薄明と双子の姉妹 (リメイク中) 作:きょうこつ
鬼門の沼沢 巷説に聞く 泥隠し
危殆 泥濘の如く 深み嵌って 腹の中__。
◇◇◇◇◇◇
水没林。それは文字通り生い茂る木々の大半が水に沈んでいる湿地帯である。最近になって立ち入る事が不可能であった多くの地点が立ち入る事を許可されたようだ。
水没林へと到着したゲンジ達は即座にジュラトドスの凄むエリアを捜索する。
「泥を泳ぐとなると、恐らくこのエリアが怪しいだろう」
エスラが指したのは地図上に示されたエリア2。ズワロポスがよく目撃されるところだ。話によるとジュラトドスは肉食。ズワロポスは良い獲物となるだろう。
「じゃあそこに向かうか」
3人はその場からエリア2へと向かう。
◇◇◇◇◇◇
エリア2は比較的広く、辺りは水分によってぬかるんでいた。だが、人間程度の重さではあまり沈む事はない。そのかわり、モンスターのような超重量を持つ生物は深く踏みしめると沈んでいくようだ。
「まずは私が様子を見よう」
エリア2と1の境目にある岩陰に隠れると、エスラは慎重に顔を出して泥土が広がるエリア2を見る。
「…ほう。アイツだな」
エスラの視界に映ったのは悠々と泥の中を泳ぐ巨大な黒い影。見ればヒレのようなモノを付けている。
「俺とシャーラ姉さんで奴をここまで誘き寄せる。姉さんは奴が完全に潜ったら音爆弾を頼んだ」
「了解」
エスラは即座に音爆弾を取り出す。
「いくぞシャーラ姉さん」
「うん」
ゲンジは王牙双刃を、シャーラはギロチンを構えると即座に駆け出す。
2人は疾風の如く駆け抜けていき、泳ぐジュラトドスへと接近する。
その距離があと数メートルとなった時、ゲンジは脚を踏み込み跳躍すると身体を唸らせ目の前に迫るジュラトドスの背中へと王牙双刃を振り回す。
「オラァッ!!!」
振り回された王牙双刃の刃がジュラトドスの身体へと擦られると雷属性の特性である青い稲妻がジュラトドスの身体を走る。
刃を当てられたことでジュラトドスは外敵の接近に気付き、即座に後方へと泳ぎながら後退する。その動きは泥の中だというのに水中にいるかの様に素早い。
そして後退したジュラトドスは大きく頭を上げた。
「!?マズイ!姉さん耳塞げ!」
「…うん!」
その動作からゲンジはハンドボイスを予測して、シャーラへと警告した。
咄嗟にシャーラも武器をしまうと耳を塞ぐ。
その直後 巨大な咆哮が響き渡った。
「ぐぅ!?」
耳を塞いでいても鮮明に聞こえて来る叫び声。
その咆哮が鳴り止むと、泥の上に立っていたゲンジに目掛けてジュラトドスは泥の塊を吐き出した。
「お!?」
咄嗟にゲンジは状態を横に投げる様に回避して向かって来る泥の塊を避ける。後ろへと突き抜けた泥の塊は地面に付着すると、そのまま障害物のように残った。あの粘着度。触れればしばらくは身動きが取れなくなるだろう。
「姉さん。あれになるべく注意しろ」
「オッケー。あと、陸地に追い込むことが優先ってことは忘れないで」
「あぁ」
2人は即座に武器を構える。後方からはエスラが誘き寄せるべく、次々と雷撃弾を放っていた。
「ギャァオオオ!」
すると、弱点属性であるのか、雷撃弾が撃ち込まれていくとジュラトドスは悲痛な声を上げていった。
「好都合だな。雷属性が弱点とは」
「これならすぐに片付きそうだね」
偶然と弱点が武器の属性と同一だと判明すると2人は笑みを浮かべ、ジュラトドスへと向かっていく。
「ソラァァァア!!!」
「やぁぁ!!!」
エスラの雷撃弾によって怯むジュラトドスへ向けて、2人は双剣を振り回していった。身体を回転させながらジュラトドスの身体をなぞるかのように斬りつけていき、確実なダメージを与えていく。
その時だ。ジュラトドスは首を上にあげる。
「「!?」」
その動作を見たゲンジとシャーラは即座に武器による攻撃を中止する。
すると 先程と同じく激しい咆哮が近距離で放たれた。
「ぐぅ!?」
「うぅ…!!」
近くにいた2人は耳を塞ぎその場に立ち止まってしまう。そして、2人が立ち止まった瞬間を隙と見たジュラトドスは巨大な尻尾を身体と共に棒の様に振り回し、2人の身体を泥が広がる地点からエスラのいる地面へと吹き飛ばした。
それを追いかける様にジュラトドスも泥中から地面へと上がり始める。
「…へへっ。これはまた好都合だな。姉さん」
「うん。そうだね…!」
「一気に畳みかけるチャンスだ…!!」
不利な場所であるぬかるんだ場所から離れ、得意な地面での闘いになる事を理解した3人の目が輝きだす。
その後は何とあっという間に終わっていった。陸地に誘き寄せられたジュラトドスはエスラの麻痺弾によって動きを封じられ、そこからゲンジとシャーラの双剣の弱点属性である雷を浴びた無数の蒼い斬撃を喰らわせられる。
次々と全身に傷がつけられ、纏っていた泥も破壊されていく。
麻痺が解け、泥を纏うべく泥中に戻ろうとしても、ゲンジが直前に仕掛けておいたシビレ罠にはまり、そこから更に先程と同じような光景が広がる。
よって、クエスト開始からエリア移動を入れて僅か10分でジュラトドスは虫の息となった。
「ふぅ…。終わった」
「意外と早く終わったね」
「お疲れ様2人とも」
ゲンジとシャーラが深呼吸をしていると、ボウガンを背中に背負ったエスラが2人の頭を撫でる。
「「頭を撫でるな(撫でないで)」」
「ムフフ…揃ってジロリとする2人も可愛いな…」
軽く携帯食料を噛みちぎると、エスラは辺りにモンスターがいない事を確認する。
「さて、軽く休憩して私達も捜索隊と合流しよう。キャンプにもうついている頃だろう」
「あぁ」
「うん」
何でも今回は捜索隊は自身らがジュラトドスを狩猟した直後に調査隊を捜索するつもりだったらしい。
その時だ。
近くの雑木林が何やらガサゴソと木々の葉っぱと茎が擦れ合う音とそれを踏み倒す音が聞こえて来る。
「…何か来るな」
「あぁ」
エスラの見解にゲンジとシャーラは頷く。その音は次第に近づいて来る。
すると、突然 林の奥から何かが飛び出す。だが、出てきたのは何と観測用の装備を纏った男性だった。
「アンタ達はハンターか!?ようやく来てくれた!」
その男性はハンターであるゲンジ達を見つけると驚き出すと共に安心したのか笑みを浮かべていた。
「そうなると…アンタは派遣されて行方不明になってた調査隊か?」
「そうだ。『タルソ』という」
タルソと名乗った調査隊員は行方不明となってしまった経緯を話した。何でも4名で百竜夜行が起きた直後の痕跡を調査中に上空に青い龍を目撃し、追いかけている内にジュラトドスの襲撃にあっらしい。仲間が負傷してしまった上にジュラトドスが彷徨いていた故にその場から動けなかった様だ。
そして、その報告を聞いたゲンジ達は驚いた。
「青い龍って…俺たちの時もそうだったよな?」
「あぁ…百竜夜行の直後に現れた。その古龍がここでも目撃されるとはな…取り敢えず」
今回の目的である行方不明者の捜索が終わった。故にエスラはタルソに問いかける。
「君たち調査隊をキャンプに送ろう。話はそれからだ。他の隊員達はどこにいる?」
「あぁ。すぐ近くのエリア内で待機している。捜索隊とも連絡が取れた」
「よし。ならばすぐに帰ろう」
その後、エスラ達は調査隊と捜索隊との合流を果たし、全員無事である事が確認された。そして水没林のキャンプへと戻り、ある程度の報告を聞くと調査隊と捜索隊はハンターズギルド本部へ。ゲンジ達はカムラの里へと帰還した。