「
「ははっ!!」家臣たちは、自分たちの意見を重視すると言われてうれしくないはすがないのであった。
「さっそくではあるが、某は、この場に
「…
「なるほど。確かにそなたの危惧はもっともだ。だが、某は御台に隠し事は一切しておらぬ。ならば、評定に加えたところでその危険性は変わらぬ上、表で決めたことがいつの間にか奥で変更されるという弊害も避けられるのではないか?」…正式な会議で決まったことが、その妻たちの反対でいつの間にか変更されたというのは、専制政治では、そう珍しいことではないのであった。
そして、そうなるくらいなら、いっそ正式な会議のメンバーに加えた方が、直接説得もできる上、決定事項に従う義務も生じることから、かえって良いのではないかと思われた。
一番の懸念材料であった冨岡家の秘密保持の点は、棟梁である義勇が隠し事を一切していないと言う以上、家臣が気にしても仕方ないと思われたのであった。
「…そういうことであれば、御台所様が評定の場に参加されてもよいと存じまする」家臣たちの同意を得た義勇は、別室で待機させていたしのぶを早速評定に加えたのであった。
「此度、皆様方の同意を頂き、当家の評定に加えさせて頂くことになりました。…あるいは、皆様方と物事のとらえ方が異なるところがあるやもしれませぬが、
「皆の者、御台はまず、当家のために発言する旨誓ってくれた。どうか公正な態度で臨んでもらいたい…」
「…心得ました」男たちが戦場に赴いている間は、女たちが場合によっては武器を取ってでも守る時代であるから、かえって後の江戸時代よりも女性の地位は高い。しのぶに対する警戒は、やはり長年敵対してきた胡蝶家の人間であることが理由であったが、逆説的に見れば、それだけしのぶの能力が認められているということであった。
「次に『蝶屋敷』の件を諮りたい…」義勇が集めた戦災孤児たちにしのぶが薬学などを教えた成果を発揮するための医療施設は、領民たちから胡蝶家の娘であるしのぶが取り仕切っていることから「蝶屋敷」と呼ばれるようになり、それが正式な呼び名として採用されていたのであった。
「この頃は、『蝶屋敷で働きたい』と申す者どもも増え、そしてその『蝶屋敷』で学んだ者たちが各地に散らばって、その地で医療などを施すことにより、領民たちの死亡率が明らかに減ってきておりまする」
「皆、殿や御台所様に感謝し、開墾なども進んだ結果、税収も増えてきておりまする」
「某は何もしておらぬ。御台が中心となってやったことだ」
「…当初は『金ばかりかかる』と嫌味も言われましたが、殿は妾の好きにさせてくださいました。殿の先を見通すお力が
「これは手厳しい…某とて、お役目で申し上げたことで…」
「いや、勘定方が、海のものとも山のものとも知れぬものにホイホイと金を出す方が問題だ。これからも、むしろ恨まれるくらいで良いぞ…」義勇は役割というものにきちんと配慮できる男であった。
「ありがたきお言葉…」
「だが、今のやり方では、いずれ限界が来る。…某は『蝶屋敷』を長く続けたい。そのためには『蝶屋敷』が
「殿の『蝶屋敷』に対する並々ならぬ想い…妾はうれしゅうございまする。確かに『蝶屋敷』に必要な金子は、全て当家から出ておりまする。『蝶屋敷』の維持にかかる金子が増える一方では、勘定方としては確かに渋い顔になりましょう」
「…ならば、神崎殿らも薬の調合ができるようになりましたので、まず、それらを売りまする。そして『蝶屋敷』に来た方から何かしらを頂きまする」
「もう少し具体的に話してもらえぬか?」
「妾も今思いついたところなので、詳細は後ほど詰めたいと存じますが…金がある者からは金を、金がない者からは食料でも、薪でも、掃除・洗濯でも…要は何かしらを提供して頂くのです。そうすれば『蝶屋敷』としても、何かしら頂く以上、相手を
「おお…」現代的な言い方をすれば、受益者が一部負担するという極めて合理的な考えに家臣たちは驚いたのであった。
「殿、畏れながら申し上げます…」
「どうした?」
「御台所様のお知恵の深さ、恐れ入りましてございまする。殿…御台所様が当家に
「そなたもそう思ってくれるか。某もそう思ったゆえ、評定に加えたのだ…」義勇は
その後、しのぶやアオイたちが作った薬は飛ぶように売れた。特にしのぶの作る薬は、冨岡家御台所として「蝶屋敷」に掛かりきりになれないため、その量が少ない反面、求める者が多かったことから、特に一包ごとに蝶柄の押印をして差別化を図る一方、偽物や過度の転売には目を光らせて、ブランド化を図ったのであった。
そのため、領民たちは懸命に働いて「御台所様お手製の薬」を手に入れることが憧れになっていった。
そして、この薬を通じて、これまで「雲の上」の存在でしかなかった義勇たちと領民たちはつながりを得るようになっていく…