薄明と双子の姉妹 (リメイク中)   作:きょうこつ

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コハルの一日

ガーグァを無事に大人しくさせ、子供達を助けたコハルとヒノエに向けて辺りから拍手が巻き起こった。

 

そんな中でコハルは抱き抱えていた子供達を地面に降ろした。

 

「大丈夫か?もし怪我してたらちゃんと薬で治せよ」

 

そう言いながら子供達の服についた埃をパンパンと叩きながら払う。するとその子供は自身を怖がる事なく無邪気な笑みを浮かべた。

 

「うん!ありがとうゲンジさん!」

 

「…!」

その笑顔は2日前に残虐な行為を見せて怖がらせてしまった自身に向けられたとは思えない程、純粋なものだった。

子供達はお辞儀をするとテクテクと家へと向かっていった。

 

「あらあら。子供達にも気づかれていた様ですね」

 

「そうだな。まぁ…泣かれずに済んでなによりだよ」

ゲンジことコハルは立ち上がると、ヒノエの手からガーグァを引く手綱を受け取る。

 

「私が返してくる。姉様は先に戻っていてください」

 

「まぁ!すっかり役にハマってしまってますね〜」

 

「今日一日このままでいろって言ったのはアンタだろ!?ほら!行った行った!」

 

「はいはい♪」

ヒノエの背中を押しながら受付の仕事に戻らせる。そして、ヒノエが帰っていく中、コハルは目を鋭くさせるとガーグァを引きながら持ち主の商人の元へと歩いていく。

 

そして 商人の前に着くと手綱をまとめ上げ、鋭い目を睨みつけながら商人の腕に押し付けた。

 

「ガーグァの世話ぐらいキチンとしろ。もしもこれでガキが傷ついてたらどう責任を取るつもりだ」

 

「す…すまなかった。まさかこうなるとは思ってなかったもんで…」

 

「最悪なケースぐらい想定しとけ。特にモンスターを扱ってる時点なら尚更だ。いいな?」

 

「あぁ。本当に感謝する…以後気をつけるよ」

商人はコハルの剣幕に気圧され頷く。それを見届けたコハルは背を向けてヒノエの元へと戻った。現在の服装が原因なのか、周りからの視線が少々痛いが、それは気にしない。

 

 

もうすぐ正午だ。お昼時となっているために皆はヨモギやセイハクの店で購入したウサ団子やおにぎりを口にしていた。

 

「……腹が減ってきたな」

その様子を見てくると段々と自身の腹の虫も鳴り出す。そして自身もウサ団子を食べようとヨモギの茶屋へと脚を向かわせた。

 

◇◇◇◇◇

 

ヨモギの茶屋は繁盛しており、辺りに設置させてある花見用の長椅子には多くのハンターや行商人達が団子を食していた。今日は何かとハンターよりも商品を仕入れに来た行商人が多いだろう。それに加えて観光客も。

 

コハルことゲンジが女装して優雅に歩きながら現れた事に皆は驚くも、その反応にもう慣れた為に悠々とヨモギの元に進んでいった。

 

「あ!コハルちゃん来てくれたんだ!」

ヨモギは今もなおゲンジをコハルと思い込んでおり、先程の様に天真爛漫に振る舞ってきた。それに対してゲンジもコハルへと成り代わると声を高くさせながら返す。

 

「はい!早速ですが一本 お願いできますか?」

 

「りょ〜かい!しばし待たれよ」

ヨモギは頷くと素早い手つきであっという間に一本のウサ団子を完成させコハルへと手渡す。

 

「お待ちどうさま!ゲンジさん!」

 

「ありがとうございま………え?」

 

コハルは固まってしまう。今、たしかに自身の名前を口にするのが聞こえた。

 

「あ、しまった」

コハルが固まった事でヨモギは自身が口を滑らした事を自覚して咄嗟に顔をそっぽを向くように逸らす。

その動作からコハルは目を大きく開きウサ団子を口にしようとしていた動作を止めると即座にヨモギに目を向けた。

 

「まさか気づいてたのかよ!?」

 

「いやぁ…普通に気づくよそりゃ…」

コハクに詰め寄られたヨモギは頷きながらニヤニヤといやらしい笑みを浮かべた。

 

「まさかゲンジさんに女装趣味があったとは……これまた凄い大発見だなぁ…」

 

「違う!!これには理由があるんだよ!!」

それから事情をイオリの時と同様に事細かに話す。するとヨモギは何とか納得してくれたのか頷いていた。

 

「なるほどなるほど。つまり今はお嫁さん2人のおもちゃにされてるんだね!」

 

「そうだよ…ってデカい声で言うな!」

 

ヨモギの発言によってゲンジをよく知らずに女だと思い込んでいる者達から次々と

 

『なぁ…嫁2人ってどう言う事だよ…?』

 

『多分その嫁2人もしくはあの女のどっちかが同性愛者なんだよ!』

 

『マジかよ!?』

 

完全に誤解されている声が上がってくる。まずいと思ったコハルは即座に訂正の声を上げる。

 

「おいそこ!!俺は男だ!勝手に女だと思ってんじゃねぇ!」

 

「あの…ゲンジさん。男って言ったらもっとヤバいんじゃない?」

 

「え?」

ヨモギの忠告にゲンジは呆気に取られる。

 

先程の言葉をリピートしてみよう。ヨモギは嫁2人と言った。ゲンジが男と訂正すれば1人の男に嫁が2人いるという事となる。即ち稀有な例である『一夫多妻』を自白したと言うことだ。

 

[女装][妻が2人]

通常では決して巡り会うことのない二つの単語によって辺りの男女のハンターや行商人から更なる変な印象を持たれてしまった。

 

『マジかよ!?アイツ男で女装して嫁2人もいんの!?』

 

『あの歳で女装に加えて嫁2人とかシュールだなぁ…』

 

『いや、どうせあれだろ?お姉ちゃんが2人いるとかだろ。今流行りのシスコンって奴?2人が好きすぎて嫁とか言ってんだよ多分。』

 

『『『『なるほど』』』』

 

1人のハンターの推測混じりの陰口に次々と辺りのハンターや商人達が同意したかの様に納得する。

 

「こ…コイツら…」

 

「おおお…落ち着いてゲンジさん!」

 

その景色を目の前で見ていたコハルは段々と頭に青筋を立て握り拳がプルプルと震えており、ヨモギはそれを必死に止めていた。

 

その後、何とか落ち着きを取り戻したコハルはヨモギに手を振りながら茶屋を後にし、元にいたヒノエの長椅子の場所へと戻る。

 

「あ、おかえりなさい。お食事は済みましたか?」

 

「あぁ。済んだ……済みました」

 

「よろしい」

まだまだ1日は終わらない。今は午後になったばかりだ。これ程 1日が長いと感じた事はない。あともう11時間もコハルでいなければならないのだ。

 

すると、ヒノエは突然コハルの手を取った。

 

「では次は集会所へ行きましょうか!」

 

「もうやだ…」

 

◇◇◇◇◇◇

 

場所は変わり集会所。テッカちゃんに乗りながら互角は多くのハンターと談笑していた。

 

そんな中で1人のハンターが少し気まずそうな視線を向ける。

 

「あのマネージャー…彼女は一体何者なんですか?」

 

「……」

その質問にゴコクも気難しそうな表情を浮かべていた。目線の先にいるのは受付で書類をまとめているミノト………のカウンターの外側にある椅子に脚を揃えながら座り集会所を見渡している眼帯をつけた少女。

 

「いやまぁ…気にせんでくれ。あの…ヒノエとミノトの従姉妹でゲコ!」

 

「そ…そうなんだ」

正体に気づきながらも気を遣い設定を見事に貫いてくれているゴコク。

 

その一方で、書類を整理していたミノトはチラチラとコハルへ目を向けていた。目を向ける先にあるのは気品のある座り方をするコハル。その表情はよく見えなかった。

 

「あの…コハルちゃん…?」

ルールに乗っ取り、ゆっくりと名前を呼ぶ。するとコハルはこちらに向けて振り向くとニッコリと笑った。

 

「はい。なんでしょうかミノト姉様」

 

「ッ!!」

その表情を見た瞬間 ミノトは手に持っていた書類を抱えながらビクッと身体を震わせる。一見見ると可愛らしい笑みだが、目元が少しだけ震えていた。

 

「あの…何でもありません…(お…怒ってらっしゃる…愛くるしいですが…あまり刺激しないように…)」

 

咄嗟にミノトは書類で顔を隠すようにして目を逸らす。

 

「怒ってませんよ。少し疲れてるんです」

 

「サラッと心を読まないでください!」

 

すると

 

「ねぇ君可愛いじゃん。この里に住んでるの?」

 

突然 コハルが影に覆われた。目の前に聳えるは巨大な体格を誇る大剣使いのハンター。その体格は一般の男性ハンターよりも良く、180に達している。

 

そのハンターは座るコハルをニヤニヤと見つめていた。

 

「いえ。近隣の村から観光で来ました」

 

「へぇ〜!そうなんだ。突然だけどさ。この後 俺と飲まない?」

 

またまたナンパ。この地域はやけに多い。いや、地域のせいではない。ハンターの自覚が足りない者が多いのだ。それに対してコハルはゆっくりと立ち上がる。

 

「う〜ん…では私と腕相撲で勝負しましょう!貴方が勝てば晩酌につき合います。負ければ…ボコボコにします」

 

「えぇ!?ま…まぁいいよ!」

完全におかしい条件にそのハンターは驚くも即座に頷く。そして、2人は集会所の中心に移動するとコハルは大きな一つのタルを用意し、その場に置く。

 

「よぉ〜し!お兄さん負けないからね」

 

「私も負けませんよ」

意気揚々としているハンター。額に青筋を浮かべているコハク。先にハンターが肘をタルの上へと置いた。

 

「さぁさぁ。この手を握りたまえ」

そう言いながらハンターは大きな手をグーパーしながら誘う。それに対してコハルは更に笑みを浮かべると頷いた。

 

「はい!」

頷いたコハルは同じく肘を立てる。

 

「では遠慮な…くッ!!!」

 

「…!」

コハルの腕が相手のハンターの腕を掴んだ瞬間 そのハンターの目からは光が消え去り、額から大量の汗が流れ始めた。

そして身体も小刻みながら震え出している。まるで何かに驚くと同時に怯えているかのように。

 

「あ…君…やけに握力が凄いんだね…」

 

「えぇそうなんですよ!あ、離してはいけませんよ!私も腕相撲がしたいんですから!」

 

「ちょっと!?何かどんどん握力強くなってるよ!?」

そう言い掴む腕の力がどんどん強まっていく。それと共にコハルの言葉も段々と強みを帯びていき、青筋も増えていく。

 

「あ、ミノト姉様。開始の合図を!」

 

「は…はい…」

コハルに呼ばれたミノトはカウンターから出ると2人の合間に立ち、双方の拳を包み込むかのように手を当てる。

 

「いきますよ……開始ッ!!」

 

ミノトは合図を出すと共に即座に素早い動きでコハルの後ろへと避難する。その判断は正しかった。

ミノトがいなくなったその直後___

 

 

___「オラァッ!!!!」

 

 

 

コハルの叫び声と共に掴まれていた巨大なハンターの腕が押し倒され、それと同時に叩きつけられた衝撃で樽が木っ端微塵に粉砕。更に相手のハンターの身体はその拍子に地面へと崩れた。

 

 

『『………』』

 

 

辺りにいたハンターやミノトは沈黙する。それもそうだ。筋骨隆々なハンターが着物を着た小柄な少女に腕相撲でいきなり地面へと叩きつけられたのだから。

 

当のハンターも何が起きたのか分からず、倒れたというのに目を何度もパチクリさせていた。

 

すると、コハルはゆっくりと膝を曲げて腰を低くするとそのハンターにニッコリと笑みを浮かべた。

 

「では、晩酌はなしで♪」

 

「は……はい…」

 

その後、ハンターは女性恐怖症となり、集会所もしばらく沈黙に包まれたという。

 

 

 

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