では、どうぞ。
青葉青果高校と大木高校の試合が終わり、両選手がコートの中央に並んだ。審判の合図で両選手がお辞儀をした。海野と加藤が握手をし、加藤が口を開く。
「強かったが、油断はするなよ?」
「わかってますよ。IHでまたやりましょう。」
「皮肉かお前。」
「本音ですよ。」
海野と加藤は笑って話していた。
沼咲と川崎は根潮と話していた。沼咲が根潮の肩を叩く。
「根潮先輩、無理しすぎでしょ。」
「せっかくお前らと試合できたんだ。無理はするだろ。川崎も上手くなったな。」
「はい、先輩の指導のおかげです。」
「そっか、そりゃ教えた甲斐があったな。お前は相変わらずむかつくぐらい上手いな。」
根潮が少し意地悪そうに沼咲を見る。
「才能の違いっすかね〜。」
沼咲は憎まれ口で返した。根潮が笑い、それに釣られて沼咲も笑う。
「やっぱり相変わらずだな。俺達も頑張るが、お前たちは絶対に全国行けよ?」
川崎が首を傾げる。
「根潮先輩は行く気ないんすか?」
川崎の純粋な目に根潮は驚いていた。海野が川崎の後ろから現れ、川崎の肩を掴む。
「俺達も確定ではないだろ、まだあと2試合あんだから。そろそろ行くぞ。すみません根潮先輩失礼します。」
「あぁ…。」
海野は川崎を連れてベンチへと戻って行った。沼咲もそれについて行こうとした瞬間、根潮が声をかける。
「沼咲。」
「はい?」
沼咲が振り返る。根潮の視線は沼咲の左膝に向かっていた。
「気をつけろよ?」
「…うっす。」
沼咲は頷いて海野と川崎についていった。
青葉青果のメンバーは次の海常高校と厚木千賀の試合を見るために、観客席に座っていた。
左から順に、凪佐、川崎、朝泡、海野、桑田、美和、その後ろは、舟木、水木、銀波、沼咲、川田が座って見ていた。
試合の結果は91:56。海常高校の圧勝であった。
海野が口を開く。
「まぁ、予想通りか。」
「善戦した方だろ。やっぱり王者は強いな。」
沼咲は満足したような様子であった。桑田が立ち上がる。
「帰るぞ、明日も試合だ。」
「「「はい!」」」
ほかの全員も立ち上がり、出口の方に向かい始めた。沼咲が手を挙げる。
「すみません、ちょっと外していいすか?先帰ってもらっていいんで。」
美和が口を開く。
「じゃあ私も着いてくわ。どうせ帰る家は同じだし、あんた1人にしといても不安だし。」
「信用ないなー。」
少し睨む美和に沼咲は苦笑いした。桑田が口を開く。
「わかった。遅くならないようにな。」
「了解です。んじゃ!」
敬礼をしてから、沼咲は走り出した。
「待ってよ、もう…。失礼します。」
美和は急いでお辞儀をしてから沼咲を追いかけた。
沼咲は元々座っていた場所の反対側の観客席出口の前で止まった。急に止まった沼咲の背中に美和が止まりきれずにぶつかる。
「痛っ…、なんで急に止まるのよ。」
「ごめんごめん。」
沼咲は美和の方に一瞬視線を移して謝った。美和は沼咲の視線の先、観客席の出口通路の方を覗いた。そこには長身の緑髪のメガネをかけた男がいた。
「よう、緑間。久しぶり。」
「沼咲茂樹か。」
美和が驚く。
「緑間ってあの…?!」
「そうそう。去年の全中で3Pバカバカ決めてくれたやつ。で、どうだった?俺らの試合。見てたんだろ?」
「予想通りなのだよ。お前たちの実力を考えればこの決勝リーグ、青葉青果の脅威となるとすれば、黄瀬のいる海常のみだ。」
緑間はメガネを人差し指で上げながら言った。
「いやぁ、まだわかんないよ?」
沼咲はヘラヘラとしながら答えた。
「つくづく気に食わんやつだ…。黄瀬も脅威になる可能性があるだけなのだよ。あいつはまだ未熟だ。」
緑間の言葉に美和は驚き、沼咲は変わらずヘラヘラしていた。
「いやぁ、未熟でも相性があるでしょう。それでお前もやられたんだろ?」
沼咲の言葉に緑間の目が鋭くなった。
「見ていたのか?」
「いや?友達に頼んでビデオ貰って見ただけ。」
緑間は出口の方に体を向けた。
「お前もせいぜい気をつけるのだよ。」
「気をつける必要ないよ。黒子はすごいけど、まだあいつはお前ら程じゃない。秀徳が勝ち上がってたら気をつけたけど。」
美和は話の内容がわからず、邪魔しないために黙っていた。緑間が笑う。
「ふっ、まだか…。」
緑間は歩き始めた。
「相性という点では、黄瀬はお前の相手ではないのだよ。お前がその膝を壊さなければ…。いや、それでも他の2人がいるか。帰るのだよ。」
「またなー。」
会場を後にする緑間に沼咲は手を振った。緑間は何も言わずに歩いていった。
美和が沼咲の腕をつつく。
「あんた…、膝って何?」
「ん?なんでもないよ。さて、帰るかー。」
美和は表情の変わらない沼咲を見て諦めた。
2人は会場を後にした。
帰り道、沼咲と美和は話しながら帰っていた。
「ねぇ、あんた緑間くんのこといつから見えてたの?」
「海常と厚木千賀の試合見始めたときだよ。長身のメガネがいたから気になって。」
「へえ。」
美和は沼咲の相変わらずの視野の広さに驚いていた。
「にしても、秀徳負けたのね。いつ見てたの?」
「自分の部屋で見てた。先週、練習の後俺すぐ帰ったろ?そのときに映像貰ったんだよ。」
「緑間くんもキセキの世代よね?相性が良いからってそれを倒せるのってどんな人?」
キセキの世代は圧倒的な存在。いくら相性が良くても、キセキの世代の得意不得意は並の人間が相手では意味がないほどの力だと美和もわかっていた。
「名前は知らんけど、ジャンプ力すごいやつ。というか、そいつの力だけじゃ秀徳は倒せなかったよ。黒子がいたからだ。」
美和は「黒子」という名前に首を傾げた。緑間も知っている存在ということは先程の会話でわかるが、その名前は聞いたことなかった。
「黒子って誰?」
「キセキの世代の6人目。幻のシックスマンとか呼ばれてるやつ。というか、簡単に言うと、蒼とか奏、優馬のスタイル。パスのスペシャリスト。」
美和は沼咲の言葉に驚いた。水木と舟木と凪佐の3人に対してワンタッチプレイの提案をしたのは沼咲であった。中学時代、キセキの世代と試合をしたのは最後の全中の1回のみ。その1回の試合で見た選手のスタイルを沼咲は理解していたことになる。
「あの3人は黒子までに到達させる気はないし、そもそも黒子のようになるのは無理だけどね。」
「そんなにすごいの?」
「徹底具合がね。あそこまで感情を殺してアシストに徹底するスタイルは見たことないし、才能がなきゃ無理だ。人の動きを見て、その人の行く先にパスを届ける。単純な事だけど、1番難しい。やっぱり天才だよ、あいつも。」
沼咲の「あいつも」という言葉。美和にはその言葉はまるで、「自分は天才ではない」と言っているように聞こえた。美和が口を開く。
「あんたも十分天才よ。」
「天才は嫌だなぁ。」
沼咲は苦笑いしながらそう言った。
いかがだったでしょうか。
次回の投稿は5月1日(日)18:00です。
どうぞお楽しみに。