「また来たよ。しのぶ…」義勇は、しのぶの墓前にいた。
「今日は、お前に相談に来たんだ…」義勇は決して返事が来ないことを知りながらも墓前に向かって語り掛けたのであった。
「実は、先日、求婚されたんだ。もちろん俺の
「俺は、どこかで彼女とお前を重ねているのかもしれない…それでは彼女に申し訳ないと思うのだが…それに痣が出た以上、俺はあと数年の命。…仮に結婚したとしても未亡人となることが分かり切っている。どうしたものかと思ってな…」
「『皆に嫌われている』というのは、しのぶも含まれていたんだな…やはり俺の片思いということか…」義勇は寂しそうな声を出した。すると…
「…そんなことありませんよ」聞き覚えのある声がする方向に顔を向けると、そこには見間違えるはずのないしのぶの姿があった。
「…これは夢か、幻か?…いや、今はそんなことはどうでもいい。会いたかったぞ、しのぶ…」義勇は既に涙を流していた。
「義勇さん、ちょっと見ない間に随分感情が豊かに、そしておしゃべりになりましたね…」
「…ああ、もはや鬼によって奪われる命はなくなったからな…」
「はい、上から大体のことは拝見しました。…無惨との最終決戦でのお働き、ご立派でした。…私は…
「…うぬ惚れでなければ、しのぶも俺のことを
「はい」
「…俺は、お前の覚悟を察していたが、止められなかった。俺とて明日をも知れない命だったからな…」
「私の意思を尊重していただき、ありがとうございます。そして私の顔色が悪いことに気付かれたのは義勇さん、あなただけでした。私はとてもうれしかったです」
「好いていたからな…」
「ところで義勇さん、家族でもない方に姿を見せるのは結構大変だったんですよ…」
「それは無理をさせた。…だが、ありがたいことだ…」
「私も、義勇さんとお話できてうれしいです。ところで今日ここに来たのは、義勇さんが求婚されたことです…」
「しのぶ、お前はどう思う?」
「このお話…是非、お受けください」
「どうして?」
「彼女は、義勇さんの見立てどおりの女性です。…義勇さんのお子は私が産みたかったのですが…彼女になら託せます。もし、義勇さんが私のことを少しでも想ってくださるなら…彼女と結婚して、お子を残してください…」
「しのぶ…」
「ただし、一つだけお願いがあります」
「それは何だ?」
「この世にいるときは、私を忘れてください。そして、彼女を幸せにしてください…」
「お前を忘れることなど…」
「それでは彼女に失礼です!死んだ人間相手に勝てる者などおりませんから…」
「…そちらに行ったとき、怒るなよ」
「自分の言ったことくらい、責任は持ちますよ…それでは私はこのへんで帰ります…」
「もう帰ってしまうのか?」
「はい。先ほども申し上げたとおり、家族でもない方に会うこと自体難しかったので…」しのぶは申し訳なさそうな顔をして言った。
「…そちらに行けば、また話せるのか?」
「はい、そのときは心ゆくまで…」
「そうか…それなら、そのときまで壮健でな…いや、これはおかしな表現だな…」義勇は自らの言葉に苦笑を浮かべていた。
「いえ、そんなことありませんよ。義勇さんのお気持ち、ありがたく受け取らせていただきます」しのぶは、それはうれしそうな表情を浮かべた。
「しのぶ、そちらに行くまでどうか見届けてほしい。…俺は、お前に笑われないよう精一杯生きる…」
「冨岡義勇が、後ろ指指されるような生き方をするはずがありません。…それでは、いつまでもお待ちしております…」そう言うと、しのぶは静かに消えていったのであった。
義勇は、この世で二度と話すことができないと思っていたしのぶと短い時間ではあったが、お互いの気持ちを伝えあうことができたことを心から喜んだ。そして義勇は、求婚を受け、その女性と結ばれた。
義勇に残された時間はそれほど長くはなかったが、その分、家族を大切にしたという…