薄明と双子の姉妹 (リメイク中) 作:きょうこつ
俺が生まれたのはここと同じく山に囲まれた大きな村だった。家は少しだけ裕福だったが、その分、幼い頃からハンターとしての基礎訓練を叩き込まれた。サバイバル生活に武器の扱い。3姉弟の中でエスラ姉さんとシャーラ姉さんは次々と課された訓練をクリアしていったが、俺は生まれた頃から肺が弱かったから過酷な訓練もすぐに息が切れて最後まで続かなかった。
そんなある晩に…俺は父親から寝ている合間に妙な薬を打たれた。その日を境に全身から痛みと共に感覚も麻痺して、俺は苦しみながら三日間を寝床で過ごした。
そして、目覚めた時には 俺の脚と耳は人間をやめていた。
「…なんだ…これ…」
目に映ったのはモンスターの脚だった。三叉に分けられた指一本からは短いながらも鋭い爪が伸びていた。また、耳も竜人族と同じく尖っていた。
その姿になった日から、俺の身体能力は爆発的に上昇した。今までの訓練を倍の容量でやっても疲れず、更に壁さえもを走れるようになった.。
竜人族は人間と容姿が違うものの、俺の村ではそれが認知されてるくらいは発展していた。だが、俺の姿は竜人族とは言えなかった。人間にも竜人族にもない身体を見た村の奴らは俺をバケモノと罵り始めた。
村の大人達から汚物を見るような目で睨まれ、村の子供からは毎日毎日石を投げられるようになった。
『こっちにくんなよ!』
『バケモノは村から出てけ!』
理解が出来なかった。なぜ、こんな事をされなければならないんだ。
俺は何度も父親に言う。
『どうして俺は他の皆と脚の形が違うんだ?』
だが、父親は明確な答えを出さず、
『大丈夫だ。すぐ同じになる』
そればかりだった。
何度も何度も聞くもただその答え一つだけでしか返してこなかった。
そして、何の答えも返さぬまま…親父はとうとう死んだ。不治の病にかかっていた。だが、父親が死んでも俺は悲しむ事はなかった。
それから、奴の遺品を整理していた時、妙な書類を見つけた。それは一つの薬の詳細が書かれたものだった。
『竜人化薬』
人間を竜人族へと変化させる薬だった。寿命と身体能力が大幅に伸びるに対して、通常の竜人族とは脚や耳が違う形になってしまう副作用があった。命に関わる副作用が存在しない為に多くの商人達から次々と取引の依頼が殺到していたのだ。
そして…親父の手帳からは俺の身体の変化と身体能力の情報が明確に記されており、商人との間でその薬を高値で取引していた事も書かれていた。
その金で親父は豪遊をしていた。
なぜ、父親は俺に薬を刺したのか、明確な理由が分からなかったが…この時確信した…。
俺は父親から実験材料としてしか見られていなかった。
もう俺は生きる気力を無くしテーブルに置いてあったハンターナイフを握りしめて首に突き付けた。
だが、
生きる事を諦め、死を決めようとした時に励ましてくれたのがエスラ姉さんとシャーラ姉さんだった。2人は俺を気味悪がる事なく、毎日 普通に接してきてくれた。
俺の身を案じてエスラ姉さんはある提案をする。
「ゲンジ、ハンターになろう。たとえ、その身体でも、ハンターとなり、人々の為に依頼をこなせば必ず皆は受け入れてくれるよ」
その言葉を俺は信じて3人でハンターになる事を決めた。
ーーーーーーーーーー
「だから俺はハンターになった」
「そうだったんですね…」
「唯一信用できるのは姉だけだった。だから…俺はずっと姉に頼って自身の存在を肯定し続けてきた」
ヒノエはようやく理解した。ゲンジが何故あそこまでして隠したがっていたのか。そして突然苦しむと同時に走り出した事も。姉との再会を渇望している理由も。
「俺は寿命が伸びても…この姿を見て気味悪がられなければそれでよかった…けど…」
ゲンジの脳内にまたあの冷たい視線が浮かびあがる。
「行く先々で依頼をこなしても…向けられる視線は同じものばかりだった。そんな視線が遂には頭の中に縛りつけられちまった。忘れたかと思えば似ている視線を見た瞬間に思い出してくる…それが俺には耐えきれなかった」
そう言い自身のトラウマも話す。あの時 走り出したのは里の人の目線が当時の視線と酷似していたからだ。
腹の中に溜まっていた事を吐き出して少しだけ心が軽くなったのか、気づけば涙目となっていた。
「だから今まで隠していたのですね」
「あぁ…」
ヒノエも妹のミノトと同じく、一時は自身の容姿にコンプレックスを抱いていた。だが、それは自身だけが気にしているだけであり、大きな問題では無かった。里の皆は竜人族という一つの種族として受け入れてくれていた。だが、ゲンジは人間でも竜人族でもない。故に自身よりもとてつもなく重く苦しい悩みを背負っていた。
「あの時の視線が…俺は怖かった…。昔を思い出したから走り出したんだ…」
自身のパニックに陥った理由も告白する。向けられた視線自体がゲンジのトラウマとなっており、彼の頭の中に根を張っていたのだ。
「お辛かったのですね…」
ヒノエはゲンジの背をさすると、優しく囁いた。
「安心してください。カムラの里の皆は絶対に貴方を軽蔑したりなんかしません。皆優しいですから」
里に50年以上住まうヒノエは里の皆の事をよく知っていた。
だが、ゲンジには分からなかった。
里の者の事を少数の者しか知らない。果たしてヒノエの言う通りになるのだろうか。疑問を抱えながらも、ゲンジの表情からは既に苦しみが消え去っていた。
腹の中に溜まりに溜まった不安を告白した事で少しだけだが、気分が晴れたのだ。
「吐き出してスッキリしたよ…」
ゲンジは自身の過去を受け止めてくれたミケとハチに礼を言う。
「ミケ…ハチ…ありがとな。悩みを聞いてくれて」
「気にするなニャ!俺達はゲンジのお供ニャ!」
「ワン!」
すると、ミケはハチに乗る。
「ヨモギにお団子頼んでくるニャ!」
そう言い2匹ははしゃぎながら出て行った。
そして、ゲンジは自身の悩みを話すきっかけと共に最後まで聞いてくれたヒノエに礼を言った。
「ありがとな…お陰で何とか立ち直れそうだよ。ヒノエ姉さん」
「気になさらないでください。これからは何か悩みがあれば私がご相談に乗りますよ。…………………『姉さん』…?」
「え?」
いきなりキョトンとするヒノエにゲンジは首を傾げる。
…………………はっ!!!」
ゲンジはようやく気がついた。エスラと重ねたばかりに彼女の事を本当の姉のように呼んでしまったことを。
「わ…わわ…わぁぁぁぁ//////」
その瞬間 ゲンジの顔がリンゴのように真っ赤に染め上がる。そういえば前にもこのような事があった。寝ぼけて様子を見にきたヒノエの手を姉と勘違いして掴み離さなかった事を。
そしてそれをヒノエは忘れる事はなかった。ニヤニヤと笑みを浮かべながらからかうように顔を近づけてくる。
「あらあら〜また間違えてしまいましたね〜♪」
「いまのは違う!断じて違う!!あれはただお前が姉に似ていたから!!」
そう言いゲンジは口をアグアグと手を前に突き出しながら訂正する。
けれども今更訂正しようともう遅かった。完全にゲンジの脳内ではヒノエを姉として認識してしまっているのだ。
ヒノエはゲンジの慌て様に微笑むと、ゲンジの頭に手を置き、あやすように撫でた。
「里にいる間は私の事を姉と思っていてもいいんですよ」
その暖かい母性もエスラにそっくりであった。エスラと重なって見えてしまったからにはもうゲンジはこの後は『ヒノエ』と呼べなくなってしまう。
「……分かった……言葉に甘えるよ…ひ…『ヒノエ姉さん』」
「フフ。よろしくねゲンジ」
そしてその日からゲンジはヒノエの事を姉の様に思う様になった。