薄明と双子の姉妹 (リメイク中) 作:きょうこつ
「はぁ…随分とくだらねぇ理由だった…」
あの後、よくよくクエストの依頼文章を読み直すと、何とウサ団子の材料の餅米を輸送していた商人が足止めをされていたようだ。即ち、オサイズチを討伐しなければウサ団子は作れない。
「ヒノエのやつ…それで俺にあんな朝っぱらから依頼が入った事を伝えたんだな…はぁ…」
「ゲンジも好きニャンでしょ?」
「まぁ美味いからそこは何とも言えん…」
ガルクに跨りミケと談笑していると里へと到着した。
「…?」
見ると里に帰還した自身を珍しく里の人達が迎えていた。
いつもは出迎えが無いので、ゲンジは驚いていた。
どういう風の吹き回しなんだ?
ゲンジは次々と里の人々の間を通り抜けていく。皆は驚きの目線を向けていた。やはり、里に残って依頼をこなし続ける自身を不思議に思っているのだろうか。だが、中には変わらぬ冷たい視線を送る者達もいた。
そんな中、いつも目を合わせないようにしていたその視線と目が合ってしまった。
「…!!」
自身を凝視するその視線が過去を遡り、忌々しい幼少期を鮮明に思い出させた。
『来るなバケモノ!』
『とっとと出ていけ…!』
その目は、あの村の子供と大人から向けられた視線と一致していた。
その瞬間
「ぐぅ…!!!」
額から汗が流れ出てくると同時に次々と鼓動が激しくなり、胸が苦しくなってくる。
___やめろ…やめろ…!その目を俺に向けるな…!!やめろ!そんな目で見るな!!!
「ゲンジ!?大丈夫かニャ!?」
視界が混乱してくる。ゲンジの身が地面に崩れた事でミケは駆け寄るも、ミケの声も耳に入ってこない。
「ハァ…ハァ…ハァ…!!」
汗が次々と止まらぬ勢いで流れる。
「お…おい大丈夫かアンタ!?」
「…!!!」
数人の里の人々が手を差しのべようとすると、ゲンジはそれを振り払い、走り出す。
「はぁ…!はぁ…!はぁ…!!」
息を切らしながら。あの目線から逃げるようにゲンジは走る。
見るな…!その目を向けるな…!!!!
「あ!ゲンジさん。お疲れ様で…」
声を掛けようとしたヒノエをも無視し、ゲンジは逃げるように自宅へと向かう。
そして、自宅の玄関を潜り抜け、居間に辿り着いたゲンジは段差に腰を下ろした。
段差に腰を下ろしたゲンジは、汗で濡れた額に手を当てる。過呼吸になりながらも、先程の視線を忘れようとする。ゲンジは何度も何度も自身を落ち着かせる為に連呼した。
「落ち着け…落ち着け…」
ただ、見られたくない脚や耳を見られた訳ではない。あの目線は違う。そう考えてゲンジは必死に冷静になろうとする。そして、数分後、ようやく落ち着きを取り戻したゲンジは深呼吸をする。
「ふぅ…」
汗も止まり、鼓動の心拍数もゆっくりと正常に戻す。
「…あ、アイツら置いてきちまった…」
ようやく物事を思考出来る程度まで回復すると、ハチとミケを置いてきてしまった事を思い出した。すぐさま戻ろうとすると、ハチの走ってくる足音が聞こえてきた。
「お?」
その瞬間 玄関をハチが飛ぶように入ってきた。その背中にはミケが乗っていた。
「ニャァ!ゲンジ!大丈夫かニャ!?」
「ハチ…ミケ…」
2匹はゲンジに駆け寄る。対してゲンジは必死に自身に顔を押し付けてくるハチの頭を撫でながら、置き去りにしてしまった事を謝罪した。
「悪かったな…置き去りにしちまって」
「それはいいニャ!俺達が心配してる点はそこじゃないニャ!」
「…え?」
すると、それに続くかのように玄関から、もう1人の人影が見えて、中へと入ってきた。
「…!ヒノエ…」
入ってきた人物はヒノエだった。彼女はゲンジが自身を無視しながら走り去った事を不審に思い、後から追いかけてくるミケ達に事情を聞き、駆けつけたのだ。
ヒノエは近づくと、座りながら俯く自身と同じ目線になるように腰を下ろしてきた。
「ミケちゃんから聞きました。貴方が突然苦しみ、その直後に何かから逃げるように走り出したと…なにがあったんですか…?」
「…」
なぜ、突然走り出したのか、ヒノエはゲンジに問う。だが、ゲンジは答える気は無かった。
なぜ、関係もないコイツらに話さなければならない。話して何になる?どうにもならないだろう。
「別に何もねぇよ…」
簡単に話を終わらせるためにそう零した。
だが、ヒノエは引き下がることはない。
「嘘はやめてください…!」
ヒノエの静かなる一喝がその場に響き渡る。普段温厚で笑顔を絶やさないヒノエが声を低くさながら怒鳴る姿はミケ達も初めて見たのか、ミケとハチは驚きながら耳を押さえうずくまっていた。
そんな中で、ゲンジを一喝したヒノエはゲンジに語り掛ける。
「全てお見通しですよ。貴方は…とてつもなく深い悩みを抱えています。その証拠に…私が来てからずっと震えているじゃありませんか」
「…!」
ゲンジは初めて気がついた。自身の手先や脚が随分と前から震えていることに。口では誤魔化せようとも、身体は正直だった。
「…教えてください。貴方に…貴方の身に何があったのですか?」
もう言い逃れはできない。話せば前に滞在していた村と同様に気味悪がられるだろう。
そう覚悟した。
「分かった…全部話す…」
ゲンジは話そうとする。だが、口を動かしただけで再び身体が震えてきた。
__怖い
またあの目線を向けられるかもしれないと考えただけで心が締め付けられる。
そんな時。
ヒノエの両手が震える自身の肩に優しく添えられた。目の前にはヒノエが真っ直ぐ自身を見つめていた。
「たとえどんな理由でも私達は貴方を絶対に軽蔑したりなんかしません。だから安心して話してください」
「……!」
向けられたヒノエの瞳はとても美しく、真っ直ぐで優しかった。まるでエスラのように。
『ちゃんとお姉ちゃんに話してごらん!』
ゲンジはヒノエの顔をエスラと重ね合わせる。身体も震えが止まり、鼓動も落ち着きを取り戻した。ゲンジは初めて姉以外の他者を心の底から信用すると、自身の身体の事と過去を全て話した。
「俺は…生まれた時はこんな身体じゃなかった…」
ゲンジは装備を外すと、いつも履いている足袋を外した。そこに見えたのは、正にモンスターの脚だった。肌は人間だが、見た目はイビルジョーを彷彿させている。先端部分が三つに分かれて、短いながらも鋭い爪が生えていた。
また、髪も掻き上げ、耳を見せる。それはヒノエと同じく先端が尖っていた。
ゲンジは話し出した。なぜ、こんな身体になってしまったのか。