「義勇の方から私に話があるなんて珍しいね…どうしたのかな?」冨岡義勇は、当主である産屋敷燿哉を訪ねていた。
「お館様から柱という過分な地位を頂戴したにも関わらず、あえて鬼を見逃しました。ご存分に処分願います…」義勇は燿哉に対して膝をつき、頭を下げたのであった。
「…義勇ほどの者が鬼をあえて見逃した…それはどういうことかな…」燿哉に促された義勇は、炭治郎と禰豆子(このときは、まだ炭治郎の名前は知らなかったが)のことを包み隠さす燿哉に報告したのであった。
「…傷つき、飢えているはずの鬼が人を襲わないどころか、自分の身を挺して兄をかばった…確かにそんなことは今まで聞いたことがないね…義勇が嘘をつくとは思えないし…」燿哉は義勇の報告に困惑の表情浮かべたのであった。
「…いかに理由があろうとも、鬼を見たら斬り捨てるというのが掟。お館様にご報告しないまま、何らかの形でお館様のお耳に届きましては、柱にご指名くださったお館様にご迷惑がかかると思い、まかり越しました…」
「…義勇は、その鬼に命を賭けるつもりなんだね…」燿哉は、義勇の心中を正確に読んだのであった。
「恐れ入りましてございます…」
「…困ったね。私の子供たちは鬼に深い恨みを持つ者がほどんどだ。義勇のように冷静な判断ができる者の方が少ない…例え柱であったとしてもね…」燿哉は少し考え込むような顔をした後、言葉を続けた。
「…当分これは、私と義勇だけの秘密にしよう。…義勇がここまで言うなら、その鬼は人を襲うことはないだろう。それでほかの者を納得させるしかないだろうね…」
「ありがたき幸せ…」義勇は自らの言葉を無条件で信用してくれる燿哉が鬼殺隊の当主として存在する幸せを感じていた。
「義勇…」
「は!!」
「義勇のこの判断、千年にわたって延々と続いてきた鬼との争いを終わらせるきっかけになるかもしれないよ…」
「…もし、そうなってくれれば…これに勝る喜びはありません…」このとき義勇は、燿哉がある種の社交儀礼で言ってくれたのかと思ったのであったが…後に予言であったことを思い知るのであった…
……………
「命により、胡蝶しのぶ参りました…」しのぶは産屋敷邸にいた。
「忙しいところ、悪いね…」
「いいえ、お館様の命ならば、いつでも参上いたします。…ところでお館様、本日のご用の
「しのぶ、あなたが人一倍鬼に恨みを持っていることを知りながら、こんなことを聞くことを許してもらいたい…」
「そのようなことお気になさらず、何なりと…」
「あくまでも仮定の話であるが…鬼となってから一度も人を食わず、血すら飲んだことのない鬼がいたとしたら、しのぶならどうする?」
「…鬼は自らの欲望に忠実です。食欲を抑えられるような鬼がいるとは思えませんし、そもそもどうやってそれを証明するのかも分かりませんが…そうですね…もし、そのような鬼がいるとすれば…いずれ飢餓状態に陥ってしまうでしょうから、最後まで見守って差し上げます。…そして、もし、その鬼が安楽な死を望むのであれば、苦しまずに済むように致しましょう…」
「いずれにせよ、問答無用に殺すことはしないのだな?」
「はい。…ただ、そのような鬼がいるとは到底思えませんが…」しのぶはあきらめたような声を出したのであった。
「…今日、聞きたかったのはこのことだけだよ。…忙しいところ、本当に申し訳なかったね」
「?…いいえ、お気になさらずとも…それでは失礼いたします」しのぶは何故こんなことを聞かれたのか理解に苦しむような表情を浮かべたが、さすがにそれを口に出すことはしなかったのであった。
「義勇としのぶは、お互いに憎からず思っているようだし、人に危害を加えないことが分かれば、鬼であっても問答無用で斬るということはしないようだね…うん、時期が来たら、この2人に禰豆子という鬼のことを連れてきてもらうとしよう…」
こうしてこの2人が後に那田蜘蛛山に向かうことが決まったのであった…