鈴の音が響いた。男はゆっくりと立ち上がり、ドアへと向かった。

扉を開けると、そこに立っていたのは赤髪のショートヘアがよく似合う女性だった。

「お待たせ致しました。社長。」

女性にしては少し低い声ではあったが、その声には妙な安心感を与える効果を持ち合わせていた。

「ご苦労様、アンジュ。今日の数字についてね。まあ入ってよ。」

 

アンジュ・カトリーナ。CHASE DREAM社の女性社長秘書だ。線の細い体に赤髪が特徴的だった。

数字と日程の管理に長けており、社長の専属として会社創成期から共に仕事を進めてきた。

落ち着きのある声と表情とは裏腹に少しドジでお人好しすぎることが玉に瑕ではあった。

部屋に入ると男はソファに戻り、再びパソコンと睨めっこを始めてしまった。

「何か飲むかい? 」

「いえ。結構です。何か数字面で問題がありましたか? 夢追社長。」

 

夢追 翔(ゆめおい かける)。CHASE DREAM社の現社長にして創設者であった。

いち早くカジノ産業に目を付け、レジャー産業会社を設立。設立後は『いちから』を始め、

豊富な人脈を駆使して多くの企業と提携し、カジノ併設の高級リゾートホテルの第一号

『C DREAM』をオープンさせた。ホテルはカジノの膨大な力もあって大成功を収めた。

夢追は会社を上場させて、現在二号店である『RAINBOW DREAM』のオープンを控えていた。

ダイヤモンドと黒のスーツ用のベストと歌を愛する『カジノ王子』であった。

「テーブルの数字は上々何だけど、ゲームマシンが少し弱いな。ゲームマシンの種類別の

詳しい数字を僕のPCに送って欲しいのと、レイアウトも別の案があるかを担当に

再考させておいて欲しいんだ。」

アンジュは夢追の指示を聞きながら手際良く手帳にメモを書き足していった。

「...かしこまりました。以上で? 」

「大丈夫...かな? うん。それが終わったら、アンジュの分も別に部屋を取ってあるから、

今日は休んじゃって大丈夫だから。」

部屋を出ようとしていたアンジュは、それを聞くと立ち止まり夢追の方へと振り返った。

「いつもありがとうございます。」

そう言うと笑顔で一礼した後、部屋を去っていった。

夢追はアンジュの背中を見送りと、スイートルームご自慢の大きな展望窓の傍に向かった。

そこからは下界の営みを見下ろす事が出来た。夢追はここから観る景色が好きだった。

その儚くも美しい光の群れが大好きだったのだ。

 

 

 プレオープン初日が終わった夜。メンバーは戌亥の店に集まっていた。

「とりあえず、お目当てのものは手に入ったわよ。」

白雪はパタパタと一枚の手紙のような紙を扇子の様にして扇いでいた。その頼りない扇子には

『プレオープン御招待券』と書かれていた。

「それにしても白雪さんが、いちからの内部事情に詳しいなんてラッキーでしたね。」

「ええ。以前に()()をしようと思って調べていたのよ。フレンの言う様に

本当にラッキーだったわね。」

フレンは白雪に上質な赤ワインの入ったグラスを手渡した。白雪は招待券と引き換えに

受け取ったワインを嬉しそうに口へと運んだ。

「この招待券によると、この券の所持者と三人までは同伴として一緒に入れるみたいね。」

「それは良いですね。作戦の幅が広がります。フレンさんたちの方はどうでした? 」

叶も座っていた指定席のテーブル席から立ち上がり、フレンの隣から招待券を見つめていた。

「ああ! そうでした。叶さんも皆さんもこれを...。」

相も変わらずにでびると酒盛りを始めていたルイスは何かを思い出して立ち上がると、

鞄の中から何枚かの写真を取り出して、カウンターの上に並べ始めた。

「フレンさんとしっかり行ってきましたよー。『C DREAM』にね。」

それは夢追が建てた一軒目のホテルだった。二人はカジノへと偵察に行っていたのだ。

ルイスが並べていらのは、その際に隠し撮りしていた写真だった。

写真にはカジノ内部の出入り口や防犯カメラの様子、スタッフの服装などが写っていた。

「おー。どれどれ...。」

一番最初に食いついたのは緑仙だった。じっくりと各写真を吟味していた。

「なるほどねー...僕が建築会社とかから集めた図面とほとんど同じみたいだね。

となると...金庫は地下二階ってことか。うーん...やっぱり情報が足りないか。」

写真とノートパソコンの画面を見比べながら一人で唸ったり、呟いたりしていた。

「みんな。」

声がしたのは店の出入り口の方からだった。

そこに立っていたのはイブラヒムだった。姿が見えないと思ったら、いつものように

外でサンドを食べていたようで、片手には皿が握られていた。

「どうしたの? 」

不思議そうな顔で皆が注目する中、フレンが最初に声を掛けた。

「最後の招待客が到着したみたいだぞ。どーぞ。」

イブラヒムがそう言うと、彼の後ろから三人の人物が現れた。それは何とも濃い三人だった。

「みなさーん。初めまして! 」

可愛らしい笑顔で一礼したのはセンターで黒とピンクの二色に分けられたツインテールが

特徴的な女性だった。終始ニコニコと笑顔を周りに振りまいていた。

「うちらが来たからには、もう安心やで。な? リーダー? 」

腕組みをして、何故だか偉そうにしているのは白い長い髪を後ろで束ねている女性だった。

白い女性は隣に立つ大男に話しかけていた。彼女の言葉を聞くに、彼がリーダーなのだろう。

『彼』という表現が正しいかはわからなかった。なぜなら、大男は顔に化粧をしていたのだ。

「私をリーダーと呼ぶんじゃない! お見苦しい所をお見せしてしまい申し訳ない。

だが、彼女の言う通りだ。我々『レジスタンス』が来たからには成功すること間違いなしだ。」

 

 

 

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