また、義勇としのぶを軽くディスっています。筆者としては愛情表現のつもりなのですが、「ありえない!」という方もブラウザバック願います。
胡蝶しのぶは、困惑した。
いや、自らを藤の毒に染め上げ、姉の仇に食わせることに迷いはない。しかし、いくら毒に染めるとは言え、初めて抱かれるのが、よりにもよって姉の仇というのはさすがに口惜しく思うのであった。
たが、残念なことに、しのぶは鬼殺や、特に医療面では並ぶ者がないほど才能があったが、こと色恋の面ではポンコツなのであった。
そんなポンコツなしのぶは、自らがその気になればいくらでも男を選べるという事実を知らず、誰なら抱かれてもよいかと真剣に考えた結果…どう考えても結論は義勇に至ってしまうのであった。
しかし、これも極めて残念なことであったが、義勇は鬼殺以外ではしのぶ以上にポンコツなのであった。
しかも義勇はあれで意外と優しいことから、自分の亡き後、自分を心に思い残させるようなことは避けたかったし、また、そんな義勇の優しさに自らが
そこでしのぶは、自制心を弱くさせ、性欲の赴くまま行動させてしまうような薬を作ってしまった。
おそらく義勇はきまじめなところがあるから、女は知らぬはず。そんな義勇が自らの本能の赴くまま女を抱けば、生娘である自分は、きっと恐ろしい目に遭うであろう。
そうすれば、自分は二度と男に抱かれたいとは思わなくなるであろうし、そんな自分を見た義勇も責任を感じて二度と自分を抱こうとしなくなるであろう…と考えたのであった。
そんなことをすれば、あるいは義勇にトラウマを残しかねないが、それは後で言いくるめるなり何なりして払拭させよう…義勇だけには何としてでも生き残ってもらいたいと思うしのぶは、女に対してまで卑屈で自信を失わせるようなマネだけは絶対に避けたかったのであった。
「冨岡さん…今日はありがとうございました…」しのぶは、義勇の非番の前夜に何とか理由をつけて水屋敷へと赴いていた。
「胡蝶に、わが家まで来てもらうとは…かえって申し訳なかった…」義勇はしのぶが自宅に来たことをひそかに喜んでいたが、それを決して表情に出そうとはしなかった。
「それはそうと『ウヰスキー』という、いわば西洋の焼酎が手に入ったのですが、ご存じのとおり、蝶屋敷にはお酒をたしなむ者がいないので、是非飲んでいただきたいと…」
しのぶは、手を尽くして当時日本では珍しかったウイスキー*1を入手し、特製の薬を混ぜたのであった。
理由はもちろん、飲みなれないものであれば、薬で多少味がおかしくなったとしても、気づかれないであろうと思われたからであった。
「そんな珍しいものを俺一人で飲むのも気が引ける。そなたも1滴も飲めぬというわけではあるまい。少しでいいから付き合わぬか?」
「私は、冨岡さんもご存じのとおり、あまり酒癖がよくないので…それは強いお酒と聞いていまして…」
「そうか…それなら無理に勧められぬな…」
「お気遣いありがとうございます…」しのぶは、自ら作った薬でその気になってしまうわけにはいかなったため、断る理由をあらかじめ考えていたのであった。
だが、その一方で、自分へ気を遣ってくれる義勇に対して良心の
「…酒に何を混ぜた、胡蝶…」しばらくしのぶと話をしながら酒を飲んでいた義勇は、欲望の光を放ちながらしのぶを見据えていた。
「もう、気づかれましたか。さすがです…でも、大丈夫です。毒ではありませんから…」
「胡蝶…すぐこの場から離れろ。目の前にそなたがいると…襲ってしまいそうだ…」
「いえ、冨岡さん…私があなたに抱いて頂きたくて、こんなことを致しました。軽蔑して頂いて結構です。…ですが…ですが今日だけは…こんな私を哀れと思って抱いて頂けませんか?」
「やめろ…このままでは…そなたを
「私がそれを望んでいるのです。…さあ、義勇さん…据え膳食わぬは何とやらですよ…」しのぶは義勇に精一杯の挑発をしたのであった。
しのぶの薬は、いわば人間を野生化させる、脳科学的に書けば、脳が進化の過程で新たに得た、理性部分を司る大脳新皮質の活動を低下させる一方、大古から存在する、本能部分を司る脳幹部分の活動を活発化させるものであった。
女を知らぬ男に、自らの欲望の赴くまま抱かれては、生娘であるしのぶには危険ですらあった。ところが…
「どうして…どうして…義勇さんはこんなに優しいのですか…」激しくはあったが、自らの想像よりはるかに自分への配慮を感じる義勇の動作に、しのぶは自らの高まりを感じつつあった。
「俺の…俺の愛するしのぶに…独りよがりなことをするなど…例えどんなことがあっても、決して許されることではない…」義勇は、湧き上がる自らの欲望と必死に戦っていた。
「ああ…義勇さんは、私の浅はかな考えなど簡単に乗り越えてくる…こんなことになるなら、初めから私の想いを伝えた上で抱いてもらいたかった…」
「すまぬが、俺はもう止まれぬ。…だが、後で何故こんなマネをしたのか、教えくれぬか?」
「こんな愚かな私を許してくださるというのですか?」
「今、俺はそなたを抱いている。…俺は正直いい思いしかしていない。…しのぶの方こそ、こんな俺を許してくれるのか?」
「許すも何も…私がそうさせたのですから…」
「俺が不甲斐ないばかりに、しのぶにこんなことをさせてしまった…」
「あなたはどこまでお人好しなんですか…」しのぶの瞳から一筋の涙がこぼれた。
…こうして義勇に絆されまいとするしのぶの企ては見事に失敗した。だが、それは当然の帰結だったのかもしれなかった。
例え義勇がどのようにしのぶを扱ったとしても、しのぶが義勇を嫌うことなどありえなかったのだから…