「まさか、柱で生き残ったのが俺と冨岡の二人だけだとはなぁ…神とやらも相当人が悪いぜ…」
「全く同感だ」
「おい、冨岡ぁ、テメェ、俺を見下してたんじゃねえのか?」
「それは違う。俺の方がはるかに格下だと思っていた」
「そいつはどういうことだぁ?」義勇は不死川に姉に身代わりになってもらったこと、そして最終選別のことなどを話したのであった。
「…そんなこと気にしてたのかぁ…冨岡ぁ、テメェは本当にバカだな…」言っている言葉は辛辣そのものであったが、口調は思いのほか優しいものであった。
「ああ。自分が生き残るべきでなかったとひたすら思い込み、姉上や錆兎から託されたものすら忘れていた。…俺は本当に大馬鹿だ。…今になってようやく胡蝶の『そんなだからみんなに嫌われるんですよ』の意味が分かるとは…」
「胡蝶と言えば、テメェと胡蝶はいい感じだったじゃねえか」
「そうか?」
「ああ?テメェ本気で言ってるのか?胡蝶はいつも笑顔のように見えたが、あれは心から笑っていねえ。辛辣なようでも、感情をぶつけていたのはテメェだけだったじゃねえか。…無一郎は気付いていたかどうか分からねえし、伊黒には甘露寺がいたから別として、それを知っていたから、ほかの男どもは胡蝶にちょっかいを出さなかったんだぜ。…それにしても、さっきの話じゃあ、胡蝶にも想いを告げてねぇのか…」不死川はあきれたような声で言ったのであった。
「…結局、俺は自分のことばかり考えていたんだ」義勇は悔いるような表情を浮かべていた。
「…いや、胡蝶は藤の毒に自らを染め上げてまで上弦の弐を斃すことに固執していた。仮にテメェが想いを告げたとしても…断っただろうな…自分の死が大前提だったからな…」
「…お互い、あまりに不器用だったな…」
「だが、自らを焼いて悔いることのない、その心根に惹かれたんだろう?」
「…」義勇は頷いていた。
「面倒な女に惚れちまったんだな…」
「ああ…」そう言う義勇の目から涙が流れていた。
「おい、冨岡ぁ…俺がカナエといい仲になりかけていたのは知っていたか?」
「…ああ、胡蝶…しのぶの方からその話を聞いたことがある」胡蝶だけでは話が混乱しそうであったことから、義勇は多少照れながら名前を呼んだのであった。
「それなら話がはええ。俺とテメェで、さっさとあの世に逝っちまった胡蝶姉妹に地団駄踏ませてやろうじゃねえか」
「何を考えている?」
「簡単なことよ。いい女を見つけて、結婚して、ガキを作るんだよ」
「は?お前何を言ってるんだ…」
「もしかしたら、俺とカナエ、テメェとしのぶはそれぞれ夫婦になって、ガキを作ったかもしれねえんだ。その俺たちが別の女と夫婦になってガキを作れば、あの二人、あの世とやらでさぞ悔しがるだろうよ…」
「…先に死んだ復讐か。だが、俺もお前も痣の出た身。おそらく、それほど長くは生きられないぞ」
「だからどうした。世の中ひれえんだ。その宿命を知ってなお、俺たちを愛してくれる物好きな女だっているだろうよ。…なんたって、ろくに口もきかねえ、何を考えているか全く分からないような根暗野郎すら好きになっちまう物好きがいたんだからよぉ…」
「…確かにそうかもしれんな」義勇は、表現はひどいものの、実弥の中に確かにカナエとしのぶを悼む気持ちを感じていたのであった…
……………
「あらあら、いつの間にか実弥君と義勇君は仲良しになったのね…」天界にいる胡蝶カナエはしのぶに声をかけていた。
「ええ。生き残った二人が和解してよかった。…義勇さんも鬼のいない世の中になって本来の姿に少しずつ戻ってきているようね…」しのぶはうれしそうな顔をしていた。
「あの二人に幸せになってもらいたいわね…」カナエは呟いた。
「ええ。生き残ることはある意味一番つらいことだから…」しのぶは頷いた。
「でも、あの不器用な二人がどんな女性を射止めるのかしら?これは見物ね…しばらく二人の様子を見てましょう、姉さん…」しのぶは人の悪そうな笑顔を浮かべたのであった…
私は、カナエとしのぶなら、自分たちの死を延々と悲しまれるより、かえって実弥のように前向きに生きようとすることこそ支持するのではないかと思い、敢えてこのような表現にさせて頂きました。