描かれなかった鬼滅   作:夢幻遊人

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 第1話と若干(?)つじつまが合わないじゃないか!というところがあるかと思いますが、善意に解釈して頂けたら幸いです。


ぎゆしの戦国草紙 第3話【side胡蝶家】

 胡蝶家。その名は家紋に描かれた蝶が由来であるともいう。そして、その家紋が示すとおり、平家嫡流の流れを()む名門であった。

 

 古来、〇〇国では、代々胡蝶家が朝廷より国守(くにのかみ)の地位を賜り、支配してきた。だが、時が移り、戦国の世になると、冨岡家が力を増し、幕府から守護の地位を賜って〇〇国の支配権を巡って(いくさ)を繰り広げてきたのであった。

 

 胡蝶家の立場で言えば、冨岡家など、どこの馬の骨とも知れない成り上がり者であり、戦いの当初は、あからさまに見下した態度を取っていた。しかしながら、知らず知らずのうちに胡蝶家に蔓延(はびこ)っていた悪習などに嫌でも直面することとなり、改革に着手せざるを得なくなっていた。そして、一方の冨岡家の方でも、長年支配を続けてきた胡蝶家の手法を取り入れるなど、気付いてみれば、この両家にさほど大きな違いは見受けられなくなっていった。

 

 そうしたことにお互いが気付き始めていたちょうどその頃、隣国では急速に△△が台頭し始めたのであった。

 

 

 胡蝶家の当主であるしのぶたちの父親は、娘二人を集めていた。

「そなたたちも知っておろうが、日増しに△△の脅威が増しておる。…そこで、これまでの行きがかりを捨て、冨岡家と同盟を結ぶこととなった」

 

「父上、ひとつお尋ねしてもよいでしょうか?」二人を代表するかたちで、姉カナエが口を開いた。

 

「もちろんだ」

 

「△△と手を結び、冨岡家と決着をつけるという考えもあると存じますが、何故そうなさらなかったのですか?」

 

「確かに冨岡家とは戦を重ね、因縁浅からぬ。だが、△△とは組めぬ…」

 

「と、申しますと?」

 

「△△は、自らに利があるうちはともかく、そうでなくなると平気で約定(やくじょう)(たが)えるし、従わぬとなると、村ごと皆殺しにすることすらあると聞く。…これでは話にならぬ」

 

「その話なら、(わらわ)も聞いたことがあります。…確かに冨岡家に対しては思うところもありますが、その一方で、そこまではしないような気も致しまする…」

 

「冨岡家について言えば、あるいは『いずれこの国を支配するつもりだから、むやみに領民となる者を殺さない』とでも考えているだけかもしれぬ。だが、△△にはそれすらない。となれば、手を組む相手はおのずから定まるというもの…」

 

「父上が妾らを集めたのは、どちらかに冨岡家に嫁げとおっしゃるためですね?」

 

「そういうことだ」

 

「ならば、姉の私が参ります」

 

「それはなりません。…姉上にはお心にお決めになられたお方がいらっしゃるのではありませぬか?」

 

「胡蝶家のみならず、領民たちの幸せのためなら…どちらを優先すべきか明らかというもの…」

 

「姉上は否定されない。…やはり不死川様のことを好いてらっしゃるのですね」

 

「しまった・・」カナエは一本取られたという表情を浮かべていた。

 

「父上、ただ今お聞きになりましたとおり、姉上にはお心にお決めになられたお方がいらっしゃいます。…その点、妾にはそのような殿方はおりません。冨岡家には妾が参りましょう」

 

「それはいけない。さすがに冨岡の者が妾らを害することはないでしょう。されど、これまでのことを考えれば、針のむしろであることは容易に想像できます。妾はかわいい妹をそのようなところに嫁がせるわけには参りません」

 

「姉上、ご安心ください。妾の夫となるお方がどのような殿方であるかは分かりません。されど、取るに足らないお方なら…討ち取ってご覧にいれます。さすれば、この国に、わが胡蝶家にたてつく者はなくなりまする」

 

「しのぶ…そなたには男どもにすら負けない剣術、そして薬学の知識という裏付けがあるゆえ、胡蝶家の当主としては誠にうれしい。…しかし、一人の親としては…そなたにも幸せになってもらいたいのだ」

 

「父上…ありがとうございます。…されど、妾とて、このような乱世に名のある家に生まれたからには、覚悟がございます」

 

「それを言うなら、年長の妾が…」

 

「それに、妾には、姉上ほどの魅力がありません。しかし、その分、相手の本音が出るというもの。もし、妾を軽く扱うのであれば、相当の報いをくれてやるだけです」

 

「しのぶ…あなたは二言目には『魅力がない』と言うけれど、あなたは身内のひいき目を差し引いても、とても魅力的よ。自分を軽く扱うのはやめてちょうだい…」

 

「そんなことを言われても…姉上を見る目と、妾を見る目では明らかに違う…」

 

「それは、ごく薄い、表面上のことしか見ようとしていないからよ…」

 

「そうなのかもしれないけど…そういう殿方が圧倒的に多いのもまた事実…」

 

「…戦場(いくさば)ではいざ知らず、よく知らぬ男を仮定で話を進めても(せん)無きこと…」

 

「…父上のおっしゃるとおりでございます。それでは、戦場でのお相手の様子はいかがですか?」

 

「名は確か…義勇殿。年は…カナエと同い年であったか。…顔は人形のように整っていると聞くが、若いのに似ず、特に守りに()けた戦ぶりだ。…最初は攻めるのが苦手なのかとも思ったが、一旦攻め始めると動きは早く、そして鬼のように強い。…できうれば戦いたくない相手だ…」

 

「同い年なら、やはり妾が…」

 

「いや、今決めた。此度(こたび)はしのぶに行ってもらいたい」

 

「ありがたき幸せ!必ずや父上のご期待に沿いまする!!」

 

「父上!!」カナエは悲鳴のような声を上げていた。

 

「カナエの言いたいことは分かっているつもりだ。…だが(それがし)にも考えがあってのことだ。しのぶ、いいな?」

 

「父上にここまで言わせる方なら、相手にとって不足はありません。義勇殿と差し違える覚悟で参りまする!!」

 

「某は…もし、しのぶと義勇殿との間に子ができたら…確かに冨岡の血も入るが、間違いなく胡蝶の子でもある。その子にこの胡蝶家を継がせてもよいとすら思っている」

 

「ありがたきお言葉…なれど、妾は父上以外の殿方を信頼しきれておりません。…そして、おそらく、心の底から信頼できる殿方と会うことはないものと存じます。…せめて、義勇殿が討ち取りがいのある方であることを祈るばかりです。…もし、見かけ倒しの阿呆(あほう)なら、操り人形にして内側から冨岡家を乗っ取ってご覧にいれますが、それではあまりにもつまらないというもの…」

 

 しのぶの父は、胡蝶家の当主として、義勇が並以下の男なら、しのぶが討ち取るなり、操り人形としてしまうことで、最大の脅威である冨岡家を取り除くことができると思う一方、器量の優れた男ならば、しのぶが人として、そして女としての幸せを得ることができるのではないかと思った。…そして、一人の親として、できうるなら後者であることを心の底から願ったのであった。

 

「父上…母上…そして姉上…これまでお世話になりました…」

 

「しのぶ…もしも…もしも義勇殿がお前の()()()にかなう男ならば、幸せをつかめよ。…父はそれをこそ願っているのだからな…」

 

「命の危険がない限り、少なくとも1年は人となりを観察致します…」

 

「そうだ。決して一日二日(いちにちふつか)で判断してはならぬぞ。お前も一日二日程度で判断されたくはあるまい?」

 

「父上のお言葉、肝に銘じます。…それでは行ってまいります」武家の女性としての正装に身を包んだしのぶは輿(こし)に乗り、胡蝶兵に守られながら冨岡家の支配領域との境にある寺に向かった。

 

 生まれ育った城から出て、昨日までの(かたき)の家に向かうという事実に、しのぶは震えが止まらなかった。…並の女に比べれば精神的にも肉体的にもはるかに強いとはいっても、現代的な表現で言えば、せいぜい中高生程度の少女には、どう考えても荷が重すぎるのであった。

 

 そんな中にあって、何とかしのぶが気持ちを立て直すことができたのは、あるいは名門の血がなせる技であったのかもしれなかった。

 

 寺に着いたことにより、しのぶの警護は胡蝶家から冨岡家に移ったのであるが、御簾(みす)越しに見る冨岡兵の様子にしのぶは驚いていた。

 

 それは、服装、具足、武具が真新しいもので統一されているのみならず、末端の兵の頭髪やひげに至るまで、身だしなみが整えられていたからであった。

 

「これは『冨岡家はここまでできるぞ』という示威(じい)かしら。この程度のことで妾がくじけるとでも思うなら随分()められたものね」負けん気の強いしのぶがそのようなことを思っていると目の前の御簾が何者かによってめくりあげられたのであった。

 

「無礼者!妾を胡蝶しのぶと知っての狼藉(ろうぜき)か!!それともこれが冨岡家の礼儀か!!」手に懐刀(ふところがたな)を持ったしのぶは、まず相手をひるませるため大きな声を出していた。

 

「これは失礼した…」意外に静かな声が返ってきたかと思うと、その男は深々と頭を下げたのであった。

 

「冨岡家の礼儀が妾の知る礼儀と同じでよかった。…されど、わが夫となる義勇殿の前に妾の姿を見て、無事で済むとお思いか?」

 

「それは問題ない」

 

「大層なご自信ですこと…」

 

「何故なら、某がそなたの夫となる冨岡義勇だからだ」

 

「えっ…」さすがのしのぶも夫となる男とこの場で会うことになるとは夢にも思っていなかったのであった。

 

「そなたに、当家が、示威のためにこのようなことをやったなどと思われるのも癪だから、某の意図を直接伝えたく、参った」

 

「違ったのですか?」

 

「やはりそう思っておったか。…名門胡蝶家の令嬢が当家に()してくるのだ。そなたのお父上、そして何よりそなたに対して礼を尽くしたいと思ってのことだ」

 

「…それが本当のお話であれば、ありがたきこと。なれど、言葉のみなら、いかようにも取り(つくろ)えまする…」

 

「…某の意図を伝えたかったというのは本当だ。…だが、祝言の前にそなたの顔を一目なりとも見たかったというのが本音なのかもしれぬ…」そう言うが早いが、義勇は馬に足をかけていた。

 

「それで、ご感想は?」

 

「聞きしに勝る気の強さ。だが、悪くない…存外、政略結婚もいいのやもしれぬ…次は祝言の場で会おうぞ」そう言うが早いが、義勇は風のように立ち去って行った。

 

「父上、妾をお選びいただき、ありがとうございます。…どうやら退屈はせずに済みそうです…」しのぶは、義勇という男に興味を抱いたのであった。

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