「胡蝶様、こちらの方は?」義勇は、胡蝶屋敷において、カナエに尋ねていた。
「こちらは私の妹で、しのぶと申します」
カナエから紹介されたしのぶが頭を下げると、義勇もそれにあわせて頭を下げた。
「冨岡さん、そういえば、いつも治療費がタダで申し訳ないとおっしゃっていましたよね」
「下世話な言い方になりますが、何をするにせよ、金は必要ですから…」
「そうおっしゃって頂けるなら、治療費代わりと言っては何ですが、しのぶに稽古をつけて頂けないでしょうか?」
「私が、ですか?恐れながら、カナエ様は柱。私のような未熟者では…」
「いえ、鬼を相手に戦おうというのですから、力にも対抗できなければなりません。とは言っても、私も女の身なので、それほど力はありません。ですから、女だからと容赦なさらないよう、お願いいたします…」
「かえって私が稽古をつけられることになるのではないかとも思いますが…そういったことであれば、お相手いたします」
「是非、お願いします。…しのぶ、今聞いたように、冨岡さんが稽古をつけてくださいます。冨岡さんは若輩ながら水の呼吸を極め、次期水柱の呼び声高い方。水の呼吸は全ての呼吸に応用が利くと言われていますから、よく指導を受けなさい」
「胡蝶様、私に柱はどは…」
「また、その話ですか。あなたがご自分をどう思われようと勝手ですが、私はそのように思っておりませんので…」
しのぶを退出させたカナエは、義勇に驚くべきことを告げた。
「このようなお願いをするのは筋違いだということは分かっておりますが、冨岡さん、もし、あなたから見て、妹が鬼殺隊員にふさわしくないと思われたら、どうか引導を渡してくださいませんか…」と。
それを聞いた義勇は、一瞬ギョッとした表情をしたが、いつになく真剣な表情のカナエを見て、黙ってうなずくことしかできなかったのであった。
……………
「それでは、まず私に全力で打ち込んでもらえますか?全力で止めますが、一本取れれば、
私が稽古をつけるまでもありません」
「分かりました。それでは参ります…」言うが早いが、しのぶは義勇に突っ込んでいた。
「早い!!さすが胡蝶様の妹…」義勇は、しのぶの速さに驚いていた。しかし、思ったより遥かに太刀筋は軽かった。
「一般的に女性は力は劣るが、それにしても軽い…」義勇がしのぶの木刀を払うと、それはしのぶの手からいともたやすくはじき飛んでしまったのであった。
「やはり、柱になろうという方は違う…」しのぶは愕然とした表情をした。
「どういう意味ですか?」
「…これまで相手をした殿方は、私が女だからと勝手に油断してくれのですが、冨岡様は全く油断がない…これでは私に勝ち目はありません」
「…私は、油断できるほど強くないからです。それに、見てお分かりのとおり、私もそれほど筋肉があるわけではありません。力の使い方を工夫すれば…」
「…私は、姉の太刀ですら受け止めきれないことがあるのです…どうにかなるものでないと思います…」
「…失礼ながら、女性で鬼殺隊に入ろうという者は、よほどの事情なり、覚悟があってのことだと思います。そんなに簡単にあきらめてよいのですか?」
「…私は、目の前で両親を鬼に殺されました。その恨みを晴らすため努力してきたのですが・・どう頑張っても力がつかないのです…」
「…力がないのなら、ほかの手段を考えるのみ。…しのぶ様は動きが速いので、これを生かさない手はありません。ただ…どうやって鬼をしとめるか…」義勇は空を見上げ、困ったような声を上げた。
「実は…」その様子を見たしのぶは、意を決したように声を出した。
「何か?」
「まだ、研究の途中なのですが、あと一歩のところで、鬼に有効な毒が開発できそうなのです」
「何と!!…もし、それが実現できれば、注射のように『突き』で鬼に傷をつけ、毒を注入することによって、首を取らなくても鬼を倒せるかもしれない…」
「…冨岡様はお笑いにならないのですね…」
「言われてみれば、鬼は藤の花を嫌う。鬼にとって有害で、本能的に嫌っている可能性は十分あると…」
「私の言うことをまじめに取り合ってくださったのは、姉カナエとお館様…それに冨岡様だけです」
「…しのぶ様、それでは『突き』をお教えいたします」
「『突き』ですか?」
「しのぶ様は動きが速い。鍛錬されれば、誰よりも速い突きが出せるようになるでしょう」
「冨岡様より速くですか?」
「はい」
「それではお願いいたします」
こうしてしのぶは、誰よりも速い突きを出せるようになった。
「義勇さん、あなたのおかげでカナエ姉さんの仇、上弦の弐相手にここまで戦うことができました。あなたがいなければ、ここまで来ることなど決してできませんでした。感謝してもしきれません…どうか私に稽古をつけてくださったことを後悔しないでくださいね…」しのぶは童磨相手に最後の突きを繰り出そうとしていた…