描かれなかった鬼滅   作:夢幻遊人

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 言うまでもなく、もろもろの考証はしていません。あまり深く考えずに読んでいただけたら幸いです。



ぎゆしの戦国草紙

 時は戦国。冨岡家と胡蝶家は幾度にも渡って〇〇国の支配権をめぐって戦いを繰り広げていたが、隣国からの脅威が増してきたため、一転して同盟を組むことになった。

 こういった場合、一番手っ取り早く、確実な方法として政略結婚が用いられるのが戦国の常であった。

 そういう訳で冨岡家の嫡男(ちゃくなん)義勇と胡蝶家の次女しのぶがお互いの顔も知らぬまま祝言(しゅうげん)を挙げることになった…

 

(それがし)の一族や家臣、郎党は胡蝶家との(いくさ)で何人も死んでいるが、それは胡蝶家とて同じこと。戦国の習いとはいえ、何とも言えぬな」義勇は深いため息をついた。

 

「当家に()してくることとなったしのぶ殿は体つきこそ小さいものの、気が強く、武芸、中でも突き技では男どもでも太刀打ちできぬほどの使い手とのこと。ゆめゆめ油断されぬことです」義勇の守役(もりやく)は告げていた。

 

「ハハハ…某の寝首でも狙ってくるか。それくらい気が強くなければ面白くない」

 

若君(わかぎみ)、笑い事ではありませんぞ…」

 

「この同盟は、胡蝶家にとっても死命を制するものだ。過去のいきさつはともかく、それくらいのことも分からぬほど愚かではあるまい。…それに、しのぶ殿は昨日までの仇の家に飛び込んでくるのだ。いろいろ思うところがあって当然だ」義勇は相手の心情を思いやることができる男であった。

 

……………

遠路大義(えんろたいぎ)であった。某が〇〇国守護冨岡…が嫡男、義勇でござる。そなたも知ってのとおり、わが冨岡家とそなたの胡蝶家は過去幾度も戦った。某もそうであるが、おそらくそなたの親しき者の中にもこれらの戦で命を落とした者がおるであろう。これらのことを水に流せとは言わぬが、これからはともに△△の脅威に立ち向かわなければならぬ。こうやって契りを結ぶからには、幾久しくお願い申す」武家としての正装に身を包んだ義勇はしのぶに対して頭を下げたのであった。

 

「〇〇国守(くにのかみ)胡蝶…が次女、しのぶでございます。思いがけぬ誠実なお言葉、ありがたく存じます。この度、ご縁があって冨岡家に嫁して参りました。不束者(ふつつかもの)ではございますが、幾久しくお願い申し上げます」花嫁姿にしてはハキハキした口調ながらも、しのぶもきちんと礼を尽くした態度で応じたのであった。

 

この日華燭(かしょく)の典を終えた二人は初夜を迎えていた。

 

「そなた、当家に来るに当たって怖くはなかったのか?」義勇は隣で横になっているしのぶに語り掛けたのであった。

 

「怖くなかったと言えば、嘘になりましょう」しのぶの声はほんの僅かではあるが震えていた。

 

「正直でよい。しかし、しのぶ殿は大したものだ。某には、胡蝶の家中(かちゅう)で横になる勇気はない」

 

「…(わらわ)*1は、幸か不幸か、名のある家の娘として生まれました。日々の生活に困らなくてよい反面、こうして見ず知らずの殿方のところに嫁がなければならぬのです。しかし、妾一人が耐えることで、胡蝶の家や領民たちの平穏な生活が守られるのであれば、耐えがいがあるというもの」しのぶは毅然とした声で話した。

 

「見上げた覚悟だ…だが、そなた自身の幸せはどうなるのだ?」

 

「このような乱世にそのようなことを望んでも詮無(せんな)きこと。義勇様が思いのほか誠実でお優しい方なのは良かったとは存じますが、義勇様とて、望んで妾と祝言を挙げたわけではないでしょう?」

 

「確かに某は今日までそなたの顔も知らぬまま祝言を挙げた。だが、そなたのように美しい女子(おなご)ならいいと思った」

 

「世辞など結構です。妾より美しい者など掃いて捨てるほどおりましょうに」

 

「いや、見目形(みめかたち)はもとより、何よりもその心根が美しい。そなたのような女子と夫婦(めおと)になれるなら政略結婚も悪くないと思った」

 

「…そんなことより、いつまでこんな話を続けるのですか?今日から夫婦になったのですよ。ひょっとして、妾など相手にできぬということですか?」

 

「いや、並の女なら有無を言わさず抱きすくめていたやもしれぬ。だが、某はそなたが心底気に入った。そなたが某を受け入れるまで待とうと思ったのだ」

 

「妾の気持ちを推し量ってくださるというのですか…何とお優しい。しかし、こんな乱世にそのお優しさは身を滅ぼしかねません。いや、その前に妾が冨岡家を乗っ取ってしまうかもしれませんよ」しのぶは稀代の悪女のような笑みを浮かべた。

 

「ハハハ…それも悪くあるまい。そなたの願い通り、血を流さずに済むからな」義勇はしのぶに答えた。

 しのぶは義勇の器量を測るために一芝居を打ったのであった。もし、器量の小さい男なら隙を見て義勇を討ち取ってしまうことすら考えていた。しかし、義勇の器量は、はるかに大きかった。しのぶは、義勇が誠実で優しいばかりでなく、器量も優れた男であると認め、惹かれたのであった。

*1
同じ字で「めかけ」とも読みます。(と言うか「めかけ」の方が一般的です。日本語って難しいですね)

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