描かれなかった鬼滅   作:夢幻遊人

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銀座で逢引?

 銀座界隈(かいわい)で鬼が出没したらしいとの報告を受けた燿哉は、隊員を向かわせることに決めた。しかし、場所は東京のど真ん中。下手を打てば大騒ぎとなり、鬼殺隊の存在があらわになってしまうおそれすらあった。

 

 そこで、できるだけ迅速かつ穏便に鬼を討伐すべく、柱が派遣されることになった。

 銀座界隈を歩いていてもおかしくなさそうなのは…まず、しのぶであったが、柱とはいえ、夜の街中を女性一人で歩かせるわけにはいかなかったため、義勇にも派遣が命じられたのであった…

 

 

「胡蝶、そなたと共同任務となった。お館様からそなたとよく談合の上、任務に赴くよう命じられた」

 

「冨岡さんは鬼殺以外では抜けたところがありますからね…ところで、今回どういった格好で赴こうとされました?」

 

「…隊服ではさすがにまずいか」

 

「冨岡さんにしては上出来です。これから私たちが赴くのは流行の発信地。かの地で目立ちたくないのであれば、それに合わせるのが最もよいと思います」

 

「なるほど…たが、そうなると俺には全く見当がつかない」

 

「残念ですが、私も似たようなものです。…そこで、今回、お館様にお願いして、最新の流行を調べていただきました。『モボ』、『モガ』と言うらしいです」

 

「何だ、その『モボ』、『モガ』とは?」

 

「何でも『モダンボーイ』に『モダンガール』の略だそうで。意味的には『当世(とうせい)男子』に『当世女子』となるらしいです」

 

「これでようやく合点がいった。先日、俺の体の採寸をしたのは、その『モボ』とやらの服装を作るためだったのか…」

 

「そういうことらしいですよ…それでは早速着替えて銀座に向かいましょう。細かい話は汽車の中ですることにして…」

 

「しかし、隊服が洋装でよかった。どう着ればいいか見当がつくからな…」

 

「そうですね。着物しか着ていなかったら、何をどうすればいいのか分かりませんからね」

 

 

……………

「どうです?似合います?」モガの服装に身を包んだしのぶを見て、義勇はその美しさに息をのんだ。

 

「悪くない…」思いもよらぬ義勇からの返事が聞けたしのぶは、顔を赤らめながらも「冨岡さんも似合ってますよ」と言葉を返したのであった。

 …まったくこの2人は、どんなモデルよりもこの服装を着こなしていたのであった。

 

「…困りました。この靴はかかとが高く、歩きにくいといったらありゃしませんよ…」初めて履いたハイヒールにしのぶは苦戦を強いられていた。

 

「俺も靴には慣れんが、確かに胡蝶のそれは、見ているだけでも歩きにくそうではないか。西洋人の考えることは俺の理解を超えるな…」

 

「この靴は『ハイヒール』と言うそうで、何でも脚を美しく見せる効果があるそうですよ」

 

「美しく見せるために足を痛めては本末転倒ではないか…それにしても大丈夫か。だいぶつらそうだぞ。…まったく、そんなものを履かなくとも胡蝶は、どこを取っても美しいというのに…

 

「えっ、最後の方は聞き取れませんでしたが、何か言いました?…ところで『大丈夫です』と言いたいところですが…さすがに足が痛いです。一休みしたいのですが…」

 

「まだ夜には時間がある。…このままでは鬼に会う前にそなたの足がダメになってしまう。一休みするとしよう」

 

「ありがとうございます。私は、正直、このハイヒールとやらが嫌いです。夜になったら、いつもの足袋(たび)草履(ぞうり)に替えるとします。冨岡さんはどうされますか?」

 

「俺も足袋と草鞋の方がいい。たが、夜は暗闇でごまかせるとして、昼間はどうする?」

 

「これよりかかとが低いものをがないか探してみたいです。おそらくその方が楽だと思いますから」

 

「承知した。一息ついたらまず、そなたの靴を探そう。俺はそなたのつらそうな顔を見るに忍びない…」しのぶは、さりげなく自分の様子を気遣ってくれる義勇に感謝していた。

 

「さて、一息つくと言ったが、どこへ行ったらよいものか…胡蝶、そなた、()()はあるか?」

 

「はい…聞かれると思ってましたよ…確か、この辺りに『資生堂パーラー』というのがあると聞いたのですが…」

 

「うん?それなら先ほど見たような…確かこっちだったはずだ…」義勇はしのぶの足を痛めないよう、ゆっくりと歩いたのであった。

 

「…ほう。『ソーダ水』というのは、話には聞いたことがあるが、『アイスクリーム』というのは初めて見るな。いずれにせよ、俺には味の想像ができぬ。胡蝶はどうか?」

 

「私も同じです。話のタネに両方頼みましょう。ですが、口に合うかどうか分かりませんから、まずは1つずつ頼んでみましょう」

 

「心得た」

 

「ソータ水は、『水又は砂糖水に二酸化炭素、つまり吐いた息を溶かして作る』と何かに書いてあったことを思い出しました。それだけのことなのに、こんな不思議な感覚になるのですね…」

 

「胡蝶は博学だな…」

 

「いえ、さすがにこの『アイスクリーム』の作り方は想像もつきませんよ…」嫉妬心というものがなく、素直に褒めることができるのが義勇の最大の長所だとしのぶは思っていた。

 

「季節を問わず、冷たいかき氷が作れるということだな…科学の力とは凄まじいな」

 

「この科学の力で鬼を滅することができたら…」

 

「逆に、科学の力で夜の闇は切り開かれつつある。…まもなく人は夜でも構わず出歩けるようになるだろう。そうなってしまえば鬼の犠牲者が格段に増えてしまう…」

 しのぶは、力に恵まれなかった分、凄まじい努力をして鬼を殺せる毒を開発した。その中には学問も含まれており、間違いなく鬼殺隊一の学力があった。そんなしのぶと知的会話ができる義勇の素養の高さも相当であった。

 

 

 都心部に現れたという鬼は、多少頭は切れたものの、下弦の鬼ですらなく、到底柱二人の敵になるような鬼ではなかった。

 しかし、義勇としのぶは、いつまでもこの逢引(デート)にも似た任務のことを忘れなかったという…

 

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