薄明と双子の姉妹 (リメイク中) 作:きょうこつ
不穏な知らせ
それから何も起きる事なく、ようやく1日が終わった。
仕事を終えたミノトと手を繋ぎながら自宅へと到着すると同時にコハルはゲンジへと戻りゆっくりと座布団の上に倒れる。
「つ…疲れた…」
一日中女装に加えて女性の口調、振る舞い、全てを平行させる事がこんなに疲れるとは思ってもいなかった。
「……エスラ姉さんは何で鼻血たらしてんだ…」
「いやぁ…そのあまりにも可愛すぎて…」
見るとエスラはその様子を見ながら鼻を押さえていたが、抑える手の間から次々と血が出ていた。
すると 突然 自身の頭が持ち上げられ、柔らかい誰かの膝の上へと置かれた。
「フフフ。もしもまた約束を破ったら1週間は同じ目に遭うと思ってくださいね〜♪」
そう言い見上げると黒い笑みを浮かべたヒノエの顔がゲンジを見下ろしていた。流石にこんな恥辱を1週間もさせられると、もう理性が保てない。故にゲンジは頷いた。
「わ…わかりました…」
その日からゲンジはヒノエに対して弱腰になってしまった。
◇◇◇◇◇◇
数日後、マルバ達によって付けられた傷が完全に癒えたゲンジは修練場へと向かい感覚を取り戻すべく次々と王牙双刃を振り回した。
「ふぅ…」
失われたこの数日間の訛りを取り除くべく、汗を流しながらも動き回る。次々と身体に湧き上がる感覚。そして行動回路。それが自身の訛った身体へと戻ってくる。
そんな時だった。
「ゲンジ!大変です!」
「…ん?」
修練場の入り口から受付をしていたミノトが走ってきた。何やら慌てているようだ。
「どうした?」
「すぐに集会所へ!エスラさんとシャーラもです!」
ミノトはその場に居合わせたエスラとシャーラにも呼びかけていた。3人は首を傾げながらも集会所へと向かった。
◇◇◇◇◇◇
「何かあったのか?」
集会所へと着いたゲンジはゴコクへと事態を尋ねる。ゴコクは眉間に皺を寄せながら事態を話した。
「実はな。百竜夜行が通ったとされる水没林を調べておった調査隊が突然 行方不明になってしまったのでゲコ」
「それが何か問題でもあるのか?そうなると捜索隊が組織して出される筈だろ」
「いやそれがのぅ。組織されたはいいが、水没林に『ジュラドトス』が暴れて調査隊の捜索が上手く行えない状況なのでゲコ」
「ジュラドトス…」
聞き覚えのないモンスターの名前を聞いたゲンジは繰り返すようにゆっくりと名前を口にする。
ジュラトドスとは、現大陸にて最近になって発見されたモンスターであり、泥魚竜と呼ばれる。その名の通り泥のなかをスイスイと泳ぎ、泥に脚を取られた獲物を食す獰猛な海竜種である。
「つまり、ソイツらをどうにかしないといけない訳か。いいぞ。引き受ける」
「私もだ。最近は燃焼不足であるからな」
「同じく」
「よく言ってくれたでゲコ!お主らがジュラトドスを相手にしている間に捜索隊を派遣するので頼むでゲコ!あ、そうじゃ、これは別件なんだが」
「別件?」
ジュラトドスの話を終えるとゴコクは別の話題を切り出す。
「砂原にて赤く輝く彗星が観測されたようでゲコ」
ゴコクの話によると、砂原にも派遣された調査隊が調査を行う中、ふと空を見上げた時、青い空を赤く輝く彗星が軌跡を残しながら南へと向かっていく光景を目にしたらしい。何とそれは寒冷群等でも観測された様だ。
「赤く輝く彗星…それなら俺も以前に見た事があるな…」
その言葉にゲンジは以前砂原へと行った時を思い出す。その時は自身も赤い彗星を見かけた。
その直後に体内に眠るイビルジョー が突然 目覚めたのだ。イビルジョー 曰く“古龍[えさ]が近い”と。
ゲンジはその事を全てゴコクへと伝えた。
「なるほどな…お主の中のイビルジョー が彗星を見た途端に目覚めたと…」
その話を聞いたゴコクは腕を組み考え始める。そうなると彗星が古龍であると推測できる。
「まぁ、まだ詳細は分からん。これについても分かり次第伝えるでゲコ」
「あぁ」
その後、ジュラトドスの相手を引き受ける事となったゲンジ達は準備を整えると受付へと向かいクエストを受注する。
「何か妙だな…ここから距離のある水没林から砦まで普通にモンスターが来るか?迷い込んで来るにしてもおかしいだろ」
ゲンジの問いにミノトも同意するかのように頷く。
「確かにそうですね…。大社跡なら分かりますが…水没林からなんて…前に出現したアンジャナフはどうやら砂原から来たようですよ?」
「砂原!?」
ミノトは前回の百竜夜行のモンスターの調査をゲンジ達へと伝える。ヨツミワドウやジンオウガ、タマミツネは大社跡から。これは何となく分かる。リオレウスやリオレイア、そしてナルガクルガの様な飛竜種は空を飛ぶ為に何処から来てもおかしくはない。
だが、おかしいのはアンジャナフとゴシャハギだった。
ゴシャハギは砂原と同じ程の距離のある寒冷群島、そしてアンジャナフはその砂原から来たというのだ。
仮に迷い込んで来るにしても上記の2体が現れる事はおかしいとしか言えない。
正に奇々怪々
「取り敢えず調査隊の事は頼むとして、私達はジュラトドスを優先しよう。手っ取り早く終われば捜索隊と合流して一緒に探すよ」
「お願いします。どうかお気をつけて。あとゲンジ……」
「ん?」
ミノトはエスラの言葉に頷くとゲンジの左頬に目を向ける。
「あの…目の方は大丈夫ですか?」
「あぁ。コイツか」
ミノトが見ていたのはゲンジの左目に付けられた眼帯だ。ゲンジはそれを外す。現れたのは今も変わらず黒色に染まる目玉に赤く輝く瞳。正に龍属性の中から除くイビルジョー のような目であった。
「見える景色に異常はねぇから大丈夫だ。気にするな」
「なら…よかったです…。何かあったら絶対に隠さずに話してくださいね!」
ミノトはゲンジの両手を自身の両手で包み込み身を乗り出す。前のような事が決して起きない為に。
「あ…は…はい」
その圧に対してゲンジは頷くとエスラと共に水没林へと向かった。