「冨岡義勇、刀を抜きなさい…」しのぶは義勇にその特徴的な日輪刀を向けながら告げていた。
「…俺は、胡蝶に刀を向けるなどできない」
「…私が、あなたを斬らないとでもお思いですか?」
「いや、そなたの顔は…本気だ」
「それなら何故?私など刀を向ける価値すらないということですか?」
「そんなことは断じてない」
「『刀を抜かない』とおっしゃるなら、私としては楽でいいのですが、『無抵抗な人間を斬った』と言われてはあまりに無念。尋常に勝負願います…」
「…なるほど。俺は、できるだけ刀は抜きたくないのだが…胡蝶の名に泥を塗るわけにはいくまいな…」義勇はおもむろに日輪刀を抜いた。
「刀を抜いただけというのに何という圧力!!」しのぶは義勇の強さをまざまざと感じていた。殺気こそ感じられないものの、その圧力だけでも並の鬼なら尻尾を巻いて逃げることであろう。
「これは、虎の尾を踏んでしまったのかもしれない…」しのぶは覚悟した。いや、義勇に刀を向けた時点で覚悟を決めていたのだ。
「…共に任務に当たったときは、正直それほど感じませんでしたが、このように
「…根本的なことを問いたい。何故俺たちは戦わなければならぬのだ?」
「申し訳ありません。詳細は申し上げられません。…しかし、決して冨岡さんを恨んだり、憎かったりするわけではありません。お命を狙っておいて何ですが、これだけは信じて頂きたいのです…」
「聞いても答えてくれぬようだな…」
「一瞬で決まります。…冨岡さんが勝った暁には『馬鹿な女、一突きに刺されてここに眠る』とでも刻んでください」
「いざ…」
しのぶが言うように勝負は一瞬で決まった。義勇はしのぶの突きを凪でかわし、心臓を一突きに刺したのであった。
「冨岡さん…さすがです」確かに心臓を刺されたはずのしのぶが何事もなかったかのように体を起こした。
「全く
「柱として、鬼に体を乗っ取られてしまうなど恥ずかしい限りです。特に攻撃に関しては私の制御が全く効きませんでしたから…それにしても、よくあれだけの言葉で私の意図を正確に読み取ってくださいましたね」
「…ああ。そなたが俺を斬ると決めたなら、誰に何と言われようとも、どんな手段を講じようとも確実に俺を仕留める。それをわざわざああやって見え透いた挑発をしてくるには訳があると思った…」
「ええ。私の体に巣くった鬼を、私自身が命を落とすことなく斃してもらうには、心臓部分を一突きにしてもらう必要があったのです」
「そなたが『一瞬で決める』と言うからには、必殺の突き技を繰り出してくるというのは読めた。俺には『凪』があるから、そなたの突き技を防げると読んだのだな」
「はい。ほかの方だと万が一のことがあると思いましたので…」
「…まったく、そなたの突き技の速さと鋭さは恐ろしい限りだからな。…だが、『心臓部分を突け』という意図を汲むのには苦労したぞ…」
「鬼に私の思考まで読まれなかったのは幸いでした。しかしながら、あまり説明してしまうと、鬼に対処方法を考えつかれてしまいますから。…私としても、一か八かの賭けでしたよ」
「…胡蝶、俺はそなたの謎かけを解き、必殺の突き技まで繰り出されて疲れた。…こういったときは甘味に限る。どうだ、これから一緒に食べに行かぬか?」
「冨岡さんから甘味処に誘われるとは珍しい…ぜひ、ご一緒させてください…今回ばかりは私がおごりますから…」義勇としのぶは心なしかウキウキしながら甘味処へと向かった。
…しばらくすると、この二人が仲良さげに